彦根藩二代当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救ったと
伝えられる招と、井伊軍団のシンボルとも言える赤備え(戦国時代の井伊
軍団編成の一種、あらゆる武具を朱りにした部隊編成のこと)と兜(かぶ
と)を合体させて生まれたキャラクタ-
【季語と短歌:11月31日】
頂きぬ隠し畑の大根焚き
高山 宇 (赤鬼)
😊先輩の家庭菜園で背筋が通った大根を頂く。思えば、わたし
は多くの近親者や先輩・同僚に恵まれていたと感謝し大根を
頬張る。
未来が変わる!?「スマートシティ」を俳優・町田啓太が15分超速解説!
世界が目指す最新の街づくりとは?人口爆発&都市一極集中にどう備える?
難しい事を漫画CGで学ぶ 漫画家イエナガ(町田啓太)が編集者(橋本マ
ナミ)にプレゼンするテーマは「スマートシティ」。渋滞の解消?電気使
用の最適化?行政の効率化?水没の危機を救う?都市の課題をテクノロジ
ーを使って解決する驚きの街づくりに迫る。カギを握るIoTや都市OS
とは一体?そしていま注目のウェルビーイング!個人の豊かな暮らしを街
のあり方で実現できる!?これを見れば、街の概念がガラッと変わっちゃ
うかも?()
❤️ 町田啓太のハンサムな超即時事解説の人気がウナギ上り!俳優の「大
谷翔平」だ(と、小生は思っている)。
✨スピントロニクス時代?⓵
電子はマイナスの電荷を持つ粒子で、流れると電流が生じる。この電子は、
電荷に加えてスピンという性質も持っており、永久磁石や磁気記録などの
磁気のもとでもある。トランジスターやダイオードなど半導体において電
子が持つ電荷の流れを制御してさまざまな機能を引き出す技術をエレクト
ロニクスと呼びますが、磁気をもたらすスピンの性質も利用するエレクト
ロニクスの分野を「スピントロニクス」と呼ぶ。
◾ハードディスクの記録密度増大に寄与した巨大磁気抵抗効果(GMR)
スピントロニクスのイノベーションは、1988年、巨大磁気抵抗効果(GMR)
の発見により始まる※。GMRは、磁性金属/非磁性金属ハイブリッド構造
において磁場を加えると電気抵抗が大きく変化する効果で、数年のうちに、
この効果を用いたハードディスク用の磁気読み出しヘッド(GMRヘッド)
が開発された。それまではコイルを使ってディスクの磁気情報を読み出し
ていたので、微小な磁気情報を読み出すことができなかったが、これによ
って数10ナノメートルサイズの記録情報が読み出せるようになり、磁気記
録の記録密度が飛躍的に増大しました。図1に示すように、年率25%の増
加率であったHDの記録密度は、GMRヘッドの登場によって年率100%の増
加率となった。
※GMRを発見したフランスのフェール博士とドイツのグリュンベルグ博士
は、2007年のノーベル物理学賞に輝きました。
◾磁気ヘッドの高性能化に寄与したトンネル磁気抵抗効果
次いで、1995年、日本の宮崎博士と米国のムーデラ博士は、トンネル磁気
抵抗効果(TMR)を発見しました。TMRは、2つの磁性体で絶縁体を挟んだ
磁気トンネル接合(MTJ)において磁場を加えたときに大きな電気抵抗の
変化が生じる効果です。この効果を用いて、新たな磁気ランダムアクセス
メモリMRAM(magnetoresistive random access memory)が生み出された。
さらに、MgOをトンネル障壁に採用するとTMRが大幅に増大することが日
本の湯浅博士と米国のパーキン博士によって見出された。MgO―TMR素子
を用いた磁気読み出しヘッドは、市販されているハードディスクのほとん
どに使われていく。
◾ MRAMとは、記憶素子に磁性体を用いた不揮発性メモリの一種。TMR
