20221117
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>日本語学校秋から冬へ(3)
生き物には、人間の千倍万倍も鼻が利く動物がいたり、水の中で何キロも先の仲間の鳴き声をちゃんと聞きとったりする動物もいます。
ヒトの感覚や機能も千差万別。私は、娘と比べるとまったく鼻がきかず、においに敏感でないことは昔から承知していました。味覚もにぶく、娘が感じ取れる味の違いに鈍感。
年をとってますます耳の聞こえも悪くなっていますし、私の感覚能力は一般の人に比べてとても低いのだと自覚しています。
私は近視ですから、遠くのものを見分けるのは苦手ですが、手元にある文字を認識する能力が、一般の人の4倍である、という検査結果を受けたことがあります。これは、私の「食べるのが早い、寝付くのが早い、キーボードを打つのが早い」と並ぶ「早業自慢」のひとつです。
文字を読み分ける能力が早いので、洋画の字幕を読むのに不自由したことがありません。しかし、娘は字幕を読んでいると画面から情報を読み取る時間が減ってしまうので、洋画は吹替じゃなければ見たくない、と言います。
耳から情報を得る力が勝っている娘と、文字から情報を得たい私とでは、世界の認識においてずいぶん違いがあるのではないか、と思います。
それにつけても、最近の大学入試などでの英語リスニング試験の重要化。私が受験生であったころには、発音試験というのも、文字に書かれた発音記号を見て解答するものでしたから、耳の聞こえが悪い私にとってはありがたかったです。
現在の日本語能力試験や日本留学試験でも、聴解試験は重要な「日本語能力」とされ、聴解能力に強い学生は、有利です。
音声によって言語を理解する能力は、欧米出身の学生のほうが有利のように見えます。
しかし、文字情報が日本語理解の助けとなっている中国人学習者にとって、聴解問題は大の苦手。
読解問題にはかなりの点数をかせげる学生も、聴解となると音声の情報を理解するのが難しくなります。漢字の発音(日本語漢字の読み方がわからなくても、漢字が並んでいる文面を見れば、どんなことが述べられているかおおよそは理解できるため、読解文設問の回答を四択から選ぶことが可能になるのです。
耳で聞いていると想像して、声に出して読み、文の内容を理解してください。以下は読解問題の一部です。
ときどき、しんかんせんで しずおかふきんを はしっているとき、おちゃばたけに ちいさなふうしゃがたくさんならんでるのを みかけますが、「あれは はつでんのためですか」というしつもんを うける。じつは あれは ふうしゃではなく おおがたの せんぷうき、ぼうそうファンなのである。つまり ちひょうふきんの ひかくてき そうのうすい つめたい くうきそうの うえに~(以下略)
さて、すんなりと理解できましたか。音読してみて、頭の中で漢字変換を行っているのではありませんか。漢字かな表記の日本式文章表記にすれば、日本語母語話者のみならず、漢字圏中国語話者にも、意味が分かりやすくなります。ぼうそうファンというのが、何なのか、漢字変換ができましたか。
時々、新幹線で静岡付近を走っているとき、お茶畑に小さな風車がたくさん並んでいるのを 見かけますが、「あれは 発電のためですか」という質問を 受ける。じつはあれは風車ではなく 大型の扇風機(防霜ファン)なのである。つまり地表付近の比較的層の薄い冷たい空気の層の上に~
私たちが、いかに漢字の持つ「表意文字」の情報によってさまざまな理解を行っているのか、よくわかります。「ぼうそう」と音で聞いて、私は房総半島のぼうそうかと思いました。
「はつでん」ということば、「ちひょう」ということばも、発電、地表という文字情報で見ればすぐにすんなり頭に入ります。
日本語を耳で聞いて理解するためには、漢字の読み方をしっかり覚えていなければ、はつでん=発電、ちひょう=地表という意味が受け取れないのです。
日頃「漢字の読み方をきちんと覚えてください」と言っても、漢字を見れば「社会」も「経済」も「中国の意味と同じ」と思ってわかった気になり、読み方をきちんと覚えない学生もいます。
しかし、聴解問題では「にほんの けいざいも しゃかいも、このひゃくごじゅうねんの あいだ、いちねんごとに へんかを とげ~」と、耳で聞いて意味を理解しなければなりません。
訓読みをしっかり覚えること、音読み熟語の読み方を知ることで、聴解力も伸びるのです。漢字熟語の読み方を知ること、大事です。
日本の文章表現のうち、漢字熟語が70%を占めます。つまり、耳で日本語を聞いたとき、日本語の音読み訓読みで漢字のことばを理解していなければ、70%がわからず、ひいては全体が理解できなくなります。
学生には、口をすっぱくして「漢字のことば、読み方をおぼえてください」といっているのですが、、、、。
日本人学生の日本語教師養成講座を受講した「漢字の読み方訓練」の300語を、何度目かに再掲載します。またか、と思う方、すっとばしてください。
では、以後、何度かにわけて、「日本語漢字の読み方練習」をUPします。
<おわり>