【静電風力発電システム:人工雷発電の誕生?】
オランダのデルフト工科大学が、羽根がなく動く部品もない風力発電システムを開発した。静電
風力エネルギー変換(Electrostatic WInd Energy CONverter)という技術を取り入れて、荷電粒子を
風で電界の反対方向へ移動させることで発電し、風力エネルギーから直接電気エネルギーを生み
出す。これは、或る意味自然現象のカミナリの原理だから仰天だ!
【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】
1.タブーと経路依存性
2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン
【ケインズ経済学の現在化】
- 第1章 政策に影響を与える思想の力
- 第2章 21世紀最初のグローバル経済危機を引き起こした思想と政策
- 第3章 将来を「知る」ために過去のデータに頼ること-資本主義システムについての古典派の考え
- 第4章 1ペニーの支出は1ペニーの所得になる-資本主義経済と貨幣の役割に関するケインズの考え
- 第5章 国債とインフレーションについての真実
- 第6章 経済回復のあとに改革を
- 第7章 国際貿易の改革
- 第8章 国際通貨の改革
- 第9章 ケインズも誇りに思うような文明化された経済社会の実現に向けて
- 第10章 ジョン・メイナード・ケインズー簡潔な伝記
- 補論 なぜケインズの考えがアメリカの大学で教えられることがなかったのか
【国際貿易の改革】
【比較優位に問する第2の問題】
ここで、デヴィッドソン古典派主流の主張は、貿易通商関係諸国の先進諸国(ここではアメリカ
側の勤労者(=賃金労働者)に対する資本による収奪(生活条件の抵水準化)でしかないと根気
よく解説し次章の「国際通貨の改革」に論点を移す。
不幸なことに、比較優位の法則は、われわれが住んでいる現実世界に妥当しない少なくとも
2つの基本的想定を必要としている。第1に、われわれの自転車とコンピュータの仮説例は、
追加的に生産された、25、000台の自転車と15,000台のコンピュータの供給が、これらの生産
物に対する追加的なグローバルな市場需要を自動的に作り出すであろうと想定している。言
い換えれば、追加的な自転車やコンピュータは利益の上がる価格で容易に売却できるとされ
ている。もし多国籍自動車メーカが自動車組立ての点で比較優位を持つ国に工場を設置する
ことによってグローバルな生産能力を増強しさえすれば自分たちの生産できるすべての車を
(利益を上げて)販売することができるということならば、そのことを知って喜ばない多国
籍自動車メーカはいないであろう。余剰の生産能力が発生するはずはないとされているから
である。もっとも、今日では米国の3大自動車メーカのみならず評価の高いアジアの自動車
メーカにおいても過剰生産設備の状況にあるようであるが、国が比較優位の産業に特化する
ことにより生じる追加的生産物に対してどのような需要不足がありえないというこの古典派
の想定はもちろん事実に反している。
この想定は、国内的にも国際的にも、労働力と設備能力のフル稼働が、自由貿易と自由市場
の世界におけるグローバルな経済に属するすべての国に自動的に生じると、仮定しなければ
ならないであろう。過去2世紀半にわたる資本主義経済の歴史は、ほとんどの国がまれにし
か完全雇用を達成しておらず、世界のどの国も永続的な完全雇用を成し逐げていない。した
がって、ケインズ以来の歴史から経済学者が学ぶべきであったことがあるとすれば、それは、
自由貿易の前のみならず後も、すべての国で完全雇用が達成されているということが確信で
きなければ、すべての交易国が自動的に自由貿易からメリットを受けることを立証できない
ということである。このことはわれわれを、第2の問題に導くことになる、比較優位の法則
による交易からの利得は、資本も労働も国境を越えて移動可能でない場合にのみ、生じる
ものと想定されている。事実、われわれの単純な自転車、コンピューターの例は、東洋と西
洋の間で資本や労働の移動がなく、一方比較優位の法則がそれぞれの国の輸出産業がなんで
あるかを決めることを示している。
