20200523
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>2020おうち映画館(6)女王陛下のお気に入りアン・スチュワート
2020ゴールデンホームステイ。おうち映画館でぐうたら鑑賞生活。
2019にギンレイにかかった映画のうち見逃してしまった『女王陛下のお気に入り』を録画鑑賞。
『女王陛下のお気に入り』は、2018年の作品。2019年のアカデミー賞で最多9部門10賞のノミネートを受けました。
主演女優賞受賞はオリヴィア・コールマン(アン女王役)。女王をめぐって熾烈な戦いを繰り広げるレディサラ役レイチェル・ワイズとサラの従妹アビゲイル役エマ・ストーンが、ひとつの映画でふたりの助演女優賞にノミネートされ、3者の演技合戦はほんとうにすごくて女王をめぐる女官の地位争いが迫力いっぱいに画面に繰り広げられました。
監督ヨルゴス・ランティモス 脚本デボラ・デイヴィス トニー・マクナマラ 撮影ロビー・ライアン ほか、美術賞衣装デザイン賞編集賞もノミネートされました。
まず、原題を解題。イギリススペル「favourite」米語スペル「favorite」。
形容詞用法「最もお気に入りの・一番好きな」
語彙そのものが最上級なので、mostをつけたりfavouritistと最上級にすることはできません。
名詞用法「一番好きな人・最もお気に入りのもの」
唯一無二の存在が「The favourite」なのです。ですから、「女王陛下のお気に入り」という日本語タイトルは、意味合いが違ってきます。日本語の「お気に入り」は、いくつあってもいいようなイメージになります。
サウンドオブミュージックの「わたしのお気に入りMy Favorite Things」は、thingが複数になっています。favouriteを複数にするなら「The one of my favorites」
映画タイトルの「The favourite」が「唯一無二の、たったひとりのお気に入り」という題名であることは、映画全体の流れを表しています。たったひとりのお気に入りの座をめぐる女官ふたりの攻防が画面からバシバシと火花になって散ります。
チューダー朝最後のイングランド君主エリザベス一世と争った、スコットランド女王メアリー・スチュアートのひいひい孫にあたるのが、この映画の主役アン女王です。(メアリー女王―ジェームズ1世ーチャールズ1世ージェームズ2世ーアン)
イングランドスコットランドが合併した王国の最初の君主はメアリーの息子ジェームズ1
世。メアリー女王を高祖母に持つのがアン女王でスチュアート朝の最後の女王でもあります。
アン・スチュアート(1665 - 1714 在位1702 - 1707)
史実でのアンは。
1665年、ヨーク公ジェームズ(後のジェームズ2世)と最初の妃でクラレンドン伯爵エドワード・ハイドの娘アン・ハイドの次女として生まれました。長女はアンの前代の君主であるメアリー2世。
18歳の時、1683年デンマーク王子ヨウエン(英語名ジョージ・オブ・デンマーク)と結婚しました。ジョージは、デンマーク・ノルウェー王フレデリク3世の次男。兄は父を継いでデンマーク王となったクリスティアン5世。
アンと結婚後、ジョージは1689年にカンバーランド公に叙されているので、女王戴冠前、アンはカンバーランド公爵夫人でした。後にマールバラ公ジョン・チャーチル夫人となるサラ・ジェニングスは、少女時代からの親友。アンを最も理解し、支え続けた人です。
アンは結婚以来毎年のように妊娠しましたが、そのほとんどは流産か死産。死産を乗り越えた王女は天然痘で病死。ようやく育ったウイリアム王子は生まれつきの水頭症(脳脊髄液=髄液の循環障害)で、11歳のとき猩紅熱で病死。17回の妊娠で成人した子供はいませんでした。
アンは、APS:Antiphospholipid Syndrome患者だったろうと考えられています。血中に抗リン脂質抗体とよばれる 自己抗体 が存在し、さまざまな部位の動脈 血栓症 や静脈血栓症、習慣流産などの妊娠合併症をきたす疾患を抱えていたのだろうと思われます。当時は治療法もありませんでした。
1702年に王位についたときは、17人の子を失った母であり、ブランデー深酒で悲しみを忘れようとした女性でした。
以下、ネタバレを含む映画の紹介と感想です。
映画の中のアン女王は、気まぐれで怒りっぽく、思いのままにことが運ばないとパニック症状を起こす。失った子供のかわりとして部屋にうさぎを飼っていて、アンソフィアとか、ウィリアムとか、死んだ子供たちの名前で呼んでいます。
APS症候群による代謝異常、ブランデーの飲みすぎなどで太っており、足に痛風が出て歩くこともままならないアン女王。
史実でも、王配ジョージは何を言われても「ほんとなの?」と答えるだけの優柔不断のおとなしい性格だったと言われており、映画にはまったく登場しません。
ふがいない夫のかわりに、政治面でアンの助言者となったのは幼馴染のサラ。
サラ・ジェニングス(1660-1744)は、私生活でも議会での演説や政治決定などにも、アンの腹心となり活躍しました。
議会で演説するアン女王。スピーチライターはサラ。戦争続行か停戦か判断するのもサラ。
アベノマスク政権の「お気に入り」だった黒川検事総長。彼の定年延長を正当化するために定年延長法案をごり押してきたのに、肝心の黒川氏、法の番人でありながら、お気に入りの新聞記者と毎週かけマージャン(違法!)に興じていたことが発覚。辞任が承認されました。
「法を守ってヤミ米を買わず餓死する法律家」が今どきいないことはわかっているけれど、かけマージャンが違法であることは法にうとい私でも知っています。すぐに辞任が認められた黒川氏の今後の身の振り方、注目です。モリカケ問題で政府の「不都合な真実隠ぺい」に協力した官僚は、みな出世していますからね。
「権力者のお気に入り」への目を光らせていたい、ひきこもり。
<つづく>
次回 「女王陛下のお気に入りサラ・ジェニングス」
次次回「女王陛下のお気に入りアビゲイル・ヒル」