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ぽかぽか春庭「グリーンブック、トニー・ヴァレロンガ」

2020-05-07 00:00:01 | エッセイ、コラム


20200510
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>2020おうち映画館(3)グリーンブック、トニー・ヴァレロンガ

 昨年夏以後、飯田橋ギンレイに行っていなかったけど、さて、久しぶりに映画館で映画見ようかと思ったら、自粛で映画館も旧館。映画館で見る機会がなくなりました。
 ゴールデンホームステイは5月1日から6日まで家籠もり。八百屋スーパーに食料買いにも出ず、近所の空き地で雑草のアカザを摘んで茹でて食べました。
 ゴールデンウイークに予定していた「夜行列車で行く出雲旅行」は、早々にキャンセルしたあと、予定はなにもありません。長丁場の自宅蟄居が続くとなると、録画とりだめの映画を消化する「おうち映画館」くらいしか楽しみはありません。

 毎日家でテレビ見てすごす。羽生結弦10年の軌跡NHK杯フィギュアスケート」というのも録画して娘といっしょに見ました。
 「殿、利息でござる」なんぞを見ました。なぜなら、ユヅ君が仙台伊達藩お殿様役で最後に登場し、なかなかの役者ぶりを見せてくれるからです。

 おうち映画館でゴールデンホームステイ。
 2019年アカデミー賞の2本を録画してみました。作品賞の「グリーンブック」と、9部門10賞のノミネートを得た『女王陛下のお気に入り』(受賞は3賞)

 2019年のアカデミー賞作品賞受賞作。『グリーンブック』
 作品賞のほか、脚本賞ニック・ヴァレロンガNick Vallelonga,ブライアン・キュリー Brian Currie @ピーター・ファレリー Peter Farrelly、助演男優賞 マハーシャラ・アリMahershala Ali,

 俳優・脚本家・監督など映画に関わる仕事を続けてきたニック・ヴァレロンガ(1959-)が、父である俳優トニー・リップ(1930-2013 82歳没)から聞いた昔話をもとに、父の友人ドクター・ドン・シャーリー(ドナルド・ウォルブリッジ・シャーリー1927-2013)にインタビューを行って、他のふたりとともに共同脚本執筆。

 運転手と雇い主の話、というとすぐに思い出すのが『ドライビングミスデージー』で、黒人運転手はモーガン・フリーマン。1948年から20年にわたるユダヤ人の高齢女性と文字を習う機会も与えられていなかった黒人運転手の心の交流を描いて1989年のアカデミー作品賞主演女優賞脚色賞メイク賞を受賞しました。主演女優賞のジェシカ・タンディ(Jessica Tandy1909-1994 85歳没)は、受賞時80歳で最優秀主演女優賞)

 「グリーンブック」は、ドライブするふたりが黒人著名音楽家とイタリア移民の運転手。「ドライビングミスデージー」と黒人と白人の立場を入れ替えていますが、旅の間にふたりの間に友情が育つというストーリーは似ています。

 作品賞に反対した人(スパイク・りーなど)は、「心根のよい黒人とやさしい白人の間に生まれる交流」という「ドライビングミスデージーとほぼ同じ内容の焼き直し」に作品賞が与えられることに不満を持ったのだそうです。
 「『グリーンブック』はほぼ全編、白人の目線からレイシズムを語る映画だ」「白人が救世主となる物語」などの批判に対して、監督は「批判を受ける面もあることは承知していたが、この映画は、白人が黒人を救う面も、黒人が白人の魂を救う面もどちらも描いているところを見てもらいたい」と述べています。

 また、黒人音楽家のモデルとなったドン・シャーリーの子孫(映画では交流がないとされていた兄弟の子どもたち)が、シャーリーとトニーの交流は、真実ではない、という訴えを行ったことなどもありました。子供のいなかったシャーリーの相続問題などもあるのだろうと推測しますが、受賞後の公開にも微妙な問題があったということで、私は飯田橋ギンレイにかかってなかったから見逃がしていました。
 映画見巧者ではない私の単純な感想としては、「いやぁ、感動作でした」。
 私は、白人目線の一方的な「白人が黒人の救世主となる物語」とは思いませんでした。

