極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

蕪の柚のマリネの季節

2017年11月07日 | 日々草々

       

                          

                 公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

                                                

     ※ 四つの芽:あわれみの心は、人間ならだれでも持っている。むかしの聖人が血の
       通った政治を行ない得だのは、この心をもっていたからである。いまもし、あわ
       れみの心で、血の通った政治を行なうなら、天下はたやすく治まるのだ。
       あわれみの心はだれにもある、というわけはこうだ。
       幼い子供がヨチヨチと井戸に近づいて行くのを見かけたとする。だれでもハッと
       して、かわいそうだ、款ってやろう、と思う。それはべつに、子供を款った縁で
       その親と近づきになりたいと思ったためではない。村人や友人にほめてもらうた
       めでもない。また款わなければ非難される、それがこわいためでもない。

       してみると、かわいそうだと思う心は、人間だれしも備えているものだ。さらに、
       悪を恥じ憎む心、譲りあいの心、善悪を判断する心も、人間ならだれにも備わっ
       ているものだ。かわいそうだと思う心は、仁の芽生えである。悪を恥じ憎む心は、
       義の芽生えである。譲りあいの心は、礼の芽生えである。善悪を判断する心は、
       智の芽生えである。人間は生まれながら手足を四本持っているように、この四つ
       の芽生えを備えている。それなのに、自分は仁義礼智など実行できぬときめこむ
       のは、自分を傷つけるものである。君主に対しても、同じようにきめつけるのは、
       君主を傷つけるものである。

       自分に備わっているこの四つの芽生えを、育てようと思い立てば、火が燃え出し、
       泉が湧き出るように、それは限りなく大きくなっていく。これを育ててゆけば、
       天下を安定することができる。しかし育てなければ、父母を良うことすらできな
       い。
 
      【解説】有名な四端説の章。性善説の根拠をなす議論である。人間の本性は善きも
       のだ、これは孟子のゆるぎない信念である。告子篇では、人間の本性をめぐる告
       子との論戦が展開されているが、孟子はこの信念を断乎として守り、一歩も退か
       ぬ気脈を見せている。性善説にくみするか否かは別として、社会の機構が複雑化
       し、人間の自己疎外が進行して「人間」が日ごとに見失われてゆく今日、われわ
       れはいま一度問うてみる必要がありはしないか。人間とは何か、と。


【本日は蕪と柚の立冬】

 

                 いたつきも 久しくなりぬ 柚は黄に   /   夏目漱石

 
何年か前にホームセンタで買って植えた5月は白い花を咲かせていた花柚の実が約二百五十も結実。毎
晩柚風
呂に入り楽しむ季節である。南堀江の実家のころは、内風呂はひのき風呂だったから、入浴には
恵まれていたような気がする。さて、柚だけでなく今年の大きなニュースは檸檬の結実も多く、こちら
はまだ青いものの収穫が楽しみで、あとは、オリーブの実の収穫だけは経験できていないだねと彼女と
言葉を交わし。余談だがマンゴーもブラットオレンジも北限の厳しさを知らず彼女は寒風に植木鉢をさ
らし枯れさせているが、「あなたって雑ね!」と誹るわりには、整理・整頓の潔癖症?もその意味では
五十歩百歩だとエピソードを思いだし、「そんなもんだ!}」と付け加えた。

ところで、ミカン属の常緑小高木。柑橘類の1つ。ホンユズとも呼ばれる。消費・生産ともに日本が最大
である
本柚(ゆず:Citrus junos:シトラス・ジュノ)と花柚(Citrus hanayuシトラス・ハナユ)はザボンやブンタ
ンの仲間であり果実が小形で早熟性は別種とか。また、本柚は成長が遅く、「桃栗3年柿8年、ユズの大
馬鹿18年」などと呼ばれ。栽培に当たり、種子から育てる実生栽培では、結実まで10数年掛かり、
結実までの期間短縮にカラタチへの接ぎ木により、数年で収穫可能にすることが多いが、現在の日本で
栽培されるユズには主に3系統あり、本ユズとして「木頭系」・早期結実品種として「山根系」・無核
(種なし)ユズとして「多田錦]」がある。「多田錦」は本ユズと比較して果実がやや小さく、香りが僅
かに劣るとされているが、トゲが少なくて種もほとんどなく、果汁が多いので、本ユズよりも多田錦の
方が栽培しやすい面がある(長いトゲは強風で果実を傷つけ、商品価値を下げる)。

ユズは、ジャム、ゆべしなどシトラス・タルト(BBC Food - Recipes - Tarte au citronAnna Olson's Tarte
au Citron Recipes | Food Network Canada
)などジュースやスイーツをはじめ、柚子呼称・柚子ぼん酢など
の香辛料、薬味、冬至の季節料理にかかせない「近江の蕪の柚マリネ」ばどゆずのレシピは3万超のレ
シピ@cookpadが存在する。勿論、料理、食品、食品添加物だけでなく医療薬品、あるいは保湿剤、香水、
香料、畜産・養魚用食餌、肥料、土質改良、除草剤と応用展開されている。



● 事例研究:最新安全なユズで健康増進

2012年5月10日、高知大学医学部と馬路村農業協同組合(高知県馬路村、東谷望史組合長)は、
ユズの種子オイルがアトピー性皮膚炎に効果があるとする共同研究を発表。ユズ種子オイルをアトピー
性皮膚炎のマウスに塗布したところ、かゆみの原因となるヒスタミン量が抑制されている。同村特産の
ユズを使用した加工食品を製造する馬路村農協と高知大学が2009年に共同研究契約を締結。溝渕俊
二教授の研究グループが、同農協が製造するユズの種子オイルの効能の研究に取り組んできた。実験で
はダニでアトピー性皮膚炎を発症させたマウスを使い、ユズ種子オイルとオリーブオイルを塗布して比
較。精製したユズ種子オイルを塗布したマウスはアトピー性皮膚炎の所見はほとんど認められなかった。
 マウスの皮膚の出血、ただれ、浮腫などの症状をスコア化(点数が多いほど症状がある)したところ、
オリーブは6点、未精製のユズ種子オイルは3.6点、精製したユズ種子オイルは2.8点で、オリーブオイ
ルよりも効果があるという報告がされている(日本経済新聞、電子版 2012.05.11)。

 ❏ 特許6112702  抗酸化剤

【概要】

抗酸化性物質としては、いわゆる合成化合物も開発されているが、活性酸素は生活習慣病の原因の一つ
であり、抗酸化性物質としては、症状が顕在化する前に、予防的、また、恒常的に投与できるものが好
ましい。このため抗酸化作用を有する合成化合物は副作用問題が大きく、予防的な投与や恒常的な投与
に適さない。そこで、食品としても使用可能な天然物から抗酸化物質が探索――
βカロチン、ビタミン
C、ビタミンE、ポリフェノールなどを含む柑橘類から抗酸化物質が見出されている。従来、抗酸化作
用を有するフラボノイドなどを含むことから柑橘類の果実などから抗酸化物質の探索が進められてきた
が、フラボノイドを含まない/ほとんど含まないユズ種子のオイルが優れた抗酸化作用を有することを
実験的に突き止める(上/下図参照)。JP 6112702 B

