都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「いちはらアート×ミックス2000+」 小湊鉄道を軸とした周辺エリア(後編:旧平三小学校、月出工舎、旧白鳥保育所)
小湊鉄道を軸とした周辺エリア
「いちはらアート×ミックス2000+」
2021/11/19~12/26
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/0e/67dd6962cd317b2152f92da380455b36.jpg)
「前編:五井機関区、上総牛久、市原湖畔美術館」から続きます。「いちはらアート×ミックス2000+」へ行ってきました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/73/52e46b455f601cd316cd1d6b91bf3528.jpg)
旧平三小学校は湖畔美術館から市原鶴舞バスターミナルを経由し、南へ向かった山間部にある2016年に閉校した学校で、他のいずれの会場とも離れた場所にありました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/76/2de0d343d52fed71fbb9df4a36455dd5.jpg)
ここでは11名の作家が計12点の作品を公開していて、3階建ての校舎内の各教室を用い、映像からインスタレーションと多様な展示が行われていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/90/9f22b16948e8b9eb6c694d4a946c8185.jpg)
栗真由美の「ビルズクラウド」は、市原のさまざまなかたちをした建物を提灯のように吊るしていて、それこそ明かりが街を温かく照らしているかのようでした。どこか子どもの頃の縁日を思い出すような、郷愁を誘う雰囲気も感じられたかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/76/615ad33ad4bfb408a4e9385d4b5e4a84.jpg)
キム・テボンの「ドリームキャッチャー」は、機械、あるいは武器を連想させるオブジェを用いたインスタレーションで、実際に手にしながら宇宙船のような構造物の中へ立ち入ることが可能でした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/95/df88e1b8aec48b81eaf5afb29eb73dcc.jpg)
ブラジルのマリア・ネポムセノは、色をつけたロープをコイル状に編んで広げる「知るは海」を展示していて、教室一面に海の波や泡を連想させる光景を築いていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/e1/8ba002e6f7f1c90afce7c195bd3abd9f.jpg)
プロダクトデザインを学んだのちにアーティストとして活動をはじめた長谷川仁は、カラフルな紙をちぎっては吸引孔に入れ、それが空気の働きによって天井から降ってくる「混色」と題する作品を設置していて、教室には紙の山が堆く積もっていました。ここでは観客も思い思いに紙を入れることができましたが、吸引孔が詰まってしまったのか、なかなかな紙が降ってこないようでした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/6b/b21dcdf3cf544d44ae42abdfad46efd8.jpg)
旧平三小学校で最も印象深かったのは、校舎内の階段と外階段の2ヶ所にて作品を展示していた冨安由真でした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/af/f6f409c26e6f9fd76976b867c4882ff2.jpg)
冨安は2018年の第12回shiseido art eggで入選を果たすと、2021年には神奈川芸術劇場で個展「KAAT EXHIBITION 冨安由真展|漂泊する幻影」を開くなどして活動し、近年、作品が注目を集めるアーティストの1人として知られてきました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/c4/3a64937224c9cc97b96053f6b56cca4b.jpg)
そのうちの「塔(エメラルド・シティに落ちる)」とは、タロットカードの「塔」(The Tower)に着想を得ながら、配膳室のダムウェーターを用いたインスタレーションで、1階から3階まで外階段を経由して鑑賞することができました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/54/b6f12ae301575a01f4cbb1a8f5c0552f.jpg)
ともかく1階から2階、3階へと行く毎に、不穏でかつ不可思議な光景が現れ、特に最上階では天井を見上げて驚くものがありました。ダムウェーターの前の小さなスペースを逆手にとりつつ、上下の空間の感覚を揺さぶるような、刺激のある展示といえるかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/d1/8521d8d8d18f73e14945ec445954c20b.jpg)
