かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

白血病とかガンとか、命を喰らう病の克服はいつになることでしょう?

2009-05-27 21:06:29 | Weblog
 とりあえず、今週はお休みしていた分ペースを取り戻すため、今日も連載小説の更新をかけてみました。基本的にこの小説は、前作「ドリームジェノミクス」とは一線を画して、できるだけ荒唐無稽なお話作りをしようということでこの後もどんどんとんでもない展開が現れるのですが、私の性格、あるいは能力の限界というものもあって、今日の下りはちょっとだけ理屈っぽくなっています。まあごらんいただいている方には、物語の背景情報として読み流しておいてもらえたら、と思います。
 白血病、で思い出すのが夏目雅子サンです。年代のせいか「西遊記」の三蔵法師役なんかが一番印象に残っているのですが、デビュー作であるカネボウ化粧品のCMで披露された健康美あふれるビキニショットなどは、そろそろオトシゴロを迎えつつあった私には結構衝撃的でもありました。あんなに元気溌剌なヒトが、それから10年もたたないうちに亡くなってしまうのですから、病気というのは本当に恐ろしいものです。あの時もし白血病研究が進んでいて骨髄バンクがあったなら、今でも美しく年輪を重ねた女優夏目雅子の姿をテレビや映画で見られた可能性が高かったわけで、かつて、骨髄バンクのCMでもそんな内容の話がありましたが、まことに残念としか言いようのない話でした。
 ガンといえば、今日作家栗本薫の訃報が流れていましたね。いろいろな意味で時代を代表した作家の一人がこうしてはかなくなってしまうとは、なんとも寂寞の感がぬぐえない、うつろな気持ちを持て余してしまいます。まだ56歳、人生80年時代にあまりに早い最期なのが、また無念さを増幅してくれます。新型インフルエンザも恐ろしいには違いありませんが、やはり人類最大の敵は自分自身なのかもしれません。自らの体内で不可避的に発生する遺伝子の突然変異に対抗する術をまだヒトは持ち得ていませんし、そもそも遺伝子解析自体がまだ発展途上で、毎日のように新発見が相次いでいるところです。ガン克服までまだまだ道のりは長いですが、何とかそろそろ早すぎる永眠位は避けられるようなところまで、たどり着いて欲しいものです。
 ところでインフルエンザの方は、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」で万能薬開発に繋がる可能性が期待される、ウィルスたんぱく質の結晶化実験が7月から始められるそうです。無重力状態だと温度差による液の対流とか重い液が沈んだりする現象がそもそも存在し得ないので、理想的な実験が可能になるのだそうです。こうして人類の知恵と技術は、少しずつですが確実に病を克服しつつあるのですね。