素子を用いた磁気トンネル接合(MTJ)と半導体CMOSが組み合わされた構造
となっており、直交する2つの書き込み線に電流を流し、生じた磁界によ
って磁気状態を書き換えます。MRAMは、SRAM並み高速な読み書きが可
能で、低消費電力、高集積性が可能などの長所があり、 SRAM(高速アクセ
ス性)、DRAM(高集積性)、フラッシュメモリ(不揮発性)のすべての機能を
カバーする「ユニバーサルメモリ」としての応用が期待されている。
さらに、1996年、新たなスピントロニクスの概念としてスピン注入磁化反
転が理論的に提案された。強磁性電極FM1中でスピン偏極した電子が非磁
性体を通して対極FM2に注入された電子スピンがFM2の磁化の方向に傾け
られるとき,そのトルクをFM2に渡し、FM2の磁化を反転させる。これをス
ピン移行トルク(STT)※と呼ぶ。開発当初は大電流密度を必要としたが、研
究開発が進み垂直磁化のTMR素子を用いて実用可能な電流密度にまで低減
できた。STTを使うと、MTJ素子に電流を流すだけで磁化反転でき、微細化
で電流密度も小さくなるので、MRAMを高集積化することが可能になった。
これをSTT-MRAMと呼ぶ。
しかし、STT-MRAM は電流が作る磁界を書き込みに使う場合に比べて非
常に低消費電力となるものの、電流を用いてスピン流を発生するためにジ
ュール熱によってエネルギーを散逸する。これを解決するため、最近、電
圧を加えて磁気異方性の変化を誘起するトルクを書き込みに用いる新しい
不揮発性メモリ「電圧駆動MRAM」が提案されました。電流をほとんど流
さずに電圧のみで書き込むため、STT-MRAM よりもさらに2 桁程度小さな
エネルギーで書き込みができるとされる。また、(その2)に述べるスピン
ホール効果あるいはスピン軌道相互作用によるラッシュバトルクを用いる
ことでSTT-MRAM に比べて高効率のMRAM が作れることも提案されてい
る。原理的に3 端子であるため書き込みラインと読み出しラインを分離で
きるという回路上の利点もある一方で、素子サイズが大きくなるという問
題も浮上させる。(科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センタ(CRDS)
佐藤 勝昭 2019.11.01)
この項つづく
磁気の初学者およびその周辺領域の読者を対象に,磁気の基礎の基礎,興
味深い磁気現象をやさしく正確に解説したシリーズ。第1巻は,磁気物性
の基本事項をQ&A形式の解説を織り込みながら,やさしく解説している。
【特版:ウイルス解体新書】
❤️ 新型コロナウイルスを家庭で簡便に測定(1・2)
近年の新型コロナウイルスのパンデミックは記憶に新しいものがある。従
来、パンデミックと言えば、高病原性の鳥インフルエンザウイルスに起因
するもので、図1に示す100年前のスペイン風邪に始まり、アジア風邪、香
港風邪と多くの犠牲者を払ってきている。これらは〜40年近い周期で生じ
ていた。ところがコロナウイルスのパンデミックは、2003年のSARSに始
まり、MERS、今回の新型コロナウイルスと10年以内の周期で次々とパン
デミックが生じていることがわかる。これは我々の日常生活にとって極め
て高い脅威となるものである。(2024.11.4/2024.11.20)
【概要】
図1. 鳥インフルエンザウイルスとコロナウイルスによるパンデミックの
歴史。新型コロナウイルスでは700万人近い人が亡くなっている。
これらパンデミックを防ぐには、迅速、高感度なウイルス検出技術が必要
不可欠である。すでに様々な検出技術があるが一長一短の感がある。図2
