その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

都響A定期、指揮エリアフ・インバル、ショスタコーヴィッチ交響曲第13番《バービイ・ヤール》

2025-02-13 07:22:48 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

今季都響A定期会員になって最も楽しみにしていた演奏会。インバルさんのショスタコーヴィッチということで高い期待をもって出かけた東京文化会館でしたが、期待を大きく上回る圧倒的な時間となりました。

前半からインバルさんと都響は並々ならぬ気配を漂わせていました。ラフマニノフの交響詩《死の島》はベックの版画にインスピレーションを得て作曲された音楽とのことですが、波に揺られてボートが進む様や陰鬱な島の情景が目に浮かぶような音楽です。オーケストラがインバルの指揮に合わせて、冒頭から高い緊張感を放っていて、その迫力に背筋が伸びます。緩むことのない張りが持続したまま、20分程で曲は終わりましたが、一体後半はどうなるのか、怖くなるほどの前半の演奏でした。

後半のショスタコーヴィッチの《バービイ・ヤール》は昨年、井上道義さん最後のN響定演で聴いた曲です。今回は、字幕があったおかげで、N響の時以上に作品の世界に投入することができました。スターリン後の時期とはいえ、この作品を旧ソ連で発表するショスタコーヴィッチの気概を改めて強く感じます。

そしてそのショスタコーヴィッチの気概と四つに組み合うがごとくの独唱・合唱・オケのパフォーマンスでした。独唱のグリゴリー・シュカルパ、エストニア国立男性合唱団による地響きのような低音が、叙事詩とも言えるこの作品の重厚さを引き立てます。そしてインバルが指揮する都響の前のめりの入魂の演奏も素晴らしい。コンマスの水谷さん(東響から移られて私はきっと初めて)の激しい、キレのあるヴァイオリンに引っ張られる弦陣の武骨にも聴こえるアンサンブルや管陣の美音、そしてそれらを統括するインバルの気魄らが、最高に組み合わさって、至高の音楽体験を味わいました。

タクトが下りると暫しの沈黙の、熱狂的な大拍手と歓声。心の底から「感服いたしました」と唸らされる演奏でした。致し方ないことではありますが、前日のN響定期の余韻が完全に上書きされてしまったのだけは、良くも悪くも残念。

反ユダヤ主義への抗議やロシア民族や社会への敬意・皮肉・批判が同居したこの作品に触れれば、現在のウクライナ・ロシア戦争や、止むことのないパレスチナ人とユダヤ人の争いに思いを向けざるをえません。都響とは2年越しでの本曲の演奏が実現したとの記載をどこかで目にしましたが、インバル先生はどういう思いでこの曲を指揮しているのか、伺ってみたいものです。

 

日時:2025年2月10日(月) 19:00開演
場所:東京文化会館 
【ショスタコーヴィチ没後50年記念】

出 演
指揮/エリアフ・インバル
バス/グリゴリー・シュカルパ*
男声合唱/エストニア国立男声合唱団*

曲 目
ラフマニノフ:交響詩《死の島》 op.29      
ショスタコーヴィチ:交響曲第13番 変ロ短調 op.113《バービイ・ヤール》*

Date: Mon. 10. February 2025 19:00
Venue: Tokyo Bunka Kaikan 
[50th Anniversary of death of Shostakovich]

Artists
Eliahu INBAL, Conductor
Grigory SHKARUPA, Bass*
Estonian National Male Choir, Male Chorus*

Program
Rachmaninoff: The Isle of the Dead, op.29
Shostakovich: Symphony No.13 in B-flat minor, op.113, “Babi Yar”*

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絶賛売出し中ポぺルカの自己紹介演奏会:N響2月定期Aプログラム、ペトル・ポぺルカ指揮、ヤナーチェク<シンフォニエッタ>ほか

2025-02-11 07:34:49 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

2月の定期はAプロとBプロをペトル・ポペルカが指揮を務める。私には初めて聴く指揮者であり、N響との共演も初めてということだが、「現在、ヨーロッパとアメリカで旋風を巻き起こしているチェコ人指揮者」で、24-25年シーズンからはウィーン交響楽団の首席指揮者に就任するとのこと((プログラム「フィルハーモニー」)で、とっても楽しみにしていた演奏会。

今回のプログラムは、いずれも「ポペルカの出身国であるチェコにゆかりのある作品を並べたプログラム」(「フィルハーモニー」)で、指揮者の自己紹介とも言えるラインナップ。

