あなたは今から工場長。モノづくりの現場の最高責任者です。
予てよりあなたの工場はひとつの課題を解決できずにいました。その課題とは生産性の向上です。単純に考えると、生産量を二倍にするには従業員も設備も何もかも二倍にすれば良いわけですが、今いる従業員、今ある設備で、今より生産量を増やそうとするならばこの“生産性”を高めなければなりません。
どうすれば今以上に従業員たちが効率良く効果的に働いてくれるのでしょうか。生産性の向上はあなたのみならず経営者ならば誰しもが考えることです。またこれは製造業に限りません。サービス業だって求めるところは同じです。
ある日、工場長であるあなたは次のような実験をしてみることにしました。
十数名の工員を選び二つのグループに分け、作業条件の変化が作業効率にどのように影響するのかを調べたのです。片方のグループでは作業場の照明を今より明るくし、もう片方はそのまま。このような実験を温度・湿度の高低、休憩時間の長短や報酬額の大小等、様々に作業条件を変化させて行いました。
① 照明を今より明るくしてみた。
② 室温を上げてみた。
③ 報酬を増してみた。
④ 休憩時間を長くしてみた。・・・などなど。
これらは1924 年から1932 年(1933 年)まで、シカゴ郊外に位置するウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で実際に行われた実験です。当時の初期の実験者達は実験を進めていく中で妙な結果に遭遇することになります。というのも、「照明を明るくした→生産性向上」これは予想通りだったのですが、「照明を元に戻した→生産性向上」という事態が起き、さらには、「元より暗くした→生産性向上」という摩訶不思議な事態まで発生したのです。他の実験にしても同様で、作業条件にかかわらず生産性が向上していったため、実験者達は「作業条件の内容ではなく作業条件の“変化そのもの”が生産性の向上に影響を与えているのではないか」と考えるようになりました。
ホーソン工場では、これら予想外の実験結果を詳しく調べるために、マサチューセッツ工科大学のターナー、ハーバード大学のメイヨーやレスリスバーガーらを招き、より詳細な実験を重ねていくこととなります。
ターナーは、休憩時間の長短それ自体が生産性向上の鍵となっているわけではないこと、休憩をとることによって心身がリフレッシュし作業効率が増していることは間違いないが、このことが休憩による生産性向上の本質ではないことを見抜いていました。つまり、休憩により工員たちは話をし、互いに理解を深め、時には仕事以外の相談等をし、仕事が終わった後のプライベートの付き合いも行うようになる、このような一見仕事とは関係のない意思疎通関係を、工員たち自身が時間をかけて醸成していくことで良好な人間関係を築き上げ、この人間関係こそが生産性に大きな影響を与えているのではないかということに気付いたのです。
またメイヨーも、先の照明実験で常に生産性が向上していったという結果を受け、実験対象の工員たちがひとつの社会を構成しており、自分たちに注がれる関心を楽しみ、この実験に参加できていることに喜びや興奮を感じており、そのこと自体が生産性の向上に良い影響を与えていると考えました。また、メイヨーは、工員に話したいことを話してもらう面接を繰り返し、ついには工員の監督方法や工員間のモラルといったものが生産性に与える影響を突き止めたのです。
生産性を向上させるポイントが現場の監督者(管理職)の態度にあることもわかりました。監督者が工員を信頼し、意思決定が広く組織的に行われ、コミュニケーションが上下方向のみならず工員間でも柔軟に行われている状態では生産性は向上し、監督者がただの監視に終始し、公式組織のルールのみを重視した従来通りのスタイルと態度で臨んだ場合は生産性の向上は見られなかったのです。
どのような組織にも公式組織と非公式組織といった二つの組織が同時に存在します。公式組織とは社内で決められている職階(部長・課長など)によって統治がなされている組織です。一方の非公式組織とは社内の職階とは関係なく、組織のメンバー間で自然発生的に生み出された繋がりによって統治されている組織です。中学生や高校生だった時のクラスを思い出してください。クラスメイトをまとめ上げていたのは必ずしも学級委員長というわけではなかったと思います。既定の委員や係といった分類ではなく、そういったものを超越した連帯感が組織には存在します。それが非公式組織です。そして、学園祭や体育祭でのクラスのパフォーマンスにはこの非公式組織の存在が大きな影響を与えていたのです。
人は関心を寄せられると生産性を高めると言われます。このことは私たちの日々の業務の中にも落とし込むことができます。自分の仕事に意味があると感じた従業員の心理が生産性に好影響を与えます。人は関心を寄せられると自尊感情が向上するそうです。自分のことを気にかけてもらっていることがわかれば、それだけで「自分の大切さ」を感じることができます。その大いなる手段として機能するのが非公式組織の存在であり、非公式組織内での人間関係なのです。
ゆとり世代と言われる年代の従業員の中には、この非公式組織にすら関わりを持つことを嫌う人もいるようです。ここまでくると経営者は次世代の統治のあり方を考えなくてはならなくなってきます。ホーソン工場の実験自体にも批判があり万全とは言えません。いつの時代も若手とベテランの間には付き合い方に溝があると聞きますが、私たちもこのような現況に対処できるよう知識と経験を身に着けお役立ちできるように頑張りたいと思います。
強存強栄。この言葉も繋がりの一種です。私たち税理士法人恒輝はお客様との繋がりを大切にしたいと考えております。ただ単に契約を結びその契約通りに仕事をしてお終いではなく、互いに関心を持ちより、分かり合える関係を目指していければと常に願っております。今回お話差し上げた現場のうんぬんだけではなく、法令に遵守した処理のあり方や手続き等、ヒトに関する諸問題の解決も得意とするところでございます。お抱えの問題にどうしたものかとお悩みございましたら是非とも弊所までお問い合わせをいただければと思います。
■参考リンク
Harvard Business School and the Hawthorne Experiments (1924-1933)
http://www.library.hbs.edu/hc/hawthorne/intro.html
HPはこちらから www.fukuda-j.com
監査部一課 原浩恭