かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

短編小説『鏡の悪戯』後編いきます。 

2008-05-21 22:48:44 | 麗夢小説 短編集
 今日は見事に上天気で、朝は寒いくらいでしたが、昼間はもう真夏とそう変わらないくらいに感じるほど熱い日差しに背中やうなじがじりじりと焼かれました。5がつも3分の2を過ぎますが、そろそろ初夏から更に一歩踏み込んだ季節に移りつつあるようです。ここまできたら、もうじき梅雨ですね。果たして今年はどんな梅雨になるんでしょうか。

 さて、先週末にアップした「鏡の悪戯」前編に続き、正真正銘新作の後編をアップします。相変わらずどたばたしていますが、今度のは更に男臭さもあいまって、まるで夏コミ3日目の某区画のような有様、かも知れません。幸か不幸か、コミケ2日目の某区画のような描写は一切ありませんので、その点はご安心いただけると思いますが、かわいい麗夢ちゃんが飛び回って活躍する、というような話ではありませんので、ご注意願いたく存じます。

 それにしても、私の短編はどたばた喜劇が多いような気がしないでもないです。私は性格的なものなのか、ギャクを描くのはすこぶる苦手なのですが、どたばたコメディは割りと好きで、書くのも苦になりません。きっと幼少時から関西系喜劇にどっぷり染まっているせいかもしれません。大笑いは取れなくてもくすっと笑みがこぼれてくれましたら作者としてはうれしい限りですので、もしお気に召しましたらコメントででも感想をいただければ幸いです

 
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短編小説『鏡の悪戯 後編』 その1

2008-05-21 22:39:09 | 麗夢小説 短編集
「ちょ、ちょっとまったぁ!」
「きゃっ?!」
 今にも集中させた夢のエネルギーを一気に放ち、夢魔の女王の鏡を夢世界から現実世界へ叩き出そうとしていた麗夢は、その腕に縋り付いてきた夢見小僧に押し倒された。
「いったーい・・・。何なのよ一体!」
 同じくうつぶせに倒れ込み、麗夢のお尻の上でふぎゃっ、と小さな悲鳴を上げた夢見小僧が、涙目を浮かべつつ顔を上げた。
「今、いいこと思いついたの。お願いだから、鏡を外に出すのは待って」
「えーっ」
 麗夢はいかにも嫌なことを聞いた、と言わぬばかりに身体をひねり、背後の夢見小僧を振り返った。
「もういい加減にしてよ。パワー集めるのだって楽じゃないのよ!」
 だが、夢見小僧は麗夢の抗議などまるで聞こえませんと、満面の笑みを浮かべて麗夢に言った。
「ね、次は夢世界一のイイ男を選びましょうよ」
「はぁ?」
 高らかに宣言した夢見小僧に、麗夢もまた改めて眉をひそめた。
「もう懲りたんじゃないの?」
「何を仰るウサギさん!」
 夢見小僧は、腕立て伏せの要領で上体をぐっと持ち上げると、麗夢を見上げて言った。
「夢世界一の美女がともかくも決まったんだから、次は夢世界一の男を選ばなくちゃ話がまとまらないでしょう?」
「イヤ別にまとめなくていいから・・・それより早くそこどいて・・・」
 頭を抱えた麗夢がぼそりと呟くのも構わず、夢見小僧はテンションも高らかに麗夢に言った。
「お雛様だって七夕様だって伊弉諾伊弉冉の神様だって、世のことわりは陰陽一対! 夢世界もまたその道理に則らなくちゃ! そう思わない? 美奈ちゃん!」
 突然暴走を始めた事の成り行きに呆然としていた美奈は、いきなり話を振られて口ごもった。
「え? あの、その、どうするんですか?」
「もちろん! まずは候補者を選びよ! エントリーするに相応しい男子を選ばなくちゃ! 誰かいない? 美奈ちゃん」