4曲はどれも聴き応えたっぷりだった。前半はR.シュトラウスのホルン協奏曲第1番のソロ奏者ラデク・ボバラークの朗々と響く美音が愁眉。楽曲もモーツアルトと間違うほどの、優雅で私にも聞きやすい音楽で、大きなNHKホールの隅々にも届くホルンの音色を堪能した。

後半のドヴォルザーク交響詩「のばと」は初めて聴く曲。夫を毒殺した女性の救済という物語はかなり陰鬱なのだが、音楽は叙情性に溢れ美しい。場面場面のシーンが目に浮かぶような音楽がN響の繊細なアンサンブルで演奏された。

最後のヤナーチェクのシンフォニエッタは冒頭のファンファーレで、最後列に陣取った金管のバンダ隊の輝かしい音色がホールに弾けて始まる。活力にあふれた音楽で、聴いていて元気が出る。ポぺルカの指揮はとっても端正で、N響メンバーとも初顔合わせには見えないほどの指揮姿。これから更に頭角を現す予感がする。

終演後は8割以上埋まったホールからは大きな拍手が寄せられ、ソロカーテンコールまで続いた。私が聴いたことがあるのは、ヤナーチェクだけだったが、とっても良い音楽と演奏をしっかり聴けた満足感で一杯の演奏会だった。今後、ポペルカと言えば、今日の自己紹介演奏会の記憶が蘇るだろう。

 

定期公演 2024-2025シーズンAプログラム
第2031回 定期公演 Aプログラム
2025年2月9日(日) 開演 2:00pm [ 開場 1:00pm ]

NHKホール

指揮:ペトル・ポペルカ
ホルン:ラデク・バボラーク

ツェムリンスキー/シンフォニエッタ 作品23
R.シュトラウス/ホルン協奏曲 第1番 変ホ長調 作品11
ドヴォルザーク/交響詩「のばと」作品110
ヤナーチェク/シンフォニエッタ

Subscription Concerts 2024-2025Program A
No. 2031 Subscription (Program A)
Sunday, February 9, 2025 2:00pm [ Doors Open 1:00pm ]

NHK Hall

Zemlinsky / Sinfonietta Op. 23
R.Strauss / Horn Concerto No. 1 E-flat Major Op. 11
Dvořák / The Wild Dove, sym. poem Op. 110
Janáček / Sinfonietta

Conductor: Petr Popelka
Horn: Radek Baborák

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新国立オペラのフィレンツェ2部作:「フィレンツェの悲劇」(ツェムリンスキー)/「ジャンニ・スキッキ」(プッチーニ)

2025-02-09 07:36:55 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

今年の初オペラ。フィレンツェを舞台にした作品2本立てです。

前半、ツェムリンスキー〈フィレンツェの悲劇〉は初めてのオペラ。登場人物は、夫婦と妻の恋人の3名のみ。不倫関係を軸に展開する重苦しく陰鬱な物語です。

外国人歌手3名の迫力あるパフォーマンスが強い印象を残しました。グイード役ポメロイの低い歌声は地響きのよう。世間にもまれる、プライド高い商人を重厚感たっぷりに演じ、存在感が圧倒的でした。

ビアンカ役のヴァイスバッハも芯あって力強いソプラノ。ラストシーン、決闘後に再び夫の元に戻るシーンでの表情は複雑で、一筋縄ではいかない女性心理が表出されていたように見えました。

シモーネ役のマイヤーは今回が初ロールということです。ちょっと貴族の御曹司という感じは全くしないのにはちょっとずっこけましたが、厚みある美しいテノールです。

沼尻さん率いる大編成の東響の演奏も重厚感あふれ、舞台を大いに盛り上げました。舞台も美しく設計され、物語の世界に没入できるものでした。

オスカー・ワイルド原作で、「サロメ」的な女性の倒錯した愛が描かれているようです。ただ私には、家柄から筋肉へあっさりと愛を切り替えてしまうビヤンカの心理は全く理解できず、共感はちょっと難しかった。

後半はプッチーニの〈ジャンニ・スキッキ〉。このオペラは何度か見ています。プッチーニらしい、耳馴染みよい音楽が、前半とは180度雰囲気を変えてくれます。物語も真面目に取れば、遺産相続をめぐる人間の卑しさが表出されるドラマですが、本作品では無邪気なコメディとしての扱いで、それがとってもユーモラスで楽しい。

