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ぽかぽか春庭「映える風景画を探して  in 町田市立国際版画美術館」

2021-08-17 00:00:01 | エッセイ、コラム


20210817
ぽかぽか春庭アート散歩>2021アート散歩版画の楽しみ(1)映える風景画を探して  in  町田市立国際版画美術館

 はじめて、町田市立版画美術館を訪れました。
 娘が「映える風景を探して」という展覧会タイトルに興味を持ち、「風景画が好きだから見たい」というので、出かけてきました。

 期間 2021年4月24日(土) ~ 6月27日(日)

 四半世紀ほど前に、夫の仕事の手伝いで町田にきていました。しかし、町田の駅の改札まで来て、フリー校正者との原稿受け渡しが終わるとそのままとんぼ返りだったので、町田に降り立つのは初めてのこと。
 町田の街の中を初めて見ました。
 駅前の版画美術館シャトルバスに乗りました。案内には徒歩15分とでていますが、途中に急坂があり「こりゃ、徒歩は無理だったね」と、無料バスに感謝。撮影自由だったことにも感謝。

 町田国際版画美術館


 町田市立国際版画美術館の口上
#映える風景は、どのように作られるのでしょうか? 山と川が織りなすダイナミックな眺め、中世の面影を残す街並み、理想郷を思わせる美しい田園――目の前に広がる景色をひとつの絵に収めるために、画家や版画家はさまざまな工夫をこらしてきました。 本展では、版画を中心に、油彩画、水彩画、挿絵本、写真、光学装置などの展示を通じて、16~19世紀までの西洋風景画の歴史を辿ります。 ローマやエジプトの古代遺跡から世紀末パリのにぎやかな街角まで、その時々の風景画のスタイルや楽しみ方をご紹介します。

 「映える風景」とは、ピクチャレスクPicturesque の訳語です。ピクチャレスクというのは、「絵のようなさま。美しいさま 」という概念の美術用語で、18世紀にW.ギルピンが書いた余暇旅行者のための実用本に「ピクチャレスク=美の規則に従ってある地方の表情を吟味する」という意味合いで用いられました。18世紀19世紀にイギリスの青年たちは、こぞって「学業修了後の1~2年を欧州各地を旅して見聞を広める」ために旅行しました。これをグランドツアーといいます。その旅行において、見るべき風景を伝授したのがギルピンの本です。

 「映える」の読み方、、ポスターの仮名は「はえる」になっています。バエるというインスタなどに使われる今時の若者ことばのふりがなを使わず、昔ながらの「はえる~」にしたところが、及び腰に思えるのですが、展示内容はなかなか充実していました。

 展示室内



1章  版に刻まれた風景|版画が伝える土地のようす
 風景画がジャンルとして生まれて成熟するまでの歴史をたどる。風景画の誕生からグランド・ツアーまでる

 西洋絵画では、神に関わるモチーフが主流で、風景だけを表現する絵はほとんど描かれることがありませんでした。
 ブリューゲル、ルーベンス、レンブラント、カナレット、ピラネージらが版画で風景を描き出しましたが、やはり風景だけではなく神話やキリスト生涯などにからめて風景画描かれています。
 たとえば、ピーテル・ブルーゲル父(1525(または1530)-1569)の「改悛するマグダラのマリア」。マリアは右下の隅っこのほうに小さくが描かれており、画面に広がっているのは風景です。マグダラのマリアを描きたかったと言うより、マリアをだしにして風景を主役を描きたかったのではないかと思うような構図です。

 ピーテル・ブリューゲル「改悛するマグダラのマリア」1555-6

 マグダラのマリアは右下にひっそりと。

 原画(1533):ピーテル・ブリューゲル 版刻:ヨーリスフーフナーヘル(1542-1600)
 「メルクリウスのプシュケの誘拐が描かれた川の風景」1553


 メルクリウス(英語ではマーキュリー。ギリシャローマ神話ではヘルメス)が風のニンフであるプシュケ(息・命)を誘拐するという神話をモチーフにしているけれど、私には、川岸にすわって川をスケッチしている画家ふたり、たぶんピーテル・ブリューゲルの父と息子が主人公に思えます。

 原画の画家名だけでなく、彫りを担当した職人の名前もきちんと示されているのがいいと思います。版画においては、版を掘り起こした彫り師の腕によっても刷り上がりが左右されますから。

