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福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

梵網經盧舍那佛説菩薩心地戒品第十卷下

2020-06-06 | 諸経
梵網經盧舍那佛説菩薩心地戒品第十卷下・後秦龜茲國三藏鳩摩羅什譯
(『梵網経』の原本は百二十巻六十一品の浩瀚なものとされますが、梵網経と言われているものはその一部・菩薩心地品第十の一品を訳したもの。上巻には十発諏・十長養・十金剛・十地の菩薩の階位について説明し、ここで出した下巻には、十重禁戒・四十八軽戒について示しています。
戒律は複雑ですが、小乗戒としては『四分律(具足戒)』が主流を占めています。この梵網経にもとずく戒(菩薩戒)は大乗戒です。
『四分律(具足戒)』は「出家僧伽」に対する戒であり、『梵網経』は大乗仏教の修行者である菩薩が自分の誓願に基づいて利他行をしつつ悟りへ至るために受ける大乗仏教特有の戒である、とされます。古来真言僧などは「内秘菩薩行、外現声聞儀」といい、大乗の精神にのっとり小乗の具足戒を受持していました。)


 
爾時盧舍那佛、此大衆の為に略して百千恒河沙不可説の法門中の心地を開くこと、毛頭許の如し。是れ過去一切佛已に説き、未來佛當に説くべき、現在佛今説き、三世の菩薩も已に學し、當に學すべく、今學せり。我已に百劫、是の心地を修行し、吾を號して盧舍那と為す。汝諸の佛子、我が所説を轉じて、一切衆生のために心地の道を開け。時に蓮花臺藏世界、赫赫天光師子座上に盧舍那佛、光光を放ち、千花上の佛に告ぐ。我が心地法門品を持して去り、復た轉じて千百億釋迦
及び一切衆生の為に、次第に我が上の心地法門品を説き、汝
等も受持讀誦し一心に行ぜよ。
爾時、千花上の佛、千百億釋迦、蓮花藏世界の赫赫師子座より起ち、各各の辭退して擧身に不可思議光を放ち、光光無量佛と化し、一時に無量の青黄赤白花を以て盧舍那佛を供養し、上説の心地法門品を受持し竟り、各各に此の蓮花藏世界より沒し、沒し已りて體性虚空花光三昧(法・般若・解脱の三徳を全うした三昧)に入り、本源世界閻浮提菩提樹下に還り、體性虚空華光三昧より出、出已って方に金剛千光王座に座し、及び妙光堂(華厳経の普光明堂)に十世界法門海を説き、復た座より起ちて帝釋宮に至り十住を説き、復た座より起ちて炎天中に至り十行を説き、復た座より起ちて第四天中に至り十迴向を説き、復た座より起ちて化樂天に至り十禪定を説き、復た座より起ちて他化天に至り十地を説き、復た一禪中に至り十金剛を説き、復た二禪中に至り十忍を説き、復た三禪中に至り十願を説き、復た四禪中の摩醯首羅天王宮に至り、
我が本源蓮花藏世界盧舍那佛所説の心地法門品を説く。
其餘の千百億釋迦も亦復た如是に無二無別なり。賢劫品中に説くが如し
爾時、釋迦牟尼佛、初め蓮花藏世界に現じてより、東
方の天王宮中より來入し魔受化經を説き已って、南
閻浮提迦夷羅國に下生し、母の名は摩耶、父の字は白淨、吾
名は悉達、七歳にして出家、三十にして成道、吾を號して釋迦牟尼佛と為す。寂滅道場に於いて金剛花光王座に座し、乃
至、摩醯首羅天王宮なり。其中次第に十住處所に説く。時に佛、諸大梵天王網羅幢を觀、因りて爲に説く。無
量世界は猶し網孔の如し。一一の世界は各各不同にして別異
無量なり。佛の教門も亦復た如是なり。吾今、此世界に来ること八千返なり。此の娑婆世界の為に金剛花光王座に座し、乃至、摩醯首羅天王宮にて是中の一切大衆の為に略して心
地法門品を開き竟れり。復た天王宮より下りて閻浮提
菩提樹下に至り、此の地上一切衆生・凡夫癡闇之人の為に、我が本盧舍那佛心地中の初發心中に常に誦する所の一戒、光明金剛寶戒(この大乗戒のこと)を説く。是れ一切佛の本源、一切菩薩の本源、佛性の種子なり。一切衆生は皆な佛性あり。一切の意識色心、是れ情、是れ心、皆な佛性戒中に入る。當當(當来)常有の因の故に、當當(當来)常住の法身なり。如是の十波羅提木叉は世界に出る。是の法戒は是れ三世一切の衆生、頂戴し受持す。吾れ今當さに此大衆の為に重ねて十無盡藏戒品を説く。是れ一切衆生の戒の本源にして自性清淨なり。
我今盧舍那 方に蓮花臺に座す
周匝せる千花上 復た千の釋迦を現ず
一花に百億國あり 一國に一釋迦あり
各菩提樹に坐し 一時に佛道を成ず
如是の千百億 盧舍那本身
千百億釋迦 各の微塵衆を接して
我所に倶來す 我が佛戒を誦するを聽け
甘露門則ち開く 是時千百億は
本道場に還至して各の菩提樹に坐す
我が本師の戒を誦す。 十重四十八戒なり。
明かなる日月の如く 亦た瓔珞珠の如し
微塵の菩薩衆 是に由りて正覺を成ず
是れ盧舍那誦し 我も亦た如是に誦す。
汝新學菩薩よ、 頂戴して戒を受持せよ
是の戒を受持し已りて 轉じて諸衆生に授けよ
諦聽せよ、我れ正に誦せん。 佛法中の戒藏波羅提木叉なり。 大衆は心に諦信せよ。
汝は是れ當成佛なり 我は是れ已成佛なり。
常に如是の信を作せば 戒品已に具足す
一切の心ある者は 皆な應に佛戒を攝すべし。
衆生、佛戒を受くれば 即ち諸佛の位に入る
位、大覺に同うし已れば 眞に是れ諸佛の子なり。
大衆皆恭敬して 至心に我が誦するを聽け。」
爾時、釋迦牟尼佛は、初めて菩提樹下に坐して無上覺を成じおわりて初めて菩薩波羅提木叉を結したまふ。
父母師僧三寶に孝順せよ。孝順は至道之法なり。孝は名けて戒と為し、亦た名けて制止といふ。佛即ち口より無量光明を放つ。是時、百萬億大衆・諸菩薩・十八梵天・六欲天子・十六大國王は合掌して至心に佛の一切諸佛大乘戒を誦するを聽く。佛、諸菩薩に告げて言はく、