しかしながら、もし資本が国際的に移動可能であるならば、そして交易を行なったあとにグ
ローバルな完全雇用が達成されていないならば、比較優位の法則に由来する好ましい結果が
生じるはずはない。自由な国際的資本移動と自由貿易により、企業家は最も利益率の高い財
の生産ができるところならどこにでも、言い換えれば、単位労働コストが最低であるところ
ならどこにでも、工場や機械設備への投資を行なうであろう。このようにして、もしどの国
でも1単位の製品を生産するのに投入される人間労働時間数が同じになるように、多国籍企
業が技術を国から国へ移転することができるならば、あるいは、ケインズも記しているよう
に、もし「現代のほとんどの大量生産過程がたいていの国…において、同じ程度に効率よく
営まれうる」ならば、資本はつねに労働コストのより低い国を求めるであろう。というのも、
そうすることが、利潤率を高めることになるからである。
われわれの仮説例では、グローバルな市場が吸収することのできる程度の適切な水準での自
転車とコンピューター双方の生産において、東洋は貨幣表示の単位労働コストがより低いと
いう意味でコスト上の絶対優位を持つことができる。東洋は最終的には、グローバルな需要
を満たすのに必要なすべての自転車とコンピューターを生産する上で十分な外国の資本を誘
致できるであろう(中略)その結果、西洋においては、貿易財産業における生産と雇用は、
完全にとは言わないまでも相当減少するであろう。極端な場合、西洋に残っている仕事のほ
とんどは、輸送・情報伝達コストの高さが外国労働者のコストの安さを上回っているために
外部委託できないものだけとなるであろう。(中略) 先進諸国の政府が、自国の労働者の完
全雇用を確保し維持するための計画的な行動を取らないかぎり、自由貿易は結局のところ失
業率の上昇か、自国の労働者が後進諸国の低賃金労働者に支払われている賃金に相当する実
質賃金を受け入れることを余儀なくされるかのいずれかの結果に終わるであろう。まちがい
なく、西洋の政治家たちは、自由化された貿易ならびに国際金融市場の下での仕事の外部委
託という今日の問題に対し古典派の効率的市場理論を盲目的に適用することから「悲惨な」
結果が起こりうることを、認識すべきであろう。西洋の政府が、自国の労働者の永続的な完
全雇用を確保するために、強力で積極的かつ直接的な行動を取らなければ、自由貿易と外部
委託は、それらの唱道者の主張しているような万能薬にはならないであろう。
ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』
【国際通貨の改革】
1982年以来、米国は一貫して輸出額以上に輸入してきており、それによって、外国人が米国
輸出産業内に作り出してきた以上の利潤獲得の機会と雇用を外国のために作り出してきた。
こうした雇用と利潤機会を外国に提供してきた結果として、米国は20世紀最後の四半世紀に
おいて他の国々ための経済成長の原動力の役割を果たしてきたのである。1980年代の日本は
もとより、21世紀初頭の中国やインドによって示された驚嘆すべき成長率は、米国がこれら
の国々からの輸出品に対して支出を増やしたことに基づいて達成されたものである。
このことは簡単な例によって説明されよう。ある1年間に、米国が中国からの輸入品(例え
ば、おもちゃ)に100億ドル多く支出し、したがって国産のおもちゃに100億ドル少なく支出
すると仮定しよう。中国は米国の輸出品への支出を増加させず、したがって米国の中国との
貿易赤字は100億ドルだけ増加すると仮定しよう。その結果は、輸入品に費やされた100億ド
ルは、中国のおもちゃ産業における利潤と働き口を作り出したが、一方国産のおもちゃから
外国製のおもちゃに支出を切り替えた米国の住民は、結局のところ、米国のおもちゃ産業の
利益と雇用をその分台無しにしたということである。
この仮説例において、中国は国際貿易勘定の上で 100億ドル多く稼いだことになる。われわ
れの想定では、中国はこの 100億ドルをアメリカ製の製品をより多く買うことには用いず、
その国際的な稼ぎからの100億ドルを「貯蓄する」としている。ケインズの分析においては、
「1ペニーの貯蓄は1ぺニーの所得を生むことはできない」から、この例において中国が貯
