ルイガノ旅日記

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旧安川邸で誕生日ランチ

2023年09月13日 | 北九州
今月初め、博多に住む従姉妹二人が集まって、妻と一緒に誕生日のお祝いをしてくれました。従姉妹たちに誕生日を祝ってもらうなんてずいぶん久しぶり。今回、従妹が選んだのは、なんと北九州市の「旧安川邸」でした。
戸畑区にある旧安川邸は、安川財閥の創始者で、麻生太吉、貝島太助と並んで「筑豊御三家」と称された安川敬一郎が建てた邸宅。敬一郎は、石炭販売を皮切りに炭鉱経営で成功を収める傍ら、多岐にわたる企業を次々と創業し、また官営八幡製鐵所の誘致に奔走して工業都市北九州の基礎を築いた企業家です。夜宮公園の一角に建つ安川邸には、明治から昭和にかけて、敬一郎をはじめ安川家3代が居住しました。現在は、明治45年に若松から移築された「大座敷棟」、「南蔵・北蔵」、昭和2年(1927)竣工の「洋館棟」、昭和13年(1938)竣工の「本館棟(一部)」などが残されています。


旧安川邸の建物群や外構、家具は、日本の近代建築史上きわめて重要な住宅建築であることから、2018年北九州市の有形文化財に指定されました。
こちらは、内部見学の入り口となっている本館棟(車寄せ)です。建物の中は後ほど見ることにして、まずは敷地内をぐるっと歩いて回りました。


敬一郎が晩年を過ごした洋館。文化財指定の折り、市は老朽化のため解体する方針でしたが、専門家や地元住民から反対の声が強く、最終的には保存されることが決まりました。


広い芝生の庭園を見渡すように建てられた大座敷棟。旧安川邸の建物の中で、最も歴史のある建築物です。
明治10年(1877)、遠賀郡芦屋町で石炭販売業を起こした敬一郎は、その後拠点を若松に移しますが、その若松で居住用に建築したのがこの建物でした。この地に移築される前の明治29年(1896)、八幡製鐵所誘致の初会合が行われた歴史的な建物でもあります。


二つの石蔵は、大座敷棟の移築に合わせて明治45年(1912)に建築されました。同じ造りのように見えますが、南蔵(左)は西日本最古の鉄筋コンクリート造り、北蔵(右)は煉瓦の上に石を貼って石造り風に造られたもの。左右いずれの蔵も、安川家ゆかりの品を展示するギャラリーとなっています。


蔵の中に掲示されていた敷地全体を俯瞰した写真。うっそうとした樹々に囲まれた旧安川邸は、林を挟んで旧松本邸(南側:写真奥)と隣接しています。旧松本邸を建てた松本健次郎は、敬一郎の次男で父とともに会社経営にあたったほか、人材養成のため明治専門学校(現・九州工業大)の設立にも関わりました。


官営八幡製鐵所の誘致に尽力した安川敬一郎の功績を偲ぶモニュメント、『鐵の記憶』。


この時期、樹木が多く花々は少ない印象の旧安川邸ですが、大きな百日紅の木が彩りを添えていました。


さて、建物内部を見学します。
玄関を入ってすぐにあるのが応接室。フローリングの床、暖炉(セントラルヒーティング)、照明などは洋風に、市松模様の天井は和風にしつらえられています。


本館棟と大座敷棟をつなぐ廊下。本館棟は敬一郎の孫、安川寛が建てたものですが、かなりの部分が既に解体されてしまったそうです。


大座敷の周りを囲む縁座敷。


大座敷棟の一角、洋館と接する部分にある茶室からの眺め。左側が大座敷、右が洋館です。


屋敷のいたるところに、生花が飾ってありました。


多くの花器に菊の花が飾られていたのですが、これは9月9日が「重陽の節句」、別名「菊の節句」であることに由来するものだそうです。日本古来の伝統・文化を大切にしたと伝えられる安川敬一郎の思いを表しているのかもしれません。


