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日々の恐怖 5月25日 病院の当直

2016-05-25 18:44:27 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 5月25日 病院の当直



 某県で医者をやってるけど、若手の頃に行かされてたとある精神病院の当直が非常に怖かった。
病院の構造をまず説明させてもらうと、全体にL字型の本館、Lの長辺の先端に新館が増設されている状態だった。
 当直室は、Lの角から外側に向かって事務区画となっておりその2階にあった。
本館・事務棟はおんぼろで、夜間は両建物共に照明が完全に落ちているので(ナースステーションという名の一部屋のみ除く)、夜間に呼び出された時はとても怖かった。
 ある日のこと、新館の患者のことで深夜2時に呼び出された。
新館に行くためには上述のごとく真っ暗な本館を通らなければならない。
暗闇も怖いが、医者になりたての自分は正直精神病患者も怖かった。
 実際は、意外に思われるかもしれないが、隔離室に入るような患者でなければ別に暴れたりということもない。
でも、ドアの鍵を開ける際はいつも傍に患者がいないか気を付けていた。
 この日もこんな時間だし皆寝ているだろうと思いつつ、しっかりと建物のL字短辺・長辺に誰もいないことを確認してから、事務棟から本館へ入る。
新館への道すがら病室の扉が並んでいるが、昔ながらの学校の木製の引き戸を想像してもらえば話が早い。
 怖いのでかなり早足で歩くが、明るい新館までは遠い。
そして、歩くうちに自分以外の足音が混ざっているのに気付いた。
自分が止まると一歩遅れてその足音も止まる。
後にも先にも全身が総毛立ったのはあの時だけだ。
 にもかかわらず、頭のなかではやけに冷静だった。
早足から小走りに変えて進んだが、足音はまた現れた、どころか近くなっている。
 数m進み、恐怖のあまり止まってしまった。
振り返るか振り返らないか、究極の選択だ。
 そうだ、患者かもしれないじゃないか、と無理矢理自分を納得させて、恐る恐る振り返るも誰もいない。
パニックになり、とにかく明かりを求めて新館へと走り出そうとした瞬間、白衣が引っ張られたのを感じた。
 正確には、掴まれている状態で走り出そうとしたせいでそう感じたのだろう。
たっぷり10秒は悩んだように感じたが、実際はもっと短かったかもしれない。
先程以上に恐る恐る振り向くと、視界の隅に違和感を覚える。
 反対側から振り向くと、130-140cm位の凄く小柄なお婆さんが立っていた。
やっぱり患者さんだったんだと安心して、部屋に戻って寝るように言い新館に向かったが、よくよく考えてみると、180cm弱の自分が、前後に誰もいないことを確認して早歩きで歩き出しているのに、そんなに小柄なお婆さんはどこから現れて、自分のすぐ後ろに追いついたのかが疑問に思えてきた。
 患者はすべてスリッパを着用しており、歩くと足音がかなり大きく聞こえる。
まして深夜で他の音がなければ余計そうだ。
そして部屋から出てきたにしても、木製の引き戸は音がする。
あの状況でそれに気付かなかったはずはない。
 その日はもう一度本館を通って事務棟へ戻る気になれなかったので、新館で夜を明かしたけれど、自分の中ではこれからも当直に来なきゃいけない病院だったので、無理矢理患者だったと思い込むことにした。










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