「え、お、男の人ですか? え、えーと」
 律儀に考え始めた美奈に、麗夢はため息を付いて一声上げた。
「私は反対」
「なんでよ!」
 一転、突っかかってきた夢見小僧に、麗夢は努めて冷たく、突き放すように言った。
「だからまずどきなさいってば! とにかくもうあんな騒ぎはこりごりだわ。いいこと夢見さん。これ以上だだこねるんだったら、その鏡、今度こそきれいさっぱりたたき壊してやるわよ」
 麗夢は、今は光を失った剣を、これ見よがしに夢見小僧の顔の上で振った。
「あ、危ないって! 麗夢ちゃん! ヒッ!」
「あーら、ごめんなさい?」
 ズルリ、と背中越しに麗夢の手からずり落ちた剣の切っ先が、夢見小僧の脇腹をかすめた。更ににやりと笑みを浮かべられては、さすがの夢見小僧のテンションも下がらざるを得ない。意気消沈した彼女の姿に、麗夢もようやく安堵のため息を付いた。
「判ってくれたらいいのよ、さあまずはそこをどいて って、な、なにするの?!」
「隙あり、麗夢ちゃん!」
 いまだラグビーでタックルを決めたような形で麗夢のお尻に抱きついていた夢見小僧は、麗夢の剣が離れた瞬間、もぞもぞっと麗夢の身体の上にはい上がり、その両脇に自由になった手を添えた。
「言うこと聞いてくれないんだったら、こうなんだから!」
「ひゃっ! ちょ、ちょっと駄目! イヤ、そこは、あは、やめて! あははははは! み、美奈ちゃん、助けてぇ!」
 背後から抑え付けられ、自由を失った麗夢の脇腹に、夢見小僧の両の手がワキワキと蠢いた。
「美奈ちゃん! 手を出したら、次は貴女の番よ!」
 蛇に睨まれた蛙、というのはちょうどこういう姿を言うのだろう。肉食獣さながらの半分イってしまったかのような夢見小僧の爛々と輝く目と笑顔に、美奈はひっと悲鳴を呑むと、そのまま固まってしまった。
「美奈ちゃーん!」
 夢魔の女王に対してひるまず立ち向かった勇気は、この「猛獣」相手にはまるで通じなかったようだ。麗夢は絶望的な悲鳴を上げて美奈の名を叫んだが、美奈はびくっと一瞬ふるえただけで、夢見小僧の再度の睨みに全く身動きがとれなかった。
「ほれほれほれほれ! どーぉ、私のお願い、聞いてくれる気になった?」
「いやーっ! 判った、判ったからやめてぇっ!」
 手足をバタつかせ、泣き笑いと脂汗に額へぐっしょりと前髪をへばりつかせながら懇願する麗夢に、夢見小僧もようやく満足したようだった。
「はぁ、はぁ、判ってくれてうれしいわ。あ・り・が・と・う」
 と、名残惜しげにぐったり脱力した麗夢の耳元に口を寄せて呟き、蠱惑げに曲げた右手の指で背中をひとなでした夢見小僧は、麗夢がひゃん! と色っぽい悲鳴を上げたのを合図に立ち上がった。
「さあ、麗夢ちゃんも同意してくれたし、魔法の鏡さん、よろしくお願いね!」
『かしこまりました』
 相変わらず陰惨な感じの拭えない声だったが、心なしか弾んでいるように聞こえたのは気のせいだろうか。美奈は二人の嬌態に頬を赤く染めながらも、ようやく出番がきた鏡の様子に、何故かほっと息を付いていた。
『まずはこの二人から参りましょう』
 鏡の表が突然真っ白に輝いた。油断していた一同が目をくらませる。
「二人って、ちょっと芸が無さ過ぎよ・・・?」
 てっきりレギュラーの美男子2人が呼び出されたモノ、と思いこんだ夢見小僧は、薄れる光に現れた巨体と漆黒の姿に、ぽかん、と口を開けた。
「「何だここは?」」
 異口同音に声を上げた「2人」の前で、鏡の声が響き渡った。
『エントリーナンバー1番、夢魔王殿。同じく2番、死神博士死夢羅ことルシフェル殿~』
「あ、あなた達!」
「貴様! 麗夢!」