❏  特開2008-184454  葉面散布型の硝酸低減剤

【概要】

ほとんどの植物は、根から窒素源の硝酸を吸引、葉から空気中の二酸化炭素を取り込む。根から吸い込
まれた硝酸は、亜硝酸、アンモニアと代謝され、光合成で二酸化炭素を基に得られた糖由来の炭素源と
結合。このように植物は、「空気中からの炭素」と、「土壌からの窒素」を結合させ、生命活動に不可
欠なアミノ酸「炭素と窒素の化合物」を得て、健全な生育には、常時、一定濃度の硝酸が体液中に存在
し、硝酸濃度をゼロにはできない。

食用植物の残留硝酸イオンは、その量が多ければ、ヒトにとっては食味が優れないだけでなく、バクテ
リアなどにより亜硝酸に還元されるとニトロソ系の発がん剤となり、さらに、ヘム鉄と結び付きチアノ
ーゼ症状
を引き起こす。また、微生物の増殖にとっても活用されるため、収穫後の野菜の腐敗が速い
これにも関わらず、農作物の効果的な増収のために多肥栽培が実施され、高濃度の残留硝酸を含む野菜
が市場流通している実状がある。食の安心を求める市場からは、農作物中の残留硝酸を可能な限り低く
する
事が切実に求められている。実際、EUでは葉野菜に含まれる硝酸濃度の許容基準値が定められて
いる。ここで、植物体内での代謝による硝酸の減少を「作用D」とし、根からの硝酸吸収を「作用U」
と定義すると、従来の硝酸低減剤は、作用Dの強化に軸足を置いた「生育促進剤+α」形で開発され、
作用Uの制限を追求する「生育抑制剤+α」の開発思想では全く実施されていない。

さて、植物の生長停止ホルモンのアブシジン酸誘導体は、アブシジン酸の気孔を閉じる作用が蒸散抑制
となり、切り花などの日持ち向上に使用される。アブシジン酸は全ての植物に含まれるが、ユズなどの
柑橘果皮には多く含まれ
、、いくつかの植物の発芽、伸長が抑制される確認されている。また、ワイン
の渋味のもとでもあるタンニン型ポリフェノール誘導体も植物の生育を抑制する事が示されて、樹皮中
のタンニン誘導体に着目した雑草生育抑制剤などに使用されている。これらのタンニンは、水溶性で、
タンパク質、アルカロイド、金属イオンと強く結合し、還元(抗酸化)性を持つ。これらの特性が生育
抑制効果と相関すると推測されている。酸化防止剤として食品添加に利用されている没食子酸(gallic
acid, 3,4,5-trihydroxybenzoic acid
)は、加水分解性タンニンの基本骨格をなし、実際、タンニン類の合成
原料として使用されている。

具体的には、まず、(1) 「生育抑制剤」による生育の緩慢化を、根からの養分吸収の制限につなげる。
この、根から硝酸が吸引されにくい状態で、(2) 体内に残存する硝酸濃度を二つ目の鍵物質(細胞内代
謝を促進剤)により低減させる方法での硝酸低減剤の開発であり、強力な生育抑制剤の作用に、細胞内
代謝促進剤の持つ硝酸低減効果を、有機的に相乗させ初めて発現すさせる「生育抑制剤+α」の設計指
針、これまでの硝酸低減剤の開発方法とは正反対という特徴をもつ葉面散布型の硝酸削減剤は、出荷直
前の大きさまで育てる農産物の葉の硝酸濃度を、一回の葉面散布処理により、2割から7割低減させ、
低硝酸状態が2-6日間維持(=農作物生産者に十分な有効収穫作業期間)し、優しく効果的な葉面散
布型の硝酸低減剤の提供効果、また、柑橘果皮や、抗酸化剤としての機能も合わせ持つタンニン誘導体
で植物体内に残存しても健康に問題なもので、下図のように、ユズ果皮成分やタンニン誘導体など植物
の生育抑制剤に、細胞内の代謝を活性化させる所謂育成促進剤としてマグネシウム塩や糖蜜発酵液を所
定量組み合わせもつ葉面散布型の硝酸低減剤の提供にある。

JP 2008-184454 A 2008.8.14

          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』     

     第61章 勇気のある賢い女の子にならなくてはならない

   階段を下りたところは地下二階で、そこにはメイド用の部屋があった。それに隣接して洗濯室
  があり、その隣に貯蔵庫があった。つきあたりには運動機械の並んだジムがあった。騎士団長は
 メイド用の部屋を示した。

 「諸君はしばらくその部屋に身を隠しているのだ」と騎士団長は言った。「そこを免色くんが訪
 れることはまずあらない。一目にコ茨は洗濯をしたり、運動するためにここに下りてくるが、メ
 イド用の部屋まではいちいちのぞかない。だからそこでおとなしくしておれば、見つかることは
 まずあらない。部屋には洗面所もついておるし、冷蔵庫もある。地震に備えてミネラル・ウオー
 ターと食品が貯蔵庫に十分ストックされている。だから飢えることもあらない。諸君はここで比
 較的安心して日にちを送ることができる」

  ヒニチを送る? とまりえはスリッポン・シューズを手にさげたまま、驚いて(でも声には出
 さず)尋ねた。ヒニチを送る? つまり、私は何日もここにいるということなのかしら?

 「気の毒ではあるが、諸君はすぐにここを出ることはかなわない」と騎士団長は小さな首を振り
 ながら言った。「ここは警戒の厳しい場所なのだ。いろいろな意味合いで、しっかり見張られて
 いる。そればかりは、あたしにもなんともならない。イデアに与えられた能力にも残念ながら限
 りがある」
 「どれくらい長くなるのでしょう?」とまりえは小さく声に出して尋ねてみた。「早く家に帰ら
 なくちやなりません。そうしないと叔母が心配します。行方不明になったとして、警察に連絡し
 たりするかもしれません。そうするととても面倒なことになります」

  騎士団長は首を振った。「残念ではあるが、あたしにはいかんともしがたい。ここでじっと待
 つしかあらないのだ」

 「免色さんは危険な人なのですか?」
 「それは説明のむずかしい問題だ」と騎士団長は言った。そしていかにもむずかしそうな顔をし
 た。「免色くん白身はべつに邪悪な人間というわけではあらない。むしろひとより高い能力を持
 つ、まっとうな人物といってもよろしい。そこには高潔な部分さえうかがえなくはない。しかし
 それと同時に、彼の心の中にはとくべつなスペースのようなものがあって、それが結果的に、普
 通ではないもの、危険なものを呼び込む可能性を持っている。それが問題になる」

  それがどういうことを意味するのか、まりえにはもちろん理解できなかった。普通ではないも
 の?

