20170902
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>家族映画、愛という名の(7)ラビング愛という名前のふたり
ムーンライト併映の「ラビング愛という名前のふたり」は、アメリカの「ラヴィング法」成立を描いた実話です。
アメリカ合衆国。6月12日を「ラヴィングデイLoving Day」として祝う人々がいます。「すべての人は人としての生得権を持ち、人として平等である」ということを確認し、祝う日です。
アメリカ合衆国最高裁判所は1967年6月12日、「バーモント州その他の州における白人と白人以外の人種の結婚を禁じる法律は、合衆国憲法に違反する」という判決を出しました。
映画『ラビング愛という名前のふたり』脚本監督:ジェフ・ニコルズ 出演:ジョエル・エドガートン ルース・ネッガ
以下、ネタバレを含む映画紹介です。
ミルドレッドは、ある日、幼馴染みの恋人リチャードに妊娠を告げました。リチャードは大喜びで結婚を決意。しかし、二人が住むバージニア州では結婚できません。バージニア州では州法で異人種間結婚が禁じられていたからです。
リチャードはカーペンター(大工=レンガ積み職人)で、産婆をしている母親と共に、ささやかな生活を続ける、いわゆるプアーホワイトです。
ミルドレッドの父親は成功し地位を確立した黒人のひとりで、家族に不自由のない生活を送らせていました。ミルドレッドの決意に不安はあるけれど、理解しようとします。ミルドレッドの姉は、妹が貧しい白人男性を結婚相手に選んだことに、当初は反対でした。もっと条件のよい暮らしを保障する黒人男性を選んだほうが幸せになれるように思えたので。
実話のラヴィング夫妻

ワシントンDCなどいくつかの州は異人種間結婚を認めているため、ふたりははるばるワシントンDCまで出かけていき、合法的な結婚証明書をもらうことができました。正式な夫婦となったふたりは故郷バージニアに戻り、ミルドレッドの家の一室で夫婦として暮らしていました。リチャードはカーペンターの仕事を黙々と続けます。レンガやブロックを並べ、家を仕上げていく。
しかし、保安官への密告があり、バージニア州法違反としてふたりは逮捕されます。口下手なリチャードが黙って壁の結婚証明書を指さしても、保安官は「この州では無効」と言うだけでした。
裁判で、ふたりは有罪となり、離婚かバージニア州から出て25年間ふるさとに戻らないか、どちらかを選ぶことになります。当然、ふたりは離婚を拒否。二人してふるさとを出て行きます。
ワシントンDCの親戚の家で暮らすことになったものの、慣れない都会暮らし。ミルドレッドは、赤ん坊を産むなら、どうしても産婆をしているリチャードの母親の手でふたりの子を取り上げて欲しいと願います。逮捕の危険を冒して、バージニアに戻り、無事長男が生まれました。しかし、また逮捕。リチャードの母親は「ミルドレッドはいい嫁だけれど、この結婚は間違っている」とリチャードに言います。母親にとっては、法律違反をして生きることなど論外だからです。
ふたりは、ワシントンDCで子供とともに暮らすことになり、子供も次男、長女と3人になります。
田舎暮らしではレンガ積みの仕事でも暮らしていけましたが、物価が高く田舎とは暮らしぶりが異なるワシントンDCの暮らしは容易ではありません。子ども達が安全に遊ぶ場所もない暮らしに、ミルドレッドの心は痛みます。次男が交通事故で怪我をしたとき、ミルドレッドは決心します。バーモントに戻りたいと。
公民権運動デモをテレビで見ていたミルドレッドは、勇気をだし、ロバートFケネディ司法長官宛てに手紙を出しました。生まれ育ったバーモントで暮らせないつらさ、子ども達にふるさとで育ってほしいこと。
手紙は長官の目にとまり、ふたりがバーモント州に対し裁判をおこす支援が決定しました。アメリカ自由人権協会(ACLU)が弁護士を無料で派遣してくれたのです。
原告ラビング夫妻、被告バージニア州。原告代理、弁護士バーナード・S・コーエンとフィリップ・J・ハーシュコップ。
夫妻は、ライフ誌の取材を受け、ライフ誌は「結婚という犯罪」という記事にしました。弁護士が「取材をうけ、この問題を合衆国全体の問題として国民に訴えるべきだ」と言うので取材に応じましたが、純朴なリチャードは、自分たちがマスコミに出ることには慣れませんでした。この取材時に撮影された夫妻の写真が映画のラストシーンに登場します。ソファでくつろぐふたりの姿がとてもいい雰囲気です。
