大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 1月30日 夜勤

2014-01-30 20:59:50 | B,日々の恐怖




      日々の恐怖 1月30日 夜勤



 コンビニで夜勤のアルバイトをしていたときの話です。
入って3ヶ月くらいのある晩、同じ夜勤の人間でその日は深夜1時に上がる予定だった先輩が、

「 今日は明け方まで残ってもいいかな?」

と私に聞いてきた
 ウチの店は深夜1時までは二人制、1時から翌朝6時までは一人での勤務になる。

「 べつに構いませんけど、どうかしたんですか?」

その日は特別な仕事も無く残業をする理由などないはずだ

「 仕事じゃないよ、タイムカードももう切ったしね。
ただ、事務所にいさせてくれればいいんだ。」

 レジ内の扉の先にある狭い事務所は、横に長いスペースに事務用のパソコン机、更衣室、在庫品用の保管棚が並んでいる、二人がなんとか通り抜けられるような部屋、そんな場所にあと3、4時間もいたいというのだ。

「 先輩の家すぐ近くでしたよね、歩いて5分くらいの。
鍵でも失くしました?」

私が尋ねると先輩は苦笑いを浮かべてこう言った。

「 ちょっと確かめたいことがあるんだ、笑わないでくれよ。」

 先輩の話によると、一人で夜勤をしている際、事務所にいると誰もいないはずの店内から、

「 すみません。」

と声をかけられることがあるという
 来客を知らせるチャイムが風や振動などで誤作動を起こしたり、逆に人が入ってきても鳴らないということはたまにあることなので、

「 はーい、お待たせ致しました~。」

とレジ内の扉から店に出ると店には誰もいない
 また別の日、事務所で作業中、

「 すみません。」

と声をかけられ、今度は扉近くの事務机で作業をしていたため、すぐさま店に出るがやはり誰もいない
 さらに別の日またしても聞こえてきた、すみませんの声に素早く防犯カメラのモニターを見るも、店内はもちろん店のすぐ表を映しているカメラにも誰も映っていない。
こんなことが週に1、2度はあるのだという。

「 キミは、そんな経験ない?」

先輩は最後にそう尋ねてきた
 自分も週に2回ほど夜勤をしているがそんな事があった覚えはない。
私が首を横に振ると先輩は、

「 そうか・・・。」

と再び苦笑いを浮かべて

「 とにかくよろしく頼むよ。」

と事務所に入っていった。


 それから二時間が経ち深夜3時。
その日は来客もほとんど無く、先輩の協力もあって作業も早々に片付き私たちは事務室でお喋りをしていた。
珍客話が盛り上がり、私がのんきにも先輩が残っている理由を忘れかけていたそのとき、

「 すいません。」

自分のすぐ後ろ、店内へと続く扉の向こうから声が聞こえた。
 先輩の話を思い出した私が先輩を見ると、モニターを見ていた先輩は私の視線に気づき首を振る。
やはり誰も映ってはいない。
 内心焦りながらも私が、

「 レジ近くにもカメラの死角ありますし、一応確認してきますね。」

と店内に出るために扉に手を伸ばすと、

「 待て!」

先輩が突然声を張り上げた
 驚いて硬直した私に先輩は、

「 これ・・・。」

とモニターの一部を指差す。
 先輩の指差す場所。
モニターに映ったレジ内部。
防犯カメラの死角ギリギリに映る事務所への扉の下半分。
そこに黒く長い髪と女の足が映っていた。
 それも立っているのではない。
カメラに映った部分からその女の状態を考えると壁にしがみついている。
壁に張り付いているような女の足。
そして膝から上を覆い隠している長い髪。
モニターにはそこしか映っていない。
 私は振り返れなかった。
自分のすぐ後ろの扉の、ちょうど私の胸元から頭頂部くらいまでの位置にある一辺50センチほどの正方形の窓。
 マジックミラーになっていて、向こう側からは覗けないはずのこちらを女が見ているような気がした。

「 消えた。」

先輩の一言に我を取り戻すと、すでにモニターの中には誰も映っていなかった。



 それから月末までの数日間、私は内心怯えながら勤務にあたったが、その後例の声を聴くこともモニターにあの女が映ることもなかった。
 そして翌月の初め、先輩が店を辞めた。
気になってオーナーに話を聴くと、私とともにアレを見た次の日の晩、オーナーから防犯カメラの録画した映像を見る方法を聞くと、翌朝には辞めさせてほしいと言い出してきたのだという。

「 なんなんだろうねぇ、悪い事をしてたわけじゃないとは思うんだけど。」

不思議がるオーナーから録画した映像の見方を聞き出すと、私は一人になってすぐにその映像を見た。

「 ああ・・・・。」

私は合点がいった
 それは先輩が残っていった日より前、先輩が一人で夜勤をしていた晩、誰もいない店内からの声に応えて店に出る先輩が映った映像に、やはりソレも映っていた。
カメラの死角ギリギリの事務所への扉、その壁にしがみついているかのような女の足と髪。
そして扉が開き先輩が出て来て、その女を通過する。
モニターを元の状態に戻し、私は次のバイト先を探すことを決めた。












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しづめばこ 1月30日 P276

2014-01-30 20:59:22 | B,日々の恐怖
しづめばこ 1月30日 P276  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
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小説“しづめばこ”



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