旧平三小学校を出て次に向かったのは、さらに山深き場所に建つ月出工舎でした。廃校となった月出小学校の跡地にある同工舎は、2014年の第1回アートミックスより会場として使われ、以来、クリエイティブスペースとして展覧会を開催してきたほか、アーティスト・イン・レジデンスといった活動が行われてきました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/34/cf7b8535a135afb5f29e9f4daa84fe92.jpg)
鍛治瑞子がリノベーションした体育館にて展開していたのは、染織を活かした作品を手がける岡博美の「その内に持つ色」で、月出工舎周辺で採取した植物で染めた布や糸を吊るしていました。茶色や黄色を帯びた色は、まさに月出の土地の色を表しているのかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/7e/acbc827f1d3c900c91076a24bfdff8a5.jpg)
この鍛冶がリノベーション計画の際、月出の環境を読み解いて制作した映像「The Traces of the Environment and Textures - TSUKIDE」も充実していました。そこには月出の森のシルエットなどが幾重にも映し出されていて、鳥のさえずりといった音響を耳にしていると、森の奥深くへ光とともに入っていくような感覚を覚えました。シンプルながらも美しい映像インスタレーションだったのではないでしょうか。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/f6/df05b36c1b98bcf94ff5334aed8100cd.jpg)
月出工舎では山の斜面に面した場所にも作品が設置されていて、薄暗がりの廃屋の中に絵画を並べた来田広大の「風待ちの家」も目がとまりました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/fd/04e3fbe2d9ca701947a63e5de25c8318.jpg)
この月出エリアはもとより、今回のアートミックスで最も感銘したのが、大正時代の古民家を舞台にした、田中奈緒子の「彼方の家」でした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/9f/95c6aa159b66257d22f01407780ccb34.jpg)
そこで目に飛び込んでくるのは、タンスや鏡、あるいは電燈といった家の建具などで、いずれも打ち捨てられたのか、床にめり込むように切断されたり、飛び出しては崩れるようなかたちを見せていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/61/2d17603963c5a35a2f317f6416a9451d.jpg)
また床には水を思わせるような皮膜が貼られていて、あたかも波に飲まれては壊されてしまった家や建具の残骸を連想させるものがありました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/16/abcab2c9190c853dd6e87cae52d0b4f4.jpg)
さらに月明かりのような照明がゆっくり動きながらあたりを照らしていて、一輪のみ可憐に咲く彼岸花の存在とあいまってか、物悲しい雰囲気を醸し出していました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/18/96a78d5cd37eea53314b2279fd3faed7.jpg)
それこそ主を失い、誰もいなくなった家の中で時間が止まり、すべてが永遠に静止しているような気配も感じられたかもしれません。
「彼方の家」の余韻に浸りながら月出工舎を後にすると、すでに15時近くとなっていました。本来、アートミックスは17時までとされていましたが、会期が春から冬に変更されたことで閉場時間が16時に早まっていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/76/374ef92b19039076ba6078dea14350ac.jpg)
最後の目的地である旧白鳥保育所は、月出地区から西へ向かった上総大久保駅近くに位置していて、隣接する旧白鳥小学校と合わせて計8点の作品が展示されていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/77/cd/a7beedd36df3a6277f6f664fdd86dd29.jpg)
旧白鳥保育所では大杉祥子がその名も「白鳥の湖」と題した展示を行っていて、バレエ「白鳥の湖」をイメージした舞台を版画と紙人形にて見せていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/21/eed6c35892380efdbefb113b41db2a84.jpg)
調理室を舞台にしていたのが文筆家の五所純子で、インスタレーションとテキストを交えて食にまつわる「FOOD COURT」の展示を行っていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/cc/28abae08ecba7c616fe12e66f7a69314.jpg)