蓄した100億ドルは、米国に立地する企業やアメリカの労働者の所得にはなり得ない100億ド
ルである。
輸入が輸出を超過するとき、貿易収支に赤字が発生しており、経済学者はこれを貿易収支の
悪化と呼んでいる。この貿易収支悪化は、当該国がその輸出品の代金として受け取る以上の
金額-われわれのおもちやの仮説例では 100億ドルーを輸入品に対して支払うので、輸入国
とその他の国々との間における国際収支の赤字をもたらすことになる。国際収支の赤字を経
験しているどのような国も、次の2つの方法のいずれかでこの赤字の資金手当てをしなけれ
ばならない。
1.赤字国は、輸入超過額を支払うため、これまで国際的取引で得た所得から貯蓄していた
もの(これらの貯蓄はその国の「外貨準備」と呼ばれる)を取り崩す。
2.赤字国は、その輸入したものの価額と輸出したものの価額との差額を支払うために、そ
の他の国々から資金を借りる。
過去25年の間、米国の年々の輸入額は輸出額を超過してきたので、国として長年の間の輸出
を上回る輸入の超過額の資金手当てのため海外から借金をしなければならなかった。その結
果、米国は世界で最大の債権国から、その他の国々から借りている負債額という点で世界で
最大の債務国に移行してしまった。
先の例を続けて用いて、中国が国際取引で得た所得からの100億ドルの貯蓄をどうするのかを
考えてみよう。中国人は、すべての貯蓄者と同じように、自ら貯蓄した(来使用の)国際的
な契約決済手段(購買力)を将来へ繰り越す流動性タイムマシンを求めている。中国人は、
その国際取引で得た貯蓄の大部分を米国財務省証券やその他米国政府支援機関の債務証券の
購入に用いている。この事実は、中国人がドルこそ自らの来使用の国際的な契約決済手段を
蓄えるのに最も安全な避難場所であると信じていることを示している。この中国人による貯
蓄について、多くの「専門家」は、中国がアメリカの消費者の盛んな買い物のための資金を
融通してきた結果、米国の国際的債務の増加をもたらしたと断言している。もし中国人が国
際取引で得た貯蓄によって米国の有価証券を購入するのを止めたならば、アメリカの消費者
にはもはや輸入品を買う余裕はなく、あれほど多くの中国製品の購入も止めなければならな
いだろう、とさえ言われている。
-中略-
仮に中国がその国際取引で得た貯蓄 100億ドルを財務省証券の購入に用いる代わりに、アメ
リカ産業の製品に支出したとしよう。その結果は、アメリカの工場のより多くの製品が中国
において中国人労働者の生活水準向上のために役立つことになり、またアメリカの企業と労
働者もより多くの所得を稼ぐことができ、輸出を上回る中国製品の輸入に伴う支払い代金を
まかなうために中国から借りる必要もなくなるということである。この例示から得られる教
訓は、もし中国が財務省証券を購入する代わりに米国製の財を購入するならば、中国は自国
民の実質的生活水準を改善できるのみならず、アメリカ人も中国から借金をすることなく購
入したすべての中国製輸入品の代金を支払うのに十分な稼ぎを得ることができるであろうと
いうことである。
ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』
この簡単な例示は、貿易収支の悪化した国に巨額の国際的債務を背負わせるような貿易不均衡を
終わらせるためのケインズ・ソリューションについてのヒントを提供してくれるはずであると、
彼はこの章の後半でそのような解決策の実施案を提示すると述べ、これとは対照的に、この貿易
不均衡問題に対する古典派の効率的市場理論の解決策は、もし中国の通貨(人民元)が自由変動
外国為替市場で取引されており、米国が中国との貿易収支で輸入超過を出しているならば、人民
元の価値がドルに比べて大幅に上昇することで問題は解決されるであろうと示唆することである。
米ドルで測った中国からの輸入品の価格は劇的に高まり、ついには米国が中国から大量に購入す
る余裕をもはや持ち得なくなるであろうというわけである。したがって、中国からの米国の輸入
額は顕著に減少するであろう。ドルに比べて人民元の価値が高まるとともに、中国は米国からの
輸入品の価格の低下を経験し、米国からより多くの輸入品を購入するであろうとされるとするが、
これに対し次のように反論する。