  彼女は尋ねた。「さっきクローゼットの前にじっと立っていた人は、免色さんだったのです
 か?
 「それは免色くんであると同時に、免色くんではないものだ
 「免色さん自身はそのことに気づいているのですか?」
 「おそらく」と騎士団長は言った。「おそらくは。しかし彼にもそれはいかんともしがたいこと
 であるのだ」

  危険で普通ではないもの? あるいは彼女の見かけたスズメバチもその形のひとつなのかもし
 れない、とまりえは思った。

 「そのとおり。スズメバチにはくれぐれも気をつけた方がいい。それはどこまでも致死的な生き
 物であるから」と騎士団長は彼女の心を読んで言った。 
 「チシテキ?」
 「死をもたらしかねないもの、ということだ」と騎士団長は説明した。「今は諸君はここにじっ
 としているしかあらない。今、外に出るとやっかいなことになる」

 「チシテキ」とまりえは心の中で繰り返した。その言葉にはとても不吉な響きが感じられた。

  まりえはメイド室のドアを開けて中に入った。そこは免色の寝室のクローゼットよりも少し広
 いくらいのスペースだった。簡易キッチンが付属してあり、冷蔵庫と電気のコンロがあり、コン
 パクトな電子レンジがあり、蛇口と流し台があった。小さなバスルームがあり、ベッドがあった。
 ベッドはむき出しだったが、戸棚には毛布と布団と枕が用意されていた。ささやかに食事ができ
 る簡便な食卓と椅子のセットが置かれていた。椅子はひとつしかない。谷間に向けて小さな窓が
 ひとつあった。カーテンの隙間からは谷開か見渡せた。

 「もし誰にもみつかりたくなかったら、ここでおとなしくして、できるだけ音を立てないように
 するのだよ」と騎士団長は言った。「わかったかね?」

  まりえは肯いた。

 「諸君は勇気のある女の子だ」と騎士団長は言った。「いくぶん無謀なところはあるけれども、
 とにかくも勇気はある。そしてそれは基本的によろしいことだ。しかしここにいる限り、しこた
 ま注意をしなくてはならない。くれぐれも油断してはならないよ。ここはそんじょそこらの普通
 の場所ではあらないのだから。やっかいなものが徘徊しているのだから

 「ハイカイ?」
 「うろつきまわっているということだ」

  まりえは肯いた。ここがどのように「そんじょそこらの普通の場所」ではないのか、いったい
 どんなやっかいなものがここをハイカイしているのか、それについてもっと知りたかったが、う
 まく質問をすることができなかった。あまりにわからないことが多すぎて、いったいどこから手
 をつければいいものかわからない。

 「あたしはもうここに来ることがかなわないかもしれない」と騎士団長は秘密を打ち明けるよう
 に言った。「これからほかに行かなくてはならない場所があるし、ほかにやらなくてはならない
 ことがある。それはとても大事な用件なのだ。だからまことに申し訳あらないが、この先もう諸
 君を手伝ってあげることはできそうにない。あとは諸君がなんとか自分の力で切り抜けるしかあ
 らないのだ」
 「でも、わたしひとりだけの力で、どうやってこの場所から抜け出せるかしら?」



 騎士団長は目を細めてまりえを見た。「よく耳を澄ませ、よく目をこらし、心をなるたけ鋭く
 しておく。それしか道はあらない。そしてそのときが来れば、諸君は知るはずだ。おお、今がま
 さにそのときなのだ、と。諸君は勇気のある、質い女の子だ。注意さえ怠らねば、それは知れ亘
 

  まりえは肯いた。私は勇気のある、質い女の子でいなくてはならない。

 「元気でおりなさい」と騎士団長は励ますように言った。それからふと思いついて付け加えた。
 「心配しなくてよろしい。諸君のその胸はやがてもっと大きくなるであろうから」
 「65のCくらいまで?」

  騎士団長は困ったように首をひねった。「そう言われても、あたしはなにしろ▽弁のイデアに
 過ぎない。ご婦人の下着のサイズのことまではよく知識を持だない。でもとにかくも、今よりは
 もっとずっと大きくなることは間違いあらない。心配することはあらない。時がすべてを解決し
 てくれるであろう。かたちあるものにとって、時とは偉大なものだ。時はいつまでもあるという
 ものではあらないが、あるかぎりにおいてはなかなかに効果を発揮する。だからずいぶん楽しみ
 にしておりなさい」
 「ありがとう」とまりえは礼を言った。それは間違いなくひとつの明るいニュースだった。そし
 て彼女はそういう自分を勇気づけてくれるものを、ひとつでも多く必要としていた。

  それから騎士団長はふっと姿を消した。やはり水蒸気が空中に吸い込まれるみたいに。騎士団
 長が目の前から消えてしまうと、あたりの沈黙がいっそう重くなった。騎士団長にもう二度と会
 えないかもしれないと思うと、寂しい気持ちがした。私にはもう頼れるものもないのだ。まりえ
 はメイクをしていない裸のベッドに横になり、天井を見つめた。天井は低く、白い石膏ボードが
 貼られていた。その真ん中に蛍光灯の照明がついていた。しかしもちろん彼女はそれをつけなか
 った。明かりをつけるわけにはいかない。

  あとどれくらい長くここにいなくてはならないのだろう? そろそろ夕食の時刻が近づいてい
 る。七時半までに帰宅しなければ、叔母はきっと絵画教室に電話をかけるだろう。そして私か今
 日教室を欠席したことを知るだろう。そのことを考えるとまりえの胸は痛んだ。叔母はずいぶん
 心配するに違いない。私の身にいったい何か起こったのだろうと。なんとか叔母に自分か無事で
 あることを知らせなくてはならない。それから上着のポケットに携帯電話が入っていることには
 っと気がついた。でもスイッチは切ったままにしてある。

  まりえは携帯電話をポケットから引っ張り出し、スイッチを入れた。両面には「バッテリーが
 不足しています」という表示が浮かび上がった。電池の残量はきれいに空白だった。そして間を
 置かずに両面が消滅した。彼女はもう長いあいだそれを充電するのを忘れていたから(彼女は日
 常的に携帯電話をほとんど必要としなかったし、その機械に対してとくに好意も関心も抱いてい
 なかった)、バッテリーが枯渇してしまっていてもとくに不思議はないし、また文句も言えなか
 った。



  彼女は深いため息をついた。少なくともときどき充電くらいはしておくべきだった。何か起こ
 るかわからないのだから。しかし今さらそんなことを言い出してもしかたない。彼女は息を引き
 取ってしまったその携帯電話を、またブレザーコートのポケットに突っ込んだ。しかし何かがふ
 と気になってそれをまた引っ張り出した。そこにいつもつけているペンギンのフィギュアが見当
 たらない。それは彼女がドーナッツ・ショップでポイントを貯め、景品としてもらって、ずっと
 お守り代わりにしていたものだった。たぶんストラップが切れたのだろう。しかしいったいどこ
 で落としたのだろう? 彼女にはそんな心当たりがなかった。なにしろ電話をポケットから出し
 たこともほとんどなかったのだから。