最高裁の最終審理に向かうとき、代理人にすべてをまかせて、裁判に出席しないというリチャードに、弁護士がたずねます。「裁判官に言いたいことは?」リチャードは「私はミルドレッドを愛しています。と、伝えてください」と答えます。
ただ、愛し合って結婚したふたりが、それを「罪」とされ、何度も逮捕拘留された年月。
1958年の結婚から9年かかり、1967年、合衆国最高裁は、異人種間結婚禁止法を無効としました。通称「ラヴィング法」の成立です。
裁判前も、裁判が終わっても、レンガ積み職人の仕事を黙々と続けるリチャード。
ようやく平穏な生活を取り戻したラビング一家でしたが、リチャードは、酔っ払い運転のトラックによる事故にあい、41歳で死去。
ミルドレッドは、リチャードが自らブロックを積んで作った家に住み、2008年68歳で亡くなるまで、家と夫妻の思い出を守って暮らしました。
ミルドレッドが亡くなる前、夫妻の戦いを描いたドキュメンタリーが制作されました。夫妻の実話は過去2度映画化されているのですが、ミルドレッドは「私たちに3人の子供がいたことだけが実話と同じで、あとは実話じゃない」と不満を持っていました。このドキュメンタリーを見て映画化を望んだコリン・ファースが制作者のひとりとしてクレジットされています。
3回目となるラヴィング法の成立の物語。よかったと思います。ミルドレッドが、3回目の「ラヴィング夫妻の物語」をどう思ったのか、聞くことができないのは残念ですが。
過去2回作られたというラビング夫妻を描いた映画がミルドレッドにとっては「事実と違う」と、お気に召さなかったのはなぜか。ストーリーの流れは、事実であったことでしょう。愛し合った二人が結婚。異人種間結婚禁止の州法違反で逮捕。ワシントンDCでの慣れない暮らし。ケネディ司法長官への手紙。バーモント州法が合衆国憲法違反になるという訴訟。勝訴。
前作を見ていないので、私の想像にすぎませんが、前2作の主人公はリチャードだったのではないかと思います。ミルドレッドはやさしく夫に付き従う妻として描かれていたのではなかったか。
かって、アメリカで家族の中の夫像がそうであったように、過去2回の映画のリチャードは、夫として妻を愛し、妻を守ろうとする。家長として一家のために、バーモント州と戦い、力強く家族を引っ張っていく。そんな映画だったのではないかと。
1996年制作の映画「Mr.&Mrs Lovivg」では、まだまだ「妻は夫に従うもの」というコンセプトで映画が作られていたのではないでしょうか。私は「Mr.&Mrs Lovivg」を見ておらず、トレイラーを見ただけなので、推測だけで書いているのですが。
ミルドレッドは、こんどの映画には、「実話に基づく」という内容に満足しているのじゃないかしら。
実在のミルドレッドは、写真でも、とても知的な人であることが印象的です。実際のラビング夫妻の写真の印象では、知的で積極的な感じのミルドレッドに、純朴木訥なリチャードがやさしく付き添っている雰囲気がします。
『ラビング愛と~』の中で、ミルドレッドは一度だけ「夫に従います」と弁護士に答えます。リチャードが最高裁の最終弁論に出席しないと決めたときです。
雑誌取材時でも、リチャードはマスコミのカメラに取り囲まれるような派手な場面にとまどいを感じるほうでした。最高裁最終審理というマスコミが殺到しそうな場に欠席を決めたリチャードに、妻も従いました。
長い間、ミルドレッドは自分たちの裁判について話すのを拒んでいましたが、亡くなる前、ドキュメンタリーで語りました。今回の映画は、ドキュメンタリーに基づき、ミルドレッドの姿はかなり実物に近いのではないかと感じました。
ライフ誌取材時の、ソファに横たわるリチャードと膝枕のリチャードにやさしい笑顔を見せるミルドレッド。
実話と映画の違い。実物写真では、ミルドレッドは手にシガレットをはさんでいますが、映画ではたくみにその手をソファの中に入れています。現代のアメリカ社会では、喫煙は否とされ、「喫煙者はレベルが低い」と見なされちゃうからね。
映画のワンシーン

ライフ誌掲載写真

昔は「単なる嗜好品」だった煙草が2017年のアメリカでは「低所得層の象徴」であり、昔は非合法だった異人種間結婚が、今は当然の権利として、好きな者同士が結婚できる。2015年6月26日、合衆国最高裁判所は「法の下の平等」を定めた「アメリカ合衆国憲法修正第14条」を根拠にアメリカ合衆国のすべての州での同性結婚を認める判決をだしました。
