日々の恐怖 5月3日 電車の幽霊
幽霊を見た事があると言う知人の話です。
彼が電車に乗っていた時の事。
途中の駅から若い女性が乗り込んで来た。
凄い美人でミニスカートから綺麗な足が伸びている。
女性は空いている席を探している様な、知人を探している様な様子で車両を歩いていたらしい。
彼が鼻の下を伸ばしながら女性を見ていると、隣の席に座る老女がいきなり話しかけて来た。
「 あんたにも見えるんだね。」
「 ・・!?」
彼が、
“ 何を言うんだこの婆さん・・?”
と言う顔で見返すと、
「 周りを見てごらん。
あんた以外に、アレを見てる者はいるかい?」
彼はハッとしてしまった。
老女の言う通りである。
あれだけの美女が、あんな短いスカートをはいているのに誰も女性を見ていないのだ。
頭の悪そうな男子高校生さえも一瞥もしない。
老女は独り言の様に話を続けた。
「 あたしはプロだから見えるんだけどね。
でも、あんた見たいな素人にも見えるとは珍しいね。
アレはかなりタチの悪いモノだよ。
この近くで電車に飛び込んで、成仏できずに彷徨っているんだろうけど・・。」
「 飛び込みですか?
でも・・・・。」
彼は思わず聞いてしまったと言う。
老婆は女性が電車に飛び込み自殺をしたと言うが、女性は生きているかのように綺麗だったからだそうだ。
「 あんた、映画の見すぎだよ。
アンなモノでも昔は女だったんだよ。
女ってのはね、死んでも尚、綺麗でいたいものなんだよ。
あたしがこれまで手がけた女モノは皆、生きてたときの一番綺麗な姿で出て来たよ。
そんな事より、ホラホラ、アレが来るよ。
あんた絶対にアレと目を合わせちゃ駄目だよ。」
女性は彼と老女に気付いたのか、歩調を速めやってくると彼の前に立ちはだかった。
彼は本当に生きた心地がしなかったそうだ。
目をギュッと瞑りジッと下を向いたままであったと言う。
電車が次の駅に着いた時、やっと隣の老婆が声を掛けくれたらしい。
「 もういいよ。
ほら、アレは獲物を見つけて出て行くところだよ。」
彼がゆっくりと目を開けて顔を上げると女性は、二十歳そこらの、見た目の良い男と電車を降りるところだった。
残念ながら、彼はハゲ、デブ&オヤジのスリーカードを持っている。
老女は、
「 女の性なんだろうね。
捕りつく男もカッコ良いいのがいいのかね。」
と言うとニヤリと笑い言葉を続けた。
「 今日はサービスしといてあげるよ。
依頼なら一本は貰っているところだけどね。」
彼はそれ以前もそれ以後も幽霊は見ていない。
なぜ、あの時だけ彼にアレが見えたのか?
一本とは十万円なのか?
百万円なのか?
未だ彼には分からないと言う。
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