  その小さなお守りをなくしたことは、彼女を不安な気持ちにさせた。しかし少し考えて思い直
 した。ペンギンのお守りはとこかでうっかりなくしたのかもしれない。でもその代わり、あのク
 ローゼットの中のイフクが、新しいお守りとなって私を助けてくれたのだ。そしてあの奇妙なし
 ゃべり方をする小さな騎士団長が、私をここまで導いてくれた。私はまだちゃんと何かに護られ
 ている。あのお守りがなくなったことを気にするのはやめよう。

  彼女がそれ以外に身につけているものといえば、財布と、ハンカチと、小銭入れと、家の鍵、
 半分残ったクールミントのチューインガム、それくらいだ。ショルダーバッグの中には筆記具と
 ノートと教科書が何冊か入っている。彼に立ちそうなものは何も見当たらない。
  まりえはそっとメイド室を出て、貯蔵庫の中身を点検してみた。そこには騎士団長の言ったと
 おり、地震に備えた非常食がたっぷり蓄えられていた。小田原のこの山間部は地盤が比較的しっ
 かりしているので、地震の被害はそれほど多くないはずだ。一丸二三年の関東大震災のときにも
 小田原市内は大きな被害を受けたものの、このあた.りの被害は比較的軽微なものにとどまった
 (彼女は小学校のときに夏休みの研究課題として、関東大震災のときの小田原近辺の被害状況を
 調査したことがあった)。しかし地震の直後には食料と水を手に入れるのがむずかしくなる。と
 くにこのような山の上では。だから免包は災害に備えて、その二つを怠りなく保管しているのだ
 ろう。どこまでも用心深い人だ。

  彼女はその貯蔵庫からミネラル・ウォーターのボトルを二本と、クラッカーの包みをひとつと、
 チョコレートを一枚取り、それを持って部屋に戻った。それくらいの量なら持ち出しても、きっ
 と気づかれないはずだ。いくら綿密な免包でもミネラル・ウオーターのボトルの数まで数えては
 いないだろう。彼女がミネラル・ウオーターのボトルを持ってきたのは、できれば水道を使いた
 くなかったからだった。水道はどんな音を立てるかしれない。できるだけ音を立てないようにす
 るのだよと騎士団長は言った。注意しなくてはならない。 

  まりえは部屋の中に入ると、内側からドアをロックした。もちろんどれだけドアをロックして
 も、免色はこのドアの鍵を持っているだろう。しかしすこしくらい時間は稼げるかもしれない。
 少なくともひとつの気休めにはなる。
  食欲はなかったが、彼女は試しにクラッカーを何枚か啜り、水を欲んだ。ごく普通のクラッカ
 ーと、ごく普通の水だった。念のために表示を確かめてみたが、どちらもまだ賞味期限内だった。
 大丈夫、私がここで飢えるようなことはない。



  外はもうすっかり暗くなっていた。まりえは窓のカーテンを小さく開けて、谷間の向かい側に
 目をやった。そこには彼女の家が見えた。双眼鏡がなかったから、家の内部まではうかがえなか
 ったが、いくつかの部屋に明かりがついているのが見えた。目を凝らせば人影も見えそうだった。
 そこには叔母さんがいて、いつもの時刻になっても私が帰宅しないことで、きっとやきもきして
 いるはずだ。どこかから電話がかけられないものだろうか? どこかにきっと固定の電話機があ
 るはずだ。「私は無事だから心配しないでいい」、短くそれだけ言って電話を切ればいい。短く
 済ませればおそらく、免色さんに気づかれることもないだろう。しかしその部屋の中にも、また
 近辺のどこにも、電話機は見当たらなかった。

  夜のあいだに、開に紛れてここを抜け出せないものだろうか? どこかで梯子を見つけ、塀を
 乗りこえて外に出るのだ。庭の資材小屋で折りたたみ式の梯子を見かけたような記憶があった。                                                                              
  しかし彼女は騎士団長の言ったことを思い出した。ここは警戒の厳しい場所なのだ。いろい
 ろな意味合いで、しっかり見張られている。そして「警戒が厳しい」と言うとき、彼はセキュリ
 ティー会社のアラーム・システムのことだけを言っているのではないはずだ
  騎士団長の言うことを信じた方がいいだろう。まりえはそう思った。ここは普通の場所ではな
 いのだ。いろんなものがハイカイしている場所なのだ。私は用心深くならなくてはいけない。ず
 いぷん我慢強くならなくてはならない。軽率に強引にものごとを運ばない方がいい。騎士団長に
 言われたとおり、しばらくのあいだはここに留まって、おとなしく様子をうかがっていることに
 しよう。そして機会が訪れるのを待つのだ。

  そのときが来れば、諸君にはわかるはずだ。今がまさにそのときなのだと。諸君は勇気のあ
 る、賢い女の子だ、それは知れる
  そうだ、私は勇気のある賢い女の子にならなくてはならない。そしてしっかりと生き延びて、
 この胸がもっと大きくなるのを見届けるのだ。
 彼女は裸のベッドに横になったままそう思った。あたりはどんどん暗くなっていった。そして
 より深い暗闇が訪れようとしていた。


この章も摩訶不思議な彼の世界だ! 異能者たちとはどのようなものか?謎が続く、さて、次は――
なんと言う”不思議の国のアリス”なんだろう――第62章へと移る。  
                                         
 この項つづく

● 

今夜まで、ひどく体調が崩れた3週間を過ごしている。どうなることやら。どうにもならないことだが
予定は大きく狂ってしまった、これはフェイクでなくファクトだが。

 ● 今夜の一曲

「ANNIVERSARY

   なぜこんなこと気づかないでいたの
   探し続けた愛がここにあるの
   木漏れ日がライスシャワーのように
   手をつなぐ二人の上に降り注いでる
   あなたを信じてる瞳を見上げてる
   ひとり残されてもあなたを思ってる

   今はわかるの苦い日々の意昧も
   ひたむきならばやさしいきのうになる
   いつの日かかけがえのないあなたの
   同じだけかけがえのない私になるの
   明日を信じてるあなたと歩いてる
   ありふれた朝でも私には記念日

   今朝の光は無限に届く気がする
   いつかは会えなくなると
   知っていても

                            作詞/作曲 松任谷由実

 

 

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エネルギーフリー社会を語ろう!No.92

2017年11月03日 | 環境工学システム論

       

                          

                 公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

                                                