に示すように、PCRは極めて高感度であるが、検査時間が〜1時間以上と
長く、かつ高額で、専門の検査技師が必要である。またイムノクロマトを
用いた抗原検査キットは安価でわずか15分で検査でき、素人でも可能な
簡便さであるが、感度が不十分であり、新型コロナウイルスの検査でも問
題になったように、偽陰性、偽陽性の結果を出してしまうことがあり、信
頼性にかける。本研究では、グラフェンFETの高感度特性を利用し、高感
度であり、かつ高速、簡便に計測できるシステムを開発する。
図2. グラフェンFETを用いたウイルスセンサの位置付け。PCR検査は高感
度であるが検査時間が長時間必要であり、高額である。抗原検査は短時間、
簡便であるが、感度が不十分である。グラフェンFETセンサは、高感度高
速で、かつ簡便にウイルスを検出可能である。
◾グラフェンFETセンサによるウイルス検出
図3にグラフェンの特長を示す。グラフェンは、伝導体と価電子帯が線形の
分散関係を示す特殊な半導体であり、その有効質量はほぼ0に近い。その為、
従来のシリコン半導体の移動度の1000倍近い200,000cm2/Vsという驚くべ
き実験結果が示されている。またグラフェンの表面にはπ電子で形成され
る2次元電子ガス(電子が海のように広がっている)が表面に露出してい
る。その為、グラフェンの表面に電荷を有するものが近づくとグラフェン
の電気特性が大きく変化する為、高感度が得られる。図3に示すように、
グラフェンの表面にウイルスを選択的に補足するレセプター(抗体や糖鎖)
を修飾し、電荷を持ったウイルスが溶液中でレセプターに捕捉されると、
ウイルスの電荷によりグラフェンの電気特性(ドレイン電流やディラック
ポイント)が変化する。この変化によりウイルス検出する。
図3. グラフェンの特長。伝導体と価電子帯が線形の分散関係を示す為、有
効質量が小さく移動度が極めて高い。また2次元電子ガスが表面に露出し
ているため、高感度特性を示す。
図4はSi/SiO2基板上に集積された32個のグラフェンFETの光学写真である。
その模式図と一個の拡大したグラフェンFETの写真を示す。FETのチャネル
長は10μm、チャネル幅は100μmである。このFETアレイの左側半分には抗
体を修飾してウイルスを選択的に検出し、FETアレイの右側半分は抗体を修
飾しない参照FETとした。さらに従来は、ピペットを用いて導入、排出して
いたリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を自動送液する為に図5に示すマイクロ流
路をグラフェンFETアレイ上に形成し、PBSを右の流入口から左の排出口に
導入する手法を確立した。これにより再現性が向上した。このマイクロ流
路に送液するために、コンピュータ制御のマイクロポンプシステムを形成
し、これにより、PBSによる洗浄、溶液交換を定量的に、かつ再現性良く
行うことが可能となった。
図4. 32個の集積したグラフェンFETアレイとその模式図、および一つのグ
ラフェンFETの拡大図。
図5. グラフェンFETアレイ上に設置したマイクロ流路(μ-TAS)。右側からP
BSを導入し、グラフェンFETアレイ上を通過して、左側から排出する。
上記に示すマイクロ流路測定システムを用いて図6に示す新型コロナウイ
ルスの計測を行った。グラフェンFETアレイの左側13個のFETにはPBASE
(1-Pyrenebutyric acid N-hydroxy-succinimide ester)を介して新型コロナ
ウイルス(SARS-CoV-2)のスパイク抗体が修飾され、図6で赤いラインがそ
の13個のFETのディラックポイントの平均値を示す。またグラフェンFET
アレイの右側13個のFETには抗体を修飾せず、参照FETとし、図6で緑のラ
インがその13個のFETのディラックポイントの平均値を示す。赤と緑のディ
ラックポイントの差はグラフェンに修飾された抗体とPBASEの電荷による
ものである。ウイルスは抗体と体内の生理食塩水濃度である1xPBS(150mM)
でもっともよく抗体と結合する。しかし1xPBSにおけるデバイ長は0.7nm
であり、抗体の~10nmのサイズよりはるかに小さい。このため1xPBSにお
いては、ウイルスが抗体に結合してもウイルスの電荷は電気2重層の電荷に
より遮蔽されて検出することができない。そこで我々は電荷を検出する際
はPBS溶液を0.01xPBSに交換し、デバイ長を7nmと延伸させることにより、
ウイルスの電荷をグラフェンFETで検出することに成功した。この溶液交
換法を用いて新型コロナウイルスを計測したのが図6である。Tween20に
よるブロッキングの後、ウイルスの入っていない1xPBS溶液を2回導入し
ている。これは溶液交換により、ディラックポイントに変動が生じないか
を確認するものである。図6からわかるように溶液交換によるディラックポ
イントの変動は極めて小さいと結論づけられた。1×108FFU/mLの濃度の
新型コロナウイルスを含む1xPBS溶液を導入後、0.01xPBS溶液を導入し
てディラックポイントの変化を測定すると、図6右端の黄矢印に示すよう
に、基準値を示す赤の一点鎖線よりディラックポイントが上むきに変化し
ていることがわかる。これが新型コロナウイルスの電荷を検出した結果で
ある。この変化について以下に詳細に検討する。
図6. マイクロ流路測定システムを用いて計測した新型コロナウイルスの測定結果。
図6の特性は13個のFETの平均値を示したものである。これらの個々のFET
のディラックポイントの分布を詳細に解析する。図7は抗体の修飾されたグ
ラフェンFET(左側)と抗体の修飾されていないグラフェンFET(右側)の
それぞれのディラックポイントの分布を示す。横軸はFETのナンバーリング
である。青いラインは新型コロナウイルス導入前、赤いラインは導入後の
値である。ウイルス導入前のディラックポイントは、抗体のある、無しで
~40mV前後の差がある。これは抗体の電荷によるものと考えられる。ウイ
ルス導入後、抗体のある領域ではディラックポイントは〜20mV近く大きく
増加する。これに対して抗体のない領域は、ほとんど変化しないことがわ
かる。この両者のディラックポイントの変化分ΔVDP図8に示す。
図7. 抗体を修飾したグラフェンFET(左側)と抗体の修飾していないグラ
フェンFET(右側)のディラックポイントの分布。青はウイルス導入前、
赤はウイルス導入後である。
図8. 新型コロナウイルス導入による抗体修飾したFETとしないFETのデイラ
ックポイントの変化。
図8の左側は抗体を修飾したもの、右側は抗体を修飾していないものである。
抗体を修飾したFETではウイルスの導入前後で平均ΔVDP =19.1mVの大きな
ディラックポイントの変化が得られている。この変化は、抗体に選択的に
結合したウイルスと、グラフェン上に物理吸着したウイルス、およびベー
スラインのドリフトに由来する。これに対して抗体を修飾していないFET
では平均ΔVDP =2.79mVの極めて小さな変化が生じた。この変化はグラフ
ェン上に物理吸着したウイルス、およびベースラインのドリフトに由来す
る。したがってこれら二つのディラックポイントの変化分の差19.1mV-2.