「我今、半月半月に、諸佛の法戒を自誦す。汝等、一切の發
心の菩薩も亦た誦せよ。乃至十發趣(一捨心,二戒心,三忍心,四進心,五定心,六慧心,七願心,八護心,九喜心,十頂心)・十長養(一慈心、二悲心、三喜心、四捨心、五施心、六好語心、七益心、八同心、九定心、十慧心)・十金剛(有非有・無顛倒・所依・幻等・無分別・本性清淨・雜染清淨・虛空喻・無減無增)・十地の諸菩薩も亦た誦せよ。是故に戒光は口より出ず。有縁非無因なるが故に。光光、非青黄赤白黒なり。非色・非心・非有・非無・非因果法なり。是れ諸佛の本源、菩薩の道行の根本なり。是れ大衆諸佛子の根本なり。是の故に大衆諸佛子、應に受持すべし。應に讀誦善學すべし。佛子よ諦聽せよ。若し佛戒を受くる者は、國王・王子・百官宰相・比丘・比丘尼・十八梵天・六欲天子・庶民黄門・婬男婬女・
・八部・鬼神・金剛神・畜生乃至變化人、但だ法師の語を解すれば、盡く戒を受くるを得る。皆な名けて第一清淨者となす。
佛、諸佛子に告げて言はく「十重波羅提木叉あり。若し菩薩戒を受けて此の戒を誦せざる者は、菩薩にあらず、佛の種子にあらず。
我れ亦た如是に誦す。一切の菩薩已學し、一切の菩薩當學
し、一切の菩薩今學す。已に菩薩波羅提木叉の相
貌を略説す。是の事應當に學し敬心に奉持せよ。
(1、殺生戒)佛言はく、佛子よ、若し自ら殺し、人を教へて殺さしめ、方便讃歎して殺し、作すを見て隨喜し乃至呪殺せば、殺の因、殺の縁、殺の法、殺の業なり。
乃至一切有情の命は故に殺すことを得ざれ。是の菩薩は應に常住の慈悲心・孝順心を起こして方便して一切衆生を救護すべし。而して自ら心を恣ままに意を快ようして殺生せば、是れ菩薩の波羅夷罪なり。
(2、盗戒)若佛子、自ら盜み、人を教へて盜せしめ、方便して盜し、呪して盗せしめば、盜因・盜縁・盜法・盜業あり。乃至、鬼神有主の物、劫賊の物、一切財物一針一草も故さらに盜することを得ざれ。而も菩薩は應に佛性の孝順慈悲心を生じて常に一切人を助けて福を生じ樂を生ぜしむべし。而も
反って更に人の財物を盗む者は是れ菩薩の波羅夷罪なり。
(3、婬戒)若佛子。自ら婬し、人に教へて婬せしめ、乃至一切女人、故(ことさら)に婬すことを得ざれ。婬因・婬縁・婬法・婬業あり。乃至畜生女、諸天鬼神女、及び非道に婬を行ぜんや。而も菩薩は應に孝順心を生じて一切衆生を救度し、淨法を人に與へよ。而も反って更に一切人の婬を起こさしめ、畜生を擇ばず乃至母女・姉妹・六親に婬を行じて慈悲心なければ、是れ菩薩の波羅夷罪なり。
(4、妄語戒)若佛子、自ら妄語し、人に教へて妄語せしめ、方便して妄語せば、妄語の因・妄語の縁・妄語の法・妄語の業なり。乃至見ざるを見たと言ひ、見たるを見ずと言ひ、身心に妄語す、而も菩薩は常に正語・正見を生じ、亦た一切衆生の正語正見を生ぜしむべし。而も反って更に一切衆生の邪語・邪見・邪業を起こさしむれば、是れ菩薩の波羅夷罪なり。
(5、酤酒戒)若佛子、自ら酤酒し、人に教へて酤酒せしめば、酤酒の因・酤酒の縁・酤酒の法・酤酒の業なり。一切の酒は酤(う)ることを得ざれ。是れ酒は罪を起こすの因
縁なり。而も菩薩は應に一切衆生の明達之慧を生ぜしむべし。而も反って更に一切衆生に顛倒之心を生ぜしめれば、是れ菩薩の波羅夷罪なり。
(7、四衆過罪)若佛子、自ら出家在家菩薩比丘比丘尼の罪
過を説き、人に教へて罪過を説かしめば、罪過の因・罪過の縁・罪過の法・罪過の業なり。而も菩薩は外道・惡人及び二乘惡人の佛法中の非法非律を説くを聞きては、常に悲心を生じて是の惡人輩を教化し、大乘の善信を生ぜしむべし。而も反って更に自ら佛法中の罪過を説かば、是れ菩薩の波羅夷罪なり。
(8、自讃毀他戒)若佛子、自讃毀他し、亦た人に教へて自讃毀他せしめば、毀他の因・毀他の縁・毀他の法・毀他の業なり。而も菩薩は應さに一切衆生に代はりて、受加毀辱を加ふるを受け、惡事は自ら己に向け、好事は他人に與ふ。
若し自ら己の徳を揚げ、他人の好事を隠し、他人をして毀を受けしむれば、是れ菩薩の波羅夷罪なり。
(9、慳惜加毀戒)若佛子、自ら慳し、人に教へて慳せしめば、慳の因・慳の縁・慳の法・慳の業なり。
而も菩薩は一切の貧窮の人の來乞する者を見ては、前人の所須に随ひて、一切給與し。而も菩薩は惡心瞋心を以て、乃至一錢一針一草をも施さず、求法の者有んに、爲に一句一
偈一微塵許の法をも説かずして、而も反って更に罵辱せば、是れ菩薩の波羅夷罪なり。
(9、瞋心不受悔戒)若佛子、自ら瞋り、人を教へて瞋らしめば、瞋の因・瞋の縁・瞋の法・瞋の業なり。
而も菩薩は應に一切衆生中の善根無諍之事を生ぜしめ、常に
慈悲心・幸順心を生ずべし。而も反って更に一切衆生中に於いて乃至非衆生中に於いて、惡口を以て罵辱し、加ふるに手打及び刀杖を以てし、意猶ほ息まず、前人悔を求め、善言にて懺謝するに猶ほ瞋りて解けずんば、是れ菩薩の波羅夷罪なり。
(10、謗三寶戒)若佛子、自ら三寶を謗じ、人を教へて三寶を謗ぜしめば、謗の因・謗の縁・謗の法・謗の業なり。而も菩薩は外道及び惡人の一言も謗佛の音聲を見ては、三百の鉾刺心の如くなるべし。況んや口に自ら謗じ、信心孝順心をし生ぜざらんや。而も反って惡人・邪見人を助けて謗ぜしめば是れ菩薩の波羅夷罪なり。
善學諸仁者よ、是れ菩薩の十波羅提木叉なり。應當に學すべし。中に於いて一一に犯ずること微塵許の如くもなすべからず。何に況んや具足し十戒を犯すをや。若し犯ずる者は、不現身に菩提心を発することを得ず。亦た國王位・轉輪王位を失ひ、亦た比丘比丘尼位を失ひ・亦た十發趣十長養十金剛十地佛性常住の妙果を失ふ。一切皆な失って三惡道中に堕す。二劫三劫、父母三寶の名字をも聞かず、是を以って應に一一犯ずべからず。汝等一切諸菩薩、今學し當學し已學すべし。如是の十戒、應當さに學して敬心に奉持すべし。八萬威儀品に當に廣く明すべし。佛、諸菩薩に告げて言はく、已に十波羅提木叉を説き竟んぬ。
