平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

相棒10 「晩夏」~複雑な人間心理を丹念に描いた秀作

2011年11月03日 | 推理・サスペンスドラマ
 人間の心理というのは複雑ですね。
 (以下、ネタバレ)

 たとえば、歌人の師匠・浅沼幸人(小林勝也)が高塔織絵(三田佳子)の恋人を毒殺した理由。
 <弟子・織江の歌人としての才能を開花させたかったから>
 その裏には、<織江を自分のものにしたい>という思いもあったのだろうが、あまりにも観念的な殺害動機。
 動物なら、食べるため、生きるためと実に単純明快だが、人間の場合はあまりにも複雑怪奇。

 織絵の心理も複雑。
 <恋人を殺されて嬉しかった><犯人が浅沼であってほしいと思っていた>
 <犯人が浅沼であることを確かめる>ために、<自分が浅沼に愛されていることを確かめる>ために、42年前の小瓶の毒殺を再現して、浅沼を試した。
 そして、すれ違いの勘違いなのだが、<犯人が浅沼でなく、自分は愛されていなかったこと>を知って、絶望して自殺する。

 こんな複雑な人間心理を1時間で、描いてしまう「相棒」の手腕って、やはりすごいですね。
 丹念に織り込まれた見事な織物のよう。←そう言えば、彼女の名前は<織絵>だ。
 しかも<人生の皮肉>も描かれている。

 織絵が浅沼を試した42年前の毒殺の再現。
 浅沼は、42年前の罰を受ける意味で、毒薬入りのコーヒーを煽る。
 織江は、自分が彼に愛されていることを確かめるために、コーヒーに毒を入れたのに。
 何というすれ違い!
 おまけに先述のとおり、織絵は勘違いし、絶望して自殺してしまう。
 何という人生の皮肉!
 ほんの少し人生の歯車がうまく噛み合っていれば、織絵の自殺はなかったかもしれないのに。

 それにしても運命の神は非情だ。
 織絵の自殺の真相を右京(水谷豊)から聞かされて、悲痛な叫びをあげて畳に倒れ込む浅沼。
 運命の神は、こうした皮肉な結末を突きつけることで、浅沼に42年前の殺人の罪を償わせたのだ。
 右京も倒れ込んだ浅沼に言葉をかけない。黙って空を見つめる。
 地面に転がって死んでいる蝉が何を意味しているのだろう?

 今回も誰も救われないつらい物語でした。
 「相棒」は刑事ドラマの新しい領域に向かっている。


※追記
 毒杯を煽らせて、犯人を特定するという方法は、ウイリアム・アイリッシュの短編「晩餐後の物語」(創元推理文庫)にある。
 今回のエピソードは、そこから着想を得たのか?

※追記
 織絵が毒杯を煽って死んだことで、「ロミオとジュリエット」を思い出した。
 「ロミオとジュリエット」もまた、すれ違い、勘違いで毒杯を煽って死んでしまう物語だった。

※追記
 織絵の最期の句は次のようなもの。
 「罪あらば 罪ふかくあれ 紺青の空に背きて 汝(なれ)を愛さん」
 実にせつない。
 これも人間心理の複雑さ。


コメント (2)
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