マーシャル=ラーナー条件に関する技術的な議論は、要点の理解を妨げる恐れがあるので、
ここでは深入りしないことにしよう。(中略)自由市場が、輸入超過の貿易収支を経験して
いる国の通貨を切り下げることによってどのような貿易不均衡問題も解決することができる
とつねに想定されている。この古典派理論の解決策のもうひとつの起こりうる有害な影響に
ついて論じることとしたい。もし連邦準備制度が自らの主要な責務はインフレと闘うことで
あると信じているとすれば、それが採択するインフレ抑制政策にしたがって、ある低い目標
インフレ率、たとえば2%が回復されるまで、国内利子率を引き上げる必要があるであろう。
米国における利上げはアメリカ企業の現存する利潤獲得の機会をいくらか失わせ国内の失業
を増加させるであろう。連邦準備制度のインフレ抑制を目指した金融政策の目標は、アメリ
カの家計がすべての財・サービス、すなわちアメリカの工場製品のみならず中国からの輸入
品の購入をも減少させるのに十分なほどに、アメリカ人の所得を減少させることである。も
しそのインフレ抑制政策が成功するならば、アメリカ人による輸入品の購入がより少なくな
るので、中国からの輸入を含む市場需要の減少が、価格上昇に対するブレーキとして働くで
あろう。おそらくこの輸入の減少がドルに比べた人民元の値上がりを緩やかにし、それによ
って現実のインフレ率の引き下げにいずれなんらかの効果をもたらすことであろう。
この筋書きでは、アメリカ人たちが中国からの輸入品の購入を減らすので、中国の輸出産業
における利潤と働き口は減少し、中国における失業と潜在的な政治的不安が生み出されるこ
とになるであろう。中国においても雇用の喪失が生じるものとすれば、米国輸出品に対する
中国の市場需要は減少し、その結果進行中のドルの減価によって増えるはずのアメリカの輸
出産業における利潤獲得の機会をむしろ減少させるであろう。明らかに、そのような筋書き
は、アメリカと中国の労働者と企業のどちらにとっても好ましいものではない。
古典派理論は、国家間の通貨の交換レートにどのような変化が起ころうとも、自由で効率的
な市場であればすべての交易国において資本と労働の完全雇用がつねに存在しなければなら
ないと想定することによって、この考えられる不愉快な筋書きを避けている。言い換えれば、
古典派理論は、この起こりうる失業問題をたんに仮定によって排除しているに過ぎないので
ある。長期においては、古典派理論は,すべての国に完全雇用が存在しなければならないと
いうことを、経験による証拠としてというよりはむしろ、事実の裏付けのない信念の問題と
して主張しているのである。
古典派理論は、モデルにたくさんの非現実的な公理を詰め込み、将来が少なくとも長期にお
いては知られているという世界における自由変動外国為替市場の魔力を援用することによっ
て、起こりうるいかなる貿易赤字問題も解決しているだけである。より実際的な経済学者の
中には、歴史的に見ると、為替レートが市場で自由に変動することが許されていた時期には、
国家にとってしばしば最悪の結果に終わったと指摘する者がいる。したがって、いく人かの
専門家は、マーケットメーカーが実際に為替レートを事前に公表されたなんらかの水準に固
定するような外国為替市場を提唱している。その結果として、優れた国際決済制度のための
必要条件に関する経済学上の議論が、固定為替相場制対変動為替相場制のメリットとデメリ
ットの問題に絞られることが非常に多かった。
しかしながら、第2次世界大戦の終結以来の経験的事実やケインズの革命的な流動性分析が
示していることは、たんに為替レートが固定されているべきか、それとも自由に変動するも
のであるべきかを決定する以上のことが、必要とされるということである。為替レートが固
定的であろうと変動的であろうと、起こる可能性のある貿易および国際決済上の永続的な不
均衡を適切に解決できるようなメカニズムこそが計画されなければならないのである。その
メカニズムは、これらの不均衡問題を解決するのみならず、同時にグローバルな完全雇用を
推進するよう設計されなければならない。そのようなメカニズムは、国際貿易および国際収
支の不均衡に対するケインズ・ソリューションの必須の部分になっているのである。