★★たそがれジョージの些事彩彩★★

時の過ぎゆくままに忘れ去られていく日々の些事を、気の向くままに記しています。

さらば夏の日 5

2009年07月28日 09時58分35秒 | 小説「さらば夏の日」
 「おまえら、大学はどこ受けるか、もう決めたか?」 
 汗を拭きながら、下川が僕たちに聞いた。
「俺たち、まだ高校に入ったばっかりぞ。大学受験なんかまだまだ先たい」
 津山が言った。
「甘かね。将来のビジョンは早う決めるに越したことはなかと」
 下川は言った。
「俺は大学なんか行かん。おやじの後を継いで漁師にならんといかんけんね」
 小森が言った。
「じゃあ、何で高校なんか入ったと? それも普通高校なんか」
「とりあえず高校くらい出とかんと、今日びの漁師には嫁さんの来手もなかけんね。それに商業や工業高校はレベルが低かけんね」
「将来のビジョンにしては何ともささやかばってん、まあ、頑張ってインテリ漁師になって、よか嫁さんもろうてくれ」
 下川は鷹揚に言った。

「そう言うおまえはどうね?」
 僕は下川に聞いた。
「俺はもう決めとるぞ。東京たい」
「東大か?」
「バカこけ。俺の頭で東大は無理ぞ」
「じゃあ、慶応か、早稲田か?」
「どっちも無理、無理」
「そいじゃあ、どこや?」
「東京の大学たい」
 下川はきっぱり言った。 
「そうか、下川は東京へ行くとか。やっぱり窯元の御曹司はちがうとね」
 小森が羨望の眼差しで言った。
コメント
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