『本城直季 (un)real utopia』 東京都写真美術館

東京都写真美術館
『本城直季 (un)real utopia』
2022/3/19~5/15



東京都写真美術館で開催中の『本城直季 (un)real utopia』を見てきました。

1978年に東京都に生まれ、『small planet』(リトルモア、2006年)で第32回木村伊兵衛写真賞を受賞した本城直季は、空撮などで都市をジオラマのように表した写真を手がけては人気を集めてきました。

その本城の初の大規模個展が『本城直季 (un)real utopia』で、会場には『small planet』をはじめ、アフリカのサバンナを舞台とした『kenya』、そして東日本大震災後の被災地を写した『tohoku 311』など、未公開作を含む約200点が展示されていました。


『small planet』

まず目を引くのが代名詞ともいえる『small planet』のシリーズで、本城が生まれ育った東京をはじめとした都市の景観が俯瞰されつつ、まさにジオラマのように写されていました。


『kenya』

ケニアの草原を舞台とした『kenya』では、同地に生息する象やキリンなどの動物が写されていて、中には人が集う光景も見ることができました。


『kenya』より『giraffe』(部分) 2008年

このケニアの作品に際し、本城は「ケニアの草原は自然や動物が作り出していることに気づいた」としていて、雨季や乾季によって変化するすがたなども箱庭のようなミニチュアとして表現していました。


『Tokyo』より『Japan National Stadium, Tokyo』 2021年

なお今回の個展ではいずれのシリーズとも、本城自身の言葉が紹介されていて、彼がどのように被写体に向き合い、また表現していったのかの一端を知ることができました。

こうした一連のジオラマのような作品に対し、本城の意外ともいえる制作の一端を伺えるのが、『daily photos』や『LIGHT HOUSE』でした。


『daily photos』

まず『daily photos』は、学生の頃から持ち歩いていたカメラで撮影した日常的な写真で、身近な植物や動物、それに街の風景やマスコットキャラクターなどがポラロイドとして収めていました。どこかノスタルジックな味わいも感じられるかもしれません。


『LIGHT HOUSE』より『Toshima-ku, Tokyo』 2002年

一方で暗がりの中に展示された『LIGHT HOUSE』は、真夜中の街の裏路地や家々から漏れてくる灯りなどを写していて、静けさに満ちた夜の光景が映画のセットのように表されていました。夜中に特有な冷ややかな空気感も伝わるのではないでしょうか。


『tohoku 311』

『tohoku 311』は東日本大震災から3ヶ月後、被災地を写した作品で、津波によって破壊されてしまった街や港の風景を如実に捉えていました。それらは他の風景と同様、ジオラマ的にも見えましたが、一軒一軒の建物の中には人々の日常や生活があったと思うと、やはり胸がつまってなりませんでした。


『plastic nature』

自然の中に人間の痕跡を探し求めようとした『plastic nature』や、工業地帯の工場などを写した『industry』なども見応えがあったのではないでしょうか。


『industry』

本城の展示というと、最近では昨年に千葉市内を会場に行われた「写真芸術展 CHIBA FOTO」も充実していましたが、今回の個展では制作の全体像をより網羅的にたどることができました。


作品の撮影も可能でした。5月15日まで開催されています。*写真はすべて『本城直季 (un)real utopia』展示作品

『本城直季 (un)real utopia』@honjo_exhibit) 東京都写真美術館@topmuseum
会期:2022年3月19日(土)~5月15日(日)
休館:月曜日。ただし3月21日、5月2日は開館。3月22日。
時間:10:00~18:00
 *木・金曜日は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100円、学生900円、中高生・65歳以上550円。
場所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口より徒歩約7分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分。
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『ミロコマチコ展「うみまとう」』 クリエイションギャラリーG8

クリエイションギャラリーG8
『ミロコマチコ展「うみまとう」』
2022/4/5~5/23



クリエイションギャラリーG8で開催中の『ミロコマチコ展「うみまとう」』を見て来ました。

1981年に生まれ、デビュー作『オオカミがとぶひ』などの絵本にて人気を集めるミロコマチコは、生物や植物をダイナミックに描く画家としても高く評価されてきました。

そのミロコマチコの主にペインティングの制作を紹介するのが「うみまとう」と題した個展で、近年に描いた絵画、および人形や布を用いたインスタレーションなどが展示されていました。