題名役のスパニョーリの振舞い、演技が絶品でした。コメディは主役の印象で特に大きく変わりますから、もう彼あってのこの舞台という感じです。

題名役以外は日本人歌手で固めていますが、その中ではラウレッタ役の砂田愛梨が群を抜いていました。アリア「私のお父さん」を声量たっぷりの美声で歌い切り、うっとり。

本作でも舞台が美しく、サイズを大きくした小道具も、人や騒ぎを矮小化して見せる効果もあるのかと楽しめました。両編通じて、原作を損なわずに、舞台イメージを膨らませてくれる素晴らしい演出。

フィレンツェを舞台にした悲劇・喜劇の組合せも、鑑賞者は両極端を味わえて、後味も良い。満足感一杯で劇場を後にしました。

(2025.2.6 観劇)

2024/2025シーズン
アレクサンダー・ツェムリンスキー
フィレンツェの悲劇
Eine florentinische Tragödie / Alexander Zemlinsky
全1幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉

ジャコモ・プッチーニ
ジャンニ・スキッキ
Jianni Schicchi / Giacomo Puccini
全1幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
公演期間:2025年2月2日[日]~2月8日[土]

予定上演時間:約2時間20分(フィレンツェの悲劇 60分 休憩 25分 ジャンニ・スキッキ 55分)

Staff&Castスタッフ・キャスト
【指 揮】沼尻竜典
【演 出】粟國 淳
【美 術】横田あつみ
【衣 裳】増田恵美
【照 明】大島祐夫
【舞台監督】CIBITA斉藤美穂

『フィレンツェの悲劇』
【グイード・バルディ】デヴィッド・ポメロイ
【シモーネ】トーマス・ヨハネス・マイヤー
【ビアンカ】ナンシー・ヴァイスバッハ

『ジャンニ・スキッキ』
【ジャンニ・スキッキ】ピエトロ・スパニョーリ
【ラウレッタ】砂田愛梨
【ツィータ】与田朝子
【リヌッチョ】村上公太
【ゲラルド】髙畠伸吾(2・4)、青地英幸
【ネッラ】角南有紀(2・4)、針生美智子
【ゲラルディーノ】網永悠里
【ベット・ディ・シーニャ】志村文彦
【シモーネ】河野鉄平
【マルコ】小林啓倫(2・4)、吉川健一
【チェスカ】中島郁子
【スピネッロッチョ先生】畠山 茂
【アマンティオ・ディ・ニコーラオ】清水宏樹
【ピネッリーノ】大久保惇史
【グッチョ】水野 優

【管弦楽】東京交響楽団

2024/2025 SEASON
Eine florentinische Tragödie
Music by Alexander Zemlinsky
Opera in 1 Act
Sung in German with English and Japanese surtitles

Gianni Schicchi
Music by Giacomo Puccini
Opera in 1 Act
Sung in Italian with English and Japanese surtitles

OPERA PALACE

2 Feb - 8 Feb, 2025 ( 4 Performances )

CREATIVE TEAM
Conductor: NUMAJIRI Ryusuke
Production: AGUNI Jun
Set Design: YOKOTA Atsumi
Costume Design: MASUDA Emi
Lighting Design: OSHIMA Masao

CAST
Eine florentinische Tragödie
Guido Bardi: David POMEROY
Simone: Thomas Johannes MAYER
Bianca: Nancy WEISSBACH

Gianni Schicchi
Gianni Schicchi: Pietro SPAGNOLI
Lauretta: SUNADA Airi
Zita: YODA Asako
Rinuccio: MURAKAMI Kota
Gherardo: AOCHI Hideyuki
 (On Feburary 2 and 4, TAKABATAKE Shingo takes on this role.)
Nella: HARIU Michiko
 (On Feburary 2 and 4, SUNAMI Yuki takes on this role.)
Gherardino: AMINAGA Yuri
Betto di Signa: SHIMURA Fumihiko
Simone: KONO Teppei
Marco: YOSHIKAWA Kenichi
 (On Feburary 2 and 4, KOBAYASHI Hiromichi takes on this role.)
La Ciesca: NAKAJIMA Ikuko
Maestro Spinelloccio: HATAKEYAMA Shigeru
Ser Amantio di Nicolao: SHIMIZU Hiroki
Pinellino: OKUBO Atsushi
Guccio: MIZUNO Yu

Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra

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映画 PERFECT DAYS (パーフェクト デイズ) (監督:ヴィム・ヴェンダース)

2025-02-06 07:30:31 | 映画

主演の役所広司がカンヌ国際映画祭男優賞を受賞し話題になった作品。劇場で観たかったが、時機を逸し今回DVDで視聴。

東京渋谷区の公衆トイレ清掃員として真摯に働き、清貧で充足した日々を過ごす中年男性を淡々と追うドキュメンタリー風の映画。

主人公の平山を演じる役所広司の存在感が終始スクリーンを圧している。性格的に極めて無口な設定なこともあり、台詞が非常に少ない(というか、殆ど無い)。そのため、言葉でなく、表情、仕草で人物の感情、思考を表現するのだが、その制約を超えて役所の演技は平山の人物造形をクリアに浮き上がらせていた。さすが。他の役者が演じたら、どういう映画になるのだろう。

リアリティ高い映像で、都会ならでは孤独や静謐さが表現されていたのも印象的。映画の中にあった台詞(正確ではない)だが、一つの世界の中で人は別々の違う世界を生きている。

60年代から70年代前半の洋楽を中心にした音楽は、主人公の人物理解のためにも、作品を支えるのにも重要な役割を果たす。時代は令和だが、平山が生きる「いま」とは時間的にズレがある。平山の「完璧な日々」には欠かせないアイテムだ。

計算された感動ではなく、観るもの夫々の人生経験や想いが反映される映画であると感じた。なので、人により感想は巾があると思う。私自身は平山的生き様には共感はできないし、真似たいとも思わなかった。ただ、様々な人生を追体験するのは、自分の世界が広がるし、作品としての質は高いので、観て良かったと思った映画であった。

 

PERFECT DAYS(パーフェクト デイズ)
2023年(日本/ドイツ)
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬
音楽:ルー・リード、ヴァン・モリソン、ニール・ヤング他
キャスト:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、三浦友和、田中泯、他

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近内悠太『世界は贈与でできている 資本主義のすきまを埋める倫理学』(ニュースピックス、2020)

2025-02-04 07:30:10 | 

参加している読書コミュニティでの「利他」をテーマとした課題図書の1冊。自分の認知の枠組みに新たな軸を与えてくれた1冊となりました。

筆者の贈与とは、「僕らが必要としているにもかかわらずお金で買うことのできないものおよびその移動」と定義します。身近なところでは、家族や友人、恋人との関係性などであるし、社会的には(補償金支払いの前提が無い)核廃棄物の処理場受け入れなどです。本書はその「贈与」の原理について、解きほぐすための「言葉」と「概念・思考」と併せて解明します。タイトルは「贈与」ですが、検討・記述範囲は広いです。平易に分かりやすく書かれてはいますが、内容は哲学そのもので意味深く、おそらく今時点では半分ぐらいしか理解できてないと感じる所です。

ただ、これまで深く考えることの無かった「贈与」というテーマについて考えることで、普段の自分の行動や取り巻く環境が違った角度で見えてくる新鮮さと驚きを味わえました。資本主義の真っただ中で生きることで、数値化、経済的価値、交換の発想が意識しないうちに染みついている多くの現代人に、お金で買えないものの存在、そしてその重要性(資本主義と矛盾するわけでもない)について気が付かせてくれます。(ただタイトルの「贈与でできている」は書きすぎで、サブタイトルの「『すきま』を埋める」ものとして贈与が正確)

「贈与」ということにここまで難しく考え抜かなくてはいけないのか?言葉遊びになってないか?と感じてしまう私も多分に感じながら、これからも本書を時折、読みかえすことになるでしょう。

2025年1月3日 読了

 

<印象に残った記述の抜粋>

・贈与を上げる人が嬉しいのは、贈与を受け取ってくれたということは、その相手がこちらと何らかの関係性、つまり「つながり」を持つことを受け入れたことを意味するから。

・親は自分の子供がその子供(孫)を愛するのを見て、自分の子供への愛の正当性を確認している。(pp..30-31)

・贈与はすでに受け取ったものに対する返礼(過去の負い目にもとづく)であり、受け取ることなく開始されることは無い。贈与は返礼として始まる。(pp..42-45)

