日本にはヴァイオリンの三大教本とでも呼ぶべきものがある。いわゆる,「鈴木」「篠崎」そして,もはや新しいとは思えない「新しいバイオリン教本」俗に言う「白い本」。
それぞれに特徴があるが,かなりよくできているので,「鈴木」「篠崎」は,これを終えるまで不自由を感じないで済む。「白い本」も5巻までは同様であろう。
問題は,この後だと思う。「鈴木」と「篠崎」が終了しても専門的な訓練にはかなり距離があるし,「白い本」は5巻と6巻の差が割とあるし,6巻の中でも難易度がかなり違う曲が混在している。ここで「小学生が弾く曲」を悩む人達が出てくるのは必至。
これで悩むのは恐らく万国共通だろう。アメリカではグレード(難易度)を公開している人達がいる。これがかなりヒントになると思う。
Graded Repertoire(演奏曲目グレード)という項目で検索すると,二つのグレード・リストが挙がってきた。一つはザスマンズハウスの「ヴァイオリン・マスタークラス」,もう一つはMr. Jubin Matloubieh(何と読むのだろうか?)作成のもの。便宜上,前者をS,後者をJと呼ぶことにする。
Sは10,Jは13のグレードに分けてある。これで便利なのはアメリカでもSuzukiがポピュラーで,Sにおいてはグレード表に載っていることだ。そこから考えると,小学生のレヴェルはSでは3~5,Jでは3~8がほぼ当てはまりそうだ。
では,一番関心の集まりそうな「小学校高学年」相当のレヴェル(Sは5,Jは7と8)には,どんな曲が挙げられているか見てみよう。
まずS。「教則本と練習曲」「無伴奏」「ヴァイオリンとピアノ」「ヴァイオリンと管弦楽」の4ジャンルに分けられ,Suzukiは「教則本」に入れられている。9巻と10巻,モーツァルトの協奏曲の巻である。
「無伴奏」は無い。
「ヴァイオリンとピアノ」には以下の曲。()は筆者の感想。
・バッハ:ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ全6曲(BWV1014-1019)
・バルトーク:ルーマニア民族舞曲
(セーケイ編のものと思われるが,ちょっと難しいのでは?)
・ダンクラ:6つのエア・バリエ
(6曲同じレヴェルというのは,いささか乱暴なような・・・)
・クライスラー:シチリアーノとリゴードン
・モーツァルト:ソナタ集
(これも全て同じレヴェル?)
・プロコフィエフ:5つのメロディー
・サン=サーンス:ソナタ第1番
(これは面白くない曲,と仲間うちでは定評がある)
・サラサーテ:序奏とタランテラ
(スピッカートやリコシェができないと話にならないけど)
・タルティーニ:悪魔のトリル
・チャイコフスキー:3つの小品「瞑想曲」「スケルツォ」「メロディ」
・チャイコフスキー:憂鬱な(メランコリックな)セレナード
(小学生には合わないと思うけど)
・ヴィエニアフスキー:伝説曲
以下の曲は寡聞にして筆者の知らない曲
・リース:常動曲
・リーディング:協奏曲ホ短調
「ヴァイオリンと管弦楽」
・ベリオ:協奏曲第9番 イ短調
・ベリオ:バレエの情景
・ハイドン:協奏曲 ハ長調
・カバレフスキー:協奏曲
・モーツァルト:協奏曲第2番 ニ長調
一方,Jのレヴェル7。こちらはジャンル分けは無い。
・ベ-ト-ヴェン:ロマンス ヘ長調
・ブロッホ:バール・シェム
(日本の小学生にユダヤの粘り気を要求するのは少々無理がある)
・モーツァルト:協奏曲第1番 変ロ長調
・モーツァルト:協奏曲第2番 ニ長調
・ヴィターリ:シャコンヌ
(シャルリエ編曲のものを,日本でも昔から小学生に弾かせるけど,一般的にはもっと後の時期が良いと筆者は考える)
続いてJのレヴェル8。
・モーツァルト:協奏曲第4番 ニ長調
・モーツァルト:協奏曲第5番 イ長調
・ノヴァチェック:常動曲
・パガニーニ:常動曲
・チャイコフスキー:3つの小品「瞑想曲」「スケルツォ」「メロディ」
・ヴィオッティ:協奏曲第22番 イ短調
・ヴィオッティ:協奏曲第23番 ト長調
・ヴォーン=ウィリアムス:揚げひばり
(あの「田舎っぽさ」は,大人がやるものではないだろうか?)
またもや筆者の知らない曲
・スヴェンセン:ロマンス ト長調
結構な量になったが 以上である。両者にモーツァルトの協奏曲が含まれているので,ここを同じレヴェルと見なしたのだが,重なっていたのは数曲しかない。そのくらい見解が分かれるということである。
他のレヴェルは,また次回。