かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

早く年寄りになりたい、と若いころは結構真剣に考えておりました。

2009-05-24 22:50:16 | Weblog
 今日は上空に強い喚起が入り、雷を伴った局地的な大雨のおそれあり、ということだったのでそれなりに警戒していたのですが、結局うちの方はまるで降らないまま、雲ばかり分厚く流れていって蒸し暑いだけの、何か損をしたような一日でした。雨を警戒して作業も大して進めることが出来ないままでしたし、局地的な予報がもっと正確に出るような時代に、早くなって欲しいものです。

 さて、昨日に続いて連載小説「向日葵の姉妹達」をアップいたしました。今日の分は少し文章量多めになりましたが、途中で切って次回に回すにはさすがに中途半端なところでしたので、思い切ってそのまま載せました。
 ようやく黒幕の正体が明らかとなり、その焦点ともいうべき黒髪の「ROM」こと佐緒里嬢の紹介まで進みました。もちろんただの娘さんではないのですが、それはまたおいおい来週くらいに披露することになるんじゃないか、と思います。
 それにしても、私はどういうわけか昔から老人を出すのが好きで、同年代前後の男性を描写するよりも、ずっと年上の人達の方がなぜか書きやすかったりします。
物語でもお年寄りの活躍する部分というのは結構好きで、指輪物語の魔法使いガンダルフとかハリーポッターのダンブルドア校長なんていうのが一種の理想像として捉えていたりします。他にもたとえばジョジョの奇妙な冒険Part3のジョセフとか、映画「ベストキッド」のミヤギとか、基本的に、並みの若者では太刀打ちできないほどの実力があって、懐深く若者を導く老賢人、というのが理想のようです。その一方で死神博士(麗夢のライバルじゃなくて、ショッカー大幹部の方)なんていうのは心底ほれ込んでしまいそうなほど好きですので、善人であることはそれほど重要な意味合いがないのかもしれません。
 この年寄り好きは、おそらくは古典に親しんだりしているうちに、私自身考え方が古めかしくなっている部分があるのも、親しみを覚えるところなのかもしれませんし、記憶にある祖父のイメージが重なっている所も多々あるような気もいたします。
 少しずつ自分の年がこれら理想と仰ぐ年寄り達に近づいていき、いまやそれがそれほど遠くない、いずれ手の届くと実感できる頃合になってきているわけですが、果たして自分がこのような年寄り達と同じくらい経験と知識とを積み重ね、多少のことには動じない胆力と落ち着いた雰囲気をかもし出せるようになっているだろうか、と考えると、まだまだ心もとない気がしてなりません。まあ理想はあくまで理想、そうそう現実が追いつけるものではありませんが、そんな老人達を描き続けながら、いつか自分もそういう列に並ぶことの出来る人物になりたいものだ、と考えているのです。