流木と思しき木材を使い、窓の内外へと連なるインスタレーションを手がけたのが高山夏希で、黒板の上の平面の作品と合わせ、自然のダイナミックな風景を教室へと展開していました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/bf/512ead15de11d2c5e39bae60f28c7ac4.jpg)
このほか、髙田安規子・政子のユニットや篠崎恵美の作品も見どころだったかもしれません。なお旧白鳥保育所も旧平三小と同様に、今回のアートミックスから初めて会場となりました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/45/9a/706a1a0999d380938c752c92501bf05c.jpg)
起点となった五井へ帰るために道を北に進むと、途中に立ち寄った上総鶴舞駅で藤本壮介の「Tree / Toilet」と成田久の「試着駅」を見学し、最後に上総村上駅にてレオニート・チシコフによる宇宙服の作品を鑑賞しました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/df/f592176b0d4e0d441624a853376d76d9.jpg)
すでに上総村上駅に着いた時は、日没を過ぎた17時頃になっていました。結局、この日は、五井機関区、上総牛久エリア、上総久保駅、市原湖畔美術館、旧平三小学校、月出工舎、旧白鳥保育所、上総鶴舞駅、上総村上駅とめぐり、主要会場6箇所、そして3つの駅プロジェクトの作品を鑑賞することができました。一方で月崎地区や養老渓谷などのエリアは時間の都合ではじめからルートに入れませんでした。日を改めて出かけるのがベストかもしれませんが、そもそもアートミックスを1日ですべて見るのは現実的でありません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/f8/6b2762bbdbf2a67681835421f9cc2f7f.jpg)
作品数と滞在時間はおおむね比例するため、旧平三小学校や月出工舎は比較的時間をかけて鑑賞しましたが、商店街の中に展示施設が点在する上総牛久エリアも意外と時間がかかりました。過去のアートミックスと同様、予めルートや滞在時間をプランニングしておく必要がありました。
私が見た中で特に面白かったのは、中﨑透「Clothing Fills in the Sky」(上総牛久)、冨安由真「塔(エメラルド・シティに落ちる)」(旧平三小学校)、そして田中奈緒子の「彼方の家」(月出の森)でした。また市原湖畔美術館での戸谷成雄展も見応えがありました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/cb/b065834efe292d338717dbe7e6123af4.jpg)
今回で3回目を迎えたいちはらアートミックスですが、コロナによる長期にわたる延期はもとより、2019年に同地域を襲った台風や豪雨災害など、かつてないほど開催に際して困難があったことは間違いありません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/50/7d/ac333813449834e0e8b647e5fb269d85.jpg)
市原市南部は美しい里山を有するとともに、会場でもあった廃校や空家、空きテナントが目立つなど、過疎や人口流出などの問題を抱えています。コロナの影響により運営やイベントに際して多くの制約があったと思いますが、次回に向けて地域へと根差すプロジェクトもさらに必要となるのかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/a4/35c3cbfe108998fc2840e9af20acf849.jpg)
公式サイトにも案内されていますが、会場時間や周遊バスの時刻表などがガイドブックの内容と異なっています。最新の情報はTwitterもしくは公式サイトにてご確認ください。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/91/a226e97126a5c8df93a28db907272abe.jpg)
「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2000+」は12月26日まで開催されています。
「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2000+」(@IchiharaArtMix) 小湊鉄道を軸とした周辺エリア
会期:2021年11月19日(金)~12月26日(日)
休館:月・火曜日。但し11/23(火・祝)を除く。
時間:10:00~16:00 *施設やイベントによって異なる。
鑑賞パスポート料金:一般3000円、大学・高校生1500円、小中学生500円。
*鑑賞パスポート=会期中、芸術祭の作品の全てを観覧可。1枚で1名のみ有効、1作品1回のみ(2回目以降、要個別料金。)。
*各会場における個別観覧券あり。
住所:千葉県市原市不入75-1(市原湖畔美術館)他
交通:JR線五井駅から小湊鉄道にて高滝駅下車。小湊鉄道上総牛久駅より周遊バス「上総牛久駅ルート」で市原湖畔美術館。
「いちはらアート×ミックス2000+」
2021/11/19~12/26