 夢見小僧のくすぐり&セクハラ攻撃にすっかりどうにでもしてくれ、と自暴自棄な麗夢だったが、いきなり現れた、辺りを闇に染めるかのような姿が戦士の本能に火をつけた。麗夢はまだ馬乗りになっていた夢見小僧を突き飛ばすようにして立ち上がると、油断無く剣を構えた。相手の二人も、突然のことに訳が分からないなりに、いきなり現れた(と二人には見えた)宿敵の姿に、それぞれの獲物を構え直す。
「夢見さん! 美奈ちゃん! こっちへ!」
 今にも一触即発の危機的状況に、麗夢の緊張はいや増しに増した。一度は滅ぼした夢魔王に加えて、死神まで目の前にして、二人をかばいつつ闘えるのか、あまりに心許ない。だから止めておけば良かったのに、と夢見小僧を止められなかったことに歯がみしつつ、迫る脅威に剣を振りかざしたその時だった。
『双方武器をお引きなさい』
 鏡の声がまたも辺りを震撼とさせた。
「何だと? 鏡風情がこのわしに命令しようというのか?」
 夢魔王が不快げに鼻を鳴らすと、ルシフェルもまた、嘲りも露わに鏡に言った。
「そうだ。邪魔はせんでもらおう」
 しかし、鏡は見た目一向にひるむ様子もなく、淡々と二人に言った。
『あなた方は私の魔力で一時的にこの場に顕現したに過ぎませぬ。姿、意識は往事のままでも、所詮は鏡に映し出された影。その力までは再現されておりませぬ』
「「何?!」」
 またも二人同時に驚愕の叫びを上げ、信じられぬという目でおのが獲物を見つめた。
 麗夢もまた、改めて目の前の敵を睨みすえ、鏡の言うことが確かに正しいことを見て取った。そう、視覚は間違いなくただならぬ脅威を知覚しているのに、麗夢の戦士としての鋭敏な感覚は、二人を全く脅威として認めていなかったのだ。あの人を威圧して止まない強烈な殺気も、心を腐食させ、光を闇に染め変える瘴気もまるで感じられない。麗夢はそれでも構えた剣を降ろそうとはしなかったが、ようやく事態を把握した傍らの友人が蠢き出すのを止めることは出来なかった。
「ちょっと鏡さん! 何よこの二人は!」
『何、と申されますと?』
「私は、夢世界一の男を選ぶって言ったのよ!」
『ええ、ですから、私の視点でまず候補者を選んだ積もりですが』
「あのねえ、この二人のどこに夢世界一の男としてエントリーする資格があるのよ。私は、化け物や枯れたじじいの一番を選びたいんじゃないの。そこんとこ判ってる?」
 何だとこの小娘! と異口同音にいきり立つ二人の猛者を無視して、鏡は言った。
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短編小説『鏡の悪戯 後編』 その2

2008-05-21 22:39:01 | 麗夢小説 短編集
『男の価値は単に見栄えだけではないでしょう。他にも、膂力、知性、決断力、カリスマ性、ファッションセンス、危険な悪の香り、等々、判断材料は多岐に渡るはずです。それに、昨今は「ちょい悪親父」なるものがはやっているとも聞き及びます。このお二方には十分エントリーの資格がある、と思いますが?』
「ちょい悪って、この二人が?」
「何だその目は?」
 さすがに麗夢も呆れながら二人を見れば、どうやら暴れるのは無理、と悟ったのだろう。死夢羅が鎌を所在なげに肩に掛け、麗夢を見返した。夢魔王も獲物の蛮刀を下げ、腕を組んで怒りを収める。
「だが、夢世界一の男を選ぶというのなら、仕方あるまい。しばらく付き合ってやる。さあ鏡よ、さっさと残りを呼び出すがいい! まあ、誰が一番になるかはもう決まったも同然だがな」
「ふん、高々夢魔風情が偉そうに。だが、確かに一番が誰か、は既に決定していると言ってよかろうな」
「何を!」
 ルシフェルの嘲弄に突っかかろうとした夢魔王を、鏡の次なる呼び出しが遮った。
