★★たそがれジョージの些事彩彩★★

時の過ぎゆくままに忘れ去られていく日々の些事を、気の向くままに記しています。

さらば夏の日 1

2009年07月20日 17時35分05秒 | 小説「さらば夏の日」
 ひまわり街道の陽炎の中から現れた観光バスは、まわりを畑や田んぼに囲まれた、田舎のドライブインの駐車場に入って行く。
 3台の観光バスからは、修学旅行の生徒たちがぞろぞろと吐き出されていく。大半が駐車場の隅のトイレに行列を作り、あるいは店先のジュースやコーラの自動販売機へと直行する。店内へ入る生徒はごくわずかである。
 15分もすると集合の合図が掛かり、生徒たちは再びバスへと戻っていく。生徒たちを乗せたバスは、長居は無用とばかりにそそくさと駐車場を出て、本来の目的地へ向かって走り去る。

 九州の西の辺境の町。
 穏やかな海と背の低い山々に挟まれ、変化に乏しい日々が積み重ねられていく、のどかで平和なだけの田舎町。
 その昔には、世界に誇る由緒正しい陶磁器が、この町の港から欧州の列強へと輸出されていたらしい。今でも陶磁器の産地として、社会科の教科書にその名をとどめてはいるが、これといっためぼしい観光名所もレジャー施設もない。
 本州からの修学旅行のバスなどは、東隣りのF県から西隣りのN県へ向かう途中で、トイレタイムのためにだけこの町のドライブインに立ち寄る、といった具合である。
 
 そんな町で僕は生まれ、高校卒業までをそこで過ごした。
 僕の名前は上田修二。
 両親は共に、ごく平凡な小学校教師。マイカーやピアノはないが、ステレオやカラーテレビはある、という田舎の中流家庭で、適度な放任のもと、さしたる不満もなく義務教育を終えて、人類が月にその第一歩を記した翌年、ビートルズが解散したその年に、市内の普通高校に入学した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする