2017/18シーズンのインフルエンザワクチンは「足りない」ではじまりました。
ではその効果は?
当初、WHO推奨株を採用したものの、ワクチン製造過程で増殖が悪いことが判明し、急遽昨シーズン(2016/17シーズン)の株に切り替えて製造することになり、これが“ワクチン不足”の原因と説明されています。
ワクチン株を元に戻したため、今シーズンの流行株と合うかどうか・・・心配になるところです。
少し詳しい解説記事を見つけましたので紹介します。
・・・あれ? 読んでみても今シーズンどの程度有効かの記述が見当たりません。
■ 「インフルエンザQ&A」(アステラス製薬)より
Q. 今シーズンのインフルエンザワクチンとワクチンの有効性について教えてください。インフルエンザの予防には、ワクチン接種を毎年継続したほうがよいですか?
A. わが国の季節性インフルエンザワクチンは、2015/2016シーズン以降A型2種類およびB型2種類のウイルス株を含む4価ワクチンが毎シーズン使用されています。インフルエンザワクチンの有効性は、被接種者の年齢や免疫応答、流行株とワクチン株との抗原性の一致度など種々の条件により異なりますが、インフルエンザの発症・重症化・死亡の予防に一定の効果があるとされています1)。ワクチン効果の持続期間は約5カ月であること、ワクチン株は毎年変わることから、毎年接種することが必要になります2)。
<解説>
1.インフルエンザワクチン株の選定プロセスと今シーズンのワクチン株
近年、季節性インフルエンザの流行はA型とB型ウイルスの混合流行の傾向が多く、WHOはA型2種類とB型2種類のウイルス株を含む4価インフルエンザワクチンを推奨しています3)。米国では2013/2014シーズンから4)、わが国でも2015/2016シーズンから4価ワクチンが使用されており、世界的に3価から4価ワクチンに移行する流れがあります。
季節性インフルエンザワクチンに使用されるウイルス株は、毎年選定が行われています。WHOは、世界におけるワクチン推奨株を毎年2回(南半球のシーズン前に1回、次いで北半球のシーズン前に1回)選定して発表します。わが国では、国立感染症研究所で外部専門家を含む「インフルエンザワクチン株選定のための検討会議」がインフルエンザシーズンの始まりから終わりあたりまでに数回行われます。ここでは、WHOの推奨株を参考にしながら、国内での流行状況・流行株の解析情報・国民の血清抗体保有状況などから次シーズンに流行の主流となりそうなウイルス株の候補を挙げます。また、候補となったウイルス株の卵での増殖がよいことや継代による抗原性の変化がないことなど、ワクチンの製造にも適した株であるかも検討されて最終候補株が決定されます。候補株の回答が国立感染症研究所から厚生労働省へ提出され、厚生労働省が最終決定し通知を出します。これに基づいて、ワクチンメーカーは製造に入ります。
今シーズンの製造株は、下記の通りです。2016/2017シーズンと比較すると、A(H1N1)株が変更され、ほかの3つの株は変更ありません(図1)。また、ワクチン株の選定理由の詳細は、例年、「病原微生物検出情報(IASR)」の10~11月号に掲載されます。国立感染症研究所のホームページで閲覧できますので、参照してください。
図1 2017/2018シーズンのインフルエンザワクチン製造株
厚生労働省通知(健発0607第18号 平成28年6月7日、健発0712第2号 平成29年7月12日)より作図
平成29年度インフルエンザHAワクチン製造株
2.昨シーズンの流行状況とウイルスの抗原性解析
わが国における2016/2017シーズンのインフルエンザの流行状況は、平年より1カ月程度早い立ち上がりで、2シーズンぶりにA(H3N2)ウイルスが主流となりました。2017年第9週(2/27~3/5)からはB型ウイルスが増加し、ビクトリア系統が山形系統を上回り優勢でした。全体的な亜型別のウイルス検出割合は、A(H3N2)が85%、B(ビクトリア系統)が7%、B(山形系統)が5%、A(H1N1)pdm09は3%で混合流行の傾向は変わらずみられました6)(図2)。
図2 国内のインフルエンザウイルスの検出状況(2017.5.12現在)
国立感染症研究所, 厚生労働省:今冬のインフルエンザについて(2016/17シーズン).
平成29年6月19日より一部改変
流行株とワクチン株の解析結果は、A(H1N1)pdm09、B(ビクトリア系統)、B(山形系統)については、解析したほぼすべての流行株がワクチン株(細胞分離ワクチン原株およびワクチン製造株)と抗原性が類似していました。一方、A(H3N2)は、流行株の9割以上がワクチン製造株に対する抗血清との反応性低下が認められ、ワクチン抗原と流行株の抗原性の相違が推定されました。いわゆる、抗原性の『ずれ』が生じていたことになり、これは製造過程において鶏卵でウイルスを培養・増殖させる際に、卵への馴化*に伴ってワクチン原株から抗原性の変化が生じたことに起因しています。A(H3N2)株は卵馴化による抗原変異が生じやすく、わが国だけではなく世界的な課題となっています7)。
3.インフルエンザワクチンの有効性
インフルエンザに罹患すると、特に高齢者や、年齢を問わず呼吸器、循環器、腎臓に慢性疾患をもつ患者さん、糖尿病などの代謝疾患、免疫機能が低下している患者さんでは、原疾患の増悪とともに、呼吸器に二次的な細菌感染症を起こしやすくなり、入院や死亡の危険が増加します。小児では中耳炎の合併、熱性けいれんや気管支喘息の誘発、まれではありますが急性脳症などの重症合併症があらわれることもあります2)。インフルエンザワクチンは接種すればインフルエンザに絶対に罹患しないというものではありませんが、ある程度の発病を阻止する効果があり、前述のような重症化を阻止する効果があります1)。
インフルエンザワクチンの有効性に関して多くの調査研究が行われていますが、調査する対象(年齢や免疫応答など)・調査地域・調査時期、また、流行株とワクチン株の抗原性の一致度など種々の条件により異なります。まず、年齢に関して、厚生労働省の「インフルエンザQ&A」では、「65歳以上の老人福祉施設・病院に入所している高齢者については34~55%の発病を阻止し、82%の死亡を阻止する効果があったとされています」※1。「乳幼児のインフルエンザワクチンの有効性に関しては、報告によって多少幅がありますが、概ね20~50%の発病防止効果があったと報告されています※2, 3。また、乳幼児の重症化予防に関する有効性を示唆する報告も散見されます」※4と記載されています1)。年齢層別の有効性について、小児はこちらのQ、65歳未満の成人はこちらのQに詳細を解説していますので、参照してください。
また、基礎疾患をもつ方や治療薬を投与中の方など、被接種者の免疫応答によっても有効性は異なります。基礎疾患に関してはこちらのQ、治療薬に関してはこちらのQで詳細を解説していますので、参照してください。
さらに、インフルエンザワクチンの有効性は、流行株とワクチン株の抗原性の一致度によっても異なります。流行株とワクチン株の抗原性が一致すれば効果は高くなりますが、抗原性の一致度が低いと効果は低下します。インフルエンザウイルスの流行株は毎年のように少しずつ変異します。ワクチン株もそれに合わせるように毎年変更されますが、前述のようなA(H3N2)株の製造工程における抗原変異の課題もあります。
このように、インフルエンザワクチンの有効性は種々の条件により差があり、また限界もあります。しかし、接種により完全な予防は難しくとも一定の重症化や死亡の予防効果はあること、また、接種可能な方が接種することにより、接種の効果が比較的低いとされる方(乳幼児など)や接種できない方(免疫低下の方など)を守る集団免疫効果もあることを知っていただき、積極的に接種を検討することが望まれます。
(備考)
※1:平成11年度 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業
「インフルエンザワクチンの効果に関する研究.主任研究者 :神谷齊(国立療養所三重病院)」.
※2:平成14年度 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業
「乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果に関する研究.研究代表者:加地正郎(久留米大学) 」.
※3:平成26年度 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究.研究代表者:廣田良夫(医療法人相生会臨床疫学研究センター)」.
※4:(参考)Katayose et al. Vaccine. 2011 Feb 17; 29(9): 1844-9.
4.毎年、ワクチン接種が勧められる理由
前述のように、季節性インフルエンザワクチンは、流行予測などからそのシーズンに適したウイルス株が毎年選定され製造されますので、前シーズンのワクチンでは対応できないことがほとんどです。たとえ有効期限が切れていなくても、前シーズンのワクチンは使用しないほうが賢明です。また、わが国で使用されているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり生ワクチンに比べて効果の持続期間は短く、有効性が持続する期間は約5カ月とされています。したがって、個人差はありますが、前シーズン接種していても抗体価は減衰している可能性が高く、毎年接種することが勧められます2)。
5.4価ワクチンについて
ワクチンは国が定めた生物学的製剤基準8)に従って製造されますが、わが国ではインフルエンザHAワクチンに関する生物学的製剤基準が改正され(2015年)、総蛋白質含量がそれまでの240μg/mL以下から400μg/mL以下へ変更されたことから、4価ワクチンの製造・使用が可能になりました(かつて国内で4価ワクチンが製造されたことはあります)。ワクチン中に含まれる総蛋白質含量が3価ワクチンより1株分増えたことになるので、接種後の健康状況、特に局所反応については、注意深く観察していく必要があると思います。
4価ワクチンの安全性に関して、わが国のすべてのインフルエンザワクチンの副反応疑い報告状況については、こちらのQで詳細を解説していますので参照してください。また、各ワクチンの製品添付文書には、メーカーそれぞれの治験成績などが記載されています。インフルエンザHAワクチン“化血研”については、以下のようになっています。
「20~64歳の健康成人50例に0.5mLずつ2回皮下接種したときの有害事象は、20例(40%)にみられました。もっとも多くみられた症状は注射部位の疼痛(11例、22%)で、他の注射部位症状では紅斑(3例、6%)、熱感、腫脹(いずれも2例、4%)などがみられました。全身性の症状は11例(22%)にみられ、倦怠感、発熱(いずれも3例、6%)などでした。グレード3以上の重度の症状は認められませんでした」9)。
インフルエンザワクチンのご使用にあたっては、それぞれお使いになるメーカーの製品添付文書をご参照ください。
*卵への馴化(じゅんか):インフルエンザワクチンを鶏卵で作る過程において、ウイルスを卵の中で増えやすくするためには馴化させなければならない。馴化とは、ウイルスを卵で複数回増やし、卵での増殖に適応させることである。この過程でウイルスの遺伝子に変異が起きる場合があり、遺伝子に変異が起きるとワクチンの有効性が低下することもある。そのため、毎年、製造されたワクチンの有効性を確認している1)。
<参考文献>
1)厚生労働省ホームページ:インフルエンザQ&A.〈http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html〉アクセス2017年7月27日現在.
2)予防接種ガイドライン等検討委員会:インフルエンザ・肺炎球菌感染症(B類疾病)予防接種ガイドライン2016年度版.公益財団法人 予防接種リサーチセンター,東京,2016.
3)WHOホームページ:Recommended composition of influenza virus vaccines for use in the 2016-2017 northern hemisphere influenza season. 〈http://www.who.int/influenza/vaccines/virus/recommendations/201602_recommendation.pdf?ua=1〉アクセス2017年7月27日現在.
4)Centers for Disease Control and Prevention(CDC): Prevention and control of seasonal influenza with vaccines: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices - United States, 2013-2014. MMWR. Recomm. Rep., 62(RR-07): 1-43, 2013.
5)厚生労働省ホームページ: 平成29年度インフルエンザHAワクチン製造株の決定について(通知). 健発0712第2号 平成29年7月12日.〈http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/20170712.pdf〉アクセス2017年7月27日現在.
6)国立感染症研究所,厚生労働省:今冬のインフルエンザについて(2016/17シーズン).平成29年6月19日.〈https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1617.pdf〉アクセス2017年7月27日現在.
7)国立感染症研究所ホームページ:インフルエンザウイルス流行株抗原性解析と遺伝子系統樹 2017年6月26日.〈https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/flutoppage/2382-flu/flu-antigen-phylogeny/7345-2017-2-25.html〉アクセス2017年7月27日現在.
8)厚生労働省:生物学的製剤基準.平成16年3月30日厚生労働省告示第155号,平成27年3月30日改正 厚生労働省告示第192号.
9)Tsurudome Y., Kimachi K., Okada Y., et al.: Immunogenicity and safety of an inactivated quadrivalent influenza vaccine in healthy adults: a phase II, open-label, uncontrolled trial in Japan. Microbiol. Immunol., 59(10): 597-604, 2015.
国立感染症研究所HPを覗くと、早くも2017/18シーズン流行株の解説情報が掲載されていました。
□ インフルエンザウイルス流行株抗原性解析と遺伝子系統樹(2017年11月7日)
ではその効果は?
当初、WHO推奨株を採用したものの、ワクチン製造過程で増殖が悪いことが判明し、急遽昨シーズン(2016/17シーズン)の株に切り替えて製造することになり、これが“ワクチン不足”の原因と説明されています。
ワクチン株を元に戻したため、今シーズンの流行株と合うかどうか・・・心配になるところです。
少し詳しい解説記事を見つけましたので紹介します。
・・・あれ? 読んでみても今シーズンどの程度有効かの記述が見当たりません。
■ 「インフルエンザQ&A」(アステラス製薬)より
(2017年9月、監修:岡部信彦)
Q. 今シーズンのインフルエンザワクチンとワクチンの有効性について教えてください。インフルエンザの予防には、ワクチン接種を毎年継続したほうがよいですか?
A. わが国の季節性インフルエンザワクチンは、2015/2016シーズン以降A型2種類およびB型2種類のウイルス株を含む4価ワクチンが毎シーズン使用されています。インフルエンザワクチンの有効性は、被接種者の年齢や免疫応答、流行株とワクチン株との抗原性の一致度など種々の条件により異なりますが、インフルエンザの発症・重症化・死亡の予防に一定の効果があるとされています1)。ワクチン効果の持続期間は約5カ月であること、ワクチン株は毎年変わることから、毎年接種することが必要になります2)。
<解説>
1.インフルエンザワクチン株の選定プロセスと今シーズンのワクチン株
近年、季節性インフルエンザの流行はA型とB型ウイルスの混合流行の傾向が多く、WHOはA型2種類とB型2種類のウイルス株を含む4価インフルエンザワクチンを推奨しています3)。米国では2013/2014シーズンから4)、わが国でも2015/2016シーズンから4価ワクチンが使用されており、世界的に3価から4価ワクチンに移行する流れがあります。
季節性インフルエンザワクチンに使用されるウイルス株は、毎年選定が行われています。WHOは、世界におけるワクチン推奨株を毎年2回(南半球のシーズン前に1回、次いで北半球のシーズン前に1回)選定して発表します。わが国では、国立感染症研究所で外部専門家を含む「インフルエンザワクチン株選定のための検討会議」がインフルエンザシーズンの始まりから終わりあたりまでに数回行われます。ここでは、WHOの推奨株を参考にしながら、国内での流行状況・流行株の解析情報・国民の血清抗体保有状況などから次シーズンに流行の主流となりそうなウイルス株の候補を挙げます。また、候補となったウイルス株の卵での増殖がよいことや継代による抗原性の変化がないことなど、ワクチンの製造にも適した株であるかも検討されて最終候補株が決定されます。候補株の回答が国立感染症研究所から厚生労働省へ提出され、厚生労働省が最終決定し通知を出します。これに基づいて、ワクチンメーカーは製造に入ります。
今シーズンの製造株は、下記の通りです。2016/2017シーズンと比較すると、A(H1N1)株が変更され、ほかの3つの株は変更ありません(図1)。また、ワクチン株の選定理由の詳細は、例年、「病原微生物検出情報(IASR)」の10~11月号に掲載されます。国立感染症研究所のホームページで閲覧できますので、参照してください。
図1 2017/2018シーズンのインフルエンザワクチン製造株
厚生労働省通知(健発0607第18号 平成28年6月7日、健発0712第2号 平成29年7月12日)より作図
平成29年度インフルエンザHAワクチン製造株
2.昨シーズンの流行状況とウイルスの抗原性解析
わが国における2016/2017シーズンのインフルエンザの流行状況は、平年より1カ月程度早い立ち上がりで、2シーズンぶりにA(H3N2)ウイルスが主流となりました。2017年第9週(2/27~3/5)からはB型ウイルスが増加し、ビクトリア系統が山形系統を上回り優勢でした。全体的な亜型別のウイルス検出割合は、A(H3N2)が85%、B(ビクトリア系統)が7%、B(山形系統)が5%、A(H1N1)pdm09は3%で混合流行の傾向は変わらずみられました6)(図2)。
図2 国内のインフルエンザウイルスの検出状況(2017.5.12現在)
国立感染症研究所, 厚生労働省:今冬のインフルエンザについて(2016/17シーズン).
