日々の恐怖 5月1日 二十歳の頃(1)
東京在住のMさんの話です。
自分の実体験です。
俺はいわゆる甘えんぼ、というやつで小学校高学年くらいまで、夜寝るときは父親のベッドで一緒に寝ていた。
ある夏の夜、いつものように父と一緒に寝ていたのだが、夜中に急に目が覚めてしまった。
トイレに行きたくて起きる、とかではなく完全に覚醒する感じ。
窓の外はジーっという虫の声と月明かりが照らす幻想的な雰囲気。
窓から月を眺めながらボーっとしているとあることに気がついた。
窓の外から男の低い声でボソボソ喋る声が聞こえる。
我が家は新興住宅地で窓の外は3mほど離れて隣の家。
最初は隣の家の人が起きてるのかなーなんて考えていたが、耳を澄ますとその声がかなり近くから、しかもどうやら一人で喋り続けているのに気づく。
父の寝室は2階。
父は隣でかすかにいびきをかいて寝ている。
我が家には父以外にそんなに低い声を出せる人間はいない。
意識を集中して耳を澄ませる。
だんだん喋っている内容がところどころ聞き取れるようになったとき、全身に鳥肌が立った。
声は窓のすぐ下から聞こえてきている。人が立つスペースなんてありはしない。
そして何より恐怖だったのはその男が自分の名前を呼んでいる。
「 ○○・・・、○○・・・・。」
低いというよりはしゃがれて潰れたような声。
そして断片的に聞き取れたのは以下のような内容だった。
「 お前が・・・二十歳・・・・・死ぬ・・・だから・・・・・。」
これを男はずっと繰り返し繰り返し窓の外から自分に向かって語りかけていた。
気がつくと意識を失ったのか、眠ってしまったのか朝になっていたが、窓の外の男の声ははっきりと覚えており、子供だった自分は、
“ あれは死神だったんだ、自分は二十歳で死んでしまうんだ。”
というように、妙に納得してしまった。
その後、その男の声がまた聞こえることはなく月日が流れ、やがて怯えは薄れ、中学生に上がる頃にはその窓の外からの語りかけは、仲間内で自分の体験した恐怖体験ネタとしてよく使っていて、
「 俺、二十歳でヤバイらしいよ!?」
なんて言っていた。
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