四十八輕を今當に説くべし。
(四十八輕戒の一、不軽師友戒)
佛言、若佛子、國王位を受けんと欲する時、轉輪王位を受くる時、百官の受位の時、應に先ず菩薩戒を受くべし。一切鬼
神は王身百官之身を救護し、諸佛は歡喜したまふ。既に戒を得已らば、孝順心恭敬心を生ぜよ。上座・和上・阿闍梨・大徳・同學・同見・同行者を見ては、應に起ちて承迎し禮拜し問訊すべし。而も菩薩、反って憍心・慢心・癡心・瞋心を生じて起ちて承迎禮拜せず、一一に如法供養せず、自ら身・國城・男女を賣る(こと勿れ)。七寶百物以て之を供給せよ。若し爾らずんば、輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の二、飲酒戒)若佛子。、故らに飮酒し而も酒は過失を生ずること無量なり。若し自身、手ずから酒器を過(わたし)て人に與(あたへ)て飮酒せしむる者は五百世手無し。何ぞ況んや自ら飮するをや。一切人に教へて飮ましめ、及び一切衆生に飮酒させることを得ざれ。況んや
自ら飮酒せんをや。若し故ことさらに自ら飮み、人を教へて人飮ましむる者は輕垢罪を犯す」
(四十八輕戒の三、食肉戒)若佛子、故らに食肉せんか、一切の肉は食することを得ざれ。夫れ食肉の者は大慈悲佛性種子を斷ず。一切衆生見て而も捨て去る。是の故に一切の菩薩は
一切衆生の肉を食することを得ず。肉を食すれば無量罪を得る。若し故らに食する者は輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の四、食五辛戒)若佛子、五辛を食することを得ざれ。大蒜(だいさん・おおひる)・革葱(かくそう・のびる)・慈葱(じそう・ひともじ)蘭葱(らんそう・にんにく)
興蕖(こうこ・あぎ)なり。是の五種は一切食中に食しるを得ざれ。若し故さらに食する者は輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の五、不教悔戒)若佛子、一切衆生、八戒五戒十戒を犯し、禁を毀り、七逆(五逆罪(殺父・殺母・殺阿羅漢・出仏身血・破和合僧)に殺和尚・殺阿闍梨を加えて七逆罪)八難(地獄・餓鬼・畜生・長寿天・辺地・盲聾瘖瘂 ・世智弁聡 ・仏前仏後)、一切犯戒の罪を見ては應に教へて懺悔せしむべし。而も菩薩、教へて懺悔せしめず、同じく住し、僧の利養を同じくし、而も共に布薩し、同一衆に住し、説戒して而も其の罪を擧げず、教へて悔過せしめずんば輕
垢罪を犯す。
(四十八輕戒の六、不供給講法戒)若佛子、大乘の法師、大乘の同學、同見、同行の僧坊・舍宅・城邑に來入し、若しは百里・千里來る者を見ば、即ち起きて迎來・送去・禮拜供養せよ。日日三時に供養し、日に三兩の金を食せしめ、百味飮食・床座・醫藥もて法師に供事せよ。一切の所須、盡く之を給輿すべし。常に法師を請じて三時に説法せしめ、日日三
時に禮拜し、瞋心・患惱之心を生じざれ。法の為に身を滅するも、法を請じて懈らざれ。若し爾らずんば輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の七、懈怠不聴法戒)
若佛子、一切處に、法毘尼經律(経・律)を講ずることあり、大宅舍中に講法の處あらんに、是の新學の菩薩は應に經律の卷を持して法師の所に至りて聽受諮問すべし。若しは山林樹下・僧地房中・一切説法處、悉く至りて聽受すべし。若し彼に至りて聽受せざれば輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の八、背大向小戒)若佛子、心、大乘常住の經律に背きて、佛説に非ずと言ひ、而も二乘聲聞・外道の惡見の一切の禁戒・邪見の經律を受持せん者は輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の九、不看病戒)若佛子、一切の疾病人を見ては、常に應に供養すること佛と異あるなかるべし。八福田中には看病福田は第一の福田なり。若し父母師僧弟子の疾病、諸根不具にして百種の病苦惱あらば、皆な供養して差(い)えしめよ。而も菩薩、惡心瞋恨を以て看ず、乃至、僧房中・城
邑・曠野・山林・道路中にして、病を見て救済せずんば輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の十、畜殺衆生具戒)若佛子、一切の刀杖・弓箭・鉾斧・鬪戰之具を蓄(たくはふ)ることを得ざれ。及び惡羅網・殺生之器、一切畜ふるを得ざれ。而も菩薩は乃至殺父母すら尚ほ報を加へず。況んや餘の一切衆生を殺すをや。若し故さらに畜(たくはえ)ば、輕垢罪を犯す。
如是の十戒は應當に敬心に奉持せよ。下六品中に當に廣く明かすべし。

(四十八輕戒の十一、國使戒)
若佛子、利養惡心の為の故に、國の使命を通じて軍陣に合會し、師を興(おこ)して相伐ち、無量の衆生を殺さしむることを得ざれ。而も菩薩は軍中に入りて往來するを得ず。況んや故さらに國賊と作んをや。若し故さらに作せば者輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の十二、販賣戒)若佛子、故らに良人六畜を販賣し、棺材の板木・死を盛るの具を市易すること尚ほ自ら作すべからず。況んや人に教へて作さしむるをや。若し故さらに作せば輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の十三、謗毀戒)若佛子。、惡心を以ての故に事無きに他の良人・善人・法師・師僧・國王・貴人を謗りて七逆十重を犯すと言はん。父母・兄弟・六親中に於いては應に孝順心慈悲心を生ずべし。而も反って更に逆害を加へて不如意處に堕せしむ者は輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の十四、放火焼戒)
