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ぽかぽか春庭「生の読み方」

2022-11-27 00:00:01 | エッセイ、コラム

20221127

ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>日本語教師養成講座漢字の読み方(7)生の読み方

  何度も同じコラムの再掲載で恐縮ですが、ついでなので。「生」の読み方をもう一度。

 日本人学生の「日本語教師養成講座」受講者に「原則として標準語(普通話)の中国語では、漢字ひとつに発音はひとつだけ」という話をしたあと、「日本語の漢字の難しさは、ひとつの漢字に発音(読み方)が多種あり、文脈によって読み方をかえなければならないこと」という話をしてきました。


 中国語母語話者の「日本語教師志望者」にも、同じクイズを出そうとして、以下の練習問題をだしました。
~~~~~~~~~~~~~
 以下の例文を読んでみましょう。

 ☆クイズ3-4 以下の文章を読んでください

 『A:腹を痛めて生んだのではないから、生さぬ仲の息子とは、疎遠だろうですって?お生憎さま、親子の仲、うまくいってます。息子、生真面目ないい子に育ちました。あごには髭など生やして、見た目はちょっと生意気そうですが、特技を生かして仕事を続けています。 

B:息子は、立派に自立して生活しています。生な娘と恋仲になって、木に果物が生るように自然に縁が結ばれまして。このたび、孫が生まれたんですよ。かわいい孫が無事に生い立ち、よい生涯がすごせるようにとの願いをこめて、花を生け、生ビールで乾杯しました。』 

 「生」の「音読み」

ショウ(呉音)生類 生滅 生老病死 など

 セイ(漢音)学生 生活 生死 など 

 「生」の「訓読み」(常用漢字音訓)

い  生きる(いきる)生かす(いかす)生ける(いける)

う  生まれる(うまれる)生む(うむ)

お  生う(おう) 生い立ち(おいたち)生い茂る(おいしげる)

き  生真面目(きまじめ)生娘(きむすめ)生粋(きっすい)

なま 生魚(なまざかな)生兵法(なまびょうほう)生返事(なまへんじ)

は  生える(はえる)生やす(はやす) 

  以上の読み方は、学校で教えます。

 

  「常用漢字表に掲載されている以外の訓読み」(学校では教えない) 

な(す) 子まで生した仲(なした)生さぬ仲の子(為す、成すの表記もあり)

な(る) 木に果物が生った(なった)

うぶ   生養い(うぶやしない)生な乙女(うぶなおとめ)生方(うぶかた)  

 「熟字訓」(特別な読み方)

あい  生憎(あいにく)  

 どうですか。「生」の読み方、全部できましたか。辞書を調べれば、もっとあります。

 

クイズ3-4 解答

 A:はらを いためて うんだのではないから、なさぬ なかの むすことは、そえんだろうですって?おあいにくさま、おやこの なか、うまくいってます。 むすこ、きまじめな いいこに そだちました。あごには ひげなど はやして、みためは ちょっと なまいきそうですが、とくぎを いかして しごとを つづけ りっぱに じりつして せいかつしています。 

B:むすこは  うぶな むすめと こいなかに なって、きに くだものが なるように しぜんに えんが むすばれました。このたび、まごが うまれたんですよ。かわいい まごが ぶじに おいたち、 よい しょうがいを すごせるようにとの ねがいを こめて、はなを いけ、なまビールで かんぱいしました。

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 「生」の読み方が「shēng」ひとつしかない中国語に比べて、日本語の漢字にはひとつの漢字にかくもたくさんの読み方(発音)があるんだよ、と念押しするための、毎年のクイズでした。

 日本の漢字は中国漢字より数が少ないから「楽勝」と思っている中国人学生に、日本の漢字読み方をしっかり覚えなければ、聴解試験にも苦労をするよ、と言い聞かせるための「生」の読み方です。いわば「日本の漢字読み方は手ごわいぞ」とおどすための例です。ほとんどの漢字は、音読みひとつ訓読みひとつの2つの読み方でOK。
 それでも、ふたつの読み方を使い分ける日本語母語話者は「しずかな夜」「せいじゃくな深夜」という音声を聞いて、「静かな夜」「静寂な深夜」と、意味を理解できるのですから、すごいことなんです。

 一つの文字にふたつの読み方を併用するという文字言語、すでに滅びてしまった古代語に例は見つかったそうですが、世界で日常的に使われている現代語では、日本語だけです。
 日本語は「ことばの並べ方=文法」が難しい、という日本語学習者もいますが、日本語と文法が同じである、モンゴル語、韓国朝鮮語、トルコ語などの母語話者にとって、少しも難しくありません。
 しかし、日本語漢字の読み方は、だれにとっても難しいのです。

 小学校1年生から「先生」のとき「せい」と読む漢字の読み方、「生きる」ときは「い」なのだ、と訓練されてきた日本語話者は、「一生」を「いーしぇん」「いちせい」と読む中国人に「たいへんだね」と思ってください。



<おわり>
コメント
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