     ※ 天下に敵なし:賢人や有能な人材を重用し、すぐれた人物が国政にあたれば、あら
              ゆる人材はその国に仕官することを願うだろう。商店からは店舗税は徴収するが、
              商品税は免除する。あるいは収り締まりだけにとどめて店舗税も免除する。そうす
              れば商人という商人は、その国で商いすることを願うだろう。関所では、取り調べ
       だけを行なって、通行税はとらない。そうすれば旅人はみな、その国を通ることを
       願うだろう。農民には、賦役として公田を耕させるだけで、私田には課税しない。
       そうすれば他国の農民も、その国で耕すことを願うだろう。住宅については、付加
       税をとらなければ、天下の人民はみな、その国に住むことを願うだろう。この五つ
       の政策を完全に実行すれば、その君主は隣国の人民からも父母のように慕われる。
       隣国が人民をひきいて侵略して来たとしても、息子が父母を攻めるようなものだ。
       歴史はじまって以来、こんな侵略が成功したためしはない。このような君主には天
       下に敵がなくなる。天下無敵の君主は、天の使徒である。天の使徒でありながら、
       王者になれなかった例はかつてなかった。

     〈公田を耕させる〉周の井田法による公田を共同耕作して、収指物を祖税にすること。
     〈付加税〉原文は「夫里之布」。周代には、働かない者や宅地に桑や麻を植えない者に
          対する罰として課した税。しかし戦国時代には悪用され、付加税として一律
          に課した。

     【解説】孟子の持論である王道政治の経済政策であるが、五つのうち四つまでが減税政
         策とは興昧深い。 

 

    No.92

 【高性能回転電動機篇:熾烈な競争に勝つ方法

 

11月2日、日経新聞社は、日本の革新力低下しているとしてその克服法を掲載(「大企業に眠れる
知 解はすぐそばにある (ニッポンの革新力)」 2017/11/2 日本経済新聞 電子版)。それによる
と、日本企業は1980年代に半導体や家電で世界を制したが、その後は米国などに後れを取る。研究開
発(R&D)が生むリターン(利益)、いわば「ROR(リターン・オン・R&D)」の低迷が止ま
らない。デロイトトーマツコンサルティングは主要国の企業が生んだ5年間の付加価値の平均を、そ
の前の5年間の研究開発費の平均で割ってR&Dの効率を算出。日本が製造業で競合する国では16
年はフランスが49倍、ドイツが42倍、米国が39倍と高く、日本と韓国は32倍で最下位に並ぶ。
つまり、日本企業の研究所は業化という出口を見据え、技術の種をどう組み合わせるかを考えられ
ていない
福永泰日本電産中央モーター基礎技術研究所長)。変化が緩やかな時代には、知をためこ
む日本型経営が通用したが、変化が激しいデジタルの時代には、自前主義を克服する経営の知恵が革
新力を左右すると指摘する。

2010年まで東芝の技術者だった堺和人東洋大学教授は、会社に残っていれば、電気自動車(EV)
用のモーターの勢力図は変わっていたかもしれないと思い
で研究を続ける。 手がけるのは永久磁石
の磁力を自由に変えることで、モーターの効率を大幅に高める技術。洗濯機で実用化し大型のハイテ
ク機器への活用を考えたが、リーマン・ショック後の業績悪化を背景に、応用は足踏みに。堺教授は
研究環境を求めて東芝を去る。EV時代が近づき、堺教授のもとにはLG電子など韓国メーカーから
共同研究の打診もあったが、東芝は将来の成長を担うかもしれないEV用モーターの技術の種を失う。

 ❏ 関連特許事例: 特開2017-063518 回転電機システム

ところで、世界のエネルギー総消費量のおよそ50%がモータによる。そのため、モータおよびドラ
イブシステム
省エネルギー化・高効率化が求められている。従来、モータや発電機のような回転電
機では、3相の交流電流が流れる3相のコイルを固定子に設けて相毎のコイルを接続して3相巻線を
構成。この3相巻線を持つ回転電機ではその3相の巻線それぞれの端子に外部の3相電力変換装置を
接続しエネルギー変換、回転子を回転させて回転力を取出し、あるいは回転子の回転により固定子側
から出力される電力を取り出す。

このような3相の回転電機では、❶トルク脈動や出力脈動を小さくするためにコイルの数や配置を最
適化して起磁力を正弦波に近づける設計を行うが、スロット数を限りなく増やすことはできないので、
高調波の低減量には限界がある。❷また巻線電流による電磁力で発生する振動や騒音を低減するのに
電気的にスロット数や鉄心形状などで最適化しても、ある程度までしか低減できない。❸
またハイブ
リッド自動車や鉄道等の可変速モータや風力用可変速発電機では、低速から高速まで低損失が性能上
最も重要となるが、機器設計上で固定された極数では、極数によって良好な出力性能が得られる回転
数範囲があるので、低速域から高速域まで広範囲で高効率にすることは困難である。

そこで、前述のことを踏まえ、下図1のように、複数のコイル各々に流れる電流の大きさと位相とを
変化できる電力変換回路30a~30i、複数のコイル各々で成る巻線を有する固定子10たコイル
または永久磁石または磁気的突極鉄心を有する回転子20から構成される回転電機システムにおいて、
電力変換回路30a~30iは複数のコイル各々に流れる電流の大きさと位相とを個々に変化できる
回転電機システムとすることで、省エネルギーや発電量の増加、トルクや出力脈動の低減、振動や騒
音の低減が図れる回転電機システムを実現する。



【図1】本発明の第1の実施の形態の回転電機システムの説明図
【図2】第1の実施の形態の回転電機システムの回路図



【図3】第1の実施の形態の回転電機システムの動作説明図
【図4】上記第1の実施の形態の回転電機システムにおける9相電圧波形図
【図8】第2の実施の形態の回転電機システムによる4極運転時の回転磁界の分布図
【図9】第2の実施の形態の回転電機システムによる8極運転時の回転磁界の分布図
【図18C】上記第3の実施の形態の回転電機システムのモータの負荷時トルク特性図

 【量子ドット工学講座 No.48

最新ペロブスカイト応用技術:関連事例
             
● ペロブスカイト型薄膜太陽電池、エネ変換効率18%達成

先回はワシントン大学の研究グループのAサイトカチオンハライド塩コーティング処理法で化学的に
表面積層し
た変換効率13.4%のハロゲン化ペロブスカイト量子ドット薄膜の開発したことを掲載し
たが(下表クリック)、今度は、桐蔭横浜大学医用工学部の宮坂力特任教授らは、薄いフィルム型にし
た「ペロブスカイト太陽電池」のエネルギー変換効率で18%を達成した。フィルム型では世界最高
性能だという情報が飛びKんできた(「フィルム型ペロブスカイト太陽電池、エネ変換効率18%達成!
桐蔭横浜大」日刊工業新聞 電子版 2017.11.01
)。