若佛子、惡心を以ての故に大火を放ちて山林曠野を燒くこと
四月より乃し九月に至り、若し他人の家・屋宅・城邑・
僧房・田木及び鬼神官物を焼かんに、一切有主の物は故(ことさら)に燒くことを得ざれ。若し故に燒く者は輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の十五、僻教戒)
若佛子、佛弟子より外道悪人・六親・一切善知識に及ぶまで、應に一一に教へて大乘の經律を受持せしむべし。應に教へて義理を解せしめ、菩提心・十發心(捨心,戒心,忍心,進心,定心,慧心,願心,護心,喜心,頂心)・十長養心(慈心、悲心、喜心、捨心、施心、好語心、益心、同心、定心、慧心)
・十金剛心(覺了法性・化度衆生・莊嚴世界・ 回向善根・事奉大師・實證諸法・廣行忍辱・長時修行・自行滿足・滿足他願)を發せしめ、三十心中に於いて一一に其次第法用を解せしむべし。而も菩薩、惡心瞋心を以て横に二乘聲聞の經律・外道の邪見論等を教へば、輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の十六、為利倒説戒)
若佛子、應に好心をもて大乘威儀經律を先學して、廣く
義味を開解すべし。後新學の菩薩、百里千里より來りて
大乘經律を求むる有らんを見ては、應に如法に爲に一切の苦行を説き、若しは燒身し、臂を燒き、指を燒かしむべし。
若し身臂指を焼いて諸佛を供養せずんば出家菩薩にあらず。乃至、餓へたる虎狼師子・一切餓鬼に悉く應に身肉手足を捨てて之を供養せしむべし。後に一一に次第に爲に正法を説きて心開き意解せしめよ。而も菩薩、利養の為の故に應に
答ふべきを答へず、倒に經律を説きて文字前無後無く三
寶を謗じて説く者は輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の十七、恃勢乞求戒)
若佛子、自ら飮食錢物・利養名譽の爲の故に、
國王・王子・大臣・百官に親近して、恃(たのみ)て形勢を作して、乞索(こつさく・地位を利用して、他人に財物をもとめること)・打拍(ちょうちゃく)牽挽(けんばん・引きずりまわす)して、横に錢物を取り一切求利するを、名けて惡求多求と為す。他人に教へて求めしめ、都て無慈心・無孝順心なる者は輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の十八、無解作師戒)
若佛子、戒を學誦せん者は、日夜六時に菩薩戒を持ち、
其の義理・佛性之性を解すべし。而も菩薩は、一句一
偈及び持律の因縁を解せずして、詐って能く解すと言ふ者は、即ち自ら欺誑し亦た他人を欺誑す。一一に解せず、一切の法を知らずして而も他人の為に師と作って授戒する者は輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の十九、両舌戒)
若佛子、惡心を以ての故に、持戒の比丘、手に香爐を捉りて
菩薩行を行ずるを見て、而も過を兩頭に鬪はしめ(両舌し)、賢人を謗欺し、惡として造らざることなしといふ者は輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の二十、不行放救戒)
若佛子、慈心を以ての故に放生業を行ぜよ。一切の男子は是
れ我が父。一切の女人は是れ我が母なり。我が生生に之に従って生を受けずといふことなし。故に六道の衆生は皆な是れ我が父母なり。而も殺し、而も食する者は、即ち我父母を殺し、亦た我が故身を殺すなり。一切の地水は是れ我が先
身、一切の火風は是れ我が本體なり。故に常に放生を行じ、生生に生を受けしむるを常住之法とし、人に教へて放生せしめ、若し世人の畜生を殺すを見ん時は應に方便して救護し其の苦難を解け。常に教化して菩薩戒を講説し、衆生を救度せよ。若し父母兄弟死亡之日は、應に法師を請じて菩薩戒經律を講じ、福をもて亡者を資(たす)くれば、諸佛を見るを得、人天上に生ぜしむべし。若し爾らずんば輕垢罪を犯す。
如是の十戒應當に學して敬心奉持せよ。滅罪品中に廣く
一一の戒相を明かすが如し。
(四十八輕戒の二十一、瞋打報仇戒)
佛言はく、佛子よ、瞋を以て瞋に報ひ、打を以て打に報ふことを得ざれ。若し父母兄弟六親を殺さるとも報を加ふるを得ざれ。若し國主、他人の為に殺さるとも亦た報を加ふるを得ざれ。生を殺して生に報ずるは孝道に順ぜず。
尚ほを畜へて打拍罵辱せず、日日に三業を起こす、罪を得ること無量なり。況んや故さらに七逆之罪を作らんをや。而も出家の菩薩、慈心無くして讎を報じ乃至六親中に故さらに報ぜば輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の二十二、驕慢不請法戒)
若佛子、初始て出家し未だ所解あらざるに、而も自ら聰明
有智を恃んで、或は高貴年宿を恃み、或は大姓高門、大解
大福、饒財七寶を恃み、此れを以て憍慢して、而も先學
法師に經律を諮受せず、其の法師は或は小姓年少・卑門貧窮・
下賤・諸根不具なり。而も實に有徳にして一切の經律を盡く解す。而も新學の菩薩、法師の種姓を観ることを得ざれ。而も來って法師に第一義諦者を諮受せざれば輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の二十三、驕慢僻説戒)
