美術館のショップで手にとった一枚の絵葉書。その時々の展覧会で原画を観て、どこか惹かれるものがあった絵のミニチュア版です。ミニイーゼルに立てかけた絵葉書を眺めていると、絵に接した時の様子のみならず、その旅の思い出などが懐かしくよみがえります。
コロナで海外とは縁遠くなった時期に、絵画を通じて過去の旅を振り返ろうと始めた「思い出の一枚」。ほぼ3年半ぶりとなる記事で選んだのは、パリのオルセー美術館で観たモネの《アルジャントゥイユのヨットレース》です(原題は「Regates e Argenteuil」)。
アルジャントゥイユはパリからセーヌ川を10キロほど下ったところで、休日にはカヌーやボート、ヨットなどの水遊びが盛んな町だったそうです。モネはここで6年間家族と一緒に暮らし、周辺の風景や生活をテーマに約170点の作品を残しています。この絵もその一つで、やわらかくそそぐ光が印象的なセーヌ川右岸の風景を描きました。
アルジャントゥイユで行われるヨットレースの準備風景。青空の下、マストに展張された白いセイルと緑ゆたかな岸辺、ボート小屋の赤い屋根。そして、これらが水面に反射してきらめく様が、印象派らしい大胆な筆致で表現されています。
絵葉書だけではなくオルセー美術館の原画を紹介したいところですが、私が訪ねた当時のオルセーは海外美術館としては珍しく撮影禁止。写真に残すことはできませんでしたが、マネ、ルノワールにモネ、セザンヌやゴッホ、ゴーギャン、そしてミレーにクールベなど、日本でも人気のある画家たちの作品が多くて本当に見ごたえがありました。(10年前の写真から。セーヌ川対岸、オランジュリー美術館側から見たオルセー美術館です)
地下鉄RER Musée d’Orsay駅そばの美術館入口。元々この建物は、1900年のパリ万国博覧会で建設された鉄道駅で、美術館としてオープンしたのは1986年(昭和61年)だそうです。19世紀美術の展示(とりわけ印象派の作品)で世界に名立たるオルセーですが、美術館としての歴史は思いのほか短いのですね。(写真は2014年)
駅舎の面影が残る5階吹き抜けの広々とした空間。作品は撮影禁止でしたが、スタッフの方に建物だけなら大丈夫と確認して、フロアの写真を撮らせてもらいました。中央にゴッホの自画像が飾られていますね。幸いなことに、この時オルセーではゴッホの特別展が行われており、オランダのクレラー・ミュラー美術館やアムステルダム国立美術館でも観ることができなかったゴッホの作品を観賞できました。(写真は2014年)
セーヌ川に面して対岸はルーブル美術館(左側はチュイルリー庭園)。オルセー美術館で印象派の作品を堪能した翌日は、ルーブル美術館をほぼ一日かけて観てまわりました。(写真は2014年)
初めてフランスを訪ねたのは10年前。ホテルや航空券、TGV(フランスの新幹線)チケットなどを自分たちで手配して、1週間の滞在間、パリ市街散策や美術館めぐりにゆったりと時間を費やしました。ボルドーでワイン醸造所(シャトー)めぐりのツアーに参加するため、一泊だけTGVでフランス南西部に出かけましたが、それ以外はずっとパリで過ごした一都市滞在。シャルル・ドゴール空港からホテルまで送迎を頼んでいたタクシーが1時間待っても現れないというトラブルや、クレジットカードなどが入った財布を車に置き忘れるなどの失敗もありましたが、楽しく充実した、感動とスリルに満ちた忘れられない旅になりました (^^ゞ