窮地のトルコ大統領は「国際イスラム旅団」を編成することでウクライナや反
露派タタール人と合意
2015.08.06 櫻井ジャーナル
ウクライナの外相、トルコの副首相、そしてタタール人の反ロシア派代表が8月1
日にトルコのアンカラで会い、タタール人、チェチェン人、ジョージ ア(グ ル
ジア)人などで「国際イスラム旅団」を編成してクリミアの近くに拠点を作るこ
とで合意したという。反ロシア戦争を始めるつもりのようだが、 その戦争を支
援することをトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は表明したと
も伝えられている。
報道管制が布かれ、ネオ・ナチ(ステファン・バンデラ派)の暴力が広がってい
るウクライナだが、そうした中、ウラジミル・プーチン露大統領 への信頼度が
上がっているという。閣僚や知事だけでなく、戦闘員も外部から補充しなければ
ならない状況なのだろう。ネオコンはEUとロシアの間にはさまれ た地域を戦乱
で不安定化させようと目論み、あわよくばロシアを支配しようとしている可能性
が高い。
しかし、ボリス・エリツィン時代に西側の正体を知ったロシア国民がアメリカの
支配層に踊らされることはなさそうで、ロシア政府はNED(民 主主義のための国
家基金)などアメリカ系団体の活動を禁じ、ロシアから追い出した。外部から揺
さぶるしかない。
最近、ウ ラジミル・プーチン露大統領はモスクワ駐在トルコ大使を呼び出し、
シリアでIS(イラクとレバントのイスラム首長国。ISIS、ISIL、IEIL、ダーイ
シュとも表記)を支援するのを止めなければ外交関係を断つと通告 したようだ
が、そうした強い姿勢を示した一因はウクライナへISの戦闘員を本格的に移動さ
せる動きにあるのかもしれない。トルコとロシアとの関係 悪化はトルコ・スト
リームの建設を中断させることにもなりそうだ。
今年6月の総選挙で与党の公正発展党(AKP)は第1党を維持したものの、獲得し
たのは550議席のうち258議席にとどまり、エルドアン大統領 は足下がぐらつ
き、憲法改正を問う国民投票を行うために必要な330議席(全体の5分の3)どこ
ろか過半数の276議席にも届かなかった。そこ で、 アメリカと手を組んでクル
ド人に対する空爆を本格化させている。
トルコはアメリカのネオコン/シオニスト、イスラエル、サウジアラビアと共同
してISを支援、シリアの体制転覆を目指してきたが、ここにき てサウジアラビ
アが消極的になってきたようで、それをトルコがカバーすることになるのだろう。
日本では「安全保障関連法案」に関する議論で「後方支援」、つまり兵站の重要
性が主張されているが、そうした主張をする人びともISの兵站には無 頓着。 シ
リアの体制を転覆させるプロジェクトが始動した直後からトルコはその拠点であ
り、兵站ラインはトルコからシリアへ入っている。その兵站ラインを潰せば IS
は崩壊するのだが、それを守っているのがトルコ。イスラエルやアメリカもISと
戦っている人びとを攻撃してきた。つまり、ISを倒すべきと考 えるなら、アメ
リカ、イスラエル、サウジアラビア、そしてトルコを批判しなければならない。
兵站を考えるなら、まずトルコだ。
昨年10月19日に「自動車事故」で死亡したイランのテレビ局、プレスTVの記者、
セレナ・シムはその直前、トルコからシリアへ戦闘員を運び込む ために
WFP(世界食糧計画)やNGOのトラックが利用されている事実をつかみ、それを裏
付ける映像を入手したと言われ、昨年11月にはドイツのメディアDWも トルコか
らシリアへ食糧、衣類、武器、戦闘員などの物資がトラックで運び込まれ、その
大半の行き先はISだ と見られていると伝えている。
昨年10月2日にはジョー・バイデン米副大統領がハーバード大学でISとアメリカ
の「同盟国」との関係に触れ、ISの「問題を作り出したのは中東 におけるアメ
リカの同盟国、すなわちトルコ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦だ」と述
べ、その「同盟国」はシリアのバシャール・アル・アサド政 権 を倒すために多
額の資金を供給、トルコのエルドアン大統領は多くの戦闘員がシリアへ越境攻撃
することを許してISを強大化させたと語り、ISを支援してい るグループのひと
つ、イスラエルの情報機関幹部もアル・カイダ系武装集団がトルコを拠点にして
いるとしている。
トルコの場合、ISと最も関係が強いのは大統領の周辺。ISが密輸している石油は
エルドアン大統領の息子が所有するBMZ社が扱い、ISの負傷兵 は MITが治療に協
力、秘密裏に治療が行われている病院はエルドアン大統領の娘が監督しているよ
うだ。負傷兵の治療はイスラエルも行っている。
エルドアンは自らの利益、権力のためにシリアを攻撃しはじめたのだろうが、ロ
シアとの戦いを強いられる状況になってきた。一度始めた戦争を止める ことは
難しい。