若佛子、佛滅度の後、好心を以て菩薩戒を受けんと欲する時は、佛菩薩形像前に於いて自誓受戒すべし。當に七日、佛
前に懺悔せよ。好相を見るを得ば便ち得戒せん。若し好相を得るを得ざれば應に二七・三七乃至一年して要(かなら)ず好相を得べし。好相を得已りて便ち佛菩薩形像前にして受戒することを得るなり。若し好相を得ずんば佛像前に受戒すと雖も得戒するを得ず。若し現前、先に菩薩戒を受けし法師前に受戒する時は、要(かならず)しも好相を見るを須(もちひ)ず。何を以っての故に。是の法師は師師相授する故に、好相を須(もちひ)ず。是を以って法師前に受戒すれば即ち得戒す。至重心を生ずるを以ての故に便ち得戒す。
若し千里内に能く授戒する師なくんば、佛菩薩形像前に自ら誓ひて戒を受くることを得、而も要(かなら)ず好相を見るべし。若し法師、自ら經律大乘の學戒を解すると、國王太子百官の為に以って善友たるとに倚りて、而も新學の菩薩、來りて、若しは經義、若しは律義を問はんに、輕心惡心慢心にて一一に好く答問せざる者は輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の二十四、不學佛戒)
若佛子、佛の經律・大乘法・正法・正見・正性・正法身あらんに、而も勤學し修習する能はず、而も七寶(大乗)を捨て、反って邪見の二乘・外道俗典・阿毘曇雜論・一切書記を學せば、是れ佛性を斷ち、障道の因縁なり。菩薩道を行ずる者にあらず。若し故(ことさら)に作す者は輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の二十五、不善和衆戒)
若佛子、佛滅後、説法主となり、僧房主となり、教
化主、坐禪主・行來主(衆僧を率いて遊行する)とならんに、應に慈心を生じて善く鬪訟を和し、善く三寶物を守り、無度無く用ひること自己有の如くすること勿るべし。而も反って衆を亂して鬪諍せしめ、心を恣ひまにして三寶物を用ひる者は輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の二十六、獨受利養戒)
若佛子、先に僧房中に在住し後に客菩薩比丘の僧房・舍宅・城邑・國王宅舍中乃至夏坐安居處及び大會中に来入せんと見ば、先住僧は應さに來を迎へ去るを送り、飮食供養し、房舍臥具・繩床木床、事事に給與すべし。若し物無くば應に自身及び男女を賣るべし。自らの身肉を割いて賣りて供給し、所須、悉く以って之に與ふべし。若し檀越ありて來りて衆僧を請ぜば客僧に利養の分あらしめよ。僧房主、應に次第に客僧を差(つかは)して請を受けしむべし。而も先住僧は獨り請を受けて客僧を差つかはさずんば、僧房主は無量罪を得る。
畜生と異る無く、沙門に非ず、釋種姓に非ず、若し故らに作す者は、輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の二十七、受別請戒)
若佛子、一切、別請(自分だけ特別な布施を受ける)を受けて利養を己に入るるを得ざれ。而も此の利養は十方僧に屬す。而も別に請を受くるは即ち十方の僧物を取りて己に入るるなり。八福田(仏・聖人・和尚・阿闍梨・僧・父・母・病人)中の諸佛聖人・一一師僧・父母病人の物を自己に用ふるが故に輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の二十八、別請僧戒)
若佛子、出家の菩薩・在家の菩薩及び一切檀越有りて、
僧福田を請じて求願之時、應に僧房に入りて知事の人に問へ。今僧を請じて願を求めんと欲すと。知事は報へて言へ。次第に請ぜば即ち十方賢聖僧を得ん。而も世人、五百羅漢菩薩僧を別請するは僧次の一凡夫僧に如かず。若し別に僧を請ぜば、是外道の法なり。七佛に別請の法なし、孝道に順ずぜず。若し故(ことさら)に僧を別請せば輕垢罪を犯す。


(四十八輕戒の二十九、邪明自活戒)
若佛子、惡心を以ての故に利養の為の故に男女の色を販賣し、自ら手ずから食を作り、自ら磨り、自ら舂(うすつ)き、男女を占相し、解夢の吉凶、是れ男・是れ女を解し、呪術し、工巧し、調鷹の方法をなし、百種の毒藥・千種の毒藥・蛇毒・生金銀(毒)・蠱毒(虫の毒を使って呪う邪術)を和合し、都て慈心無く、孝養心無し。若し故らに作す者は輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の三十、不敬好時戒)
若佛子、惡心を以ての故に、自身に三寶を謗り、詐りて親
附を現ず、口には便ち空を説きて、行は有中に在り、白衣の為に男女を通致して婬色を交會し縛著し、六齋日・年の三長齋月(正月、五月、九月)に於いて殺生・劫盜・破齋・犯戒を作さば輕垢罪を犯す。如是の十戒は應當に學して敬心奉持すべし。制戒品中に廣く解すが如し。
(四十八輕戒の三十一、不行救贖戒)
佛言はく。佛子よ、佛滅度の後、惡世中に於いて、若し外道・
一切惡人・劫賊の佛菩薩父母の形像を賣り、經律を販賣し、
比丘比丘尼を販賣し亦た發心の菩薩道人を賣り、或は官使となし、一切の人に與へてと作す者を見ば、而も菩薩、
是の事を見已りて應に慈心を生じて方便救護し、處處に教
化して物を取り、佛菩薩形像及び比丘比丘尼・發心の菩薩・一切の經律を贖(あがな)へ。若し贖はずんば輕垢罪犯す。

(四十八輕戒の三十二、損害衆生戒)
若佛子、刀仗弓箭を畜へ、輕秤小斗を販賣し、官の形勢に因りて人の財物を取り、害心もて繋縛し、成功を破壞し、猫狸猪狗を長養するを得ざれ。若し故らに作す者は輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の三十三、邪業覚観戒)
