春庭Annex カフェらパンセソバージュ~~~~~~~~~春庭の日常茶飯事典

今日のいろいろ
ことばのYa!ちまた
ことばの知恵の輪
春庭ブックスタンド
春庭@アート散歩

ぽかぽか春庭「あさざ」

2016-08-17 00:00:01 | エッセイ、コラム

あさざ(画像借り物)

20160817
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>葉月の花ことば(1)あさざ

 私の好きな散歩コース、皇居東御苑の池にも、あさざが生えていて、夏には黄色い小さな花を見ることができます。
 小さなかわいい花。黒髪にさして飾ったら、きっと鮮やかに映えるでしょう。

万葉集13-3295
うち日さつ 三宅の原ゆ ひた土 足踏みぬき 夏草を 腰になづみ いかなるや 人の子ゆゑぞ 通はすも吾子 
諾(うべ)なうべな 母は知らじ 諾(うべ)なうべな 父は知らじ 蜷(みな)の腸(わた) か黒き髪に 真木綿(まゆふ)もち あざさ結ひ垂れ 大和の 黄楊(つげ)の小櫛を 押さへ插(さ)す 卜細(うらくはし)子 彼そ吾がつま

(万葉仮名)
打久津 三宅乃原従 常土 足迹貫 夏草乎 腰尓魚積 如何有哉 人子故曽 通簀父吾子
諾々名 母者不知 諾々名 父者不知 蜷腸 香黒髪丹 真木綿持 阿邪左結垂 日本之 黄楊乃小櫛乎 抑刺 卜細子 彼曽吾麗


打久津うちひさつ(打ち日さつ):日が射しこむ
三宅乃原従みやけのはらゆ(三宅の原ゆ):三宅の原を通って
常土ひたつち(直土):地べたに
足迹貫あしふみぬき(足踏み貫き):足を踏みぬいて
夏草乎なつくさを(夏草を):夏草を
腰尓魚積こしになづみ(腰になづみ):腰にからめてようよう進み
如何有哉いかなるや:さてどのような
人子故曽ひとのこゆゑぞ:人の子のために
通簀文(父)吾子かよはすもあこ(通はすも吾子);通わせているのか、わが子よ
諾々名ーうべなうべな:そのとおりです
母者不知はははしらじ(母は知らじ):母上は知らないでしょう
諾々名うべなうべなーそうですとも
父者不知ちちはしらじ(父は知らじ):父上はご存じないでしょう
蜷腸みなのわた:みな貝のワタのように
香黒髪丹かぐろきかみに(か黒き髪に):黒々とした髪に
真木綿持まゆふもち:神聖な木綿によって
阿邪左結垂あざさゆひたれ(あざさ結ひ垂れ):あさざの花を結い垂らし
日本之やまとの:大和の
黄楊乃小櫛乎つげのをぐしを(つげのを小櫛を):つげの木の小さな櫛を
抑刺おさえさす(押さえ刺す);髪に押さえて挿している
卜細子うらくはしこ(うら美わし子):やさしく美しい子
彼曽吾麗それぞわがつま:それが私の相手です

春庭拙訳:日が射し込む三宅の原の地べたに足を踏み込んで、腰まである夏草に難儀して行く我が子を通わせているのは、いったい、どのようなお人であるのか。
 そのとおり、お母さんはしらないでしょう。そうですとも、お父さんは知らないでしょう。
真っ黒な髪にあさざの花を挿し、清らかな木綿で髪を結いつげの櫛を押しさしている、麗しい人、あの人こそ私の相手です。

 父母は我が子に問い詰めます。夏の夜に生い茂る夏草に難儀しながらも三宅の原の土を踏みしめて、我が息子を通わせている秘密の相手は、いったい、どんな人なのかと。
 息子は、両親の知らない相手を今こそ打ち明けようと答えます。あさざの花飾りを黒髪にさして、つげの櫛を髪に押しさしているいとしい人、その人こそ私の恋の相手です、と。

 蓮は根を食しますが、「あさざ」は「浅浅菜」から転じたといわれ、野菜として若葉を食用にしたそうです。
 真木綿(神聖な木綿)であさざを髪にかざしているところから見ると、この恋の相手は、なかなか簡単に通っていけるような相手ではないので、これまで両親にも打ち明けてこなかった。でも、清らかな美しい人をいまこそ誇らしく親たちにも紹介したい。息子の相手は誰なのかと心配顔の両親に、息子は誇らかに「かの、美しい人が私の相手です」と宣言しています。

 反歌の最後「来るかも」を「あの方が来てくださる」と解釈して、父母に恋の相手を打ち明けている「吾子」を女性とする解釈もあるのですが、私は男性の打ち明け話と解釈します。現代語の「来る」は「話し手」に近づく場合のみを言いますが、古代語では「目的地に近づく」ことを意味する場合もあるので、「来るかも」は、男が「黒髪にあさざの花を飾っている美しい子」のもとへ通うことを言っていると思うのです。

反歌13-3296 
父母尓 不令知子故 三宅道乃 夏野草乎 菜積来鴨
父母(ちちはは)に知らせぬ子ゆゑ三宅道(みやけぢ)の夏野の草をなづみくるかも


春庭「葉月の花ことば」参照文献:
・佐佐木信綱編『万葉集上』1971岩波文庫(東京に出てきて最初に買った文庫です)
・伊藤博校注『万葉集下』2003角川ソフィア文庫(岩波版がぼろぼろになったので買ったが、岩波版とは歌の番号が異なっている。困ったもんよ)
・犬養孝 『万葉 花・風土・人』1987教養文庫
・片岡寧豊『万葉の花』2014青幻社
・平田真智子『薬草・野菜 まるごと健康法』婦人生活社
・俳諧歳時記各種(角川版、新潮社版など)
・古語辞典各種(岩波版 他)
ほか
参照サイト
季節の花300 http://www.hana300.com/

<つづく>
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする