編集:日本小児栄養消化器肝臓学会、日本小児消化管機能研究会
診断と治療社、2013年発行
子どもの便秘に関する一般向け啓蒙書をいくつか読んでみましたが、それぞれに著者のクセがあり、比較すると主張が異なるところも散見され、まとめようとしてもなかなか・・・。
すると、脳が科学的根拠を欲するようになります(笑)。
そこで2013年9月に関連学会から発表された「小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン」を読んでみました(書籍でも販売されています)。74ページに及ぶ労作です。
一般患者さん用パンフレット(「簡易版」「詳細版」)も用意されていますので、興味のある方はどうぞ。
ガイドライン作成委員長の友政先生は恩師の一人です。私が小児科医に成り立てホヤホヤの四半世紀前に学会発表や論文作成の”いろは”を教えていただきました。非常に聡明な先生で、彼と話していると自分まで頭が良くなるような錯覚を覚えたことを記憶しています(笑)。
内容は明解かつ学術的で、世界中の科学的論文を元に構成されています。各記述がどれだけ信頼に足るものなのか、数字でレベル表示されているのです。ですから、一人の専門家の意見が”鶴の一声”のごとく採用されることはなく客観性が担保され、現時点の医学の到達点を表していることになります。
子どもの便秘は日常的に相談を受ける病態ですが、重症疾患との認識が乏しいせいか、これまで詳述してある本はなかなかありませんでした。
このガイドラインを読み、現在わかっていること、わかっていないことが整理され、思い込みで指導してきた内容があったことにも気づかされ、大変勉強になりました。
ついつい「薬に頼らずに食生活の改善で何とかならないものか」と考えがちですが、重症患者をたくさん診療してきた専門家は「早期治療が治癒につながる」と言い切っています。便秘の悪循環で腸の排便機能が麻痺してしまうと、食生活を変えるレベルではどうにもこうにもならず本人がつらいだけです。
そして、慢性の便秘に対しては「6~24ヶ月の治療が必要」としています。
確かに、一旦便が出て楽になると通院が途切れがちですが、しばらくするとまたひどい便秘で再度受診する例をよく経験します。
直腸にたまっている便を出したあとは、腸のぜん動機能・排便機能が正常にもどるまでその状態を維持する必要があるということですね。
また、メディアで盛り上がっている乳酸菌・ビフィズス菌などの「プロバイオティクス」は科学的根拠が今ひとつ乏しく「症例によっては有効」レベルにとどまることを知りました。
どちらかというと食品会社による販売促進目的の誇大広告の要素が大きいようです。
食物線維に関しても「小児の便秘症と食物線維の摂取量の関係はいまだ明確でなく、エビデンスが不足しているため推奨できる段階ではない」との見解です。
フ~ン、そうなんだ(意外)。
また、項目を作って漢方薬を取りあげている点が斬新です。
私は頻用していますが、徐々に市民権を得つつあるようですね。
不満があるとすれば、「じゃあ、何を食べたらいいの?」への具体的な対応。
食物線維を多く含む食品が表にずらっと並べられていますが、日常生活の中ではいちいち「これを何g、それを何g」と計って食べるわけにはいきません。
さらに「このような食品は便秘によくありませんよ」という項目があるとなおわかりやすいのでは、と感じました。
<メモ>
自分自身のための備忘録。
■ 便秘のなおるのか?