 原画:ルーベンス(1577-1640)「ぬかるみに嵌まった荷馬車のある風景」1638
 版刻:ステルへ・ボルスウェルと・ボルスウェルト


 レンブラント・ファンレイン(1606-1669)は、エングレーヴィングやエッチングの彫りも自分の工房で仕上げました。エングレーヴィングは、ビュラン(burin)という鋭利な刃物で直接銅版を彫って版を作る 方法。エッチングは銅板の表面を針(ニードル)で削り、その後腐食させることで凹版を得る版画です。

 レンブラントファンレイン「三本の木」1643

 原画:ユベール・ロベール(1733-1808)
 版刻:ジャンフランソワ・ジャ二ネ(1752-1814)
 「メディチ家の柱廊と庭園」1776


 イギリスの学業修了旅行者は、このイタリア風景の絵を眺めて、古代ローマやギリシャへのあこがれを募らせ、また、グランドツアーみやげとして版画を買い求めて、故郷の人々に配りました。

 2章 研ぎ澄まされる風景「絵になる景色の作り方」
 「映える風景」を追い求めた画家たちの系譜を、200年前のフォトジェニック・テクニックとツールと合わせて紹介
 主な出品作家・作品:クロード・ロラン、J.M.W.ターナー、ジョン・コンスタブル、ジャン=フランソワ・ミレー 

 クロード・ロラン(ジュレ)は、風景画の発展に大きな力をふるった画家で、イギリスのターナーらの風景画を育てた師匠にあたる人。
 2020年6月にロンドンナショナルギャラリー展を見たときに、クロード・ロランも数点見ているのですが、このときは、ほかにも印象に残った絵がたくさんあったので、春庭ブログでのアート散歩では、クロードクロード・ロランをとりあげませんでした。今回、展覧会レクチャーがあり、クロードロラン研究の第一人者小針由紀隆氏の講義を聴くことができました。講義の記録はのちほど紹介します。
 
 クロードロランに続くターナーらは、イギリス風景画を進化させました。
 デヴィッド・コックス(1783-1899)「洗濯日和」(水彩画 栃木県立美術館蔵)


 原画:ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775-1851)
 「ネッカー川対岸から見たハイデルベルグ」


 ターナー「カルタゴを築くディド」1860


 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775-1851)
 「メリック修道院、スウェイル渓谷」水彩1816-17 栃木県立美術館 

 原画:ジョン・コンスタブル(1776-1837)
 版刻:デヴイッド・ルーカス(1802-1881)
 「虹、ソールズベリー大聖堂」

原画:ジャンフランソワ・ミレー(1814-1875)
 「耕す人」1855-56



3章本の中の風景-世界旅行と時間旅行
 めくるめく挿絵本と旅行記の時代。古代エジプトから世紀末パリまで、世界中を飛び回る大冒険。

 グランドツアーだけでなく、世界の光景を見たいと望む人が増え、本が盛んに出版されるようになりました。

 テロール男爵他(編)『古きフランスのピトレスクでロマンティックな旅』「古ノルマンディー編」より、1820年刊、リトグラフ、町田市立国際版画美術館


 




アルフォンス・ド・カイユー(1788-1876)『古きフランスのピトレスクでロマンティックな旅』「古ノルマンディー編」より、1820年刊、リトグラフ、町田市立国際版画美術館


4章 楽しむためのlandscape世紀末の版画、左心、視覚装置

 写真技術が浸透しつつあった19世紀後半にフォーカス。写真の普及に抗うようにして独自の表現を追い求めた版画家やピサロら印象派画家の作品、そして凸レンズや照明を活用した眼鏡絵や幻燈機といった世紀末のエンターテインメントも目にすることができる。 

 カミーユ・ピサロ《ポントワーズ、ライ麦畑と マチュランの丘》、1877年、
油彩、静岡県立美術館 

1889万国博覽会

 これまで油絵や水彩などを見ることを優先して、版画を積極的に観覧することがありませんでした。が、町田市立国美術館美術館の方針「新展示オープンの日は観覧無料」というのを知ったので、これから新展示のたびに見にきてもいいかな、と思いました。なにせ「無料」が大好きなので。

<つづく>

コメント (2)
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