法というものがどこまで人を縛りうるのか、そんなことも考えさせられた映画でした。
理不尽な法律があるなら、法を変える努力をすべき。と、ラヴィング法は教えてくれます。
一般的には、リチャードの母親のように、「お上が法を決めたなら、それを守るべき」と考える人が大多数でしょう。
でも、法は人を幸福にするためにあり、より弱い人々を守るためにあります。法が人を不幸にするなら、その法は間違っている。そんな当然のことも、言いにくくなってきた世の中です。
ミルドレッドは、好きな人と結婚し愛し合うのは、人として当然の権利だと考えました。その権利が守られないなら、守らない法律の法が悪いと。
逆もまた真なり。人を守らない法律が作られ、改変されようとしているとき、それを黙ってみていることはできません。
基本的人権を軽視する案を提出している人の考えた「改正案」を、一度じっくり読んでみてほしい。
結婚に関して、日本国憲法24条は、次のように書かれています。
「第24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」
結婚について、自民党案は以下のように。
「第24条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」
基本的人権の条項憲法13条「すべての国民は個人として尊重される」を自民党草案は「すべての国民は人として尊重される」と変え、人をひとりひとりの個人としてではなく、「国民」というまとまったものとして扱おうとなっています。そして、結婚も個人と個人との問題ではなく、「家族」という単位に立脚しようとしています。
私は自分の育ってきた家族を大切に思っているし、現在私が共に暮らす家族を愛しています。しかし、それを「国民」の単位として、国家に絡め取られたくはないのです。私は個人として労働し、税金を納めています。個人として家族を愛し、大事にしたいです。
愛と言う名前Loving夫妻の闘い、いろいろ考えさせられました。
映画としての作りようについては、わからないのですが、ミルドレッドがこの映画を見て、満足してくれるならいいな、と思います。
<つづく>
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>家族映画、愛という名の(7)ラビング愛という名前のふたり
ムーンライト併映の「ラビング愛という名前のふたり」は、アメリカの「ラヴィング法」成立を描いた実話です。
アメリカ合衆国。6月12日を「ラヴィングデイLoving Day」として祝う人々がいます。「すべての人は人としての生得権を持ち、人として平等である」ということを確認し、祝う日です。
アメリカ合衆国最高裁判所は1967年6月12日、「バーモント州その他の州における白人と白人以外の人種の結婚を禁じる法律は、合衆国憲法に違反する」という判決を出しました。
映画『ラビング愛という名前のふたり』脚本監督:ジェフ・ニコルズ 出演:ジョエル・エドガートン ルース・ネッガ
以下、ネタバレを含む映画紹介です。
ミルドレッドは、ある日、幼馴染みの恋人リチャードに妊娠を告げました。リチャードは大喜びで結婚を決意。しかし、二人が住むバージニア州では結婚できません。バージニア州では州法で異人種間結婚が禁じられていたからです。
リチャードはカーペンター(大工=レンガ積み職人)で、産婆をしている母親と共に、ささやかな生活を続ける、いわゆるプアーホワイトです。
ミルドレッドの父親は成功し地位を確立した黒人のひとりで、家族に不自由のない生活を送らせていました。ミルドレッドの決意に不安はあるけれど、理解しようとします。ミルドレッドの姉は、妹が貧しい白人男性を結婚相手に選んだことに、当初は反対でした。もっと条件のよい暮らしを保障する黒人男性を選んだほうが幸せになれるように思えたので。
実話のラヴィング夫妻

ワシントンDCなどいくつかの州は異人種間結婚を認めているため、ふたりははるばるワシントンDCまで出かけていき、合法的な結婚証明書をもらうことができました。正式な夫婦となったふたりは故郷バージニアに戻り、ミルドレッドの家の一室で夫婦として暮らしていました。リチャードはカーペンターの仕事を黙々と続けます。レンガやブロックを並べ、家を仕上げていく。
