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ぽかぽか春庭「誕生日の比較文化」

2022-11-13 00:00:01 | エッセイ、コラム
20221113
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>日本語学校秋から冬へ(1)誕生日の比較文化

 日本語を教えるには、語彙を覚えさせ、文型を理解させ、日々鍛錬の日本語教師。でも、私はこれまでJLPT(日本語能力試験)などに合格させるだけが日本語教育の目的ではない、と信じて、「試験のため」以外に日本語を楽しむ、という機会も作るようにしてきました。

 たとえば、七夕の前には日本の「棚機つ女(たなばたつめ)=機織り姫」の存在と、中国の七夕(チーシー)の違うところを比べて学生に絵を見せたり、 毎月の最初の日を「ついたち」と呼ぶのはなぜか、と話したり。12月31日を「おおみそか」と呼ぶのはなぜか、と解説したり、日本語の受験勉強とは関わりなくても、日本文化について理解してもらうことを願ってきました。

 「ついたち」というのは、陰暦(月のめぐりによる暦)では、新月が立ち上がる日だから「月立ち→ついたち」なんだよ、と教えると、今でも陰暦が「農暦ノンリー」として利用されている地方の学生は「そういうことか」と納得して面白がってくれます。

 しかし、今期、後期の授業からは「受験勉強優先」の方針が学校経営者から出されましたので、のんびり日本の文化や多文化との比較などの時間は取れない状況になってきました。

 「常識、あたりまえ」と信じてきた自国の文化との比較。たとえば、日本では誕生日には、家族や友人が誕生日を祝って誕生日を迎えた人にお花やケーキなどさまざまなプレゼントをあげるうという習慣があり、欧米でも多くの文化がそうだと話します。そして、そうでない文化も世界にはあります。と話すのです。

 私がかって滞在して日本語教育の一端を担った国では、誕生日を迎えた人が、その日まで自分を育て、いつくしんでくれた両親や家族、支えてくれた友人たちに感謝をこめて、感謝の品を贈呈するのです。
 短期留学で日本から語学留学していたある日本人学生は、その習慣を知って日本から「折りたたみ傘を50本」航空便で送ってもらい、誕生日に間に合わせて周囲の人に配った、と話していました。
 心の支えであるお寺に感謝をこめて、お寺への寄進もします。それが誕生日の迎え方。

 授業中「先生、今日は私の誕生日ですから、これからクラスの皆さんにケーキを買ってきて、プレゼントしたいと思います。3限目の前に駅前のケーキ屋まで買い物に行っていいですか」と尋ねてきた学生がいました。誕生日なので、皆に感謝をこめてバースデーケーキをふるまいたい、というのです。


 わたしは、その留学生の国も「誕生日を迎えた人が周囲にプレゼントをおくる」という習慣なのかと思って許可しました。「自転車で駅前に行く」というので、それほど買い物に時間はかからず、休み時間に行って帰れるくらいだろうと思ったのです。

 しかし、彼女は、ケーキに「happy birthday」のチョコレート文字を書いてもらったり、100円ショップでみなにケーキを切り分けて配るための紙皿やプラスチックフォークやナイフまで買い込み、たっぷり45分ひとこま分の時間をつかって買い物をしてきました。

 教室でケーキと一緒に写真をとったり、切り分けてみなに配ったり。クラスメートはハッピバースデーの歌を歌って、彼女のバースデーを祝いました。
 ホールケーキも、20人に切り分けたらほんの一口ずつになりましたが、みなにこにこです。
 ハート形のろうそくと細いケーキキャンドルが4本ついていたので、私は「24歳おめでとう」と言いましたが、入学の書類には確か「27歳」とあったはず。だから28歳になったんだよね。

 来日して5年ほど。日本でつらい時期も経験した彼女が、明るい表情になりけんめいに日本語を学んでいる姿、応援したくなります。
 45分1コマを抜けた分は欠席としないで、出席マークをつけました。まあ、誕生日祝いです。
 私もひとくちケーキをいただきました。28歳からの1年間がよき日々でありますように。


 故国では英語の先生をしていたという彼女が、「日本の大学に入って勉強しなおしたい」という人生設計を後押ししたいと思います。

<つづく>
コメント (2)
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