日々の恐怖 5月21日 見せられた風景
家族には怖すぎて内緒にしてる話です。
12年前、親父が胃潰瘍で入院した。
4人部屋で、親父、親父と同年代のオジサン、20代のやや知的障害持ち、一つのベッドは空きだった。
20代のやや知的障害持ちは、よく絵を描いて傍にいる人に見せて歩いていた。
見せられた人は、まるで幼稚園児を誉めるようにしてやらないと不機嫌になるらしかったが、その他は取りたてて他人に迷惑は掛けない様子だった。
ある日も絵を描いて親父に見せに来た。
病院らしき建物の外観を描いた絵だった。
本当に幼稚園レベルの絵だが、親父はにこやかに誉めてみせた。
少し時間があって今度描いた絵は、親父と同年代のオジサンに見せに行った。
俺はその絵をチラ見して凍りついてしまった。
“○○家のはか”と、拙い字でオジサンの名字が書かれた墓参の様子を描いた絵だった。
オジサンは温厚な人ではあったが、さすがにあからさまに不機嫌な表情でソッポ向いた。
それから10日くらい経ってオジサンは亡くなった。
元気そうに見えたが癌だったそうだ。
親父は程なく退院して健在だが、今でも家族には何故かこの絵のことは言えないでいる。
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