
20220417
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>2022シネマパラダイス春(5)空白
スーパーやコンビニに防犯カメラが常備し、警備会社がそれを一括チェックしているという現代ではかってほど「万引きし放題」ということもなくなってきたみたいですけれど、個人経営のスーパーなど、まだまだ被害が続く。
以下ネタバレ含む感想
スーパー青柳も、松坂桃李演じる店長が、万引きに悩まされながら細々と親が残した弱小スーパー経営をつづけてきた。
店長がが化粧品に手をかけた中学生の手をつかんだことから事件が始まる。
添田花音は店長の青柳直人に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれて死んでしまう。
娘に無関心だった花音の父・充は、せめて彼女の無実を証明しようと、事故に関わった人々を厳しく追及するうちに暴走しはじめる。青柳店長は父親の狂気のような追及に人生を狂わせて行き死のうとまで追いつめられる。スーパーは閉店。
添田は、学校にもねじ込むが、花音の担任女性教師も、校長も、「大人しくて目立たない子だったから、いじめの対象にすらなっていなかった」というクラスメートの証言をよしとし、保身をはかるのみ。
添田の元妻は再婚し身ごもっており、花音がまったく我が子に向き合えていない父親でなく、離れて暮らす母に「三者面談」に来てほしいと言っていた、という添田の知らない情報を知らせる。添田は、娘のことを何も知らなかったことに気づき始めたころ、娘を最初にはねた乗用車の若い女性が自殺してしまう。被害者の父が、加害者を追い詰め死に至らしめる。それでも女性の母はひたすら「娘を許してやってください」と言い続ける。
ようやく船に戻った添田は、娘のことを理解しようと試み始める。娘が美術クラブに残した絵を見て、キャンバスに青い空を描き白い「イルカみたいな雲」を描きこむ。娘も青い空にイルカみたいな雲を描き残していたことを知って「同じ雲を見たことがあるのだ」ということに気づいたからだ。
娘の気持ちを何一つ知らなかったことに気づくのが遅かったのかもしれない。でも、これからも青い空に白い雲は浮かんでいく。空に白。
監督・脚本:𠮷田恵輔
古田新太:添田充。漁師。自分の船を持つ
松坂桃李:青柳直人スーパーマーケット「スーパーアオヤギ」の店長。
田畑智子:松本翔子 充の元妻。
藤原季節:野木龍馬 添田の船で働く漁師見習い
趣里:今井若菜 添田音が通う中学校の担任教師。
伊東蒼:添田花音
片岡礼子:中山緑 はねた車を運転していた女性の母
寺島しのぶ:草加部麻子 スーパーアオヤギに勤務するパート店員。ボランティア活動に熱心
登場人物それぞれ、心に空白を抱えている。スーパーパート草加部は、一人暮らしの空白を埋めるようにボランティアの炊き出しに熱心だが、家庭の都合で次のボランティアに参加できないという同僚に「いいのよ、ボランティアは人のために役立ちたいという思いでやるものだから」と、嫌味をいうし、自殺しかかった店長を助けたあと、店長にキスをしいる。
執拗に加害者を追い詰めていく狂気的な添田の暴走。古田新太ならではの迫力でした。娘を万引き犯して追いかけたために事故に合わせてしまったスーパーあおやぎ店長や最初にはねた自家用車の女性を追い詰める添田が、はねられた娘をひきずって、顔の原型をとどめなくしたトラック運転手については、まったく追い詰めないないのは、どうしてだったか、トラック運転手、添田の元に誤りにも来ていなかったようですが。
被害も加害も紙一重。どちらの身内も世間から殺される。
同じようなテーマを2本立てにするギンレイの併映だったのは「由宇子の天秤」。
ドキュメンタリーディレクターが、加害者と被害者を見つめていく物語でした。
事実を追求し真実を突き詰めていくなかで、ひとりひとりの人間の姿に驚愕の事実が浮かびあがります。

2本ともずっしり重い作品でしたから、2本立て見終って少々くたびれましたけど、よい作品に出合えた満足感にひたりながら帰りました。
2本ともよい作品で海外での評価も高い作品でしたが、東映と松竹がかかわっていないから、日本アカデミー賞にはノミネートもなしでした。
<おわり>