しかし、保安官への密告があり、バージニア州法違反としてふたりは逮捕されます。口下手なリチャードが黙って壁の結婚証明書を指さしても、保安官は「この州では無効」と言うだけでした。
裁判で、ふたりは有罪となり、離婚かバージニア州から出て25年間ふるさとに戻らないか、どちらかを選ぶことになります。当然、ふたりは離婚を拒否。二人してふるさとを出て行きます。
ワシントンDCの親戚の家で暮らすことになったものの、慣れない都会暮らし。ミルドレッドは、赤ん坊を産むなら、どうしても産婆をしているリチャードの母親の手でふたりの子を取り上げて欲しいと願います。逮捕の危険を冒して、バージニアに戻り、無事長男が生まれました。しかし、また逮捕。リチャードの母親は「ミルドレッドはいい嫁だけれど、この結婚は間違っている」とリチャードに言います。母親にとっては、法律違反をして生きることなど論外だからです。
ふたりは、ワシントンDCで子供とともに暮らすことになり、子供も次男、長女と3人になります。
田舎暮らしではレンガ積みの仕事でも暮らしていけましたが、物価が高く田舎とは暮らしぶりが異なるワシントンDCの暮らしは容易ではありません。子ども達が安全に遊ぶ場所もない暮らしに、ミルドレッドの心は痛みます。次男が交通事故で怪我をしたとき、ミルドレッドは決心します。バーモントに戻りたいと。
公民権運動デモをテレビで見ていたミルドレッドは、勇気をだし、ロバートFケネディ司法長官宛てに手紙を出しました。生まれ育ったバーモントで暮らせないつらさ、子ども達にふるさとで育ってほしいこと。
手紙は長官の目にとまり、ふたりがバーモント州に対し裁判をおこす支援が決定しました。アメリカ自由人権協会(ACLU)が弁護士を無料で派遣してくれたのです。
原告ラビング夫妻、被告バージニア州。原告代理、弁護士バーナード・S・コーエンとフィリップ・J・ハーシュコップ。
夫妻は、ライフ誌の取材を受け、ライフ誌は「結婚という犯罪」という記事にしました。弁護士が「取材をうけ、この問題を合衆国全体の問題として国民に訴えるべきだ」と言うので取材に応じましたが、純朴なリチャードは、自分たちがマスコミに出ることには慣れませんでした。この取材時に撮影された夫妻の写真が映画のラストシーンに登場します。ソファでくつろぐふたりの姿がとてもいい雰囲気です。
最高裁の最終審理に向かうとき、代理人にすべてをまかせて、裁判に出席しないというリチャードに、弁護士がたずねます。「裁判官に言いたいことは?」リチャードは「私はミルドレッドを愛しています。と、伝えてください」と答えます。
ただ、愛し合って結婚したふたりが、それを「罪」とされ、何度も逮捕拘留された年月。
1958年の結婚から9年かかり、1967年、合衆国最高裁は、異人種間結婚禁止法を無効としました。通称「ラヴィング法」の成立です。
裁判前も、裁判が終わっても、レンガ積み職人の仕事を黙々と続けるリチャード。
ようやく平穏な生活を取り戻したラビング一家でしたが、リチャードは、酔っ払い運転のトラックによる事故にあい、41歳で死去。
ミルドレッドは、リチャードが自らブロックを積んで作った家に住み、2008年68歳で亡くなるまで、家と夫妻の思い出を守って暮らしました。
ミルドレッドが亡くなる前、夫妻の戦いを描いたドキュメンタリーが制作されました。夫妻の実話は過去2度映画化されているのですが、ミルドレッドは「私たちに3人の子供がいたことだけが実話と同じで、あとは実話じゃない」と不満を持っていました。このドキュメンタリーを見て映画化を望んだコリン・ファースが制作者のひとりとしてクレジットされています。
3回目となるラヴィング法の成立の物語。よかったと思います。ミルドレッドが、3回目の「ラヴィング夫妻の物語」をどう思ったのか、聞くことができないのは残念ですが。
過去2回作られたというラビング夫妻を描いた映画がミルドレッドにとっては「事実と違う」と、お気に召さなかったのはなぜか。ストーリーの流れは、事実であったことでしょう。愛し合った二人が結婚。異人種間結婚禁止の州法違反で逮捕。ワシントンDCでの慣れない暮らし。ケネディ司法長官への手紙。バーモント州法が合衆国憲法違反になるという訴訟。勝訴。
前作を見ていないので、私の想像にすぎませんが、前2作の主人公はリチャードだったのではないかと思います。ミルドレッドはやさしく夫に付き従う妻として描かれていたのではなかったか。