大座敷棟を取り囲む広い濡れ縁。写真にはわずかしか写っていませんが、庭園に降りるための大きな沓脱石が置かれています。


灯籠と蹲(つくばい)。旧安川邸は和洋折衷の造りですが、邸宅を取り囲む庭には多くの灯籠が設置されていました。


大座敷棟には、創業120年を超える製茶店、前田園本店が展開する日本茶カフェ「茶論Salon du JAPON MAEDA」があります。


広い庭園を前にして、星野村など福岡県八女産のお茶を味わいながら、近代日本の礎を築いた安川一族の歴史に思いを馳せるのもいいですね。


大座敷は、床の間のある15畳の「大座敷」(写真奥)と、10畳の「次の間」(手前)の二間続き。合わせて25畳の大座敷の床板には、表面を滑らかに仕上げた「拭板(ぬぐいた)」が張られており、襖や畳を取り去ると能や狂言の舞台として使えるようになっています。
ここで茶論Salon du JAPON MAEDAは、月に4日を基本に邸宅ランチを企画。大座敷とその三方を取り巻く縁座敷を含めた広い空間がその会場となります。ランチは、「からだに優しい発酵ランチと茶論の抹茶・和菓子セット」と「フレンチミニコース」が日替わりで提供されますが、いずれも人気が高く、受け付け開始とほぼ同時にすべての席が予約で埋まってしまうそうです。


来月下旬、旧安川邸で行われる第36期竜王戦。この大座敷が、藤井竜王が伊藤匠7段の挑戦を受ける舞台となります。そんな話を伺いながら、大座敷の様子を目にしっかり焼き付けてきました。勝負の行方のみならず、お二人が選ぶ勝負飯やおやつも気になりますね~。

今回、従妹が予約してくれた「からだに優しい発酵ランチ」。野菜はすべて無農薬で、砂糖は使っていません。お茶は、ほうじ茶をベースにナツメやウコン、柿の葉や高麗人参など14種類をブレンドした茶論MAEDAオリジナルの薬膳茶。ティーバッグの缶を買って帰ることもできます。


トマト糀のポテトサラダや玄米糀漬けのゆで卵、かつお糀に漬け込んだ豆腐チーズ、エホバクと塩レモン糀のハニーマスタードなど珍しいものばかり。どれも美味しかったのですが、お酒に合いそうな豆腐チーズや切干大根のハリハリ漬け、揚げゴボウとタマネギのカボス醤油和えなどが気になりました。


炊いてから4日目、ほどよく発酵が進んだ長岡式酵素玄米。特殊なジャーで長い時間をかけて発酵させる独特の手法など、作り手の日高香織さんご自身が詳しく説明してくださいました。


食事の最後は抹茶と和菓子。これもランチに含まれています。


大座敷の床の間に掲げられた、孫文の筆になる『世界平和』の扁額。辛亥革命を主導し、中華民国の国父と慕われる孫文が、大正2年(1913)、支援者であった安川邸に滞在した折りに揮毫したものだそうです。


食事の後は、若戸大橋を通って戸畑から若松に渡り、私の大好きな南海岸通りを紹介。旧古河鉱業ビルや若戸大橋をバックに従姉妹たちの写真を撮り、若松の美味しい天ぷら店「丸窓」にも案内しました。


その後、わが家でゆっくり2次会を。


フランス菓子16区のマロンパイと、カリーノのティアーモ(黄:マンゴー、赤:エスプレッソ)。


マロンパイには大きな栗がまるごと詰まっていました。


従姉妹と妻たちがいろんなお菓子で盛り上がるなか、私はひとり、若松で買って帰った丸窓の天ぷらを肴に赤ワインでいい気分に~🍷


隣接する旧松本邸には、年2回の公開の機会に訪ねたことがあったのですが、旧安川邸は今回が初めて。従姉妹のおかげで、安川家の近代から現代への系譜を知る機会になりました。印象的だったのは、多くの事業で成功を収めた安川敬一郎は、その成果を自らの力と誇示することなく、天から与えられたものと捉えて、惜しみなく巨額の私財を投じて教育・文化の育成に力を注いだということ。彼が設立した明治専門学校は、その後、国立大学(九州工業大)となって多くの人材を輩出するなど、敬一郎の理想や理念は今も息づいていると言えるでしょう。

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6 コメント

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すばらしい (hirorin)
2023-09-14 20:41:34
安川邸、初めて知りました。
筑豊の富豪と言えば、麻生家と伊藤家しか知らなくて。
孫文の後援者だったんですか。
孫文て、日本のあちこちに足跡を残してますね。
私が子供の頃住んでた家のお向かいが広大なお屋敷で、その家のためだけに阪急電車が踏切作ってるくらいなんですが。そこにも孫文が匿われてたという噂ありました。
官営製鉄所って今の新日鉄住金でしたかね?
社会で習った記憶がうっすらと~

フローリング、寄木細工ですかね?
めちゃめちゃお金かかってますね。

お料理もきれいに色々と盛りつけられてて女性が好むタイプです。
お菓子のトッピング?アイシングがとても可愛いです。
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re:すばらしい (Duke)
2023-09-14 21:55:39
hirorinさん、こんばんは。
安川敬一郎は先見の明のある経営者だったようです。
以前、安川電機の見学に行ったことがあるのですが、資料館には、敬一郎の生涯や功績についても詳しい説明がありました。
日本には孫文の支援者が多かったのでしょうね。
それだけ、孫文は革命家、政治家としての魅力を備えていたのだと思います。
安川家も物心両面で支えていたそうです。
阪急電車が一個人の邸宅のために踏切を作るってすごいですね〜。
以前は「新日鉄住金」と言っていましたが、数年前、「日本製鉄」と社名変更したようです。
製鉄業は合併や会社名の変遷が激しいですね。
国際的な競争力を維持するのが大変なのだと思います。

床の寄木細工、見事ですよね。
ピカピカに手入れしてありました。
でも、安川敬一郎は基本的に華美なことは好まない質実剛健な人だったようです。
発酵ランチは、初めて目にするものが多かったです。
美味しくいただきました。
わが家での2次会も美味しく楽しく過ごせました(*^^*)
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Unknown (azm)
2023-09-15 05:54:55
おはようございます。
お誕生日おめでとうございます。
安川邸を初めて拝見させていただきました。
素晴らしいですね。
孫文の書はとても読みやすい筆ですね。こちらも興味深く拝見させていただきました。
いくつになってもこうしてお誕生日のお祝いをしていただけるのは嬉しいことですね^_^
とても羨ましい限りです。
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Unknown (tsubone)
2023-09-15 06:16:14
dukeさん お誕生日おめでとうございます
素敵なお祝いですね。
旧安川邸素晴らしいです。解体されずに残っててよかったわと思いました。
写真を拝見して三溪園を思い出しました。明治の偉い人って文化的で社会貢献を成したって共通ですよね。現在のお金持ちってちょっと違うなーとも(笑)

ランチ美味しそうですね。すぐに予約が埋まるのがわかります。16区のマロンパイ私も大好きで懐かしく思い出しました。
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Unknown (Duke)
2023-09-15 08:38:29
azmさん、おはようございます。
ありがとうございます。
年をとっても、誕生日は嬉しいものですね (^^ゞ
幼いころから気心の知れた従姉妹たちと会えるのも楽しみでした。

旧安川邸は、以前は期日指定の限定公開だったのですが、昨年春から常時公開されるようになりました。
お隣の旧松本邸は、現在も限定公開となっており、抽選制なので申し込んでもなかなか見ることができません。
孫文の書、平易でわかりやすいですね。
台湾の故宮博物院には「博愛」と書いた額が、孫文の銅像とともに掲げられていました。
世界平和も、博愛も、孫文の理念や信条なのでしょうね。

明日から3連休ですね。
よい週末をお過ごしください。
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Unknown (Duke)
2023-09-15 08:59:25
tsuboneさん、おはようございます。
ありがとうございます。
お互い年をとりましたが、気心の知れた従姉妹たちとの誕生会、わが家での二次会も含めて楽しい時間を過ごすことができました。
今朝の読売新聞に、時計が刻む物理的な時間に対して「主観時間」があるという記事がありました。
1歳児の感覚での1年を「1」とすると、10代ではその10倍、60代では60倍の体感速度で時間が過ぎていくそうです(あくまで仮説)。
そうすると、私たちの年代では人生のかなりの部分が既に過ぎ去っていることになり、尚いっそうひと時ひと時を大事にしていかなければもったいないなぁとしみじみ感じた朝でした(笑)

明治期に日本を主導した人って、tsuboneさんが仰るように、国家や社会、あるいは歴史や文化への貢献という尺度があったように感じられることが多いですね。
話は少し違いますが、中曽根元首相が生前、欧米の政治家と本音で語り合うには、文化・芸術に関する造詣の深さが欠かせない、というようなことを仰っていたのを思い出しました。
明治から昭和、令和と時代が進むなかにあっても、何かしら筋の通った尺度、気骨を保つことは大事ですね。

発酵をテーマにしたランチ、珍しいだけでなく美味しくいただきました。
作り手の方から直接お話を伺えたのもよかったです。
16区のマロンパイ、私は初めてだったのですが、サクッとしたパイ生地も、栗そのものもとても美味しかったです。
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