若佛子、惡心を以ての故に、一切男女等の鬪・軍陣兵將・劫賊等の鬪を観、亦た吹貝・鼓角(つつ゛みと角笛)・琴瑟(琴と大琴)・箏笛・箜篌・歌叫・伎樂之聲を聴くことを得ざれ。摴蒲(ちょぼ・カルタ)圍碁・波羅賽戲(はらさいぎ・象棋)彈碁(たんご・漢宮人粧奄戲)六博(雙陸戲)・拍毬(はくきく・蹴鞠)擲石投壺(ちゃくしゃくとうこ・投扇の如きもの)八道行城(日本の十六武蔵に似たる遊戯)爪鏡(そうきょう・爪に薬を塗り占う)蓍草(きそう・芝草で占う)楊枝・鉢盂・髑髏をもて卜筮を作すを得ざれ。盜賊の使命を作すことを得ざれ。一一に作すを得ざれ。若し故らに作す者は輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の三十四、暫念小乗戒)
若佛子、禁戒を護持して、行住坐臥日夜六時に、是の戒を讀誦すること、猶ほし金剛の如くし、浮嚢を帶持して大海を度らんと欲するが如くし、草繋の比丘(『賢愚経第五沙彌守戒自殺品第二十三』に、『又諸比丘、賊の劫奪するところとなり、草を以て繋縛せらる。風吹き日曝らし諸蟲唼食すも、戒を護るを以ての故に草を絶ちて去らず』)の如くせよ。常に大乘の善信を生じて、我は是れ未成之佛、諸佛は是れ已成之佛なることを知れ。菩提心を發して、念念に心を去らざれ。若し一念も二乘外道心を起こさば輕垢罪を犯す。
(四十八輕戒の三十五、不発願戒)
若佛子、常に應に一切願を發して、父母師僧三寶に孝順し、
好師・同學善友知識と常に我に大乘經律を教へ、十發趣(捨心,戒心,忍心,進心,定心,慧心,願心,護心,喜心,頂心)十長養(慈心、悲心、喜心、捨心、施心、好語心、益心、同心、定心、慧心)十金剛(有非有・無顛倒・所依・幻等・無分別・本性常清淨・雜染清淨・性淨喻虛空・無減・無增)
十地(法雲・善想・不動・遠行・現前・難勝・焔光・発光・離垢・歓喜)、我をして開解せしむるを得て、如法修行し、佛戒を堅持せんと願ふ。寧ろ身命を捨つるとも念念に心を去らざらしめよ。若し一切の菩薩、是の願を發せざる者は輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の三十六、不発誓戒)
若佛子、十大願を發し已りて佛の禁戒を持ちて、是の願を作して言ふべし、寧ろ此身を以て熾然猛火の大坑刀山に投ずとも終に三世諸佛の經律を毀犯し一切の女人と不淨行を作さずと。復た是の願を作せ。寧ろ熱鐵羅網を以て千重周匝して身に纒ふとも、終に破戒之身を以て信心の檀越の一切の衣
服を受けず、と。
復た是の願を作せ。寧ろ此口を以て熱鐵丸及び大流猛火を呑みて百千劫を經とも、終に破戒之口を以て信心檀越の百味飮食を食せず、と。
復た是の願を作せ。寧ろ此の身を以て大猛火羅網・熱鐵
地上に臥すとも、終に破戒之身を以て信心檀越の百種の床座を受けず、と。
復た是の願を作せ。寧ろ此身を以て三百鉾の刺を一
劫二劫經るとも、終に破戒之身を以て信心檀越の百味醫藥を受けず、と。
復た是の願を作せ。寧ろ此身を以て熱鐵鑊に投じて百千
劫を經とも、終に破戒之身を以て信心檀越の千種の房
舍・屋宅・園林・田地を受けず、と。
復た是願を作せ。寧ろ鐵鎚を以て此身を打碎し頭より足に至るまで微塵の如くならしめんも、終に破戒之身を以て信心
檀越の恭敬禮拜を受けず、と。
復た是願を作せ。寧ろ百千の熱鐵刀鉾を以て其の兩目を挑(えぐ)るとも、終に破戒之心を以て他の好色を視ず、と。
復た是願を作せ。寧ろ百千の鐵錐を以て耳根を劖刺(ざんし)して一劫二劫を經るとも、終に破戒之心を以て好音聲を聽かず、と。
復た是願を作せ。寧ろ百千の刃刀を以て其の鼻を割去すとも終に破戒之心を以て諸香を貪嗅せず、と。
復た是願を作せ。寧ろ百千の刃刀を以て其の舌を割斷すとも。終に破戒之心を以て人の百味の淨食を食せず、と。
復た是願を作せ。寧ろ利斧を以て其身を斬斫すとも、終に破戒之心を以て好觸を貪著せず、と。
復た是願を作せ。願くは一切衆生悉く成佛するを得ん、と。菩薩若し是の願を發せざる者は輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の三十七、冐難遊行戒)
若佛子、常に應に二時に頭陀し、冬夏に坐禪し、結夏安居すべし。常に楊枝・澡豆(石鹸)・三衣・瓶・鉢・坐具・錫杖・香爐・漉水嚢・手巾・刀子・火燧・鑷子(毛抜)・繩床・經・律・佛像・菩薩形像(以上は比丘の十八物)を用ひよ。而も菩薩、頭陀を行ずる時、及び遊方の時、百里千里を行来せんに、此の十八種物、常に其の身に随ふべし。頭陀は、正月十五日従り三月十五日に至る、八月十五日従り十月十五日に至る。是の二時中、此の十八種物、常に其の身に随うれば、鳥の二翼の如し。
若し布薩日は新學の菩薩、半月半月に布薩して十重四十八輕戒を誦せよ。諸佛菩薩形像前に於いてすべし。一人布薩せば即ち一人誦せよ。若し二人三人乃至百千人も亦た一人誦せよ。誦者は高座、聽者は下坐なり。各各九條七條五條袈裟を披(きる)べし。結夏安居も一一如法なれ。若し頭陀の時は難處に入ること莫れ。若しは國難・惡王・土地高下・草木深邃・師子虎狼・水火風難及び劫賊・道路に毒蛇ある、一切の難處には悉く入ることを得ざれ。若し頭陀行道乃至夏坐安居の時も是の諸難處には悉く入ることを得ざれ。若し故さらに入れば輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の三十八、乖尊卑次第戒)
