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ぽかぽか春庭「プロミシングヤングウーマン」

2022-04-12 00:00:01 | エッセイ、コラム

20200412
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>2022シネマ春(2)プロミシングヤングウーマン

 93回アカデミー賞作品賞監督賞脚本賞主演女優賞編集賞にノミネートされ、脚本賞を受賞した『プロミシングヤングウーマン』を飯田橋ギンレイで見ました。最後の決闘裁判』の併映。ギンレイの2本立ては同じ監督の2本、同じ俳優の2本や、テーマが同じ2本(たとえば、2本とも母ものとか)を併映にすることが多いですが、今回の2本共通テーマは「レイプ」

 「プロミシング」とは、直訳は「約束されている」。通常は「プロミシング・ヤングマン=将来が約束されている有望な青年」という意味合いで使われる。しかし、女性に対して「プロミシングヤングウーマン」という使い方は特殊です。女性は「将来有望な」「行く末を期待されている」と言わなければならない場面が少ないからです。どんな優秀な女性も、「ガラスの天井」に頭がぶち当たる。

 さらに、報道の場や裁判で「プロミシング・ヤングマン」が使われるのは、どんな場合か。
 レイプ事件の加害者が有名大学の成績優秀な男性で、被害者が偏差値低い高校の校則違反の服装なんぞしている女子高生だったりしたとき、20年ほどまえまで、「将来ある若者の未来を奪うことは社会のためにならない」という意識を持つ法律関係者のもと、女性のレイプ被害は男性の名誉侵害問題にすり替えられたりしたのです。
 どこかの政治家が、有名大学の運動部員が女性を酔わせて襲った事件で「若者らしく、元気があってよろしい」と発言したことも思い出されます。

監督脚本:エメラルド・フェネル
カサンドラ・トーマス(キャシー):キャリー・マリガン
ライアン・クーパー:ボー・バーナム
マディソン・マクフィー:アリソン・ブリー
スタンリー・トーマス:クランシー・ブラウン
スーザン・トーマス:ジェニファー・クーリッジ
エリザベス・ウォーカー:コニー・ブリットン
ゲイル:ラバーン・コックス
ジェリー:アダム・ブロディ
ジョー:マックス・グリーンフィールド
ニール:クリストファー・ミンツ=

 かって、「将来を約束されていた」医学大学生だったキャシー。
 本名がカサンドラだということがわかると、ギリシャ悲劇好きには「そうか」という思いがわきます。カサンドラはトロイアの王女。予言の能力を持っているのに、彼女が予言したことをだれも信じないという呪いをアポロンからかけられています。アポロンをふったためです。最後は無残に殺されるカサンドラ。

 キャシーは、親の期待通りの優秀な医学生であったのに、今は無気力なカフェウエイトレスとして毎日をすごしています。しかし、キャシーの夜の顔は昼とは一転します。濃い化粧にケばい衣裳。酔って崩れ落ちそうな肢体。彼女を自分のアパートなどに連れ込んだ男性に、キャシーは手ひどい仕打ちを加えます。なんのために?

 ある日、医大で同級生だったライアンに出会ったことで、キャシーの過去が明らかになっていきます。キャシーの親友ニーナが同級生アルにレイプされたことを訴えたのに、だれもニーナを信じません。アルは「将来を約束された若い男性」だったからです。ニーナは信じてもらえないことに絶望し、自殺します。
 ニーナがレイプされた夜、キャシーはいっしょにいませんでした。そのため、キャシーはニーナに対して「守ってやれなかった」と後悔の毎日をすごしていたのです。

 キャシーは、ライアンのことばのはしはしから、しだいにニーナがどのような目にあわされたのか、どうして周囲の人はニーナの味方をしてくれなかったのか、わかっていきます。
 たとえば、医学部の

 キャシーは「最終的な復讐」のために計画を練り、実行にうつします。アルと、アルをかばってニーナを破滅させた面々は、キャシーの「わが身をかえりみない復讐」によって、裁かれます。

 キャシーとニーナは、4歳のころから心を結びあった「真実の親友」「心の友」でした。ニーナを失ってからキャシーは「生きる気力」も失っていました。両親は「優秀な娘」「期待の我が子」から一転「無気力ななげやりな人生」をおくるようになったキャシーが「いつかは立ち直る」と信じて見守っています。しかし、両親もキャシーがニーナに寄せた特別な思いには気づけませんでした。

 この映画でも、レイプする側が強者であり、被害者が自殺、という世の多くの事例と同じになっています。
 監督は、「レイプ・リベンジ=性的暴行の被害者やその関係者が復讐を行うジャンル 」の常の作り方とは異なる方法をとった、と制作意図を述べています。

 キャシーの復讐は想像できないものでした。ほかに方法があったにちがいないけれど、キャシーはニーナの魂にわが身をささげることで、ニーナを守れなかった贖罪をおこなったのだろうと、思います。つらいラストシーンでした。

 決闘による裁きによって、自分自身も火あぶりの刑になるかもしれなかった『最後の決闘裁判』のマルグリット。その身を焼かれることも予測していながら、自分をそこに追い込んで復讐を望んだキャシー。
 予言者カッサンドラ―は自分自身の運命も予見していました。アガメムノンの妻クリュタイムネストラに殺されると。キャシーも自分の運命を予見していたことでしょうが、キャシーはニーナとの愛を完成させる生き方を選んだのです。

<つづく>
コメント (2)
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