 作品賞としてほかの作品からぶっちぎりではないとしても、受賞する資格はあると思いました。もっとも2019年アカデミー作品賞ノミネート作品で私が見たのは、飯田橋ギンレイで「アリースター誕生」テレビ録画「女王陛下のお気に入りだけで、「ボヘミアンラプソディ」も「ローマ」「ブラッククランズマン」「バイス」も見ていません。

 ですから、受賞を逸した他の作品賞ノミネートと比べることはできず、「ドライビングミスデージー」と比べることくらいしかできません。

 以下ネタバレ含む感想です。

 トニーは、イタリア移民の子どもとしてニューヨークブルックリンで育ち、大家族で暮らしています。無学なトニーは、ごみ収集車の運転手を経て、今はもっと実入りのいい用心棒稼業をして妻と息子を養っています。学はないけれど、腕っぷしは強い。けんかっ早いのが欠点ですが、ナイトクラブで客のトラブルをさばく「警備員職歴」はなかなかのものです。

 家の修理のために黒人作業員が来たとき、妻ドロレスがふるまった飲み物のコップを、トニーはつまんでゴミ箱に捨てます。トニーは、黒人差別意識を隠さない下層白人です。妻はそのコップを拾い上げて元に戻していますが。

 トニーが仕事を得ていたナイトクラブは、改装のため2か月間閉鎖され、その間トニーは別の仕事を探さなければならなくなります。
 紹介された新しい仕事はドクターの運転手。医者だろうと思って面接に行ったのですが、ドクターは心理学や音楽学の博士号を持つ黒人音楽家でした。ドクターの住まいは、カーネギーホール上階の高級マンション。



 最初にトニーを面接したときに、シャーリーは一段高い段のうえに据えられた玉座のような椅子からトニーを見下ろしました。この玉座はシャーリーのプライドの象徴です。
 シャーリーは、黒人差別が根強い南部での8週間のコンサートツアーを予定しており、運転手兼ボディガードを必要としていました。

 トニーは黒人に雇われることに釈然とせず、靴磨きやアイロンかけをする「召使い」の仕事もしたくない。「8週間も妻と離れて暮らせない」という理由をつけて仕事を断って帰宅します。
 しかし、シャーリーは、雇い主に媚びない態度が気に入たのかもしれません。ナイトクラブ警備員としては優秀な「職歴」を持つトニー。危険な南部地帯でのツアーにボディガードが必要なシャーリーはトニーを雇うことを決めます。

 シャーリーは、トニーに電話をします。トニーが就職を断った理由が妻と離れたくないということだったので、シャーリーはドロレスを説得すればよいと思ったのです。むろん、ドロレスは、8週間夫と離れていることも承知。お金が必要ですから。

 ツアーに出発するトニーは、グリーンブックを渡されます。
 「グリーンブック」とは、1936~1966年にグリーン氏が発行していた「黒人が泊まることのできる宿泊施設案内」です。
 第二次世界大戦が終わり、黒人社会が経済力を持ち始めました。車を購入して移動する黒人層が出てきたとき、ことに南部での旅行では、黒人が利用できるホテル、レストランやガソリンスタンドの案内が必須でした。
 
 当時、南部には根強く黒人差別が残っており、レストランもトイレも黒人と白人の利用は別々でした。バス座席の白人優先に異議を唱えることから公民権運動が高まったことはよく知られていますが、公民権運動が実を結ぶまでに長い道程が必要でした。

1940年版グリーンブック


 シャーリーは旅に出る前、トニーに提案します。ヴァァレロンガというのは言いにくいのでヴァレーにしないか、と。
 トニーは断ります。名前はイタリアの先祖から受け継いだ大事なものだからです。名前はアイデンティティを示す大切なアイテムです。トニーは、トニー・リップという子供時代からのニックネームを呼ばれたいと希望します。
 口先で、嘘じゃないけど上手い言い回しで相手を丸めこむのが、上手だったから「リップ(口先)Lip」というあだ名がついたと説明します。あだ名もアイデンティティの1つです。

 この映画は、アイデンティティの確立の物語なのです。
 この映画に関して、差別問題が取り沙汰されるけどそれは背景の一つであって、個人の心の確立を描いている、とわたしは感じました。

<つづく>
 次回は「グリーンブック、ドン・シャーリー」
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