・贈与の対抗は交換。交換するものが無い時、つながりや援助が必要

・贈与は、それが贈与と知られてはいけない。明示的に知らされる贈与は、見返りを求めない贈与から「交換」へ変わる。それは「呪い」(返礼義務の負い目)にもなる。

・(贈与における「受取人」の重要性)贈与は「受け取る」から始まる。受取人においては贈与は過去にある。贈与は差出人に倫理を要求し、受取人に知性を要求する。過去の中に埋もれた贈与を受け取ることのできた主体だけが、つまり贈与に気づくことができたしゅたいだけが再び未来に向かって贈与を差し出すことが出来る(pp..111-114)

・アンサングヒーロー:評価されることも褒められることもなく、人知れず社会の最悪を取り除く人。アンサングヒーローは、想像力を持つ人にしか見えない。アンサングヒーローの仕事にはインセンティブ(報酬)とサンクションが機能しない。アンサングヒーローは自分が差し出す贈与が気づかれなくても構わないと思うことができる。それどころか気がつかないままであってほしいとさえ思っている。なぜなら、受け取り人がそれが贈与だと気づかないと言う事は、社会が平和であることの何よりの証拠だから。自身の贈与によって最悪を未然に防げたからこそ、受け取り人がそれに気づかない。(pp..209‐213)

・贈与は僕らの前に、不合理なもの、つまりアノマリーと言う形で現れる。現代社会が採用しているゲームが等価交換を前提とし、市場経済と言うシステムを採用しているから。だからその中に存在している(商品じゃないもの)に、僕らは気づくことができる。だから贈与は市場経済の「隙間」に存在すると言える。市場、経済のシステムの中に存在する無数の「隙間」そのものが贈与。資本主義と言うシステム、市場経済と言うシステムが贈与をアノマリーたらしめる(pp..223‐224)

・ギブアンドテイク、winーwinの中から「仕事のやりがい」は生まれないのは、交換に目指したものだから。不当に受け取ってしまった。だから、このパスを次に繋げなければならない。誤配を受け取ってしまった。だから、これを正しい持ち主に手渡さなければならない。この自覚から始まる贈与の結果として、宛先から逆向きに「仕事のやりがい」や「生きる意味」が偶然帰ってくる。仕事のやりがいと生きる意味の獲得は、目的ではなく結果。目的はあくまでもパスをつなぐ使命を果たすこと。このような贈与によって、僕らはこの世界の「隙間」を埋めていく。この地道な作業を通して、僕らは健全な資本主義、手触りの暖かい資本主義を生きることができる。(pp..242-244)

 

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ソヒエフ祭り最終日:トゥガン・ソヒエフ、N響 1月Bプロ

2025-02-02 07:38:14 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

ソヒエフ祭り定演最終回はBプログラムで東欧・ロシアの作曲家の作品です。

冒頭のムソルグスキー(リャードフ編)/歌劇「ソロチンツィの市」からの2曲は、軽快で明るい音楽でしたが、こちらの準備が整わず、直ぐに睡魔に襲われ、朦朧状態。ごめんなさいでした。

続く、バルトークのヴァイオリン協奏曲第2番は全く初めて聴く曲で、ソリストはN響のコンサートマスターの郷古さん。マイシートがP席なので、後ろ姿ではありますが積極的な攻めの姿勢が感じられ、切れ良く、しかも美しいヴィオリンの音が響いてきました。一方で、楽曲がちょっと私には難易度高く、何をどう聴いていいのか分からないままで終わってしまいました。せっかくの郷古さんがソロなのだし、しっかり予習すべきだったと、後悔しきり。

アンコールでは、マロさんに代わってコンサートマスターに就任される長原さんとコンマスコンビでバルトークの「44のヴァイオリン二重奏曲」から第28番「悲しみ」。新しいN響の幕開けを予感させるフレッシュさが良かったです。

白眉は後半のドヴォルザーク交響曲第8番。私にもなじみのあるこの楽曲をソヒエフさんがN響から素晴らしい音を引き出していました。まずの全体の印象は、本当にN響が良く鳴っている。各パーツのリーダーの方の演奏はもちろんなのですが、各楽器からの音が隅々から明瞭に聴こえてきます。音の情報量が半端ないです。

そしてソヒエフさんが紡ぐ音は、とっても表情豊か。決して何かの情景を描いた音楽では無いとは思うのですが、印象派の画家が広い野原を描いたような、何か色のついた情景が目に浮かぶような気にさせられます。この曲はN響ではマリナーさん、広上さん、ブロム翁など、名だたる名指揮者の棒で聴いていますが、ソヒエフさんならでは重層的で味わい深く、暖かい感じのする演奏でした。

もちろん終演後は大拍手。N響メンバーの表情を観ていても、ソヒエフさんへの信頼感、一緒に音楽を創造する喜びに満ちているのが伝わってきます。これからも継続的な登壇をお願いします。





(P席にもご挨拶いただき嬉しい!)