・成人期への移行例が少なくない。
・一旦治療が成功しても、高率に再発する。4歳以下で便秘と診断された患児の40%以上が治療にもかかわらず学童期になっても便秘症状が残る。5歳以上の小児期に来院した便秘患児の25%が成人便秘へ移行する。
・早期診断、早期治療により予後を改善できる。
予後不良因子として、年齢が高いこと、発症から初診までの期間が長いこと、初診時の排便が少ないことが挙げられる。
■ 便秘症をきたす基礎疾患を示唆する徴候(red flags)
・胎便排泄遅延(生後24時間以降)の既往
・成長障害・体重減少
・繰り返す嘔吐
・血便
・下痢(paradoxical diarrhea)
・腹部膨満/腹部腫瘤
・肛門の形態・位置異常
・直腸肛門指診の異常
・脊髄疾患を示唆する神経所見と仙骨部皮膚所見
■ 最初から薬物治療を併用する、または治療経験の豊富な医師への紹介を考慮すべき徴候(yellow flags)
・排便自立語であるのに便失禁や漏便を伴う
・便意があるときに足を交差させるなどガマン姿勢をとる
・排便時に肛門を痛がる
・軟便でも排便回数が少ない(排便回数が週に2回以下)
・排便時に出血する
・直腸脱などの肛門部所見を併発している
・画像検査では結腸・直腸の拡張を認める
・病悩期間または経過が長い
・他院での通常の便秘治療で速やかに改善しなかった
診断と治療社、2013年発行
子どもの便秘に関する一般向け啓蒙書をいくつか読んでみましたが、それぞれに著者のクセがあり、比較すると主張が異なるところも散見され、まとめようとしてもなかなか・・・。
すると、脳が科学的根拠を欲するようになります(笑)。
そこで2013年9月に関連学会から発表された「小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン」を読んでみました(書籍でも販売されています)。74ページに及ぶ労作です。
一般患者さん用パンフレット(「簡易版」「詳細版」)も用意されていますので、興味のある方はどうぞ。
ガイドライン作成委員長の友政先生は恩師の一人です。私が小児科医に成り立てホヤホヤの四半世紀前に学会発表や論文作成の”いろは”を教えていただきました。非常に聡明な先生で、彼と話していると自分まで頭が良くなるような錯覚を覚えたことを記憶しています(笑)。
内容は明解かつ学術的で、世界中の科学的論文を元に構成されています。各記述がどれだけ信頼に足るものなのか、数字でレベル表示されているのです。ですから、一人の専門家の意見が”鶴の一声”のごとく採用されることはなく客観性が担保され、現時点の医学の到達点を表していることになります。
子どもの便秘は日常的に相談を受ける病態ですが、重症疾患との認識が乏しいせいか、これまで詳述してある本はなかなかありませんでした。
このガイドラインを読み、現在わかっていること、わかっていないことが整理され、思い込みで指導してきた内容があったことにも気づかされ、大変勉強になりました。
ついつい「薬に頼らずに食生活の改善で何とかならないものか」と考えがちですが、重症患者をたくさん診療してきた専門家は「早期治療が治癒につながる」と言い切っています。便秘の悪循環で腸の排便機能が麻痺してしまうと、食生活を変えるレベルではどうにもこうにもならず本人がつらいだけです。
そして、慢性の便秘に対しては「6~24ヶ月の治療が必要」としています。
確かに、一旦便が出て楽になると通院が途切れがちですが、しばらくするとまたひどい便秘で再度受診する例をよく経験します。
直腸にたまっている便を出したあとは、腸のぜん動機能・排便機能が正常にもどるまでその状態を維持する必要があるということですね。
また、メディアで盛り上がっている乳酸菌・ビフィズス菌などの「プロバイオティクス」は科学的根拠が今ひとつ乏しく「症例によっては有効」レベルにとどまることを知りました。
どちらかというと食品会社による販売促進目的の誇大広告の要素が大きいようです。
食物線維に関しても「小児の便秘症と食物線維の摂取量の関係はいまだ明確でなく、エビデンスが不足しているため推奨できる段階ではない」との見解です。
フ~ン、そうなんだ(意外)。
また、項目を作って漢方薬を取りあげている点が斬新です。
私は頻用していますが、徐々に市民権を得つつあるようですね。
不満があるとすれば、「じゃあ、何を食べたらいいの?」への具体的な対応。
食物線維を多く含む食品が表にずらっと並べられていますが、日常生活の中ではいちいち「これを何g、それを何g」と計って食べるわけにはいきません。
さらに「このような食品は便秘によくありませんよ」という項目があるとなおわかりやすいのでは、と感じました。
<メモ>
自分自身のための備忘録。
■ 便秘のなおるのか?
・成人期への移行例が少なくない。
・一旦治療が成功しても、高率に再発する。4歳以下で便秘と診断された患児の40%以上が治療にもかかわらず学童期になっても便秘症状が残る。5歳以上の小児期に来院した便秘患児の25%が成人便秘へ移行する。
・早期診断、早期治療により予後を改善できる。
予後不良因子として、年齢が高いこと、発症から初診までの期間が長いこと、初診時の排便が少ないことが挙げられる。
■ 便秘症をきたす基礎疾患を示唆する徴候(red flags)
・胎便排泄遅延(生後24時間以降)の既往
・成長障害・体重減少
・繰り返す嘔吐
・血便
・下痢(paradoxical diarrhea)
・腹部膨満/腹部腫瘤
・肛門の形態・位置異常
・直腸肛門指診の異常
・脊髄疾患を示唆する神経所見と仙骨部皮膚所見
■ 最初から薬物治療を併用する、または治療経験の豊富な医師への紹介を考慮すべき徴候(yellow flags)
・排便自立語であるのに便失禁や漏便を伴う
・便意があるときに足を交差させるなどガマン姿勢をとる
・排便時に肛門を痛がる
・軟便でも排便回数が少ない(排便回数が週に2回以下)
・排便時に出血する
・直腸脱などの肛門部所見を併発している
・画像検査では結腸・直腸の拡張を認める
・病悩期間または経過が長い
・他院での通常の便秘治療で速やかに改善しなかった