かって、アメリカで家族の中の夫像がそうであったように、過去2回の映画のリチャードは、夫として妻を愛し、妻を守ろうとする。家長として一家のために、バーモント州と戦い、力強く家族を引っ張っていく。そんな映画だったのではないかと。
1996年制作の映画「Mr.&Mrs Lovivg」では、まだまだ「妻は夫に従うもの」というコンセプトで映画が作られていたのではないでしょうか。私は「Mr.&Mrs Lovivg」を見ておらず、トレイラーを見ただけなので、推測だけで書いているのですが。
ミルドレッドは、こんどの映画には、「実話に基づく」という内容に満足しているのじゃないかしら。
実在のミルドレッドは、写真でも、とても知的な人であることが印象的です。実際のラビング夫妻の写真の印象では、知的で積極的な感じのミルドレッドに、純朴木訥なリチャードがやさしく付き添っている雰囲気がします。
『ラビング愛と~』の中で、ミルドレッドは一度だけ「夫に従います」と弁護士に答えます。リチャードが最高裁の最終弁論に出席しないと決めたときです。
雑誌取材時でも、リチャードはマスコミのカメラに取り囲まれるような派手な場面にとまどいを感じるほうでした。最高裁最終審理というマスコミが殺到しそうな場に欠席を決めたリチャードに、妻も従いました。
長い間、ミルドレッドは自分たちの裁判について話すのを拒んでいましたが、亡くなる前、ドキュメンタリーで語りました。今回の映画は、ドキュメンタリーに基づき、ミルドレッドの姿はかなり実物に近いのではないかと感じました。
ライフ誌取材時の、ソファに横たわるリチャードと膝枕のリチャードにやさしい笑顔を見せるミルドレッド。
実話と映画の違い。実物写真では、ミルドレッドは手にシガレットをはさんでいますが、映画ではたくみにその手をソファの中に入れています。現代のアメリカ社会では、喫煙は否とされ、「喫煙者はレベルが低い」と見なされちゃうからね。
映画のワンシーン

ライフ誌掲載写真

昔は「単なる嗜好品」だった煙草が2017年のアメリカでは「低所得層の象徴」であり、昔は非合法だった異人種間結婚が、今は当然の権利として、好きな者同士が結婚できる。2015年6月26日、合衆国最高裁判所は「法の下の平等」を定めた「アメリカ合衆国憲法修正第14条」を根拠にアメリカ合衆国のすべての州での同性結婚を認める判決をだしました。
法というものがどこまで人を縛りうるのか、そんなことも考えさせられた映画でした。
理不尽な法律があるなら、法を変える努力をすべき。と、ラヴィング法は教えてくれます。
一般的には、リチャードの母親のように、「お上が法を決めたなら、それを守るべき」と考える人が大多数でしょう。
でも、法は人を幸福にするためにあり、より弱い人々を守るためにあります。法が人を不幸にするなら、その法は間違っている。そんな当然のことも、言いにくくなってきた世の中です。
ミルドレッドは、好きな人と結婚し愛し合うのは、人として当然の権利だと考えました。その権利が守られないなら、守らない法律の法が悪いと。
逆もまた真なり。人を守らない法律が作られ、改変されようとしているとき、それを黙ってみていることはできません。
基本的人権を軽視する案を提出している人の考えた「改正案」を、一度じっくり読んでみてほしい。
結婚に関して、日本国憲法24条は、次のように書かれています。
「第24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」
結婚について、自民党案は以下のように。
「第24条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」
基本的人権の条項憲法13条「すべての国民は個人として尊重される」を自民党草案は「すべての国民は人として尊重される」と変え、人をひとりひとりの個人としてではなく、「国民」というまとまったものとして扱おうとなっています。そして、結婚も個人と個人との問題ではなく、「家族」という単位に立脚しようとしています。
私は自分の育ってきた家族を大切に思っているし、現在私が共に暮らす家族を愛しています。しかし、それを「国民」の単位として、国家に絡め取られたくはないのです。私は個人として労働し、税金を納めています。個人として家族を愛し、大事にしたいです。
愛と言う名前Loving夫妻の闘い、いろいろ考えさせられました。
映画としての作りようについては、わからないのですが、ミルドレッドがこの映画を見て、満足してくれるならいいな、と思います。
<つづく>