定期公演 2024-2025シーズンBプログラム
第2030回 定期公演 Bプログラム
2025年1月31日(金) 開演 7:00pm [ 開場 6:20pm ]

サントリーホール

指揮 : トゥガン・ソヒエフ
ヴァイオリン : 郷古 廉(N響第1コンサートマスター)

ムソルグスキー(リャードフ編)/歌劇「ソロチンツィの市」─「序曲」「ゴパック」
バルトーク/ヴァイオリン協奏曲 第2番
ドヴォルザーク/交響曲 第8番 ト長調 作品88

Subscription Concerts 2024-2025Program B
No. 2030 Subscription (Program B)
Friday, January 31, 2025 7:00pm [ Doors Open 6:20pm ]

Suntory Hall

Mussorgsky / Liadov / The Fair at Sorochyntsi, opera―Introduction, Gopak
Bartók / Violin Concerto No. 2
Dvořák / Symphony No. 8 G Major Op. 88

Conductor
Tugan Sokhiev
Violin
Sunao Goko (First Concertmaster, NHKSO)

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姫路・神戸の旅(4):恒例の旅ランで神戸観光(後半)

2025-01-31 17:39:22 | 旅行 日本

生田神社を出て、坂を登って北野の異人館が立ち並ぶエリアへ。1キロぐらいの距離で、雰囲気が三宮の繁華街から異国風住宅街にガラッと変わります。


(英国館)

一帯は、見物に来るには良いけど、坂道や階段ばかりで生活はしずらさそう。

異人館街の中心部北側には北野天満神社があります。階段上って本殿のある境内に立つと神戸の町が一望のもと。視線の先には神戸港があります。坂道を上ったり下りたりした疲れも吹き飛ぶ眺望です。


(素晴らしい眺め)


(風見鶏の館)

丘を下りて、再び元町エリアへ。中華街を見物します。まだ朝の10時前なのでお店は開店準備を始めたばかりで、人通りはまばら。横浜の中華街をぎゅっと圧縮した、こじんまりとした印象ですが、密度は濃さそう。肉まんでも食べたいところですが、まだ早すぎなのが残念です。

中華街を通って、旧居留地エリアを通過して神戸駅前に到着。約2時間かけて、走ったり見物したりの観光ランでした。ランニングの軌跡は下のガーミンの記録どおり。これで10キロ強。様々な表情を持つ神戸をクイックに楽しめて、満足感も一杯でした。

お昼から本来の用事に入り、夕刻に新大阪駅から東京へ帰ります。新大阪駅で、最後の関西の食は駅構内の「浪花そば」できつねうどん。麺は普通ですが、お出しのきいた汁が美味しかった。

用事にひっかけた駆け足の姫路・神戸でしたが、姫路城にも行けたし、旧友たちにも会えて、とっても満足度高い旅行となりました。

(2025.1.18‐19)

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姫路・神戸の旅(3):恒例の旅ランで神戸観光(前半)

2025-01-29 07:30:01 | 旅行 日本

姫路から神戸に到着し、その夜は神戸・大阪在住の学生時代の友人たちと一杯。ハーバーエリアのビアホールで楽しいひと時でした。

(神戸っぽい夜景)

翌日の日曜日。自由時間は11時までなので、恒例の旅ランで神戸の主要エリアを巡ることにしました。

7時45分に神戸駅チカに取ったホテルをスタートし、まずはハーバーランド・エリアへ。まだ朝なので人もまばら。神戸らしい港の様子を楽しみながら、走ります。


(穏やかな水面が朝日を受ける)


(神戸港旧信号所)


(モザイク大観覧車)


(神戸港の遊覧船もまだサービス前)

 

