日々の恐怖 5月14日 床下(1)
かれこれ十年ちょい前の話です。
横浜にあった内装工事屋で見習工みたいな感じの仕事をしてた時の話です。
都内のあるマンションの洋間の改修工事の依頼が来ました。
築年数はその当時で10年前後でしょうか、割と名のある通りに面したごく普通の外観でした。
依頼された方は二年前に購入されたそうです。
現場は一階でした。
八畳ほどの洋間の床と壁紙の張り替えが主な内容です。
依頼を請け、現調に行った時に家主から相談を受けました。
「 床下からたまに物音が聴こえる。」
現場は一階だった事もあり、躯体の隙間から鼠等が入り込むケース(鉄筋やモルタル工では稀ですが)もあるので原因を突き止めて補修します、と対応しました。
工期初日。
依頼主が在宅のままでの改修工事でしたので、洋間にある家具等を廊下に運び出し、私はクロス剥がし、床職人がフローリングを剥がし始めました。
作業を始めてしばらくして職人さんから呼ばれて、半分程剥き出しになったコンクリ躯体の床下を見ました。
躯体にフローリングを直に張る施工ではなく、躯体直から少し隙間を作り、フローリングとの間に防音材や断熱材を入れる施工でした。
しかし、窓のある側の一列の部分だけそれら床下材が入っておらず、確かに何か引き摺ったような、這いずったような跡が埃やおが屑の上に残っていました。
鼠等の小動物を想像していたのですが、残っている跡は猫ぐらいの太さのものでした。
作業報告書用の写真を撮り、残りの床材を剥がす作業の手伝いをしていた時でした。
例の一画の一番角に何かがいました。
人形でした。
市松人形とでも呼ぶのでしょうか、オカッパの黒髪の着物を着た人形です。
埃にまみれていたせいもあると思いますが年代物のような古めかしい印象を受けました。
人形はうつ伏せの状態で置かれており、体に毛糸のような紐でぐるぐる巻きにされていました。
拾い上げて表に反してみると、巻き付けられた紐は細長い紙に墨字で書かれたお札か護符のようなものと人形を括り着けている事が分かりました。
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