大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 1月21日 犬

2014-01-21 18:03:32 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 1月21日 犬



 僕の地元では、毛の無い犬が出るという噂があった
当時小学生の僕は、その話を聞いて「普通に病気の犬なんじゃ?」といつも思っていた。
ところが友達は、「そんなもんじゃない。もっと気味悪くて、恐ろしいもんだ」と言うのだ。
 毛の無い犬は、深夜2時頃に国道から市民プールに向かう道路に現れ、プールを取り囲む林に消えていくのだという。
小学生の僕らに深夜2時という時間は、未知の世界で想像もつかない分、恐怖心を煽った。
 もう一つ怖かったのは、大人に毛の無い犬を聞いてはいけないし、その話をしている所を聞かれてはいけないという噂。
なぜかは知らないが、この話を大人に聞かれると、毛の無い犬の餌にされてしまうらしい。

 夏休みのある日、僕は友達のYの家に泊まった。
Yには大学生の兄Tさんがいて、僕の知らない外国の曲をよくギターで練習していた。
夜になるとYの部屋でゲームをし、Tさんから借りたマンガを読んだりして過ごしていた。
 夜中の12時を回った頃、Tさんが僕らの部屋に現れた。

「 まだ起きてるのか?」
「 今日は寝ないで朝まで起きてるんだ。」
「 そうなのか。俺今から車で出るけど、お前らも付いてくるか?」

 僕とYは顔を見合わせた。
小学生にとって深夜のドライブはとても魅力的で、好奇心が沸々とした。

「 うん、行く。」

僕らはYの両親に見つからないように部屋を出て、車に乗り込んだ。
 Tさんの用事自体は大したことなく、コンビニでジュースやお菓子を買ってもらい、僕らは上機嫌だった。
帰り道、Tさんはタバコをふかしながら僕に言った。

「 ○○くん、毛の無い犬知ってるか?」
「 うん。」
ドクンと心臓が鳴った。

Tさんはニヤッと笑うと、「見てぇか?」と聞いてきた。

「 兄ちゃん。見たことあるの?」
「 市民プールの通りだろ。どうする?」
「 見たいです」

実は少し怖かったが、好奇心には勝てなかった。

 すぐに車は市民プールについた。
デジタル時計は01:34と光り、林のざわめく音だけが不気味に響いた。

「 そろそろかな。一応鍵、閉めといてな。」

その言葉に、僕は消えかかっていた恐怖心を覚えた。
何故鍵を?毛の無い犬って何?
 車の中は蒸し暑く、額にはじんわりと汗がにじみ、Tさんの吐くタバコの煙が街灯に照らされている。

「 あれだ。」

Tさんが呟いた。
僕とYは、フロントガラスに顔を押し付けて外を覗き込む。
 規則的に刺さった街灯の明かりに、黒い影が揺れた。
冷や汗が頬を伝い、手の甲に落ちた。
なぜ深夜に?なぜ大人に話してはいけないの?
毛の無い犬は僕らの乗る車の横を通り過ぎ、プールの壁が作り出す影に混ざると、やがて見えなくなった。
 帰りの車でYが言った。

「 兄ちゃん。なんであれは・・・。」

それ以上言葉が出ない。

「 俺も詳しくは知らん。
でも、ずーっと前からああしてるらしい。」

Tさんもそれっきり何も言わなかった。
 僕とYは毛の無い犬の正体を知った。
深夜に現れる意味も、大人に聞いてはいけない訳も。
犬は本当の犬ではなかった。
でも僕にとっては人でも無かった。
犬でも人でも無かった。

今でも毛の無い犬は現れるのだろうか?
地元に帰るたび今でも思うが、それを確かめる気はもう無い。











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