メリケンパーク。有名な神戸ルミナリエは1週間後なので、設営中でした。

メリケンパークに隣接して、神戸港震災メモリアルパークがあり、当時の様子や復興についてパネル展示があります。丁度、30年前の2日前が震災の日。黙祷を捧げます。

海洋博物館を通過し、三宮駅方面に。途中、東遊園地に立ち寄り。園内には阪神淡路大震災の慰霊と復興のモニュメントが設置されていました。長田高校野球部のメンバーが黙とうをささげていました。この後、甲子園まで20キロ弱をランニングするとのこと。


(海洋博物館はまだ開館前)


(神戸税関。神戸っぽい)


(東遊園地 希望の灯)


(上皇后の復興を願う歌碑)


(長田高校野球部員も希望の灯を囲んで黙祷)


(日本マラソン発祥の地だそうだが、本当なのかしら?)

三宮駅付近まで来ると、港エリアと雰囲気がガラッと変わり、いわゆる商業地。駅の北側は歓楽街的なエリアになっていて、まだこの時間は前夜の喧騒が偲ばれるゴミの山とけだるい雰囲気が残っています。


(面白いボードマップだったので、一枚ぱちっ)

折角なので、有名な生田神社に立ち寄りました。神戸の名の由来となった神社とのことです。(「大同元年(西暦806年)朝廷より当社の為にお供えする家、世話をする家、守る家である神戸(かんべ)44戸を頂いたとあり、この「かんべ」が「こんべ」となり現在の「こうべ」となったと伝わっています。」(ホームページより)。観光客や地元の人で朝から人が絶えることがありません。庶民的な、生活に根付いた神社との印象です。


(生田神社 オープンで地元の雰囲気たっぷり)


(本殿)

敷地奥には源平合戦の舞台として、平知盛が陣を引き、この辺り一帯が戦場となったという生田の森がありました。


(平知盛が陣をはり、一帯が戦場となったという生田の森)

 

2025年1月25ー26日

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マロさん最後のコンマスの定演:ソヒエフ、N響、ブラームス交響曲第1番ほか

2025-01-27 08:31:42 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

今月はソヒエフ祭り月間なのだが、先週のAプロは行けなかったので、Cプロから参加。当日券売切の盛況ぶりである。

ホールでプログラム読んで、この日がマロさんこそ篠崎史紀氏のN響定期でのコンサーマスターとしての最後の出番であることを知った。なんてこった !

個人的に面識があるわけではないが、その風格、オーラは威厳たっぷりでまさにミスターN響。その剛毅でダンディな外見と共にとっても知的で自由な雰囲気も纏っている。そして、繊細で緊張感あふれるヴァイオリンの音色にいつも魅了されてきた。そのマロさんのコンマス姿もこの定演が最後かと思うと何とも感慨深い。
 
そんな心の動揺が収まらないまま、楽員さん達が入場を始める。マロさんへはソヒエフにも劣らないほどの大きな拍手が満員の聴衆から寄せられた。
 
前半のストラヴィンスキーの組曲「プルチネッラ」は初めて聴く楽曲で、その古典的な旋律や雰囲気の音楽にびっくり。各楽器のソロが引き立つ曲でN響ソロ奏者達が創り出す音色が美しい。マロさんのヴァイオリンもいつも通り、切れ味鋭く3階席まで飛んできた。
 
後半のブラームス交響曲第1番は、ソヒエフの熱い指揮にN響が目一杯に応えた爆演。全体的にゆったりとしたペース(X上では「速め」、「標準的」というポストが殆どだったので、少数派の感想のよう)で、丁寧に音を引き出すソヒエフの指揮のもと、情報量多く、解像度が高い。様々な表情を見せつつ、温かさを感じる演奏だった。
 
重層的な弦の合奏や吉村さんのオーボエを初めとした管楽器の美しい音が耳に響く。第2楽章のマロさんの研ぎ澄まされたヴィオリンソロもさすが。第4楽章は、N響メンバーのマロさんへの惜別の想いがこもってるか如くの入魂の演奏。聴いている方も自然と前のめりになる。フィナーレの畳み込む迫力は通常の「良い」演奏とは別次元のものだった。
 
終演後は会場から割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。何度も呼び戻されるソヒエフだが、途中、ソヒエフ自身がマロさんに記念の花束を持参しプレゼント。指揮者、楽員、聴衆らみんなの感謝の気持ちが表れていたホールだった。
 
マロさん去るのは寂しいが、また新しい人も含めて、伝統が革新とともに綿々と引き継がれて行くのだろう。貴重なN響の歴史的1ページの瞬間に立ち会うことができたことも含めて、大感謝の演奏会となった。マロさん、お疲れさまでした。ありがとうございました!
 

