平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

深夜特急 黄金宮殿

2009年09月06日 | エッセイ・評論
 沢木耕太郎さんの「深夜特急」を読み返している。
 まずは香港。

 僕も香港には二度ほど行ったことがあるが、やたら蒸し暑くてというのが印象。
 その他に強い印象はない。
 ところが沢木さんの目にかかると……。

★まず沢木さんは<黄金宮殿迎賓館>という宿に泊まる。
 この宿、名前は立派で、その紹介文には「環境優美 冷気設備 高級享受」と書かれてるが、要は連れ込み宿。
 フロントでは麻雀をしている男たちがいる。
 窓を開ければ向かいのアパートが見えるし、冷房がガタガタ、壁に貼られた女性のヌードポスターには落書きがしてある。
 壁からは男女の営みが聞こえる。
 普通の観光を期待している人間には気が滅入るような安宿だが、沢木さんはこう考える。
 「これは面白くなった。ゾクゾクしてきた」

★沢木さんの香港探訪は続く。
 衣類や食べ物などが並ぶ香港の露店街は観光客でも足を運び、目にするものだが、僕には雑多なだけで少しも面白くなかった。
 でも沢木さんはこう描く。
 「電球の柔らかい光、カーバイトの匂い、駄菓子の毒々しい色、そして道行く人々のさざめき……香港中の人間が全部集まってきているではないかと思えるほどの壮大さに、私はいつしか体の芯まで熱くなっていた」
 「そこではありとあらゆる香具師が出て、商売をしている。人相見、蛇使い、薬品売り、ガン治療法伝授、詰将棋……」
 「次の日から熱に浮かされたように香港中をうろつきはじめた。私は歩き、眺め、話し、笑い、食べ、呑んだ。どこに行っても、誰かがいて、何かがあった」
 「そんな馬鹿ばかしいひとつひとつが面白かった」
 「人と物が氾濫していることによる熱気が、こちらの気分まで昂揚してくれる」

★そして様々な人に出会う。
 人生の哀切を漢詩で描く物乞いの老人。
 面倒見のいい黄金宮殿の女主人。
 世界中の港に女がいて「ペナンの女は最高」という船乗り。
 たかられていたと思ったいたら実はおごってくれていたペンキ屋。
 黄金宮殿にやって来て沢木さんに関心を持っていた21歳の女性など。

★沢木さんは香港の街と一体になっているのだ。
 そんな状態を沢木さんはこう表現している。
 「香港の街の匂いが私の皮膚に染みつき、街の空気に私の体熱が溶けていく」

 同じ香港に行っても持って帰るものが僕と沢木さんとはこんなに違う。
 僕の心は何て硬いのだろうと実感してしまう。
 もう一度旅に出ようと心から思った。



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