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/0e/67dd6962cd317b2152f92da380455b36.jpg)
「前編:五井機関区、上総牛久、市原湖畔美術館」から続きます。「いちはらアート×ミックス2000+」へ行ってきました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/73/52e46b455f601cd316cd1d6b91bf3528.jpg)
旧平三小学校は湖畔美術館から市原鶴舞バスターミナルを経由し、南へ向かった山間部にある2016年に閉校した学校で、他のいずれの会場とも離れた場所にありました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/76/2de0d343d52fed71fbb9df4a36455dd5.jpg)
ここでは11名の作家が計12点の作品を公開していて、3階建ての校舎内の各教室を用い、映像からインスタレーションと多様な展示が行われていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/90/9f22b16948e8b9eb6c694d4a946c8185.jpg)
栗真由美の「ビルズクラウド」は、市原のさまざまなかたちをした建物を提灯のように吊るしていて、それこそ明かりが街を温かく照らしているかのようでした。どこか子どもの頃の縁日を思い出すような、郷愁を誘う雰囲気も感じられたかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/76/615ad33ad4bfb408a4e9385d4b5e4a84.jpg)
キム・テボンの「ドリームキャッチャー」は、機械、あるいは武器を連想させるオブジェを用いたインスタレーションで、実際に手にしながら宇宙船のような構造物の中へ立ち入ることが可能でした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/95/df88e1b8aec48b81eaf5afb29eb73dcc.jpg)
ブラジルのマリア・ネポムセノは、色をつけたロープをコイル状に編んで広げる「知るは海」を展示していて、教室一面に海の波や泡を連想させる光景を築いていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/e1/8ba002e6f7f1c90afce7c195bd3abd9f.jpg)
プロダクトデザインを学んだのちにアーティストとして活動をはじめた長谷川仁は、カラフルな紙をちぎっては吸引孔に入れ、それが空気の働きによって天井から降ってくる「混色」と題する作品を設置していて、教室には紙の山が堆く積もっていました。ここでは観客も思い思いに紙を入れることができましたが、吸引孔が詰まってしまったのか、なかなかな紙が降ってこないようでした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/6b/b21dcdf3cf544d44ae42abdfad46efd8.jpg)
旧平三小学校で最も印象深かったのは、校舎内の階段と外階段の2ヶ所にて作品を展示していた冨安由真でした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/af/f6f409c26e6f9fd76976b867c4882ff2.jpg)
冨安は2018年の第12回shiseido art eggで入選を果たすと、2021年には神奈川芸術劇場で個展「KAAT EXHIBITION 冨安由真展|漂泊する幻影」を開くなどして活動し、近年、作品が注目を集めるアーティストの1人として知られてきました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/c4/3a64937224c9cc97b96053f6b56cca4b.jpg)
そのうちの「塔(エメラルド・シティに落ちる)」とは、タロットカードの「塔」(The Tower)に着想を得ながら、配膳室のダムウェーターを用いたインスタレーションで、1階から3階まで外階段を経由して鑑賞することができました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/54/b6f12ae301575a01f4cbb1a8f5c0552f.jpg)
ともかく1階から2階、3階へと行く毎に、不穏でかつ不可思議な光景が現れ、特に最上階では天井を見上げて驚くものがありました。ダムウェーターの前の小さなスペースを逆手にとりつつ、上下の空間の感覚を揺さぶるような、刺激のある展示といえるかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/d1/8521d8d8d18f73e14945ec445954c20b.jpg)
旧平三小学校を出て次に向かったのは、さらに山深き場所に建つ月出工舎でした。廃校となった月出小学校の跡地にある同工舎は、2014年の第1回アートミックスより会場として使われ、以来、クリエイティブスペースとして展覧会を開催してきたほか、アーティスト・イン・レジデンスといった活動が行われてきました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/34/cf7b8535a135afb5f29e9f4daa84fe92.jpg)
