ヤン・ウェンリーの父ヤン・タイロンは宇宙の交易商人だった。
タイロンは「独裁者のルドルフにどうして民衆はだまされたんだろう?」という少年ヤンの質問にこう答える。
「民衆が楽をしたがったからさ」
「自分たちの努力で問題を解決せず、どこからか超人なり聖者なりが現れて、彼らの苦労をひとりでしょいこんでくれるのを待っていたんだ。
そこをルドルフにつけこまれた。いいか、おぼえておくんだ。
独裁者は出現させる側に多くの責任がある。
積極的に支持しなくても、黙ってみていれば同罪だ」
問題や困難に直面した時、人は何かにすがりたくなる。
それは宗教だったりするかもしれない。
自分の行動や考えをすべて宗教の教義や教祖に委ねてしまうのだ。
これは生き方として「楽」である。
なぜなら何も自分で考える必要がないのだから。
すがるのが政治家である場合は、タイロンの言うとおり「独裁者」を生み出すかもしれない。
政治家の言うことはすべて正しいと信じて、言うとおりに生きる。
政治家が「これは正義の戦争だ」と言えば、疑わずに戦い、命を捨てる。
「戦うべき敵はこれだ」と言えば、それが憎むべき対象になる。
あるいは、強い政治家と同一化すれば、自分も強く立派になったように錯覚する。
だが、これでいいのだろうか?
もちろん、この人の主張していることはまさに自分が思っていたことだ、みたいなことがあるだろうが、100%一致することはあり得ない。
ここは同意するが、ここは自分と意見が違うくらいのスタンスが独裁者に取り込まれないコツだ。
あるいは政治家なんてからかい、バカにするくらいの方がいい。
自分の人生を他人に委ねるな。
………………………
タイロンはこんなことも言っている。
「お前、そんなことよりももっと有益なものに関心を持て。
金銭と美術品だ。
金銭は懐中(ふところ)を、美術品は心を、それぞれ豊かにしてくれるぞ」
「金銭は決して軽蔑すべきものじゃないぞ。
これがあれば嫌な奴に頭を下げずにすむし、生活のために節(せつ)を曲げることもない。
政治家と同じでな、こちらがきちんとコントロールして独走させなければいいのだ」
交易商人らしい金銭観である。
非常に現実的でもある。
確かにお金は大切だ。
もっともタイロン、美術品に関しては鑑定眼がゼロだったらしく、彼が収集した美術品はすべて偽物だった。笑
このあたりは同じ田中芳樹作品『アルスラーン戦記』のナルサスが、絵がメチャクチャ下手だったことを思い起こさせる。
田中芳樹先生も絵が下手なのだろうか?
そして、このことがヤンの運命を変えた。
父タイロンが亡くなり、美術品が偽物ばかりで、父の交易会社の権利は借金の抵当に入っていて、ヤンは歴史を学ぶ学資を稼ぐために仕方なく「国防軍士官学校・戦史研究科」に入るのだ。
愛国心や好戦性とは無縁なところでヤンの進路は決定されたのである。
タイロンは「独裁者のルドルフにどうして民衆はだまされたんだろう?」という少年ヤンの質問にこう答える。
「民衆が楽をしたがったからさ」
「自分たちの努力で問題を解決せず、どこからか超人なり聖者なりが現れて、彼らの苦労をひとりでしょいこんでくれるのを待っていたんだ。
そこをルドルフにつけこまれた。いいか、おぼえておくんだ。
独裁者は出現させる側に多くの責任がある。
積極的に支持しなくても、黙ってみていれば同罪だ」
問題や困難に直面した時、人は何かにすがりたくなる。
それは宗教だったりするかもしれない。
自分の行動や考えをすべて宗教の教義や教祖に委ねてしまうのだ。
これは生き方として「楽」である。
なぜなら何も自分で考える必要がないのだから。
すがるのが政治家である場合は、タイロンの言うとおり「独裁者」を生み出すかもしれない。
政治家の言うことはすべて正しいと信じて、言うとおりに生きる。
政治家が「これは正義の戦争だ」と言えば、疑わずに戦い、命を捨てる。
「戦うべき敵はこれだ」と言えば、それが憎むべき対象になる。
あるいは、強い政治家と同一化すれば、自分も強く立派になったように錯覚する。
だが、これでいいのだろうか?
