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ぽかぽか春庭「ベニバナ」

2016-08-20 00:00:01 | エッセイ、コラム
201608120
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>葉月の花ことば(3)ベニバナ

 縄文時代の遺物も出土している纏向(まきむく)遺跡。3世紀中頃から4世紀初めにかけて、弥生後期から古墳時代にかけての遺物が出土するなか、3世紀前半とみられるV字溝の遺構からベニバナの花粉が出土しました。(桜井市大字太田 李田地区2009年の発掘成果)

 エジプト・西アジアの地域が原産地で、ミイラを包む布にベニバナの成分が検出されるなど、古くからエジプトメソポタミア周辺で栽培されていました。この紅花が、シルクロードを通ってアジアに伝わり、渡来人が早くに日本にもたらしたものと思われます。

 紅花の学名Carthamus tinctorius カーサマス ティンクトリアス
 カーサマスの語源はアラビア語の「quartom(染める)」
 ティンクトリアスはラテン語の「染料になる」という意味

 万葉集には「呉(くれ)の藍=クレナイ(紅)」という名で数多く詠まれています。また源氏物語の女主人公のあだ名となった末摘花の名でも登場。
 
 クレナイの歌は、すべて染料としての「呉の藍、紅」を詠んでおり、紫草が植物としても詠まれているのと異なります。紫草は、野原のどこにでも自生していましたが、ベニバナは最初から栽培種。春の若草摘みなどは万葉の歌人たちのよい行楽でしたが、田にも畑にも出て行かない万葉歌人は、鋭いトゲのあるベニバナには、触れることが少なかったのかも知れません。
 万葉集にクレナイの歌はたくさんあるので、一部の歌だけ万葉仮名表記またはひらがな表記にします)

4-0683:大伴坂上郎女:
言ふ言の畏き国ぞ紅の色にな出でそ思ひ死ぬとも
いふことの かしこきくにぞ くれなゐの いろにないでそ おもひしぬとも

6-1044:
紅に深く染みにし心かも奈良の都に年の経ぬべき
紅尓 深染西 情可母 寧樂乃京師尓 年之歴去倍吉

7-1218:
黒牛の海紅にほふももしきの大宮人しあさりすらしも
くろうしのうみ くれなゐにほふ ももしきの おほみやひとし あさりすらしも

7-1297: 柿本人麻呂歌集:
紅に衣染めまく欲しけども着てにほはばか人の知るべき
紅 衣染 雖欲 著丹穗哉 人可知
くれないに ころもそめまく ほしけども きてにほはばか ひとの しるべき

7-1313:
紅の深染めの衣下に着て上に取り着ば言なさむかも
紅之 深染之衣 下著而 上取著者 事将成鴨
くれなゐの、深染(こそ)めの衣(ころも)、下に着て、上に取り着(き)ば、言(こと)なさむかも

7-1343:
言痛くはかもかもせむを紅の現し心や妹に逢はずあらむ
事痛者 左右将為乎 石代之 野邊之下草 吾之苅而者

9-1672:
黒牛潟潮干の浦を紅の玉裳裾引き行くは誰が妻
くろうしがた しほひのうらを くれなゐの たまもすそびき ゆくはたがつま
10-1993:
外のみに見つつ恋ひなむ紅の末摘花の色に出でずとも
外耳 見筒戀牟 紅乃 末採花之 色不出友

11-2177:
春は萌え夏は緑に紅のまだらに見ゆる秋の山かも
春者毛要 夏者緑丹 紅之 綵色尓所見 秋山可聞

11-2550:
立ちて思ひ居てもぞ思ふ紅の赤裳裾引き去にし姿を
立念 居毛曽念 紅之 赤裳下引 去之儀乎

11-2623:
紅の八しほの衣朝な朝な馴れはすれどもいやめづらしも
呉藍之 八塩乃衣 朝旦 穢者雖為 益希将見裳


2624: 紅の深染めの衣色深く染みにしかばか忘れかねつる
2655: 紅の裾引く道を中に置きて我れは通はむ君か来まさむ
2763: 紅の浅葉の野らに刈る草の束の間も我を忘らすな
2827: 紅の花にしあらば衣手に染め付け持ちて行くべく思ほゆ
2828: 紅の深染めの衣を下に着ば人の見らくににほひ出でむかも
2966: 紅の薄染め衣浅らかに相見し人に恋ふるころかも
3703: 竹敷の宇敝可多山は紅の八しほの色になりにけるかも
3877: 紅に染めてし衣雨降りてにほひはすともうつろはめやも
4109: 紅はうつろふものぞ橡のなれにし来ぬになほしかめやも
4157: 紅の衣にほはし辟田川絶ゆることなく我れかへり見む

 源氏物語の末摘花は、物語中、「最も不美人」として登場する常陸宮の姫君。鼻が赤いのでベニバナ末摘花とあだ名をつけられてしまいました。

 光源氏の末摘花評の歌
 なつかしき色ともなしに何にこのすゑつむ花を袖にふれけむ 

 自分から逢瀬を仕掛けておいてあんまりな言いようですけれど、末摘花姫君の古風だけれど純粋な心をくみ、光源氏は姫を二条邸にひきとってきちんと世話をします。通い婚の平安時代、ちょっと顔を見てすぐに飽きて相手を捨てる男が多い中、不美人でも誠実に世話をしたそんなところがただのプレイボーイじゃないってところです。

 山形に旅行したとき、わずかに咲き残っていた紅花の写真を撮った気がしていたけれど、画像をきちんとファイルしておかないから、探すのがたいへんなので、画像借り物。


 区立図書館では、毎月10日に廃棄本を区民に提供しています。仕事があるときは、10日といっても図書館に立ち寄れませんでしたが、たまたま8月は10日に図書館へでかけました。「貸出期限切れの本、予約者がいるから早く返せ」という電話があったから、急いで出かけたのです。廃棄本のうち写真集など、自分では買わない本を何冊かもらってきました。
 うちの一冊『薬草・野菜まるごと健康法』をぱらぱらめくっていたら、ベニバナも薬草として載っていました。これまで紅花は染料としての使用が中心と思っていたので、さまざまな薬効について知りました。

 野菜にも花にも、古来からの薬効がそれぞれにあるのですね。ナスでもにんじんでもキャベツでも、毎日の食事をきちんととっていれば、それが体のためにはなるのです。ベニバナは、血栓を予防し、婦人病にもよし。若草は摘んで野菜サラダやおひたしに。花は乾燥させて煮出してもよし、粉にしてハーブティとして飲んでもよし、とか。

<つづく>
コメント (2)
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