平成29年6月19日より一部改変
流行株とワクチン株の解析結果は、A(H1N1)pdm09、B(ビクトリア系統)、B(山形系統)については、解析したほぼすべての流行株がワクチン株(細胞分離ワクチン原株およびワクチン製造株)と抗原性が類似していました。一方、A(H3N2)は、流行株の9割以上がワクチン製造株に対する抗血清との反応性低下が認められ、ワクチン抗原と流行株の抗原性の相違が推定されました。いわゆる、抗原性の『ずれ』が生じていたことになり、これは製造過程において鶏卵でウイルスを培養・増殖させる際に、卵への馴化*に伴ってワクチン原株から抗原性の変化が生じたことに起因しています。A(H3N2)株は卵馴化による抗原変異が生じやすく、わが国だけではなく世界的な課題となっています7)。
3.インフルエンザワクチンの有効性
インフルエンザに罹患すると、特に高齢者や、年齢を問わず呼吸器、循環器、腎臓に慢性疾患をもつ患者さん、糖尿病などの代謝疾患、免疫機能が低下している患者さんでは、原疾患の増悪とともに、呼吸器に二次的な細菌感染症を起こしやすくなり、入院や死亡の危険が増加します。小児では中耳炎の合併、熱性けいれんや気管支喘息の誘発、まれではありますが急性脳症などの重症合併症があらわれることもあります2)。インフルエンザワクチンは接種すればインフルエンザに絶対に罹患しないというものではありませんが、ある程度の発病を阻止する効果があり、前述のような重症化を阻止する効果があります1)。
インフルエンザワクチンの有効性に関して多くの調査研究が行われていますが、調査する対象(年齢や免疫応答など)・調査地域・調査時期、また、流行株とワクチン株の抗原性の一致度など種々の条件により異なります。まず、年齢に関して、厚生労働省の「インフルエンザQ&A」では、「65歳以上の老人福祉施設・病院に入所している高齢者については34~55%の発病を阻止し、82%の死亡を阻止する効果があったとされています」※1。「乳幼児のインフルエンザワクチンの有効性に関しては、報告によって多少幅がありますが、概ね20~50%の発病防止効果があったと報告されています※2, 3。また、乳幼児の重症化予防に関する有効性を示唆する報告も散見されます」※4と記載されています1)。年齢層別の有効性について、小児はこちらのQ、65歳未満の成人はこちらのQに詳細を解説していますので、参照してください。
また、基礎疾患をもつ方や治療薬を投与中の方など、被接種者の免疫応答によっても有効性は異なります。基礎疾患に関してはこちらのQ、治療薬に関してはこちらのQで詳細を解説していますので、参照してください。
さらに、インフルエンザワクチンの有効性は、流行株とワクチン株の抗原性の一致度によっても異なります。流行株とワクチン株の抗原性が一致すれば効果は高くなりますが、抗原性の一致度が低いと効果は低下します。インフルエンザウイルスの流行株は毎年のように少しずつ変異します。ワクチン株もそれに合わせるように毎年変更されますが、前述のようなA(H3N2)株の製造工程における抗原変異の課題もあります。
このように、インフルエンザワクチンの有効性は種々の条件により差があり、また限界もあります。しかし、接種により完全な予防は難しくとも一定の重症化や死亡の予防効果はあること、また、接種可能な方が接種することにより、接種の効果が比較的低いとされる方(乳幼児など)や接種できない方(免疫低下の方など)を守る集団免疫効果もあることを知っていただき、積極的に接種を検討することが望まれます。
(備考)
※1:平成11年度 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業
「インフルエンザワクチンの効果に関する研究.主任研究者 :神谷齊(国立療養所三重病院)」.
※2:平成14年度 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業
「乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果に関する研究.研究代表者:加地正郎(久留米大学) 」.
※3:平成26年度 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究.研究代表者:廣田良夫(医療法人相生会臨床疫学研究センター)」.
※4:(参考)Katayose et al. Vaccine. 2011 Feb 17; 29(9): 1844-9.