もちろん、この人の主張していることはまさに自分が思っていたことだ、みたいなことがあるだろうが、100%一致することはあり得ない。
ここは同意するが、ここは自分と意見が違うくらいのスタンスが独裁者に取り込まれないコツだ。
あるいは政治家なんてからかい、バカにするくらいの方がいい。
自分の人生を他人に委ねるな。
………………………
タイロンはこんなことも言っている。
「お前、そんなことよりももっと有益なものに関心を持て。
金銭と美術品だ。
金銭は懐中(ふところ)を、美術品は心を、それぞれ豊かにしてくれるぞ」
「金銭は決して軽蔑すべきものじゃないぞ。
これがあれば嫌な奴に頭を下げずにすむし、生活のために節(せつ)を曲げることもない。
政治家と同じでな、こちらがきちんとコントロールして独走させなければいいのだ」
交易商人らしい金銭観である。
非常に現実的でもある。
確かにお金は大切だ。
もっともタイロン、美術品に関しては鑑定眼がゼロだったらしく、彼が収集した美術品はすべて偽物だった。笑
このあたりは同じ田中芳樹作品『アルスラーン戦記』のナルサスが、絵がメチャクチャ下手だったことを思い起こさせる。
田中芳樹先生も絵が下手なのだろうか?
そして、このことがヤンの運命を変えた。
父タイロンが亡くなり、美術品が偽物ばかりで、父の交易会社の権利は借金の抵当に入っていて、ヤンは歴史を学ぶ学資を稼ぐために仕方なく「国防軍士官学校・戦史研究科」に入るのだ。
愛国心や好戦性とは無縁なところでヤンの進路は決定されたのである。
独裁者にすがるのも
独裁者の言いなりになるのも
我ら大衆なんですよね。
国家の主とは言え
約立たずと判ったなら、その時点で切り捨てる判断(知恵)と勇気も大衆には必要ですね。
それと、金銭を粗末にするな
私の父も同じこと言ってました。
これもいい言葉です。
たしかに。
元文部科学事務次官のM氏、官僚出身でありつつも常々正論を述べる尊敬すべき人物だと思っていますが、ご実家は資産家だと聞いています。
資産家ではなくとも、少なくとも「中産階級」の層が厚いことが「まっとうな政治」が成立する条件であることはアリストテレス以来よく言われていることですね。
そうした意味で、今日の日本は危険な傾向を示していると思います。
>父タイロンが亡くなり、美術品が偽物ばかりで、父の交易会社の権利は借金の抵当に入っていて、ヤンは歴史を学ぶ学資を稼ぐために仕方なく「国防軍士官学校・戦史研究科」に入るのだ。
ヤンは「生活のために節(せつ)を曲げ」軍人にならなざるを得なくなって、父の言葉の正しさを知ったというのが皮肉です。
いつもありがとうございます。
何かに身を委ねる。
つまり孤独から脱却したいんでしょうね。
あるいはアイデンティティの確認。
僕はかつて新安保法制反対デモや原発反対デモに参加しましたが、「ここには同じ仲間がいるんだ」「自分の居場所はここなんだ」と思えて救われた気がしました。
ひとりは孤独で不安なんですよね。
それをサルトルは「実存は孤独だ」と表現しました。
ニーチェは「超人」という言葉で、それをたくましく克服しろ、と主張しました。
「神」がいなくなった以上、人はひとりで生きていかなくてはならない。
人は何かに同一化しなければ生きていけないと思いますが、一方で、そんな自分を俯瞰的・客観的に見る目を持っていたいですよね。
>金銭を粗末にするな
シンプルでいい言葉ですね。
こういう言葉の方が胸に残るんですよね。
いつもありがとうございます。
M氏は、麻布高校→東大なんですよね。
元経済産業省の古賀茂明氏も麻布→東大。
僕の知り合いに麻布高校出身の人がいるのですが、麻布は「反骨精神」を養う校風なのだそうです。
話が逸れましたが、「中産階級」の層が厚いこと、これが一番重要なんですよね。
「まっとうな政治」「中産階級の層が厚いこと」
TEPOさんは暗に「立憲民主党」のことをおっしゃっているのだと思いますが、「立憲民主党」の政策が一番まとも。
一方、自民党は「格差は仕方がない」の新自由主義と「カルト」と一脈を通じる保守思想。
どうしてまともな立憲民主党が支持されないんですかね。
>ヤンは「生活のために節(せつ)を曲げ」軍人にならなざるを得なくなって、父の言葉の正しさを知ったというのが皮肉です。
田中芳樹作品はこういう「皮肉」が多いんですよね。
田中芳樹先生は皮肉で性格が悪い?笑
「民衆には英雄が必要だ」という政治家の思惑で、ヤンが「英雄」に祭り上げられていく所も皮肉ですよね。