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07 復活計画 その2

2009-05-24 09:33:54 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 そんなこんなを考えつつも再びうとうととしかけたとき、突然どこからか二度と忘れないその声が語りかけてきた。
『綾小路麗夢さん』
 麗夢は、たわめたバネがはじけるようにベットに起き直った。
「ヴィクター博士をどうしたの!」
 開口一番、まずは一緒に拉致されたヴィクターのことを口にする。この部屋には看視カメラや盗聴マイクがしかけてあるに違いない。うら若き女性の寝姿をのぞき見しようなど、許し難い破廉恥漢である。その怒りを感じ取ったか、マイク越しの老紳士の声の調子は、確かに内心の反省を伺わせるに足る丁重さに満ちていた。
『ヴィクター博士はもちろん十分におもてなしさせてもろてます。それよりもあなたにはほんに申し訳ないことをしました。あなたがあの麗夢さんとはつゆ知らなかったんです。この通り謝るよって、どうか許してもらいたい』
「あなたは誰? 何故私の名前を?」
『あなたの令名は、松下はんや大豪寺君達によう聞いてました。一体どんなお人やろうと、わしも一度お目にかかりたい思てました。でも今日こうしてお会いすることができて、実に光栄です』
「そう思うなら、私の前に姿を見せなさい!」
 ぴしゃりと言い放った麗夢に、老紳士はさも申し訳なさそうに言った。
『おお、これは気づきませなんだ。どうかそのまま部屋を出て右の突き当たりまで来て下され。ヴィクター博士と一緒に、私もおりますよって』
 麗夢はベットから立ち上がると、愛用の靴がないことに気が付いた。ドア近くのボックスに置いてあったのは、確かによく似てはいるが、明らかにさっきまで足にしていた物と違う。第一いかにも今棚から下ろしてきましたと言わぬばかりの、新しい靴である。不審げに靴を手にした麗夢に、老紳士がまた声をかけてきた。
『申し訳ないんやが、靴を片一方失うてしまいましてな。急いで出来るだけそっくりなのを捜したんやがそんなものしかなくて、悪いんですが、それで我慢願いますか?』
 麗夢はふぅ、とため息を一つ付くと、靴を降ろして足を入れた。思ったよりもすっと足にフィットして、少しだけ麗夢は気を取り直した。
 いざ! と気合いを入れてドアノブに手をかけ、ぐいと引く。ドアはなんの抵抗もなくすっと内側に開き、麗夢をその部屋から解放した。
 そっと左右に目をやると、まさにホテルのフロア然とした廊下が両側に延びている。
 人気はない。
 だが、ずっと感じる視線は、間違いなく今も麗夢を監視する老紳士達の目が光っている証拠だろう。
 思わず左に進んで様子を見てみたい衝動に駆られた麗夢だったが、銃もなく、ヴィクターの行方も判らない現状では、闇雲な行動は控えるより無かった。
 結局言われるままに右に進路を取って、奥へと進む。廊下は20歩も行かぬ内に一枚のドアによって遮られ、そのまま袋小路になっていた。こうなったら突き進むしかない。麗夢は改めて気合いを込めると、ドアノブを手にしてぐいと押し込んだ。かちゃり、と建て付けのよさを誇るような小さな音がして、すっとドアが開いた。
「麗夢さん!」
 ドアの向こうには、今朝と印象が違うヴィクターの姿があった。背中越しに振り返る顔を見ながら、麗夢はそれが眼鏡が違うせいだと気が付いた。どうやら麗夢が靴を無くしたように、ヴィクターも眼鏡を落としてしまったらしい。
「ヴィクター博士、お怪我はありませんか?」
「ああ、僕は大丈夫だ。それよりあなたは?」
「私も大丈夫よ。それよりこれは一体?」
 麗夢は油断無く辺りに気を配りながら、その部屋に入った。ヴィクターから目を離し、部屋をざっと見聞する。広い部屋は一種の会議室の様である。20人くらいは余裕でかけられる、楕円形のドーナツ型をしたテーブルが真ん中に据え付けられ、リクライニングの効くイスが、その周りを何脚も取り囲んでいる。部屋の右側が一面大きなカーテンに仕切られ、天井は明るい蛍光灯が何列も並んでいる。
 そしてその一番奥の席に、麗夢は目指す人物を捉えた。麗夢はテーブルを挟んで近づくと、イスに深々と腰掛けるその老紳士に言った。
「あなたは何者なの? 私たちを捕まえて、何をしようと言うの?」
「僕から紹介しよう、麗夢さん」
「え?」
 ヴィクターが部屋を横断して、老紳士の脇に立った。
「彼は真野昇造。真野製薬の会長であり、再生医療研究所を初めとするバイオテクノロジー関連の、ベンチャーキャピタルを手がける財団の理事長だ。それに、僕の所属する学会のスポンサーでもある」
「真野、昇造……」
 名前だけは聞いたことがあった。日本経済に隠然たる影響力を誇る関西財界の老雄。気取らない関西弁で、歯に衣着せずまくし立てる論客としても知られている。麗夢自身が会うのはこれが初めてだが、なるほど、麗夢の顧客でもある大豪寺氏を「君」付けで呼ぶ訳である。
「初めまして、ドリームハンターの麗夢さん」
 ヴィクターの隣で、好々爺然とした笑顔がぺこりと頭を下げた。およそ敵とは言い難いその態度に、拉致された側としては勢いを削がれること著しい。それでも麗夢は怒りをかき立てて、一歩一歩テーブルに歩み寄った。
「こちらこそ初めまして。こんな形でお会いしたのでなければ、私もお得意様を一人増やせたと素直に喜ばせていただいたでしょうけど……」
 バンっ!
 麗夢はテーブルの際まで辿り着くと、形相凄まじく両手を思い切りテーブルに叩き付けた。
「これまでの仕打ちははっきり言って許せないわ!」 
 円光や鬼童なら肝消し飛んで、這い蹲って許しを請うたに違いない。ヴィクターもさすがにびくっと肩を震わせて、端正なマスクが引きつっている。だが、当の真野昇造は、少なくとも表面上、何の痛痒も感じていないようだった。
「お怒りはごもっともや。この通り、お詫び申し上げる」
 真野はにこやかな笑みを納め、テーブルに頭をつけた。
「誠意が足らんとおっしゃるなら、土下座でもなんでもお望みの通りいたしましょ。じゃが、どうかその後で、この年寄りの最後の願いに、耳を傾けてくれんやろうか」
 あまりに素直な真野の姿勢に、再び麗夢の怒りが水を差された。不完全燃焼のくすぶりを覚えつつ、麗夢は言った。
「最後の願い?」
「そう。わしのたっての、そして生涯最後のお願いじゃ」
 真野昇造はそう麗夢に告げると、手元のインタホンのスイッチを押した。少し顔を近づけて、二言三言呟いてからボタンから手を放す。すると、今麗夢が入ってきた扉がまた開いた。何? と振り向いた麗夢は、自分の背後に再びあの少女を見たのである。
「やっぱり、ロムそっくり……」
 艶やかな黒いストレートヘアの美少女が立っていた。車の後部座席にいたときと同じ清楚な白のワンピースを身にまとっていたが、その顔立ちや背格好は、グリフィンと戦ったときに出会ったROMと、寸分の狂いもない。
「紹介しましょ。儂の孫娘の佐緒里や」
「え? 佐緒里?」
 麗夢は驚いて真野を見返した。その間に真野から佐緒里と紹介された黒髪のROMが、すっと老翁の元に歩み寄り、ヴィクターの反対側に立ち止まった。
「貴女はこの子をROMという名前で呼ばはりましたな」
 真野は手を組んでテーブルに置くと、表情を改めて、頷く麗夢に告げた。
「実はこの子は、そのROMでもあるんですわ」
「おっしゃることが判りません。一体どういうこと?」
「少し長うなりますから、どうぞ掛けて下され」
 真野はそう言うと、手を机に突いたまま仁王立ちしていた麗夢にイスを勧めた。
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