大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 1月14日 六甲山

2014-01-14 18:22:35 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 1月14日 六甲山



 世の中には、幽霊を見たことがあると言う人が結構います。
父もその一人。
 昔、ある旅館で夜中に金縛りにあい、うなされて目をさましたら、部屋の隅になにか白いものがふわりと漂っていたそうです。
ぎょっとして飛び起きて部屋の電気をつけると、その白いものは電気の光とともに消えてなくなって、部屋には何の形跡もない。
不思議に思いながらも、また電気を消して寝直しをし、それっきり父の部屋には異変は起こらなかったそうなのですが、隣室でおかしなことが・・・。
 父が寝直しをし始めてしばらくたったころ、今度は隣の部屋から、隣人がうなされる声が聞こえてきたんです。
さっき自分が金縛りにあったときのような隣人のうなされ方に、隣室にあの白いものが移動したのだと、父は思ったそうです。

 ところで、幽霊は見えることはあっても、話したりしないのが普通です。
しかし、幼馴染みののりちゃんは、幽霊を聞いたのだと言いました。
夜に一人で自分の部屋にいると、時たま聞こえてくるんだそうです。
 最初は遠くのほうから聞こえてくるのですが、その声がだんだん部屋に近づいてきて、壁を通り向けて自分の部屋の中に入ってきたかと思うと、また反対側の壁を通り越して去っていく。
どんな声が聞こえるのかというと、笑い声なんですと。
夜一人のときに、そんな怖いもん聞きたい人いないよ。


 さて、それで山歩きが好きな父が足繁く通う、六甲山系(神戸の後ろの山並み)の麓でのことです。
 今年の8月、登山道の入り口である茶屋まで道路を歩いていた父が、道路の脇に骨が転がっているのに気がつきました。
よくこの登山道へ来ているけれど、前日にはこんなものはなかった。
それは犬や猫よりも大きくて、何の動物だか分からないけれど、人間の骨に似ている。

 茶屋で、「あそこに骨が転がってますけど、あれ、ひょっとして人間の骨なんじゃないですかね」と店の人に言うと、骨に気がついた登山者がすでに何人かいたようで、店の人も「そうなんですよねえ」と気にしているよう。
しかし、人間の骨がそこらへんに転がってるなんてありえないことだし、誰もが「まさかね」「何か他の動物かも」と考え、そのまま父も登山道に入りました。

 そして約1時間後、山から下ってきてまた骨のあった場所を通りかかったとき、気になった父がそこらへんの茂みをあちこち探して見ると、やはり数本、人骨に似た骨が転がっている。
疑惑を濃くした父は、ちょうど行きかかった一人の登山者を引きとめ、骨を見せて聞いてみた。

「 これ、人間の骨に見えませんか?」
「 確かに、そう見えますね」

誰が見ても、やはりこれは人間の骨に見える。
 ここでついに、疑惑の骨はやはり人間のものであると判断した父は、茶屋に取って返して警察に通報。
しばらくするとパトカーが到着し、骨は専門化の手で調べられることになったわけですが、結果はやはりというか、人間の骨でした

 登山道に続く道路は、左側は崖のような斜面の下に谷川が流れていて、右側は山の斜面になっている。
警察は骨が見つかった場所から捜索を斜面の上に広げ、他になにか残っていないか調べ始めました。
そして、その結果は・・・、なんと、頭蓋骨まで出てきた

 この斜面の上方は登山訓練用の場所もなく、危険な登山道もないことから、父は自殺者ではないかと推測しています。
完全に白骨化しているその遺体は、深い山の中に長い期間ひっそりと横たわっていたのでしょう。
発見される少し前に大雨が降ったから、土砂とともに上から流されてきたのだろう、とは父の言葉。
 この山にいる野生のイノシシの餌になったかもしれない、なんてことも言ってますが、それはあまり想像したくないシーンです。

 六甲山は神戸市の西の端から宝塚市の間に横たわる山系で、標高1000m以下と低い山ではありますが、登山道は網の目のように広がり、ロッククライミングの練習場になるような険しいところもあります。
山頂には展望台や六甲山牧場など、娯楽施設もあるものの、毎年遭難者がでている侮れない山。

 もしこの遺体の人物が自殺ではなく、なんらかの理由で遭難した人だとしたら、動けなくなって助けも来ないなか、飢えと乾きに苦しみながら衰弱していったことになる。
そこで思い出したのが、実際にあった遭難劇。
またもや父の登場と相成ります。

 一般登山道から離れた、人気のない道を歩いていた父は、谷川のある崖下のほうから声が聞こえてくるのに気がつきました。
ひょいと下を覗いてみると、男性が一人いて、どうも様子がおかしい。
 気になった父がその男性のところに降りてみたわけですが、男性は弱りきってい、満足に歩けない様子で、何かがあったのは明白。もしかしたら、崖の上から落ちたのかもしれません。
歩けるか、と聞いてもしっかりした答えは帰ってこず、ふらふらとそこらを彷徨うような状態だったため、父は安全のためにその人をそばの木にくくりつけ、一人救援を求めて下山しました。

 この遭難者はその後病院に運ばれ、体調も回復して父に感謝したそうですが、場所は人気のない登山道。
たまに人の通りがある程度だから、運が悪いとしばらく遭難したままになっていたかもしれない。
もしあの時誰にも見つからなかったら・・・・・・。
父が見つけた人骨に、その遭難者がダブって見えてしまった。

 しかし、ここでふと考える。
私はこの骨の持ち主が自分でここまで来たと思っているけれど、連れてこられた可能性だってあるわけです。
その場合に考えられるのは、殺人

 げーっ、発見された人骨が殺された遺体の可能性だってある。
恨みを抱いて亡くなったのか、苦しみながら亡くなったのか、ここまで白骨化してしまっては調べるすべはもうないけれど、少なくとも無縁仏として葬ってはもらえることになりました。
もしかしたら、あまりに寂しくて自分から出てきたのかもしれない。
骨の持ち主さん、どうぞ成仏してください、南無阿弥陀仏。

 父が遭難者を助けたときのこと、まるで犯人かの様な厳しい取調べを警察で受けたそうです。
つまり、第一発見者を疑え、です。
無事に被疑者リストから外れた父は、後で人命救助の表彰を受けたそうですが、そんな話を聞くと警察に協力する気持ちが萎える。
最初が肝心なんだろうけど、もちっとお手柔らかにならないものだろうか?












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