『エントリーナンバー3番、聖美神女学園体育教師殿~。4番、夢隠村首無し武者殿~』
 鏡の声と共に現れた二人の姿に、麗夢はもう打つ手無し、とばかりにしゃがみ込み、美奈は失神寸前の有様でその傍らに腰からストン、と落ちた。一方夢見小僧は、何なのよ一体、と憤慨しながら、鏡をにらめ付けていた。
「絶対誤解してる。鏡の奴ぅ!」
 鏡はそんな周囲の空気などどこ吹く風、とばかりに、更に次々と候補者を読み上げていった。
『エントリーナンバー5番、南麻布学園闇の皇帝殿~。6番、フランケンシュタイン公国ジュリアン怪物バージョン殿~、7番源衛門兼孝殿8番佐々兵衛玄海殿9番海堂平々衛道秀殿~・・・」

 さてどれくらい時間がたったか、と、麗夢には果てしない地獄の業苦のごとく感じられた数分間が過ぎた頃、ようやく鏡がエントリーの終了を告げた。
『以上、27名の方が、夢世界一の男と選ばれるにたる方々です』 
 麗夢、美奈、そして夢見小僧は、その鏡の間を埋め尽くした「錚々たる」メンバーに、さすがに息を呑んだ。
 夢魔王、ルシフェル等に加え、円光、鬼童、榊の3人、豪徳寺家当主とその執事、直人、美衆達彦、恭章の兄弟、平智盛、ハンス・ゲオルグ・ヴァンダーリヒ、夢サーカス団長、ジェペット翁、ヴィクター・フランケンシュタイン博士、ケンプ将軍、ジュリアン正規バージョン、ボリス博士、白川哀魅の父と弟までいる。
「ちょっと鏡さん? 同じ人が複数混じってるみたいだけど?」
『場所、時代、能力、外観等が大幅に変わる人については、それぞれお呼びいたしました』
「あ、そう」  
 敵味方、時代も場所も入り乱れた一大集団は、今はおのおの一人孤高を保つものもいれば、2、3人の小さなグループに分かれて寄り添っているものもあり、呼び出された時の騒ぎも収まって、一応の小康状態を保っていた。疑問も片づき、『化け物』以外にも取りあえずエントリーがあったことにほっと一息ついた夢見小僧は、またどこからかリンゴの木箱をとりだしてくるとその上に立ち、ハンドマイクを手に一堂へ呼びかけた。
「エー皆さん静粛に! すでに皆さんご理解いただいているものと思いますが、これより、この27名のうちから、夢世界一の男を決めるコンテストを開催いたしまーす。私は進行役の夢見小僧、そして、アシスタントの美奈ちゃんです!」
「よ、よろしくお願いします」
 何だか訳が分からないまま紹介されてしまった美奈が、顔を真っ赤に染めてぺこり、とお辞儀をした。その顔が上がるのも待たず、夢見小僧は言葉を継いだ。
「それでは皆さん! 頑張って栄冠を勝ち取って下さい! なお、見事一番になられた方には、先に行われました夢世界美人コンテストで堂々の優勝を果たされましたこちら、綾小路麗夢さんより、素敵なキスをプレゼントいたします!」
「ちょっと待って!」
 おぉーとどよめく中に、「れ、麗夢さんと、キス・・・」「麗夢殿と・・・せ、せ、せ接吻?」などと早くも妄想モードに入るつぶやきが耳に入る中、麗夢は悲鳴を上げて夢見小僧を制した。
「そ、そんなこと聞いてないわよ!」
「いーじゃない、夢世界美人コンテストの優勝者なんだから、それくらいサービスしても」
「いやよ、絶対いや!」
「まあまあ」
 リンゴの木箱の上下でちょっとした押し問答が繰り広げられる中、再びざわめきだした会場に、突然一声、黄色い叫びがこだました。
「ちょっと待ったぁ!」
 何だ? と一堂の目が集中する先に、一人の少女が立っていた。見事な金髪にピンクのリボンを立て、白いエプロンドレスをまとった愛くるしい少女。その少女が、両手を腰に付けて乏しい胸をこれでもかと張り、愛らしい顔を怒りの表情で飾りながら、こちらをにらめ付けていたのだ。
「あなたROM? か、帰ったんじゃなかったの?」
 麗夢が呼びかけると、ROMはきっと視線を向け、右手人差し指をぴっと麗夢に向けて叫んだ。
「これはどういうことよ! 麗夢ちゃん!」
「な、何? 何怒ってるの?」
「何? ですってぇ?!」
 ROMは怒りも露わにツカツカと歩み寄ると、呆然とする一堂を押しのけ、麗夢の胸ぐらを掴まんばかりに迫った。
「どーしてここに屋代博士がいないのよ! おかしいでしょこんなの! 夢世界一の男を決めるんなら、一番相応しい屋代修一博士がいなくっちゃ始まんないじゃない!」
「そ、そんなこと言われても・・・」
 大変なROMの剣幕にたじたじとなる麗夢の背中から、また別の少女達が声をかけてきた。
「私も納得できないよ、麗夢ちゃん」
「そぉよねぇ。おかしいわよねぇ」
「ちゃんと説明してもらおうか。どうして私達の松尾先生がここにいないのか」
「貴女達まで・・・」
 振り向いた先に立つのは、南麻布女学園古代史研究部の面々。眞脇由香里、纏向静香、斑鳩日登実の3人だった。
「わ、私は闇の皇帝様がエントリーなさっておられるからそれでいいでしょ、って言ったんだけど、ね・・・」
 3人の後ろで、珍しくも申し訳なさそうな荒神谷弥生の姿が見える。
「大体なんなのよこの連中は! 化け物に妻子持ちに、おじいさんや子供までいるじゃない! これのどこが「夢世界一の男」を決めるコンテストの候補者なの?」
「いや、私もそう思うんだけど・・・もう! 夢見さん、何とかしてよ!」
「私に言われても・・・。ねえ、美奈ちゃん」
「取りあえず、魔法の鏡さんに聞いてみたら良いんじゃないかと思います」
 一人離れて見ていた美奈は、どうやら一番早く冷静さを取り戻していたらしい。あわてふためく夢見小僧に代わってツカツカと鏡まで歩み寄ると、鏡に言った。
「この方達の言う男性は呼び出せないの?」
 すると鏡は、表面を困惑げに渦巻く雲で彩りながら、答えた。
『ご要望には応じかねます』
「「「「どうして!」」」」
 麗夢に詰め寄っていたROMとあっぱれ4人組のうちリーダーを除く3人が、鏡の方へ振り返った。
『呼び出すのに必要な、映像データが不足しているのです』
「「「「はぁ?」」」」
『ですから、どのようなお姿なのか、知るための手だてが存在しないのです。お気の毒ですが・・・』
「貴方魔法の鏡なんでしょ?」
「何とかなさいよ!」
「松尾先生は、ショーユ顔の超イケメンなのよ!」
「いい加減なこと言ってると、叩き壊すんだから!」
「うるさいぞ! 小娘共!」
 それまで、完全に蚊帳の外に放置されていた男性陣のうち、夢魔王が痺れを切らせて怒鳴り声を上げた。その瞬間、鏡に向かっていた4人が、くるりと夢魔王をにらめ付けた。
「黙らっしゃい!」
「今大事なお話中!」
「口挟まないで!」
「雑魚は黙ってなさい! 雑魚は!」
 あまりの剣幕にさしもの夢魔王もウッとばかりに上体を引いた。だが、雑魚呼ばわりされては沽券に関わると言うものである。夢魔王は再び吠えた。
「ええい! この儂を雑魚呼ばわりとは良い度胸だ! 目にもの見せてくれる!」
 蛮刀を振り上げ、今にも鏡の方へ向かおうとした夢魔王の傍らで、ルシフェルがぼそりと呟いた。
「雑魚というのは間違っておらんがな」
「なにおぅ!」
 夢魔王がくるりと振り返り、獲物の切っ先をその鷲鼻の先に突きつけた。
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短編小説『鏡の悪戯 後編』 その3

2008-05-21 22:38:39 | 麗夢小説 短編集
「貴様、いい気になるなよ?」
「ふふふ、何度も言わすな。夢魔風情が」