79mV=16.3mVは、ドリフトや物理吸着の影響を除いた、抗体に結合した
新型コロナウイルスの電荷にのみよる変化であると結論づけられる。以上
のように、参照FETによる信号を差し引くことにより、極めて正確に抗体に
結合したウイルスの電荷のみを測定する手法を確立した。
✳️ 新型コロナウイルスを家庭で簡便に測定(2)
ついで、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてグラフェン上のウイルスを観察
する手法を開発した。通常、グラフェン上のウイルスをSEMで観察すると
黒いシミのようにしか観察できず、明瞭にウイルスと判定することは困難
であった。本研究で、グラフェン上のウイルスを化学薬品を用いて固定化
し、金属薄膜をコートすることにより、明瞭にウイルスを観察することが
可能になった。この手法を抗体を修飾したFETと修飾しないFETに適用しそ
れぞれのウイルス数をカウントしたものを図9に示す。FETアレイの左側は
抗体を修飾した領域であり、ここではウイルスの結合数は21から51と
分布しており、その平均数は37である。またFETアレイの右側は抗体を修
飾していな領域であり、ウイルスの結合数は1から9と分布しており、その
平均数は4である。従って、抗体のある領域では抗体のない領域と比較して
約10倍のウイルスが結合していることが判明した。これにより抗体に選
択的に結合しているウイルスが多数存在していることが確認できた。
図9. 新型コロナウイルス導入による抗体修飾したFETとしないFETの結合し
たウイルス数。
図10に、グラフェンFET上に結合したウイルス数とディラックポイントの
値の関係を示す。図10より、抗体の修飾されていない領域のウイルス数は
非常に少ないとともに、ディラックポイントの変化量も極めて小さい。こ
れに対して、抗体の修飾された領域では、結合ウイルス数が多いとともに、
そのディラックポイントの変化量も極めて大きい。これはウイルスの電荷
がディラックポイントの変化に寄与していることを意味している。この結
果は、本グラエフェンFETによる新型コロナウイルスの検出がウイルスの
電荷を正確に検知していること示している。
図10. 新型コロナウイルス導入による抗体修飾したFETとしないFETの結合
ウイルス数とディラックポイントの変化分の関係
◾唾液からの簡便なウイルス検出システムの開発
新型コロナ患者の唾液から、新型コロナウイルスを検出する実験を行った。
唾液の洗浄に関してマイクロ流路にPBSを流すだけで簡単に洗浄できるこ
とが判明し、実験が極めて簡単になることが判明した。患者は通常の抗原
検査では陰性であり、PCRでは陽性であるとの判定結果であり、グラフェ
ンFETバイオセンサの患者としては最適なケースである。患者の唾液をマ
イクロ流路つきポータブル測定装置に導入し、電気変化を検出した。唾液
の洗浄はマイクロ流路を用いて0.01xPBSを導入することにより行った。グ
ラフェンFETアレイを3分割して1)新型コロナウイルスのフル抗体、2)
新型コロナウイルスのF(ab’)2抗体、3)参照とするH9N2インフルエンザ
抗体を修飾する。
図12. 新型コロナウイルス感染患者の罹患時の唾液を導入したグラフェン
FET上のSEM写真。
この新型コロナ患者の唾液を導入したグラフェンFET上のウイルスをSEM
により観察したものを図12に示す。図12(a)はグラフェンチャネル全体の
10mx100mのSEM写真である。非常に奇妙な現象は、唾液中に含まれるウ
イルスが、チャネル全体に一様に分布して結合するのではなく、数個の黄
色の丸印で囲まれた領域にコロニーを形成して結合する。その黄色の丸の
領域を拡大したものを図12(b)に示す。ウイルスが凝集して結合しているこ
とがわかる。通常、実験室系で行うPBS中にウイルスを導入した場合は、
図12(c)に示す様に一様にウイルスはグラフェン上に結合する。実際の感染
患者の唾液からのウイルスはコロニーを形成して結合するという事実は極
めて目新しく興味深いものである。この事実は実験室系と生態系とは微妙
な差異があり、この差異を考慮に入れて研究展開を図ることが重要である