鍛治瑞子がリノベーションした体育館にて展開していたのは、染織を活かした作品を手がける岡博美の「その内に持つ色」で、月出工舎周辺で採取した植物で染めた布や糸を吊るしていました。茶色や黄色を帯びた色は、まさに月出の土地の色を表しているのかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/7e/acbc827f1d3c900c91076a24bfdff8a5.jpg)
この鍛冶がリノベーション計画の際、月出の環境を読み解いて制作した映像「The Traces of the Environment and Textures - TSUKIDE」も充実していました。そこには月出の森のシルエットなどが幾重にも映し出されていて、鳥のさえずりといった音響を耳にしていると、森の奥深くへ光とともに入っていくような感覚を覚えました。シンプルながらも美しい映像インスタレーションだったのではないでしょうか。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/f6/df05b36c1b98bcf94ff5334aed8100cd.jpg)
月出工舎では山の斜面に面した場所にも作品が設置されていて、薄暗がりの廃屋の中に絵画を並べた来田広大の「風待ちの家」も目がとまりました。
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この月出エリアはもとより、今回のアートミックスで最も感銘したのが、大正時代の古民家を舞台にした、田中奈緒子の「彼方の家」でした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/9f/95c6aa159b66257d22f01407780ccb34.jpg)
そこで目に飛び込んでくるのは、タンスや鏡、あるいは電燈といった家の建具などで、いずれも打ち捨てられたのか、床にめり込むように切断されたり、飛び出しては崩れるようなかたちを見せていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/61/2d17603963c5a35a2f317f6416a9451d.jpg)
また床には水を思わせるような皮膜が貼られていて、あたかも波に飲まれては壊されてしまった家や建具の残骸を連想させるものがありました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/16/abcab2c9190c853dd6e87cae52d0b4f4.jpg)
さらに月明かりのような照明がゆっくり動きながらあたりを照らしていて、一輪のみ可憐に咲く彼岸花の存在とあいまってか、物悲しい雰囲気を醸し出していました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/18/96a78d5cd37eea53314b2279fd3faed7.jpg)
それこそ主を失い、誰もいなくなった家の中で時間が止まり、すべてが永遠に静止しているような気配も感じられたかもしれません。
「彼方の家」の余韻に浸りながら月出工舎を後にすると、すでに15時近くとなっていました。本来、アートミックスは17時までとされていましたが、会期が春から冬に変更されたことで閉場時間が16時に早まっていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/76/374ef92b19039076ba6078dea14350ac.jpg)
最後の目的地である旧白鳥保育所は、月出地区から西へ向かった上総大久保駅近くに位置していて、隣接する旧白鳥小学校と合わせて計8点の作品が展示されていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/77/cd/a7beedd36df3a6277f6f664fdd86dd29.jpg)
旧白鳥保育所では大杉祥子がその名も「白鳥の湖」と題した展示を行っていて、バレエ「白鳥の湖」をイメージした舞台を版画と紙人形にて見せていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/21/eed6c35892380efdbefb113b41db2a84.jpg)
調理室を舞台にしていたのが文筆家の五所純子で、インスタレーションとテキストを交えて食にまつわる「FOOD COURT」の展示を行っていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/cc/28abae08ecba7c616fe12e66f7a69314.jpg)
流木と思しき木材を使い、窓の内外へと連なるインスタレーションを手がけたのが高山夏希で、黒板の上の平面の作品と合わせ、自然のダイナミックな風景を教室へと展開していました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/bf/512ead15de11d2c5e39bae60f28c7ac4.jpg)
