似たような企業は多いと想定するが、弊社でもAI活用が事業・業務における課題であるので、そのヒントになればと思い、本書を手に取った。共著者の1人である尾原和啓さんは数年前に読んだ『アフターデジタル』(藤井保文氏との共著)が、オンライン世界がオフライン世界を呑み込んでいく(一体化していく)世界観が示された良書であったので、本書にも期待したところである。
AI活用にあたっては、ネットワーク効果により買い手と売り手の双方が増加していく仕組みを整え、その仕組みの中で、データを継続的に収穫できる仕掛け(ハーベストループ)を構築することが重要であること。そしてそのループは1つに頼ることなく、2つ以上のループを構築し、回すことによって、継続的にビジネスが成長していくことが大切と言うのが本書のポイントだ。加えて、ハーベストループの作り方、実装にあたっての注意点についてまとめている。
網羅的かつ構造的にAIの活用法について解説されているので、導入本として優れていると感じた。プラットフォームビジネスにおけるネットワーク効果や、ネットワーク効果を最大化させビジネス戦略に中に織り込むことでプラスのスパイラルを生んでいく必勝パターンは、アマゾンやウーバーなどのケースを例に散々語られてきていることだが、AIの時代になってもその原則はそのまま当てはまるということなのだろう。
一方で、やや中途半端さを感じるところもある。考え方は構造的に理解できるものの、紙面の都合からか、実装や運用までを具体的にカバーしているとは言い難い(言及はある)。また生成AI時代前に書かれたものであるため、AIの活用もこれからアプローチが代わってくる可能性も大いにあるだろう。
そうした手の届かなさは感じたものの、ループ構造をいかに築き上げるかという点をAI活用の柱に置いた本書のメッセージは明確だ。あとは、如何に自らの環境に適用できるかを自分で考えて行くことだ。
また、最終章で語られる共著者の堀田創さんの指摘は、エンジニアであり起業家である実体験に基づいた納得感の高いものだった。事業には「できること」を増やすことよりも、「なぜやるのか」と言ったパーパスがより大事であること。そして「パーパス」を頂点に「ハーベストループ」と「UX(ユーザエクスペリエンス)」を車の両輪で回し、3項関係で考えていくことの重要性を強調しているが、その通りだと思う。
(抜き書きメモ)
・ハーベストループ:売り手がたくさん集まって、回答及び買い手がたくさん集まって、さらに売り手を呼ぶ。こういった相互のネットワーク効果、そしてそれをつなぐ取引データがどんどん溜まっていき、そのデータによって最適化を実現すること、これをハーベストループと言う。(p.28)
・ループ構造を作らないまま、AIを活用しようとしても、やがて行き詰まる。AIに食べさせるデータを用意できなければ、AIは成長できないからだ。AIにデータをフィードバックして強化すると言う学習プロセスを忘れないこと(p.151)
・まずは、「増大させる最終価値 (売り上げ増大/コスト削減/リスク損失予測UX向上/AD加速?)」を見極め、そのうえで「競争優位を築く戦略」を考える。そして、更にループ構造を作って、競争優位を持続させる
・ダブルハーベストループ(p.148~)
成長するAIを駆動力とするハーベストループ最初のループが原動力となって、もう一つ別のループが回り出すこと。
・パーパスを見出すアプローチ法:
その1)MTB(マッシブ・トランスフォーマティブ・パーパス):野心的な変革目標2つの問いに対する答えを記述する。
1どんな大きな問題に取り組むのか? 2.それをどのように解決するのか?
この問題/解決をアウトプットする際には、対象となる顧客のことを想定しながら、10年から30年の大きなスパンで考えることが推奨される。その解決策を徹底的に極めるとどのような変革を生まれるのかを書く。(p.237)
その2)自分自身がどんな未来を作りたいのか?と言う問いかけを発送の起点にしてみる(p.239)