と考えられる。なぜコロニーを形成するかは現時点では未解明である。
以上の結果より、マイクロ流路を用いたポータブル計測機器で患者の唾液
からウイルスを検出できることがわかり、簡便に家庭でのウイルス検出を
可能とした。(【著者紹介】松本 和彦 大阪大学産業科学研究所 名誉
教授、特任教授)
✨ 太陽電池ベースの光電子シナプス素子を開発
11月25日、東京理科大学の研究グループは,光強度を変化させることで時
定数を制御できる色素増感太陽電池(DSC)ベースの光電子シナプス素子
を開発。
【要点】
1.光電子シナプス素子を用いた物理リザバコンピューティングは、低消費
電力のエッジAIデバイスの実現に向けて、大きな可能性を秘めている。
2.時定数が制御可能な色素増感太陽電池ベースの自己給電型光電子シナプ
ス素子を開発し、物理リザバコンピューティングに応用した。
3.消費電力を抑えつつ、人の動作を90%以上の精度で判別できることを実
証した。
【概要】東京理科大学の研究グループは、光強度を変化させることで時定
数(*1)を制御できる色素増感太陽電池(DSC, *2)ベースの光電子シナ
プス素子(*3)を開発することに成功しました。また、開発したデバイス
を物理リザバコンピューティング(PRC, *4)に応用したデバイスが、消
費電力を抑えつつ、人の動きを高い精度で識別できることを実証。
光電子シナプス素子を用いたPRCは、有望なエッジAI(*5)デバイスと
して注目されています。さまざまな時間スケールの時系列データを処理す
るためには、目的に応じた時間スケールを持つデバイスの作製が必要不可
欠です。今回、本研究グループは、目の残像現象から着想を得て、光強度
を変化させることで時定数を制御できる色素増感太陽電池ベースの光電子
シナプス素子を作製しました。
開発したデバイスは、光強度に応じてペアパルス促進(PPF, *6)やペア
パルス抑制(PPD, *7)といったシナプス可塑性(*8)の特性を示すこと
が確認されました。また、時系列データの処理において、入力パルス幅が
変化しても光強度を調整することで、高い計算性能が得られることを明ら
かにしました。さらに、人の動作認識においても、消費電力を抑制しつつ、
90%以上の高い精度で判別可能であることを実証しました。
本研究成果により、色素増感太陽電池を用いた自己給電型光電子シナプス
素子のPRCへの応用可能性が初めて実証されました。これにより、エッジ
AIやニューロモルフィックコンピューティングに利用可能な多様な時間ス
ケールを持つPRCの実現が期待されます。
本研究成果は、2024年10月28日に国際学術誌「ACS Applied Materials
& Interfaces」にオンライン掲載されました。
【脚注】
1. 時定数:システムが特定の変化に対してどれだけ速く応答するかを表す
指標。時定数が小さい場合、変化に対する応答が速くなり、逆に時定数が
大きい場合、応答が遅くなる。
2.色素増感太陽電池(DSC):光エネルギーを電気エネルギーに変換する
太陽電池の一種。太陽光を吸収し、電子を励起する色素が使用され、薄く
て軽いのが特長
3.光電子シナプス素子:脳のシナプス機能を模倣し、特に光を使って電子
の流れを制御することができるデバイス。
4. 物理リザバコンピューティング(PRC):リザバ層に物理システムを採
用し、時系列データを低消費電力かつ高速リアルタイムで処理できる計算
手法。
5.エッジAI:センサネットワークにおいて、端末機器に直接搭載されたAI。
クラウドを使用せず、端末側でデータ処理を行うため、通信コストを低減
した迅速な処理が可能となる。
6.ペアパルス促進(PPF):連続した2回の刺激に対し、2回目の応答が1回
目の応答よりも強くなること。
7.ペアパルス抑制(PPD)連続した2回の刺激に対し、2回目の応答が1回目
の応答よりも弱くなること。
8.シナプス可塑性:神経細胞の接続部であるシナプスにおいて、長期的な
刺激によって、信号伝達が起きやすくなったり(長期増強)、逆に起きに
くくなったり(長期抑圧)する現象。
9. STMタスク(短期記憶タスク):短期記憶特性を定量化するベンチマー
クタスク。