それによると、厚さ約126マイクロメートル(マイクロは100万分の1)で、折り曲げても高い
変換効率と安定性を維持する。安価かつ軽量でフレキシブルな太陽電池が実用化できれば、無線機器
の自立電源、ウェアラブル機器のほか、医療分野にも活用範囲が広がると期待される。
ペロブスカイ
ト太陽電池は、ペロブスカイトという結晶構造を持つ太陽電池。製造コストが低いため、次世代太陽
電池として実用化が期待されている。同
研究グループは、樹脂フィルム基板に対し電子輸送層、セシ
ウムやメチルアンモニウムなどの混合カチオンからなるペロブスカイト層、正孔輸送材料と金電極を
120度以下の低温で製膜し、製作した。フレームなどを除く太陽電池フィルムの重量は1平方メー
トル当たり約250グラムと軽量。また、1000回の繰り返しの曲げ試験後にも、効率を83%維
持できることを確認した。
現在、変換効率20%を超えるペロブスカイト太陽電池はガラス基板を使
用。フィルム型では15~16%程度が最高だった。また、世界最高効率の22・1%の同電池など
は400度以上で製膜している。
今回製作したものは低温で製膜できるため、生産コストを抑えられ
るということだ。

毎度掲載していることではあるが、安定性と耐久性がハードとして残るもののタンデム化(多層化)
で高効率化が実用段階の射程に入り、薄膜化による人工光(室内照明)など発電できウェアブル化/
モバイル器機の電源化の実用化も射程入ってきている。ここでは、太陽電池または太陽電池以外の燃
料電池、セラミックコンデンサー、特殊ガラス材としての新規技術事例をピックアップしてみた。

 

❏ 関連特許事例:特開2017-195374 配向膜基板の製造方法、スパッタリング装置
                           及びマルチチャンバー装置



【符号の説明】

1 ロードロック室  2 搬送室  3 搬送ロボット  4 YSZスパッタ室  5 磁性を持つ物質の
スパッタ室5  6 特定の格子定数を持つ物質のスパッタ室6  7 PZTスパッタ室  8 ゾルゲル
スピンコート式PZT製膜装置(誘電体膜成膜装置) 10 グリッド電源(第2の電源) 11 フ
ィラメント 12 フィラメント電源(第3の電源) 13 放電ガス導入機構 14 反応ガス導入
機構 15 集光型反射部材(集光リフレクター) 17,18 ランプ光がSiウエハの下面の外側
に漏れる量 21 第1のチャンバー(プロセスチャンバー) 22 保持機構 23 Siウエハ(
Si基板) 24 ランプヒーター 25 スパッタ電極 26 スパッタリングターゲット 27 ロ
ータリーマグネット 28 スパッタ電源(第1の電源) 29 グリッド電極 29a 貫通孔 31
YSZ膜 31a ZrO膜 31b Y膜 32 磁性を有する導電膜 33 PZT膜 
34 ペロブスカイト構造物質を含む第1のバッファ層 35 ペロブスカイト構造物質を含む第2のバ
ッファ層 51 ゲートバルブ 52 第1の空間 53 第2の空間 54 バルブ

【概要】

従来のPb(Zr,Ti)O3(以下、「PZT」という。)ペロブスカイト型強誘電体セラミックスの製造方法は、4
インチSiウエハ上に膜厚300nmのSiO2膜を形成し、このSiO2膜上に膜厚5nmのTiOX膜を形成する。次
にこのTiOX膜上に例えば(111)に配向した膜厚150nmのPt(白金)膜を形成し、このPt膜上にスピンコー
ターによってPZTゾルゲル溶液を回転塗布する。この際のスピン条件は、1500rpmの回転速度で30秒間
回転させ、4000rpmの回転速度で10秒間回転させる条件である。
次に、この塗布されたPZTゾルゲル溶
液を250℃のホットプレート上で30秒間加熱保持して乾燥させ、水分を除去した後、さらに500℃の高
温に保持したホットプレート上で60秒間加熱保持して仮焼成を行う。これを複数回繰り返すことで膜
150nmのPZTアモルファス薄膜を生成する。


次いで、このPZTアモルファス薄膜に加圧式ランプアニール装置(RTA: rapidly thermal anneal)を用い
700℃のアニール処理を行ってPZT結晶化を行う。このようにして結晶化されたPZT膜はペロブスカイ
ト構造からなる。この従来技術では、(111)に配向したPt膜が必要となり、Ptが高価であるため、製造
コストが高くなるという課題と製造コストを低減することを課題である。
本発明の種々の態様につい
て説明すると、

[1](100)の結晶面を有するSi基板と、前記Si基板上にエピタキシャル成長により形成さ
れた(100)の配向膜と、配向膜上にエピタキシャル成長により形成された磁性を有する導電膜と
、を具備することを特徴とする配向膜基板。
[1]において、導電膜は金属を含むことを特徴とする
配向膜基板。[1]または[2]において、導電膜は、磁性を有する金属が40質量%以上含まれ
ていることを特徴とする配向膜基板。
[4]上記[1]乃至[3]のいずれか一項において、導電膜
は、Ni、Fe、Ni合金、Ni-Cu合金、Fe合金及びFe-Ni合金の群から選択された少な
くとも一つの金属または少なくとも一つの金属にAgを含有する金属からなることを特徴とする配向
膜基板。
[5]上記[1]乃至[4]のいずれか一項において、 導電膜は電極であることを特徴と
する配向膜基板。
[6]上記[1]乃至[5]のいずれか一項において、配向膜及び導電膜は500
℃の耐熱性を有することを特徴とする配向膜基板。
[7]上記[1]乃至[6]のいずれか一項にお
いて、配向膜は、ZrO膜とY膜を積層した積層膜またはYSZ膜であることを特徴とする
配向膜基板。
[8]上記[1]乃至[7]のいずれか一項において、配向膜と前記導電膜との間に形
成されたペロブスカイト構造物質を含む第1のバッファ層を有することを特徴とする配向膜基板。
[9]上記[1]乃至[8]のいずれか一項において、 前記導電膜上に形成され、(100)に配向
した誘電体膜を有することを特徴とする配向膜基板。
[10]上記[9]において、 前記誘電体膜は
PZT膜であることを特徴とする配向膜基板。
[11]上記[9]または[10]において、導電膜
と前記誘電体膜との間に形成されたペロブスカイト構造物質を含む第2のバッファ層を有することを
特徴とする配向膜基板。
[12]上記[8]または[11]において、ペロブスカイト構造物質は、一般式
ABOで表され
、Aは、Al、Y、Na、K、Rb、Cs、La、Sr、Cr、Ag、Ca、Pr、
Nd、Biおよび周期表のランタン系列の元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含
んでなり、Bは、Al、Ga、In、Nb、Sn、Ti、Ru、Rh、Pd、Re、Os、IrPt、
U、Co、Fe、Ni、Mn、Cr、Cu、Mg、V、Nb、Ta、MoおよびWからなる群から選
択される少なくとも一つの元素を含んでなるペロブスカイト物質、または、酸化ビスマス層と、ペロ
ブスカイト型構造ブロックとが交互に積層された構造を有するビスマス層状構造強誘電体結晶であり、
ペロブスカイト型構造ブロックは、Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、Y、Bi、Pbおよび希土
類元素から選ばれる少なくとも1つの元素Lと、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、Mo、Mn、
Fe、SiおよびGeから選ばれる少なくとも1つの元素Rと、酸素とによって構成されることを特
徴とする配向膜基板
[13](100)の結晶面を有するSi基板を用意し、Si基板上にエピタキ
シャル成長によりZrO膜とY膜を積層した積層膜またはYSZ膜を形成し、積層膜または
YSZ膜上にエピタキシャル成長により磁性を有する導電膜を形成する配向膜基板の製造方法であり、
積層膜は(100)に配向しており、YSZ膜は(100)に配向しており、導電膜は、Ni、Fe、
Ni合金、Ni-Cu合金、Fe合金及びFe-Ni合金の群から選択された少なくとも一つの金属
または前記少なくとも一つの金属にAgを含有する金属からなることを特徴とする配向膜基板の製造
方法。
[14]上記[13]において、 前記導電膜は、磁性を有する金属が40質量%以上含まれ
ていることを特徴とする配向膜基板の製造方法。
[15]上記[13]または[14]において、積
層膜またはYSZ膜を形成した後で且つ前記導電膜を形成する前に、積層膜またはYSZ膜上にペロ
ブスカイト構造物質を含む第1のバッファ層を形成することを特徴とする配向膜基板の製造方法。

