日米同盟はつまるところ米国が日本から効果的にカネを吸い上げる仕組み
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2015年12月18日 0時22分配信 田中良紹 | ジャーナリスト
日米両政府は16日、2016年度から5年間の「思いやり予算」を133億円増額する事で合意した。日本側は当初、安保法の成立で日本の人的貢献が強化される事から減額を要求したが、米国側はアジアに軍事戦略の重心を移すので負担が増えるという理由で減額を認めず、むしろ増額となった。
かつて私は安倍政権があまりにも米国にすり寄り、米側の要求を丸呑みする様を見て、過去の自民党政権の「絶妙な外交術」とは比べ物にならないと書いた事がある。昔の自民党は見えないところで野党と手を組み、野党に反対させる事で米側の要求をかわしてきた。それが軍事負担を最小化し、経済の高度成長を生み出し、1985年には世界一の金貸し国となって米国に脅威を感じさせた。
しかし過去の自民党の外交術が通用したのは冷戦構造があったためである。自民党は「日本に無理な要求をすれば、社会党政権が誕生して日本は共産陣営に接近する」と主張して米国をけん制した。岸元総理などはそれを言って自民党の選挙資金まで米国に出させた。それが冷戦の終了で通用しなくなった。
一方の米国は冷戦が終わってみると、世界で最も豊かな国であったはずが財政赤字と貿易赤字に苦しむようになり、世界一の金貸し国の地位を日本に奪われ、それどころか世界一の借金国に転落した。米国は対ソ戦略に代わり対日戦略に力を入れる必要が出てきた。
米国はまず「円高」を演出して日本の輸出力を削ぎ、米国への資金流入を促すため日本に「低金利」を強制、連邦議会がスーパー301条の報復措置を発動して日本製品を狙い撃ちにした。
その結果、日銀の低金利政策がバブル経済を生み、バブルが弾けると日本は「失われた時代」に突入するが、その間に米国は「ものづくり」の日本とは異なり「情報と金融」で世界をリードする産業構造を作り、さらに「構造協議」や「年次改革要望書」を突き付けて日本の国家構造そのものを変えようとした。
そうした中で米国が日本の「弱点」と見たのが、平和憲法に慣れて軍事戦略的な思考に乏しい安全保障分野である。日本経済の成長が軍事負担の最小化から生まれたとすれば、日本に軍事負担を負わせる事で米国の経済負担を減らし、日本経済の足を引っ張ることが出来る。それは冷戦構造がなくなった事で可能となった。
米国議会の議論を見てそうした事を感じた私は、日本が冷戦下で行った「絶妙の外交術」に代わる「新たな外交術」を構築しなければならないと思ったが、残念ながら日本国内では政治家も官僚も国民もみんな「冷戦の終結」を「平和の訪れ」としか捉えず、危機感を共有することが出来なかった。
1991年の湾岸戦争で日本は多国籍軍に135億ドルを拠出し、それは米国に集まった国際支援金540億ドルの四分の一に当たる巨額なものだったが、当時の米国には世界一の金貸し国になった日本に対するやっかみがあり、血を流す貢献をしない事を理由に日本を冷たくあしらう。しかし湾岸戦争で米国が実際に使用した戦費は100億ドルと言われ、米国は日本などからの支援金でその年の経常赤字を消すことが出来た。
このように湾岸戦争は米国に経済的利益をもたらし、一方で日本は貢献を認められないトラウマに取りつかれ、米国に対する従属的姿勢を強めてしまう。それが去年夏の安倍政権による集団的自衛権の憲法解釈変更の閣議決定となり、国民の理解を得ないまま強行された今年夏の安保法制可決となって現れたのである。
国会では集団的自衛権を巡り訳の分からぬ議論が延々と展開されたが、いずれも現実離れした軍事的議論の連続だった。そして戦争を考える場合に最も肝心な財政や経済がどう影響を受けるかの議論が全くなかった。日本は世界一の金貸し国ではあるが、一方で1000兆円を超える巨額な財政赤字国であり、また世界最先端の少子高齢化の国でもある。
私は米国が集団的自衛権の行使容認を迫ってくる本当の理由は人的貢献より経済的な理由からだと思っていたので、「安倍政権が米国の要求を受け入れて集団的自衛権の行使を容認するなら、日本は見返りにそれ相当のメリットを計算しているのでしょうね」とブログに書いた。
そうしたところ日本政府が「思いやり予算」の減額を米側に要求したと聞いて、当然のことだと思っていたら、それがまた裏切られたのである。そして考えなければならないのは「思いやり予算」は在日米軍基地で働く日本人従業員の給与の一部を日本側が負担するもので、在日米軍の駐留にかかる経費のほんの一部にすぎないということである。
米国防総省が公表している数字を見れば、2002年に日本が米軍駐留に関して負担したのは44億1134万ドルで、米軍が駐留している27か国のうち他の26か国全部の合計額より多い。ちなみに日本はドイツの2.8倍、韓国の5.2倍、イタリアの12倍、イギリスの18.5倍を米国に支払っている。
米兵1人当たりの計算でも日本は10万6000ドルでイタリアの3.8倍、韓国、ドイツの4.9倍になっている。日本に駐留する経済的メリットは米軍にとって世界最高である。かつて「沖縄はゆすりの名人」と発言して問題になったメア元沖縄総領事は、沖縄を訪れた米国の学生に「平和憲法は米国にとって良い取引」と発言し、日本の憲法改正に反対の考えを表明した。
つまり平和憲法がある限り、日米同盟がないと日本の安全は保障されず、その日米同盟は米国に日本に駐留する口実を与え、それは世界最高水準のカネを日本から引き出す事を可能にする。メア氏は米国の本音を正直に語ったのである。憲法改正ではなく、解釈の変更によって、自衛隊を米軍の肩代わりに使い、日本の財政に占める軍事負担を増大させることが出来る。
これこそが冷戦後に米国が対日戦略として構築した日本からカネを引き出す方法である。安保法成立後に日本は「人的貢献を強化するのだからその分だけ経済的貢献を減額する」と要求したら米国から一蹴された。そのはずである。米国が求めているのは日本のカネなのである。米国がアジアに不安定な状況を作りさえすれば日本からカネを引き出す事はいくらでも可能になる。
巨額の財政赤字を抱える日本政府がどこまで持つか。それとも知恵を絞って「新たな外交術」を考え出すのか。私はカネのかかる日米同盟に頼るより、日本が近隣諸国との友好に努力し、世界の不安定要素を減らす外交に力を入れる方が安上がりではないかと思ったりするが、安倍政権は日米同盟を強化してカネを吸い上げられる道を進みたいようだ。
田中良紹
ジャーナリスト
「1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、日米摩擦、自民党などを取材。89年 米国の政治専門テレビ局C-SPANの配給権を取得し、日本に米国議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年からCS放送で「国会TV」を放送。07年退職し現在はブログを執筆しながら政治塾を主宰」