 ルシフェルも死神の鎌を再び構え、退屈しのぎとばかりに挑発的な嘲笑を浮かべる。そんな不穏な気配が男達全体に広がった。もともと三分の一以上が血の気も多い荒くれ者達でもある。足を踏んだの肘が当たったのとつまらないきっかけから、たちまちあちこちでののしりあう声や小競り合いが始まりだした。
「お高くとまりやがって! もともと嫌いだったんだよ平氏なんざ!」
「おのれ下郎! 主に刃を向けるか!」
 それまで同じ時代から呼ばれたとあって、ひとかたまりになっていた平智盛とその郎党3人組が、二手に分かれて剣を抜きあった。
「ドウシテ私ヲないふデ刺シタノデスカ?」
「ウガーッ!」
「お、お前は生まれてはいけなかったんだ!」
「ま、待てジュリアン! 鬼童! 助けてくれ!」 
 その姿を目ざとく見つけた2体のジュリアンがボリスに迫り、間に割って入ったケンプとヴィクターが鬼童に助けを求めた。わ、判った、と慌てて走り寄ろうとした鬼童の前に、美衆達彦が立ちはだかった。
「鬼童、お前、俺を騙したな!」
「何を言ってるんだ、判らないぞ美衆!」
「うるさい! 財宝はどうなった! 鬼童!」
「鬼童殿!」
 さっきまで、麗夢の唇は自分のモノだ、と鬼童と角付き合わせていた円光が慌てて加勢しようとしたとき、美衆恭章がその墨染め衣にしがみついた。
「いっちゃやだ! 円光様!」
「は、放しなさい!」
「いや! 放さないよ円光様!」
 そんな合間を縫って、美少女達のミニスカートの中を拝もうと、体育教師が匍匐前進で鏡に向かう。榊がそれを咎めようとして近づくと、それと気づかず、周りの喧噪から逃れようとした豪徳寺主従がぶつかってきた。榊は直人や夢サーカス団長まで巻き込んで、その場に派手にひっくり返った。その反動で首無し武者が闇の皇帝に体当たりする形となり、互いに不倶戴天の敵、とばかりにとっくみあいを始めてしまった。
 そんな混乱を極める最中、少し離れたところで、いつの間に出したのか屋外型の喫茶店にあるような簡素なテーブルを挟んで、ジェッペットと白川哀魅の父が、「若い者は元気がいい」とよく似た顔を付き合わせた。
「れ、麗夢さん、どうしましょう?」 
「どうしようって言われても、ねえ」
「こ、このまま、バトルロイヤルで一番を決める、ってことで、どうかしら?」
「貴女ねぇ!」
 「元凶」の無責任な言いようを、さすがに麗夢がたしなめようとした時だった。ざわめきが暴動に代わりつつあった喧噪の中、びしっとむちを振るうような凛とした声が、一瞬で皆の動きを静止させた。
「智盛様! 何をなさっておいでです!」
 見れば、白の狩衣に烏帽子を付けた麗夢そっくりの女性が、畳んだ扇を右手にしつつ仁王立ちしている所であった。
「れ、れいむ! い、いやこれはあの・・・!」
「智盛様の笛で私が舞う約束でございましょう! それとも何か? 私の舞よりこちらの方が大事とでも?」
「い、いや待て! 誤解だ、誤解だぞれいむ! そなたをおいて、儂に大事なことなど無い」
「ではお早くお戻りなさい」
 冷たい視線で睨み据えられ、智盛は見るからにしょげ返って刀を引いた。
「待て、まだ決着が・・・」
「何か?」
 智盛に追いすがろうとした3人の郎等衆に、夢御前がずいと身を乗り出した。その迫力に、思わず3人がうめき声をもらし、足が止まった。
「その方等ももう戻れ。今日のことは、夢とでも思おう」
「は、はあ」
 すっかり毒気を抜かれた4人に加え、やはりこの姿になっても想い人には頭が上がらないのであろう。首無し武者までが闇の皇帝から離れ、無表情にただ黙って見据える少女の元にとぼとぼと足を運んだ。
「それではこれにて失礼する」
 誰にともなく頭を下げた智盛と郎党衆、それに首無し武者は、ようやく満足げに笑みをこぼす少女と共に、いずかたとも知れず宙に溶けていった。