10.PCタスク(パリティタスク):記憶や認知機能を評価するための非線
形のベンチマークタスク。
【掲載論文】
雑誌名:ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル:Self-Powered Dye-Sensitized Solar-Cell-Based Synaptic
Devices for Multi-Scale Time-Series Data Processing in Physical Reservoir
Computing
DOI10.1021/acsami.4c11061
✨ どこでも分析できる免疫センサ
これも関連する研究を掲載する(デジタル。フォーメーション&グリーン
フォーメーションの影響が加速的に増大していることを感じている日々。
11月26日、東京科学大学の研究グループは,抗原を混ぜるだけで発光色が
青から赤へ変化する頑強な生物発光免疫センサーBRET nano Q-bodyの開
発に成功。さらに,この免疫センサーを持ち運びが容易な紙デバイスに加
工することで,どこでも手軽に分析できるようになったことを公表。
【概要】
免疫測定法は,抗原抗体反応を使って試料中のごくわずかな物質を特異的
に測定する方法で,病気の診断や食品の安全管理,環境調査などで重要な
役割を果たしている。近年では特に,患者の傍らでリアルタイムに診断し
て治療の方針を決める臨床現場即時検査(Point of Care Testing:POCT)
の重要性が増しており,より安定で簡便かつ素早く抗原を検出できる免疫
センサの開発が求められている。
図1.図1. BRET nano Q-bodyの概要(a)分子デザインと作動原理。(b)
作製した紙デバイスをスマートフォンで撮影したときの抗原の有無による
発光色の変化。(c)抗原を測定したときの濃度依存的な発光スペクトル変
化。 DOI:10.1021/acssensors.4c01800より一部改変。
開発したBRET nano Q-bodyは、抗原が存在しないときはTAMRAが消光さ
れてNanoLuc由来の青色の光を放ち、抗原が存在するとTAMRA由来の赤色
の光を放ちました(図1b)。これは、抗原が結合するとTAMRAの消光状
態が解除され、かつNanoLucとTAMRAの距離が近くなることで、NanoLuc
からTAMRAへのBRETが起きたためだと考えられます。さらに、NanoLuc
とナノボディの間の距離がBRETの効率に影響を与えると考えられることか
ら、リンカーを最適化したところ、発光強度比(応答)がMTXの濃度依存
的に最大7倍以上変化するBRET nano Q-bodyを作製することに成功しまし
た(図1c)。応答が大きいことは安定な検出につながり、POCTへの適用
に発展させることが可能となる。
図2. BRET nano Q-bodyの頑強性評価(a)熱安定性。(b)凍結乾燥。
(c)有機溶剤(DMSO)。(d)還元剤(DTT)。(e)界面活性剤(Tween
20)。DOI:10.1021/acssensors.4c01800より一部改変
次にBRET nano Q-bodyの頑強性を評価するために、熱や有機溶剤、還元
剤、界面活性剤がセンサーの活性にどのように影響するかを調べました。
その結果、以前に開発した、単鎖抗体(scFv)を使ったBRET Q-bodyと比べ
て、BRET nano Q-bodyは加熱後やDMSO、DTT、Tween20を含む溶液中
でも、より厳しい条件下で活性を維持していることが分かりました。さら
に、凍結乾燥してもほぼ100%の活性を保っており、BRET nano Q-bodyが
非常に高い頑強性を持つことが確認できました(図2)。これらの結果から
、この免疫センサーはPOCTに適していると考えられます。
続いて、BRET nano Q-bodyが、生体試料や環境水のような夾雑物を多く
含む試料でも抗原を検出できるかを調べました。特に不透明で夾雑物の影
響が大きいと考えられる懸濁液として牛乳と血液を選択しました。まずMT
Xを牛乳および血液に添加した疑似的なサンプルを用意し、いずれも希釈せ
ずにこの免疫センサーと混合することで、試料中のMTXの検出を試みた。
