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ぽかぽか春庭「長谷雄草紙ほか in 永青文庫」

2023-11-12 00:00:01 | エッセイ、コラム


20231112
ぽかぽか春庭アート散歩>2023アート散歩秋(3)長谷雄草紙ほか in 永青文庫

 文化の日。文化っぽいことをやる日かなと思って、ぐるっとパスで永青文庫に入館。長谷雄草紙絵巻の一挙全公開、というので見る気になりました。
 長谷雄草紙は、全一巻五段の絵巻物です。平安時代の貴族、紀長谷雄(845-912)が、鬼とすごろく勝負をした物語の絵草紙。成立は鎌倉~室町時代。徳川将軍家宝物→行方不明→細川護立が収集し永青文庫所蔵。

 永青文庫への前回訪問は8月でした。理事長が細川護熙元総理大臣から息子の護光氏へ移譲された直後でしたが、そんなことにはまるで気づかず、護立侯爵収集の絵画の展示を見ていました。今回理事長が息子の代になったこと、「季刊永青文庫122号」に新理事長のあいさつが載っていたのでわかりました。2階の休憩コーナーで冊子を見て、長谷雄草紙五段のほか、展示の絵巻物が載っているので、1階受付で購入。800円。

 「長谷雄草紙」公開は14年ぶりで、五段まとめての公開は初だそうです。14年前には見ていないので、今回の「まとめて全部」見ることができたこと、これぞ”ぶんかの僥倖”でした。そのほか、永青文庫所蔵の太平記絵巻や蒙古襲来絵詞の摸本など、充実の絵巻展示でした。 

 永青文庫の口上
 「長谷雄草紙」(鎌倉~南北朝時代、13~14世紀)は、平安時代の漢学者・紀長谷雄にまつわる怪異な説話を題材 にした絵巻です。江戸時代に徳川将軍家の宝物として秘蔵されていた一巻で、幕末維新期の混乱により長らく所在不明 でしたが、昭和に入り、永青文庫の設立者・細川護立(1883~1970)の所蔵となりました。 この絵巻に描かれているのは、長谷雄と朱雀門の鬼との双六争い。見事勝利した長谷雄は美女を得ますが、鬼との約 束を破って100日を待たずに美女に触れると、たちまち水となって流れ消えてしまうというストーリーです。双六の賽 を振る音が線で表されるなど、今日のアニメや漫画に通じる表現も見受けられます。物語はわずか5段と短く、内容も 明快で、室町時代以降の短編小説「お伽草子」の源流を示す貴重な作例とされています。 

 絵巻の横の詞書を翻刻したパネルが実物の上にあるので、変体仮名をすらすら読むのがむずかしい私でも、翻刻と対照しながらならなんとか読める。仮名文字が一字一字くっきりかっきり、とても読みやすい字です。常々「後世の無学な者のために、わかりやすい字で書いてほしいよ」と思っていたHalに願ったりかなったりの書体になっていました。流麗なくずし字は、書いた人にとっては「ほれ、美しいじゃろうが」と、満足のいく美的文字なのでしょうが、読む者はこのような一字一字くっきりした字体は、大歓迎です。思うに、御伽草子のさきがけと言われる長谷雄草紙なので、子供が親におとぎ話を読んでもらいながら、仮名文字を知るのにいい絵巻。文字を読み習い、次に手習いを始めるのかと想像しました。

 紀長谷雄は、菅原道真の門人。文章博士、大学弁のちに中納言。遣唐副使に任ぜられるも、道真により遣唐使が894年廃止され、唐には渡らなかった。が、その学才は鬼にも対抗できる力があるとされ、長谷雄草紙が描かれました。『今昔物語』にも長谷雄は登場し、長谷雄草紙は、師匠道真を神格化した天神様のご利益を表す物語になっています。 

 長谷雄は鬼とすごろく勝負をします。この時代の双六とは、盤双六。今の絵双六とはことなり、現代で言うバックギャモンのような盤ゲームです。長谷雄が盤に打ち込む場面では、「バーン」という音が、現代の漫画表現のように斜線であらわされています。鬼が長谷雄と勝負をしているのは、朱雀門の上。さいころで自分のコマを進めますが、戦略のうまい下手で勝負がつく。長谷雄は全財産を賭け、鬼は絶世の美女を賭けて長谷雄が勝つ。

 鬼が連れて来たのは、100日の間触れてはならない、という美女。あまりの美しさに、長谷雄は80日目にはがまんができなくなり「もう相当待ったのだから大丈夫だろう」と触ってしまう。美女はたちまち水となって流れ出てしまった。


 鬼が美女の死体からよいところを集めて作り上げた絶世の美女で100日めには本物の人になるところでした。しかし、水となってしまった上、長谷雄は鬼から違約を責め立てらます。あやういところで、長谷雄は一心に唱えた北野天神の加護を得て鬼を退散せしめることができました。めでたしめでたし。
 逃げていく鬼

 そのほか、蒙古襲来絵詞(文政年間模写)や、後三年合戦(天保年間模写)の摸本が展示されていました。江戸時代に熊本藩のお抱え絵師が諸家から絵巻を借り出して摸本を作成したのだそうです。いまでは原本が火災戦乱海外流出などで失われているものもあるので、これらの摸本も貴重な資料です。絵入り太平記(17世紀)の展示もあり、充実した絵巻展示でした。

 蒙古襲来絵詞の国宝指定後の展示は、再開した皇居三の丸尚蔵館で公開。教科書に出ている、肥後国(熊本)の御家人・竹崎季長 が蒙古軍に立ち向かう場面とか、摸本でも迫力十分でしたけれど、せっかくなら国宝も見ておきたい。

 細川藩のお姫様たちが歌留多取りをして遊んだ絵かるたなどの展示もあり、充実した展示でした。
 11月3日、よいお天気でしたから、肥後細川庭園へ。

<つづく>
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