「何だったのあれ?」
「さあ?」
「ハンス-! ご飯出来たよ~! ほら、父さん達も早く帰っておいで!」
 首を傾げて平安時代御一行様を見送った麗夢達の前に現れたのは、白川哀魅だった。
「哀魅さん」
「あ、ゴメンねー麗夢さん、またお邪魔しちゃって。すぐ連れて帰るから」
「ちょ、ちょっと待って。まだこっちの用事が・・・」
「ほら、早くしないと冷めちゃうんだから!」
 哀魅は、夢見小僧の制止も聞く耳持たないとばかりにハンスを喧噪から引きずり出すと、父と弟も連れて、来たとき同様忽然とまた帰っていった。
「おじいちゃんに博士! ご迷惑じゃない!ジュリアンも喧嘩しちゃ駄目!」
 今度は金髪碧眼の美少女シェリーが、もはやもつれ合って何が何だか判らなくなりそうな5人組の前に現れた。すっかり気を失ったボリスを除く4人は、自分達の3分の1もなさそうな小さな身体が頬をぷっと膨らませているのを見て、しゅん、としおらしくうなだれた。
「すまんシェリー」
「ゴメンナサイ」
「じゃあ帰りましょう」
「あ、あ、待ってーっ!」
 夢見小僧の叫びが虚しく響く中、シェリーに引かれて5人の男達が姿を消した。
 男性の人数がほぼ半分になった会場は、何となく閑散とした様子になってきた。しかも、いなくなったのが平智盛にハンス、ジュリアンと、この場でも一二を争う美形揃いである。夢見小僧は半ば茫然となって何となく争いさえ虚ろになり出した会場を見据えていたが、やがてぼそりと麗夢に言った。
「もういい、麗夢ちゃん」
「え?」
 まさかここで夢見小僧が折れようとは思っていなかった麗夢は、思わずオウム返しに問い直した。すると夢見小僧は、今度こそはっきりと、疲れた、と言う様子も隠さず、麗夢に告げた。
「せっかく・・・せっかく夢世界で一番いい男をここで選ぼうと思ったのに・・・何これ? 残ってるのは、化け物かむさいおっさんしかいないじゃない。もうこれ以上やる意味無いよ」
「何だと小娘!」
 お互い本来の力がまるで発揮できない中、ドングリの背比べでやり合っていた夢魔王とルシフェルが、ボロボロの姿も厭わず怒鳴りつけた。
「おい! まだ僕らがまだいるだろう!」
 続けて、美衆兄弟に絡まれていた鬼童と円光が、声を揃えて向き直った。その足元で、あぐらをかいた榊がおいおい、と二人をなだめているが、麗夢の唇が諦めきれない二人にはさほどの効果もなさそうである。
「屋代博士はどうなるのよ!」
「松尾先生は?」
 さっきまで鏡と押問答していた4人も、まだ諦めきれない様子である。
「ま、潮時じゃの」
 そんな未練がましい空気の最中、よっこらしょ、とイスから立ち上がったジェッペットが言った。
「麗夢さん、ここは一息に片づけてはどうじゃ?」
「一息に?」
「そう。わしらはその鏡の魔力でここに呼びつけられた影みたいなもんじゃ。麗夢さんの力なら、まさに一吹きなはずじゃよ」
 イタズラっぽくウインクする人なつこそうな老人に、麗夢もにっこり笑顔を返した。
「そうね、ジェッペットさんの言うとおりだわ。いいわね、夢見さん」
「うん、もうなんでもいい」
 ようやく許可を得た麗夢は、長かったどんちゃん騒ぎを片づけるべく、夢の戦士の力を解放した。
「みんな、もう本来の場所にお帰りなさーい!」 
 まさに一振り!
「麗夢さーん!」
「麗夢どのー!」
「おのれ麗夢めぇっ!」
「麗夢ちゃんまったね-!」
「いつでも遊びに来て-!」
「円光さま-!」
「鬼童お宝-!」 
 それぞれの名残惜しげな最後の一声が消えたとき、麗夢はようやく夢世界に静けさが戻ってきたことを知って、安堵の溜息をついた。

終わり
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