若佛子、應に如法に次第に坐せ。先に受戒の者は前に在りて坐す。後に受戒の者は後に在りて坐すべし。老少・比丘比丘尼・貴人・國王・王子乃至黄門・とを問はず。皆な應に先受戒者は前に在りて坐せ。後受戒者は次第して坐せよ。外道癡人の若しは老、若しは少、前無く後無く、次第無きがご如く、兵奴之法(印度の軍隊は強弱順に並ぶ)の如くなること莫れ。我が佛法中には先の者は先に坐し、後の者は後に坐す。而も菩薩は一一に如法に次第に坐ぜずんば輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の三十九、不修福恵慧戒)
若佛子、常に應に一切衆生を教化して僧房・山林・園田を建立し佛塔を立作せよ。冬夏の安居、坐禪の處所、一切の行道の處、皆な應に之を立てよ。而も菩薩は應に一切衆生の為に
大乘經律を講説せよ。若し疾病・國難・賊難・父母兄弟和上阿闍梨亡滅之日及び三七日乃至七七日も亦た應に大乘經律を讀誦講説すべし。一切齋會して求福し、行來治生し、大火に燒かれ、大水に漂はされ、黒風に船舫を所吹され、江河大海羅刹之難にも亦た應に此經律を讀誦講説せよ。乃至一切の罪報・三悪七逆八難・杻械枷鎖して其身を繋縛、多婬・多瞋・多愚癡・多疾病にも皆な應に此經律を讀誦講説せよ。而も新學の菩薩、若し爾らざれば輕垢罪を犯す。如是の九戒、應當に學し敬心奉持すべし。梵壇品に當に説くべし。

(四十八輕戒の四十、揀擇受戒戒)
佛言はく、佛子よ、人に受戒を輿へん時、一切
の國王・王子・大臣・百官・比丘・比丘尼・信男・信女・
婬男・婬女・十八梵天・六欲天子・無根・二根・黄門・一切鬼神を揀擇することを得ず。盡く受戒するを得せしめよ。應に教へて身に著るところの袈裟は皆な壞色にして道と相應せしむべし。皆な染めて青黄赤黒紫色ならしめ、一切染衣にし、乃至臥具、盡く以て壞色にせよ。身に著くるところの衣は一切染色し、若し一切國土中の國人所著の衣服、比丘は皆な應に其の俗服と異なるべし。若し受戒せんと欲する時3は師は應に問ふて言はく、汝現身に七逆罪(殺父・殺母・殺阿羅漢・出仏身血・破和合僧・殺和尚・殺阿闍梨)をつくらざるや否耶。菩薩法師は七逆人のために現身に受戒するを得ざれ。七逆とは、出佛身血・殺父・殺母・殺和上・殺阿闍
梨・破羯磨轉法輪僧・殺聖人なり。若し七逆を具せば即ち
現身に得戒せず。餘の一切人は盡く受戒するを得。出家
人の法は不向國王禮拜・不向父母禮拜・六親不敬・鬼神不禮なり。但だ師語を解して百里千里より來りて求法の者あらんに而も菩薩法師、惡心を以て而も即ち一切衆生に戒を與授せずんば輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の四十一、為利作師戒)
若佛子、人を教化して信心を起こさしむる時、菩薩、他人のために教誡法師と作らば、受戒を欲する人を見て應に教へて二師を請ぜしむべし。和上と阿闍梨なり。二師は應に問ふて言ふべし、汝七遮罪有りや不や。若し現身に七遮有らば師は應さに與に授戒すべからず。七遮無くんば授くるを得。若し有十戒(十重戒、不殺戒・不盗戒・不淫戒・不妄語戒・不酤酒戒・不説過罪戒・不自讃毀他戒・不慳戒・不瞋戒・不謗三宝戒)を犯す者には應に教へて懺悔せしむべし。佛菩薩形像前に在りて日夜六時に十重四十八輕戒を誦して、若到(ねんごろ)に三世千佛を禮し、好相を見るを得よ。若しは一七日、二三七日乃至一年、要(かなら)ず好相を見よ。好相とは佛來りて摩頂し、光を見、華を見、種種異相を見て便ち滅罪を得る。若し好相無くんば、懺と雖も無益なり。是の人、現身に亦た戒を得ず。而も増して受戒せんをや。若し四十八輕
戒を犯す者は、對首懺悔して罪滅するを得る。七遮には不同なり。而も教誡師、是の法中に於いて一一に好く解すべし。若し大乘經律の、若しは輕、若しは重、是非之相を解せず、第一義諦・習種性(十発諏十住)・長養性(十長養十行)・不可壞性(十金剛十廻向)・道種性(十地)・正覚性(佛)、其中多少の觀行の出入、十禪支、一切行法を解せざれば、此
の法中の意を得ず。而も菩薩、利養の為の故に、名聞の為の故に、惡求多求し、弟子を貪利し、而も詐りて一切の經律を解すと現ず、供養の為の故にせん、是れ自ら欺詐し亦た他人を欺詐す。故さらに人の與(ため)に授戒する者は輕垢罪を犯す。



(四十八輕戒の四十二、為悪人説戒戒)
若佛子、利養の為の故に未受菩薩戒者前・若しくは外道惡人前に於いて、此の千佛大戒を説くことを得ざれ。邪見
人前にも亦た説くを得ざれ。國王を除きて餘の一切にも説くことを得ざれ。是の惡人の輩は不受佛戒なれば、名けて畜生と為す。生生に三寶を見ず、木石の如く心無し。名けて外道邪見の輩と為す。木頭と異ならず。而も菩薩は是の惡人前に於いて七佛教戒を説かば輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の四十三、無慙受施戒)
若佛子、信心もて出家し佛の正戒を受け、故さらに心を起こして聖戒を毀犯せば、一切檀越の供養を受くることを得ず。亦た國王の地上を行くことを得ず。國王の水を飲むことを得ず。五千の大鬼は常に其前を遮り、鬼は大賊なりと言はん。若に房舍・城邑宅中に入らば、鬼は復た常に其の脚跡を掃ふ。一切世人、罵く佛法中の賊なりと言ふ。一切の衆生は眼に犯戒の人を見るを欲せず。畜生と異ることなし。木頭と異なることなし。若し正戒を毀る者は輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の四十四、不供養経典戒)
若佛子、常に應に一心に大乘經律を受持讀誦せよ。
皮を剥ぎて紙と為し、血を刺して墨と爲し、髓を以て水と為し、骨を析りて筆と爲し、佛戒を書寫すべし。木皮穀紙・絹素竹帛、亦た應さに悉く書持すべし。常に七寶無價の香花、一切雜寶を以て箱嚢と為し、經律卷を盛るべし。若し如法に供養せずんば輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の四十五、不化衆生戒)