このほか、髙田安規子・政子のユニットや篠崎恵美の作品も見どころだったかもしれません。なお旧白鳥保育所も旧平三小と同様に、今回のアートミックスから初めて会場となりました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/45/9a/706a1a0999d380938c752c92501bf05c.jpg)
起点となった五井へ帰るために道を北に進むと、途中に立ち寄った上総鶴舞駅で藤本壮介の「Tree / Toilet」と成田久の「試着駅」を見学し、最後に上総村上駅にてレオニート・チシコフによる宇宙服の作品を鑑賞しました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/df/f592176b0d4e0d441624a853376d76d9.jpg)
すでに上総村上駅に着いた時は、日没を過ぎた17時頃になっていました。結局、この日は、五井機関区、上総牛久エリア、上総久保駅、市原湖畔美術館、旧平三小学校、月出工舎、旧白鳥保育所、上総鶴舞駅、上総村上駅とめぐり、主要会場6箇所、そして3つの駅プロジェクトの作品を鑑賞することができました。一方で月崎地区や養老渓谷などのエリアは時間の都合ではじめからルートに入れませんでした。日を改めて出かけるのがベストかもしれませんが、そもそもアートミックスを1日ですべて見るのは現実的でありません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/f8/6b2762bbdbf2a67681835421f9cc2f7f.jpg)
作品数と滞在時間はおおむね比例するため、旧平三小学校や月出工舎は比較的時間をかけて鑑賞しましたが、商店街の中に展示施設が点在する上総牛久エリアも意外と時間がかかりました。過去のアートミックスと同様、予めルートや滞在時間をプランニングしておく必要がありました。
【芸術祭の回り方】開幕15日目です。芸術祭は大きく9エリアからなり、ゆっくり見て回る方は1日3、4エリア程度が目安です。全作品を制覇するなら車で2日、電車とバスで3日程度かかります。また、モデルコースも掲載していますので、こちらもご参考ください。▼モデルコースhttps://t.co/kdhl24NxdM pic.twitter.com/fI3ezuOF0h
— 【公式】いちはらアート×ミックス (@ichiharaartmix) December 8, 2021
私が見た中で特に面白かったのは、中﨑透「Clothing Fills in the Sky」(上総牛久)、冨安由真「塔(エメラルド・シティに落ちる)」(旧平三小学校)、そして田中奈緒子の「彼方の家」(月出の森)でした。また市原湖畔美術館での戸谷成雄展も見応えがありました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/cb/b065834efe292d338717dbe7e6123af4.jpg)
今回で3回目を迎えたいちはらアートミックスですが、コロナによる長期にわたる延期はもとより、2019年に同地域を襲った台風や豪雨災害など、かつてないほど開催に際して困難があったことは間違いありません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/50/7d/ac333813449834e0e8b647e5fb269d85.jpg)
市原市南部は美しい里山を有するとともに、会場でもあった廃校や空家、空きテナントが目立つなど、過疎や人口流出などの問題を抱えています。コロナの影響により運営やイベントに際して多くの制約があったと思いますが、次回に向けて地域へと根差すプロジェクトもさらに必要となるのかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/a4/35c3cbfe108998fc2840e9af20acf849.jpg)
公式サイトにも案内されていますが、会場時間や周遊バスの時刻表などがガイドブックの内容と異なっています。最新の情報はTwitterもしくは公式サイトにてご確認ください。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/91/a226e97126a5c8df93a28db907272abe.jpg)
「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2000+」は12月26日まで開催されています。
「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2000+」(@IchiharaArtMix) 小湊鉄道を軸とした周辺エリア
会期:2021年11月19日(金)~12月26日(日)
休館:月・火曜日。但し11/23(火・祝)を除く。
時間:10:00~16:00 *施設やイベントによって異なる。
鑑賞パスポート料金:一般3000円、大学・高校生1500円、小中学生500円。
*鑑賞パスポート=会期中、芸術祭の作品の全てを観覧可。1枚で1名のみ有効、1作品1回のみ(2回目以降、要個別料金。)。
*各会場における個別観覧券あり。
住所:千葉県市原市不入75-1(市原湖畔美術館)他
交通:JR線五井駅から小湊鉄道にて高滝駅下車。小湊鉄道上総牛久駅より周遊バス「上総牛久駅ルート」で市原湖畔美術館。
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