問。真言宗は佛境界の教門にて、法華、華厳、大乗円頓の教えを超えて、秘密最上無上の宗旨たるよしうけたまわれり。しからばわれら今日此教に遇ふて即身成仏の旨を聞き得るならば、その上に観法修行種種造作に渉るべきは無用のことにてあるべきなり。
答。これまた至要の問いなり。かんがみるにそれ今時末世諸宗共に、出家も在家も邪知邪解の輩すくなきにあらず。多くはまた邪師邪教の罪より起これり。これらは是皆天魔外道の伴侶にして、みずから三悪道の苦を招く。自宗の悪知識は表徳ぼこりとやらんに叨(みだり)に誇り、佛言祖句まことに醍醐の妙薬、鏌邪(ばくじゃ)の剣のごとくなる至宝重器をもって却って自ら害し、自ら毒とすること、実に悲しき至極なり。
およそ諸宗の宗徒、生死涅槃、邪正一如、即心即佛、本来無一物、一超直入如来地なんど、心に邪解し口にみだりにいひ、身三口四意三すべて犯さぬこと無し。澆季僻見、最も悲しき事どもなり。自ら悟れりとおもへるは、我見増上慢にして却って実に迷妄愚痴。およそ乱心の所業に似たり。
法を知るものは恐ると云へり。行住坐臥、修行観法、万境万縁に歴て佛心佛行にそむかぬごとく、修錬工夫いよいよその功を積まるべし。達磨大師九年面壁これ何のためぞや。弘法大師塩穀を断ちて冬夏をすごしたまへること、これ無益のこととせんや。三国顕密禅の諸祖みなかくのごとし。金剛薩埵は大日如来の付法なり。修行の次第を問ひたまへること種々に真切なり。如来また一一つぶさに開説ましませしこと甚深也。
諸仏諸祖を明鑑として悟れる上もいよいよ修行肝要なり。あるいは又座禅看経等を訶する事あるは只これなずめるを破する一方便なり。有を執え無を越ゆる共に佛心に背けるなり。
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