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07 復活計画 その3

2009-05-27 20:39:36 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
「実は、この娘は普通の人間や無いんです。儂の身代を傾けた研究成果を結集して生み出した、クローンなんですのや」
 怒りを忘れて目を丸くした麗夢に、真野は言った。
「本物の佐緒里は二〇年も前にはかのうなってまいましてな。急性骨髄性白血病ゆう難病やったんです」
 急性骨髄性白血病とは、正常な状態なら好中球、好塩基球、好酸球、単球に成長するはずの細胞ががん化し、急速に骨髄の正常細胞を駆逐して数週間から数ヶ月で患者の命を奪う、恐怖の病である。現在では生存率七割に達するほどに対策が進んでいるが、佐緒里が発症した当時はまだ骨髄バンクもなく、骨髄移植自体が実験段階であった。そのために、真野昇造が心血を注いだ真野製薬の誇る開発陣も、必死にかき集めた全国の有能な医師達にも、その猛威をとどめる術はなかったのである。
「儂はもう本当に目の前が真っ暗になって しまいましたのや。もう生きててもしょうない。早よ死んで佐緒里の元に旅立とうって、何度首を吊り掛けたか知れません」
 そう語る真野の目尻がいつの間にか濡れていた。語りながら、当時のやるせなさ、悔しさ、絶望感を思い出したのであろう。
「そやけど、儂は結局諦めの悪い男でした。今、佐緒里を救うことは出来なんだけど、将来もっと科学が進んだら、ひょっとして佐緒里を生き返らせることが出来るんやなかろうか、と考えましたのや。幸い、儂はこの薬の世界で商いしよったおかげで、この世界の最先端の出来事は常に耳にしてました。当時、マウスの幹細胞が培養できるようになって、次はヒトやと言う話がぽつぽつ聞かれるようになってきてました。それに、ヒトの細胞はそれよりも更に三〇年ほど前に、長期培養できる方法が確立してました。儂は、それに賭けたんです」
 幹細胞とは、人間のあらゆる臓器、骨、皮膚と言った全身の器官に分化する能力を持つ万能細胞の事である。1981年にアメリカでマウスの幹細胞培養に成功したのがきっかけとなって研究が始まり、1991年、人間の幹細胞株の樹立に伴い、飛躍的に研究が進化した。
 幹細胞には主に受精卵から得られる胚性幹細胞と、骨髄など盛んに細胞分裂している組織から得られる成体幹細胞がある。ES細胞とも呼ばれ、患者自身から得た幹細胞を使って臓器を培養できれば、臓器移植最大のハードル、免疫拒絶反応を理論上クリアできる。そのため、再生医療の切り札として、世界各国で熾烈な研究競争が繰り広げられていた。その一方、この研究がクローン人間誕生に繋がる、ということから、アメリカのように研究その物を全面禁止しようと言う動きを見せる程、世界的に微妙な問題をはらんでいる。真野昇造はそんな研究の進展を睨み、佐緒里の全身から細胞組織標本を採取、液体窒素につけて保存することにしたのである。
「今にして思えばようやったと自分でも思いますが、当時はやっぱりとんでもなくあほなことしてるんちゃうか、といっつも思てました。でも、儂にはもうこれに賭けるしか手ぇがなかった。儂は、保存した佐緒里の細胞を元に研究してくれる研究者を募り、出来る限りの資金援助をしてその研究を支援しました。そして、遂にヴィクター博士の人造人間創造計画が出てきたんです。それと時を同じくして、佐緒里の細胞ライブラリーから幸運にも極めて良好な状態に保たれた胚幹細胞が見つかったんですわ。そんなこんなが合わさって、2年前には遂に佐緒里を生み出すことが出来ました」
「でも、一つだけ問題があったんだ。ジュリアンと同様のね」
 感極まって口ごもってしまった真野昇造に代わって、ヴィクターが話を継いだ。
「佐緒里さんの細胞は、細胞成長速度を極限まで引き出すため、ありとあらゆる方法を使って、培養液を満たした人工子宮内で成長させたんだ。ホルモン処理はもちろん、電気刺激、赤外線照射など、考えられる限りの方法を真野氏は採用したんだよ。おかげで驚異的なスピードで佐緒里さんは成長を遂げ、遂にこの世に生み出されたんだが、残念ながら彼女には心がなかったんだ」
「心がなかった?」
 麗夢がオウム返しに聞き返したのを合図に、真野昇造が再び口を開いた。
「麗夢さん、西行法師の話は知ってはりますか?」
「西行? ひょっとして、反魂の、法?」
「それや。西行自身が著したと伝えられる『撰集抄』第十五にある話ですわ。ある時西行法師はんが、人の骨を集めて話し相手を作ろうと思いはった。本には随分詳しいやり方も載ってますが、結局そうやって人を再生する事に成功しはったそうや。でも、その人は形は人やったけど、心はとても人のそれと違うて、まさに獣そのものみたいやった、という話ですな。まあ人がどうやって出来たかというのはともかく、重要なのは結局そうやって生み出したものがおよそ人の心を持たずにいた、という下りなんですわ。やっとの思いで生み出した佐緒里も、まさに西行の反魂の秘術同様、人の心を宿さんかったんです」
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