若佛子、常に大悲心を起こし、若し一切城邑舍宅に入りて
一切衆生を見ては、應當に唱言すべし。汝等衆生、盡く應さに三歸十戒を受くべし、と。若し牛馬猪羊一切畜生を見ては、應に心に念じて口言すべし、汝是畜生、菩提心を發せよ、と。而も菩薩、一切處・山林川野に入るに、皆な一切衆生をして菩提心を發せしめよ。是の菩薩、若し教化衆生せざる者は輕垢罪を犯す。


(四十八輕戒の四十六、説法不如法戒)
若佛子、常に教化を行じて大悲心を起こせ。檀越貴人の
家に入りては、一切衆中に、立ちて白衣(俗人)の為に説法することを得ざれ。應に白衣の衆前の高座上に坐せ。法師比丘は地に立ちて四衆(白衣)の為に説法することを得ざれ。若し説法の時は、法師は高座にて香花供養し、四衆の聽者は下坐し、父母に孝順するが如くし、師教に敬順すること、
事火婆羅門の如くせよ。其の説法者は若し不如法ならば輕垢
罪を犯す。

(四十八輕戒の四十七、非法師限戒)
若佛子、皆な信心を以て佛戒を受くる者、若し國王・太子・
百官・四部弟子(比丘・比丘尼・沙弥・沙弥尼)、自ら高貴を恃んで、佛法の戒律を破滅し、明かに制法を作りて、我が四部の弟子を制し、出家行道を聽さず、亦復た形像佛塔經律の造立を聽さず、統を立てて衆を制し、籍を安んじて僧を記し、菩薩の比丘は地に立ち、白衣は高座にし、広く非法を行ずること、兵奴の主の事ふるが如くせん、しかも菩薩はまさに一切人の供養を受くべし。而も反って官の為に走使して非法非律ならんや。もし国王百官、好心もて佛戒を受けん者、この三宝を破するの罪を作すこと莫れ。若しことさらに破法を作せば輕垢罪を犯す。

(四十八輕戒の四十八、破法戒)
若佛子、好心を以て出家し而も名聞利養の為に國王百官前に於いて佛戒を説く者は、横に比丘比丘尼の菩薩戒の弟子の為に繋縛の事を作して、獄囚の法の如くし、兵奴の法の如くす、
師子身中の蟲の自ら師子の肉を食うて、余の他の蟲にあらざるが如し。如是に仏子自ら仏法を破す、外道天魔の能く破するに非ず。若し佛戒を受くる者は應に佛戒を護して一子を念ずるが如く、父母に事(つかふ)るが如くせよ。而も菩
薩、外道惡人の惡言を以て佛戒を謗るを聞く時、三百鉾の心を刺し、千刀萬杖、其身を打拍するが如く等しくして異あることなし。寧ろ自ら地獄に入り百劫を經るとも、而も一たびも惡言の佛戒を破するの聲を聞かず。而も況んや自ら佛戒を破し、人に破法因縁を教へ亦た孝順之心無からんをや。若し故らに作す者は輕垢罪を犯す。

如是の九戒、應當に學し敬心奉持すべし。
諸佛子、是の四十八輕戒、汝等受持すべし。過去諸菩
薩已に誦し、未來諸菩薩も當さに誦すべく、現在諸菩薩は今誦す。
諸佛子よ、諦聽せよ。此の十重四十八輕戒は、三世
諸佛已に誦し當に誦すべく今誦す。我今亦た如是に誦す。汝等一切大衆、若しは國王王子百官比丘比丘尼信男信女、菩薩戒を受持する者は、應に佛性常住の戒卷を受持讀誦解説書寫せよ。三世一切の衆生に流通して化化不絶なれば、千佛を見ることを得る。佛佛は手を授け、世世に惡道八難に墮せず常に人道天中に生ず。我今此樹下に在りて、略して七佛の法戒を開く。汝等當に一心に波羅提木叉を學して歡喜奉行すべし。無相天王品の勸學中に一一に廣く明す。三千の學士、時に坐して聽く者、佛の自誦したまふを聞きて、心心に頂戴し喜躍受持す。
爾時、釋迦牟尼佛、上蓮花臺藏世界盧舍那佛心地法門品中の十無盡戒法品を説き竟んぬ。千百億釋迦も亦た如是に説く。摩醯首羅天王宮より此の道樹に至るまで、十住處にて法品を説きたまへり。一切菩薩・不可説大衆、其義を受持讀誦解説すること亦た如是なり。千百億世界・蓮花藏世界・微塵世界・一切佛の心藏(三十心)と地藏(十地)と戒藏(十重四十八軽戒)と無量行願藏(六度萬行・十大願)と因果佛性常住藏(佛性は因果を超越して常住ということ)と如是一切の佛説の無量一切法藏、竟んぬ。千百億世界中の、一切の衆生、受持歡喜奉行せり。若し廣く心地の相相を開くは佛花光王品中に説く。
明人は忍慧強くして 能く如是の法を持(たも)つ
未だ佛道を成ぜざるの間 五種の利を安獲す
一は十方佛 愍念して常に守護す
二は命終時 正見して心歡喜す
三は生生處 諸菩薩の友と為る
四は功徳聚まり 戒度悉く成就す
五は今後世に 性戒福慧滿ず
  此は是れ佛の行處なり。
智者は善く思量せよ。
計我著相の者は 信是の法を信ずること能はず
滅盡取證の者は 亦た下種の處に非ず
菩提の苗を長じ 光明、世間を照らさんと欲せば
應當に靜かに觀察せよ
諸法眞實の相は
不生亦不滅 不常復不斷
不一亦不異 不來亦不去
如是に一心中に 方便して勤て莊嚴せよ
菩薩の作すべき所は 應當に次第に學すべし
學に於いても無學に於いても 分別想を生じること勿れ
是を名けて第一道となす  亦た名けて摩訶衍となす
一切戲論の悪は 悉く是の處よりして滅す
諸佛の薩婆若(一切智)は 悉く是の處より出ず
是故に諸佛子よ 宜しく大勇猛を發して
諸佛淨戒に於いて 護持すること明珠の如かれ。
過去の諸菩薩は 已に是の中において學す
未來の者は當に學すべし 現在の者は今學す
此は是れ佛の行處にして 聖主の稱歎したまふ所なり
我已に隨順して説く 福徳無量の聚
迴して以って衆生に施し 共に一切智に向はむ
願くは是の法を聞く者は 疾く佛道を成ずることを得んことを。
梵網經盧舍那佛説菩薩心地戒品第十之下
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