[16]上記[13]乃至[15]のいずれか一項において、導電膜を形成した後に、前記導電膜上
に(100)に配向した誘電体膜を形成することを特徴とする配向膜基板の製造方法。
[17]上記
[16]において、誘電体膜はPZT膜であることを特徴とする配向膜基板の製造方法。
[18]上
記[16]または[17]において、前記導電膜を形成した後で且つ前記誘電体膜を形成する前に、
前記導電膜上にペロブスカイト構造物質を含む第2のバッファ層を形成することを特徴とする配向膜
基板の製造方法。
[19]上記[15]または[18]において、ペロブスカイト構造物質は、一般
式ABOで表され、Aは、Al、Y、Na、K、Rb、Cs、La、Sr、Cr、Ag、Ca、Pr、
Nd、Biおよび周期表のランタン系列の元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含
んでなり、Bは、Al、Ga、In、Nb、Sn、Ti、Ru、Rh、Pd、Re、Os、IrPt、
U、Co、Fe、Ni、Mn、Cr、Cu、Mg、V、Nb、Ta、MoおよびWからなる群から選
択される少なくとも一つの元素を含んでなるペロブスカイト物質、または、酸化ビスマス層と、ペロ
ブスカイト型構造ブロックとが交互に積層された構造を有するビスマス層状構造強誘電体結晶であり、
ペロブスカイト型構造ブロックは、Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、Y、Bi、Pbおよび希土
類元素から選ばれる少なくとも1つの元素Lと、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、Mo、Mn、
Fe、SiおよびGeから選ばれる少なくとも1つの元素Rと、酸素とによって構成されることを特徴
とする配向膜基板の製造方法。

[20]第1のチャンバーと、第1のチャンバー内に配置された、基板を保持する保持機構と、保持
機構に設けられ、前記基板の下面にランプ光を照射して前記基板を800℃以上に加熱するランプヒ
ーターと、第1のチャンバー内に配置され、前記保持機構に保持された前記基板の上面と対向するス
パッタリングターゲットと、スパッタリングターゲットに電気的に接続されたスパッタ電極と、スパ
ッタ電極に電気的に接続された第1の電源と、保持機構に保持された前記基板と前記スパッタリング
ターゲットとの間に配置されたグリッド電極と、 グリッド電極に設けられた複数の貫通孔と、グリッ
ド電極に電気的に接続された第2の電源と、保持機構に保持された前記基板と前記グリッド電極との
間の第1の空間から真空排気する排気機構と、を具備し、グリッド電極によって前記第1のチャンバ
ーは、第1の空間と、前記グリッド電極とパッタリングターゲットとの間の第2の空間に二分割され
ていることを特徴とするスパッタリング装置。

[21]上記[20]において、保持機構に設けられ、前記ランプヒーターから照射されるランプ光
が前記基板の下面の外側に漏れるのを遮る遮光部材を有することを特徴とするスパッタリング装置。

[22]上記[21]において、遮光部材は、前記ランプ光を前記基板の下面に集光させる集光リフ
レクターであることを特徴とするスパッタリング装置。
[23]上記[22]において、集光リフレ
クターはAl製であり、前記集光リフレクターにはAuメッキが施されていることを特徴とするスパ
ッタリング装置。
[24]上記[20]乃至[23]のいずれか一項において、スパッタリングター
ゲットの近傍にはマグネットが配置されていることを特徴とするスパッタリング装置。
[25]上記
[20]乃至[24]のいずれか一項において、第2の空間に不活性ガスを導入し、前記第1の空間
に酸素ガスを導入するガス導入機構を有することを特徴とするスパッタリング装置。
[26]上記
[25]において、スパッタリングターゲットは、YとZrを含有するものであり、基板は、(10
0)の結晶面を有するSi基板であることを特徴とするスパッタリング装置。
27]上記[25]に
おいて、スパッタリングターゲットは、Zrからなり、基板は、(100)の結晶面を有するSi基
板であることを特徴とするスパッタリング装置。

[28]上記[25]において、スパッタリングターゲットは、Yからなり、基板は、(100)の
結晶面を有するSi基板上にZrO2膜が形成されたものであることを特徴とするスパッタリング装
置。
[29]上記[20]乃至[28]のいずれか一項において、保持機構に保持された前記基板と
前記グリッド電極との間に配置されたフィラメントと、フィラメントに電気的に接続された第3の電
源とを有することを特徴とするスパッタリング装置。
[30]上記[29]において、第1の電源は、
高周波電源または直流電源であり、第2の電源は、直流電源または前記第1の電源の周波数より低い
周波数の高周波電源であり、 前記第3の電源は、直流電源または交流電源であることを特徴とするス
パッタリング装置。[31]上記[20]乃至[30]のいずれか一項において、グリッド電極は、
カーボンで形成されていることを特徴とするスパッタリング装置。
[32]上記[26]に記載のス
パッタリング装置と、第1のチャンバーに第1のゲートバルブを介して接続された搬送室と、搬送室
内に配置された、前記基板を搬送する搬送機構と、 搬送室に第2のゲートバルブを介して接続され
た第2のチャンバーと、第2のチャンバー内で磁性を有する導電膜を成膜するスパッタリング装置と
、を具備することを特徴とするマルチチャンバー装置。