定期公演 2024-2025シーズンCプログラム
第2029回 定期公演 Cプログラム
2025年1月25日(土) 開演 2:00pm [ 開場 1:00pm ]

NHKホール

曲目
ストラヴィンスキー/組曲「プルチネッラ」
ブラームス/交響曲 第1番 ハ短調 作品68
指揮トゥガン・ソヒエフ

Subscription Concerts 2024-2025Program C
No. 2029 Subscription (Program C)
Saturday, January 25, 2025 2:00pm [ Doors Open 1:00pm ]
NHK Hall

Program
Stravinsky / Pulcinella, suite
Brahms / Symphony No. 1 C Minor Op. 68

Conductor Tugan Sokhiev

 
 
 
 
 
 
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堅実でとっても満足感高い演奏会:小泉和裕/都響 ドビュッシー 交響詩〈海〉ほか

2025-01-25 07:59:26 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

今年の演奏会初めです。昨年最後の演奏会から1月以上空いて、随分お久し振りな感覚です。この日のプログラムはフォーレとドビュッシーというフランス人作曲家の組曲と交響詩の間に、モーツァルトのピアノ協奏曲が挟まれるという、バランス良く魅力的な構成です。

冒頭のフォーレの「ペレアスとメリザンド」組曲。昨年、同じコンビでシューンベルグによる同名の組曲を聴いています。私はフォーレの全曲を生で聴くのは初めてでしたが、繊細で柔らかな第一曲からその美しさに魅了されました。都響の弦陣のアンサンブルや管陣が創り出す世界に浸りました。

2曲目のモーツァルトピアノ協奏曲第21番も音楽の明るさ、伸びやかさが抜群で素晴らしい演奏でした。ピアノ独奏のミシェル・ダルベルトさんは初めて聴くピアニストです。ピアノの音が明瞭で弾けるようで、躍動感が引き立ちます。聴いていて自然と体が動き出しそうになるので抑えるのに一苦労。やっぱりモーツァルトの音楽は人の本能の訴える力があるわ。

アンコールのドビュッシーの〈月の光〉を演奏してくれました。私には夜露の雫が葉っぱから滴り落ちるような繊細で柔らかな演奏で、このおかわりの満足感は凄い。

休憩後はドビュッシーの組曲〈海〉。久し振りに生で聴く気がしますが、小泉さんの〈海〉は楷書体の実に正々堂々とした作りです。第二楽章の波のうねりそのものに感じる音楽の抑揚が印象的。第三楽章のダイナミックな演奏にも圧倒されました。東京文化会館ならではの乾いた響きが、個々の楽器の美音をクリアに届けてくれました。

ホールの入りは8割弱という感じでしたが、終演後は熱い拍手と歓声が舞いました。派手なところは無いですが、シュアにハイレベルな演奏を聴かせてくれるこのコンビさすがです。久し振りのコンサート体験。やっぱり音楽は素晴らしいと再認識してホールを後にしました。

2025年1月24日

 

第1015回定期演奏会Aシリーズ
日時:2025年1月24日(金) 19:00開演(18:00開場)
場所:東京文化会館 

出 演
指揮/小泉和裕
ピアノ/ミシェル・ダルベルト


曲 目
フォーレ:組曲《ペレアスとメリザンド》op.80 
モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467 
ドビュッシー:交響詩《海》-3つの交響的スケッチ 
【ソリスト・アンコール】(1/24up)
ドビュッシー:月の光
 (ピアノ/ミシェル・ダルベルト)


Subscription Concert No.1015 A Series
This concert is over. Date: Fri. 24. January 2025 19:00 (18:00)
Venue: Tokyo Bunka Kaikan 

Artists
KOIZUMI Kazuhiro 
Kazuhiro KOIZUMI, Conductor
Michel DALBERTO, Piano


Program
Fauré: Pelléas et Mélisande, Suite, op.80 
Mozart: Piano Concerto No.21 in C major, K.467 
Debussy: La mer – Trois esquisses symphoniques 
【Soloist Encore】(1/24up)
Debussy:Clair de lune
 (Michel DALBERTO, Piano)

 

 

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