その結果、どちらの試料でも、緩衝液で測定した場合と比べて発光強度そ
のものは小さくなるものの、ほぼ同等の応答が得られ、MTXの濃度依存的
に変化しました(図3)。このことから、この生物発光を利用した免疫セン
サーによって、従来の蛍光センサでは困難であった不透明な懸濁液におけ
る検出が可能であることが確認できた。
図3. さまざまな溶液中のBRET nano Q-bodyの発光スペクトル(a)緩衝液。
(b)牛乳。(c)血液(全血)。DOI:10.1021/acssensors.4c01800より一
部改変。
最後に、BRET nano Q-bodyをさまざまな場所で手軽に活用できるよう、
ろ紙に染み込ませて凍結乾燥させた紙デバイスに加工した。この紙デバイス
に基質とともにMTXを加えると発光色が変化し、その変化はスマートフ
ォンのカメラだけでなく、肉眼でも確認できました(図4a)。さらに、全
血、血清、牛乳などの生体試料を希釈せずに使用しても、緩衝液で測定し
た場合と同様の検出限界と高い応答を示しました(図4b)。この紙デバイ
スは、25℃で1カ月保存しても性能を維持しており、POCTに利用するデバ
イスとしても実用的であることが分かつた。
図4.4. (a)スマートフォンのカメラで撮影した紙デバイスの発光色の変化。
(b)生体試料に添加したMTXを紙デバイスで検出したときの濃度依存曲
線。DOI:10.1021/acssensors.4c01800より一部改変。
開発した生物発光免疫センサーBRET nano Q-bodyは,ラクダ科動物に由
来する重鎖抗体の可変領域(ナノボディ)に,赤色の蛍光色素TAMRAが化
学修飾されており,さらにリンカーを介して青色の生物発光酵素NanoLucが
融合されている。
ナノボディは高温下や変性条件下といったタンパク質にとって過酷な環境で
も安定性が高く,NanoLucは明るい生物発光を示すという特長を持つ。こ
れらの特長を生かすことで,POCTに適した,丈夫で長持ちし,かつ応答
の大きい免疫センサーを作製できると研究グループは考えた。
生物発光は,励起光を必要とせず,蛍光に比べて光散乱の影響が少ないこ
とが知られている。そのため,生物発光を利用したこの免疫センサーは,
よりシンプルな検出装置で操作でき,不透明な懸濁液への応用も視野に入
れることができる。
さらに,この免疫センサーをろ紙に染み込ませたあと,凍結乾燥により紙
デバイスに加工したところ,室温で1カ月放置したあとでも抗原を検出可
能であることが確認できたという。
【展望】
この免疫センサーの生物発光シグナルは,肉眼やスマートフォンなどでも
確認できるため,研究グループは,ベッドサイドだけでなく,野外や家な
どでの「その場」分析にも大きく貢献できる。
【掲載論文】
掲載誌:ACS Sensors
論文タイトル:BRET Nano Q-body: A Nanobody-Based Ratiometric Bio-
uminescent Immunosensor for Point-of-Care Testing
DOI:10.1021/acssensors.4c01800
心に響く懐かしの歌謡曲 『無法松の一生 美空ひばり』 1986年
※村田英雄の『王将』と考えたが、今夜は、変革期だと思い定め「突破力』を選曲。
人間の未来 AIの未来 講談社(2018/02発売)
まえがきにかえて 羽生善治から山中伸弥さんへ
第1章 iPS細胞の最前線で何が起こっていますか?
第2章 なぜ棋士は人工知能に負けたのでしょうか?
第3章 人間は将来、AIに支配されるでしょうか?
第4章 先端医療がすべての病気に勝つ日は来ますか?
第5章 人間にできるけどAIにできないことは何ですか?
第6章 新しいアイデアはどこから生まれるのでしょうか?
第7章 どうすれば日本は人材大国になれるでしょうか?
第8章 十年後、百年後、この世界はどうなっていると思いますか?
あとがきにかえて 山中伸弥から羽生善治さんへ
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人間の未来AIの未来』連載第10回
●今日の言葉:
『変貌する民主主義』 森政稔 - 千夜千冊