[33]上記[27]に記載のスパッタリング装置と、請求項28に記載のスパッタリング装置と、
前記第1のチャンバーに第1のゲートバルブを介して接続された搬送室と、搬送室内に配置された、
前記基板を搬送する搬送機構と、搬送室に第2のゲートバルブを介して接続された第2のチャンバー
と、第2のチャンバー内で磁性を有する導電膜を成膜するスパッタリング装置と、を具備することを
特徴とするマルチチャンバー装置。
[34]上記[32]または[33]において、搬送室に第3の
ゲートバルブを介して接続された第3のチャンバーと第3のチャンバー内で誘電体膜を成膜するスパ
ッタリング装置と、具備することを特徴とするマルチチャンバー装置。
[35]上記[32]または
[33]において、搬送室に第4のゲートバルブを介して接続された第4のチャンバーと、第4のチ
ャンバーを有する誘電体膜製膜装置と、を具備し、誘電体膜製膜装置は、ゾルゲル溶液をスピンコー
トにより塗布して誘電体膜を製膜する装置であることを特徴とするマルチチャンバー装置であり、

晶面を有するSi基板23と、Si基板上にエピタキシャル成長により形成された配向膜31と、配
向膜上にエピタキシャル成長により形成された磁性を有する導電膜32と、を具備する配向膜基板で
ある。導電膜は金属を含む。導電膜は、磁性を有する金属が40質量%以上含まれている。導電膜は、
Ni、Fe、Ni合金、Ni-Cu合金、Fe合金及びFe-Ni合金の群から選択された少なくと
も一つの金属または少なくとも一つの金属にAgを含有する金属からなる(【選択図】図4)ことで、
本件の一態様を適用することで、製造コストを低減することができる。

※ 詳細は上図クリック 

❏ 関連特許事例:特開2011-014543 光電変換素子の製造方法および光電変換素子、
                                    光電池

【概要】

多孔質半導体微粒子層と電荷輸送層および対極を含む積層構造からなり、該多孔質半導体微粒子層が、
半導体微粒子と分散溶媒を除く添加剤の含量が分散液の1質量%以下の粒子分散液を塗布し加熱する
工程によって製造されることを特徴とする光電変換素子の製造方法により、エネルギー変換効率とコ
ストパーフォーマンスに優れた色素増感型の光電変換素子ならびに光電気化学電池が得られる。

【符号の説明】

1 導電性ガラス  2 導電剤層  3 TiO2電極  4 色素層  5 電解液  6 白金層  7 ガ
ラス  10 導電層  10a 透明導電層  11 金属リード 20 感光層  21 半導体微粒子  22 色素 
23 電荷輸送材料  30 電荷移動層  40 対極導電層  40a 透明対極導電層  50 基板  50a 透明
基板  60 下塗り層


❏ 関連特許事例:特開2017-199859 積層セラミックコンデンサおよびその製造方法

【概要】 

積層セラミックコンデンサ10は、誘電体層12と内部電極13とが交互に複数積層された積層体11
を備える。誘電体層12は、Ba、Sr、Ti、Ca、Zr、Mg、およびR(ただし、Rは、Y、
La、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbのうちの少なくとも1種の元
素)を含み、Tiを100モル部とすると、Srは0.5モル部以上3.0モル部以下、Caは3モ
ル部以上15モル部以下、Zrは0.05モル部以上3.0モル部以下、Mgは0.01モル部以上
0.09モル部以下、Rは2.5モル部以上8.4モル部以下である。積層体11の長さ方向の寸法
は1.0mmより大きく3.2mm以下、幅方向の寸法は0.5mmより大きく2.5mm以下、厚
み方向の寸法は0.5mmより大きく2.5mm以下で、誘電体層12の厚み方向の寸法は0.4μ
m以上3.0μm以下であることで、 積層セラミックコンデンサは、上述の構成を備えることにより、
高温負荷試験における寿命ばらつきの小さい積層セラミックコンデンサを得ることができ、 また、こ
の製造方法は、上述の構成を備えることにより、高温負荷試験における寿命ばらつきの小さい積層セ
ラミックコンデンサを製造することができる。【選択図】図2

尚、 誘電体層12は、Ba、Sr、Ti、Ca、Zr、Mg、およびRを含むペロブスカイト型化合
物である。Caは、誘電体層12を構成する結晶粒子の中心付近に存在している。また、Rは、希土
類元素であるY、La、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbのうちの少
なくとも1種類であってもよいし、複数種類が含まれるものであってもよい。
さらに、誘電体層12は、BaおよびTiを含むペロブスカイト型化合物と、他の副成分を含むセラ
ミック層である。BaおよびTiを含むペロブスカイト型化合物としては、チタン酸バリウム系セラ
ミックであり、一般式AmBO3で表されるペロブスカイト型化合物などが挙げられる。AサイトはBa
であって、Ba以外にSrおよびCaからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
BサイトはTiであって、Ti以外にZrを含んでいてもよい。Oは酸素である。また、mは、Aサ
イトとBサイトとのモル比である。また、積層体11のXRD構造解析を行ったところ、誘電体層12
の主成分がチタン酸バリウム系のペロブスカイト型構造を有することが明らかとなった。副成分とし
ては、RやMgが含まれる。誘電体層12内における副成分の存在形はどのようなものであってもよ
い。例えば、副成分は、ペロブスカイト型化合物の結晶粒子内に存在していてもよい。具体的には、
BaおよびTiを含むペロブスカイト型化合物からなるコア部と、コア部の周囲に副成分としての
元素が固溶して形成されるシェル部とからなる粒子がより好ましい。また、副成分は、酸化物などの
形態で結晶粒界や三重点に存在していてもよい。 


【符号の説明】

10 積層セラミックコンデンサ 11 積層体 12 誘電体層 13 内部電極 14 外部電極 
15a 第1の端面 15b 第2の端面 16a 第1の主面 16b 第2の主面  17a 第1
の側面  17b 第2の側面

 

 

秋晴れさわやかな恒例のひこねの城まつりのメインイベント「ひこねの城まつりパレード」。子ども
大名行列、子ども時代風俗行列や、彦根らしさを組み入れた彦根町火消し列、一文字笠列、井伊の赤
鬼家臣団列など総勢千名による華やかな時代絵巻を約2時間にわたり繰り広げた。わたしたちは午前
中に墓参りを済ませ、場内を一週旧西郷屋敷長屋門でパレード用の騎馬が七頭毛並みをそろえ繫がれ
ていたのでデジカメを撮り帰宅、途中湖岸に台風21号の影響で大量の流木が打ち寄せられていたの
で車を降り近くを散策しここでも被害のデジカメ撮影する。仮に1メートル幅あたり1万円として、
およそ全長2百キロメートルとして、20億円処理費用が毎年1回の頻度で10年間繰り返すと2百
億円の費用が発生すれば、経済的にも、精神衛生的にも悪化していくのではと心配することとなった。

 

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