4.毎年、ワクチン接種が勧められる理由
前述のように、季節性インフルエンザワクチンは、流行予測などからそのシーズンに適したウイルス株が毎年選定され製造されますので、前シーズンのワクチンでは対応できないことがほとんどです。たとえ有効期限が切れていなくても、前シーズンのワクチンは使用しないほうが賢明です。また、わが国で使用されているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり生ワクチンに比べて効果の持続期間は短く、有効性が持続する期間は約5カ月とされています。したがって、個人差はありますが、前シーズン接種していても抗体価は減衰している可能性が高く、毎年接種することが勧められます2)。
5.4価ワクチンについて
ワクチンは国が定めた生物学的製剤基準8)に従って製造されますが、わが国ではインフルエンザHAワクチンに関する生物学的製剤基準が改正され(2015年)、総蛋白質含量がそれまでの240μg/mL以下から400μg/mL以下へ変更されたことから、4価ワクチンの製造・使用が可能になりました(かつて国内で4価ワクチンが製造されたことはあります)。ワクチン中に含まれる総蛋白質含量が3価ワクチンより1株分増えたことになるので、接種後の健康状況、特に局所反応については、注意深く観察していく必要があると思います。
4価ワクチンの安全性に関して、わが国のすべてのインフルエンザワクチンの副反応疑い報告状況については、こちらのQで詳細を解説していますので参照してください。また、各ワクチンの製品添付文書には、メーカーそれぞれの治験成績などが記載されています。インフルエンザHAワクチン“化血研”については、以下のようになっています。
「20~64歳の健康成人50例に0.5mLずつ2回皮下接種したときの有害事象は、20例(40%)にみられました。もっとも多くみられた症状は注射部位の疼痛(11例、22%)で、他の注射部位症状では紅斑(3例、6%)、熱感、腫脹(いずれも2例、4%)などがみられました。全身性の症状は11例(22%)にみられ、倦怠感、発熱(いずれも3例、6%)などでした。グレード3以上の重度の症状は認められませんでした」9)。
インフルエンザワクチンのご使用にあたっては、それぞれお使いになるメーカーの製品添付文書をご参照ください。
*卵への馴化(じゅんか):インフルエンザワクチンを鶏卵で作る過程において、ウイルスを卵の中で増えやすくするためには馴化させなければならない。馴化とは、ウイルスを卵で複数回増やし、卵での増殖に適応させることである。この過程でウイルスの遺伝子に変異が起きる場合があり、遺伝子に変異が起きるとワクチンの有効性が低下することもある。そのため、毎年、製造されたワクチンの有効性を確認している1)。
<参考文献>
1)厚生労働省ホームページ:インフルエンザQ&A.〈http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html〉アクセス2017年7月27日現在.
2)予防接種ガイドライン等検討委員会:インフルエンザ・肺炎球菌感染症(B類疾病)予防接種ガイドライン2016年度版.公益財団法人 予防接種リサーチセンター,東京,2016.
3)WHOホームページ:Recommended composition of influenza virus vaccines for use in the 2016-2017 northern hemisphere influenza season. 〈http://www.who.int/influenza/vaccines/virus/recommendations/201602_recommendation.pdf?ua=1〉アクセス2017年7月27日現在.
4)Centers for Disease Control and Prevention(CDC): Prevention and control of seasonal influenza with vaccines: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices - United States, 2013-2014. MMWR. Recomm. Rep., 62(RR-07): 1-43, 2013.
5)厚生労働省ホームページ: 平成29年度インフルエンザHAワクチン製造株の決定について(通知). 健発0712第2号 平成29年7月12日.〈http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/20170712.pdf〉アクセス2017年7月27日現在.
6)国立感染症研究所,厚生労働省:今冬のインフルエンザについて(2016/17シーズン).平成29年6月19日.〈https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1617.pdf〉アクセス2017年7月27日現在.
7)国立感染症研究所ホームページ:インフルエンザウイルス流行株抗原性解析と遺伝子系統樹 2017年6月26日.〈https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/flutoppage/2382-flu/flu-antigen-phylogeny/7345-2017-2-25.html〉アクセス2017年7月27日現在.
8)厚生労働省:生物学的製剤基準.平成16年3月30日厚生労働省告示第155号,平成27年3月30日改正 厚生労働省告示第192号.
9)Tsurudome Y., Kimachi K., Okada Y., et al.: Immunogenicity and safety of an inactivated quadrivalent influenza vaccine in healthy adults: a phase II, open-label, uncontrolled trial in Japan. Microbiol. Immunol., 59(10): 597-604, 2015.
国立感染症研究所HPを覗くと、早くも2017/18シーズン流行株の解説情報が掲載されていました。
□ インフルエンザウイルス流行株抗原性解析と遺伝子系統樹(2017年11月7日)