最初の展示室からして強烈な印象を与えるかもしれません。ここに描かれたのはミロコマチコが5日間のライブペインティングにて制作した作品で、床から壁一面に激しい筆触による色彩が広がっていました。



それらは植物とも動物ともいえるようなモチーフが連なっていて、床にはさまざまな色に染められた布も置かれていました。



ミロコマチコは単に絵筆のみで絵を描くのではなく、ペインティングする際に着ていた服や下に敷いた布などを染め、時にキャンバスへ貼り付けるなどして制作していて、いわばコラージュと呼べる技法も用いていました。よって布や染色も重要な素材や創作のインスピレーションといえるかもしれません。


ミロコマチコ『空の声』 2018年

2019年に奄美大島へと拠点を移すと、島に伝わる伝統的な染色を用い、土地の植物や水によってキャンバスを染めたりしていて、島の自然を作品へと取り込むようになりました。


ミロコマチコ『光のざわめき』 2022年

そうした島の自然を舞台にして描いたのが『光のざわめき』で、会場では作品とともに制作時の映像も公開されていました。



映像では森の中、木製パネルに向き合っては、全身を動かしつつ絵を描いていくミロコマチコのすがたが捉えれていて、完成するまでのプロセスを追うことができました。



その様子を見ていると、絵を描いているというよりも、あたかも自然と交信しながら植物や動物のモチーフへ命を吹き込んでいるかのようでした。

なお現在、ミロコマチコの美術館での展覧会『いきものたちはわたしのかがみ』が全国各地を巡回中です。

『ミロコマチコ いきものたちはわたしのかがみ』公式サイト
https://mirocomachiko-cm.exhibit.jp

横須賀美術館での会期(2月10日〜4月10日)を終え、夏には市原湖畔美術館にて開催が予定(7月16日〜9月25日)されています。そちらも楽しみにしたいと思いました。


展示の様子をイロハニアートへ寄稿しました。

大規模な個展が全国へ巡回中!生命力に溢れた生物や植物を描くミロコマチコの絵画世界 | イロハニアート

通常の日曜日に加えて、ゴールデンウィーク中の4月29日から5月5日までがお休みです。



撮影も可能でした。5月23日まで開催されています。

『ミロコマチコ展「うみまとう」』 クリエイションギャラリーG8@g8gallery
会期:2022年4月5日(火)~ 5月23日(月)
休館:日曜日。4月29日(金)〜5月5日(木)。
時間:11:00~19:00。
料金:無料。
住所:中央区銀座8-4-17 リクルートGINZA8ビル1F
交通:JR線新橋駅銀座口、東京メトロ銀座線新橋駅5番出口より徒歩3分。
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『牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児』が開催中です

フランスと日本にて活動し、ともに自然の風景などを描いた画家、アンドレ・ボーシャンと藤田龍児。地域と時代こそ異なるものの、2人に通じる牧歌的な絵画世界は、どことなく響き合っているといえるかもしれません。



そのボーシャンと藤田龍児の作品を紹介する『牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児』(会場:東京ステーションギャラリー)について、イロハニアートへ寄稿しました。

フランスと日本の2人の画家が愛した自然の風景。ボーシャンと藤田龍児の牧歌的な絵画の魅力 | イロハニアート

展示では前半に藤田、後半にボーシャンの作品が並んでいて、ラストに藤田とボーシャンの作品を合わせて見比べる構成となっていました。

まず藤田の画業で注目したいのは、20代の頃から画家として活動するも、48歳にして大病を患うと、一時絵を描くことを断念していて、その後50歳を過ぎてから再び絵筆を取ったことでした。

また初期の頃は抽象的な表現をとっていながら、再び画家の道を歩みはじめた以降は、広い野原や小高い丘、また古い街並みや鉄道や工場といったのどかで親しみやすい風景を描いていて、作風を大きく変化させていました。

しかし若い頃からモチーフとして描いたエノコログサ(猫じゃらし)などは、後年も一貫して取り上げていて、画家が強い生命力の象徴として捉えていたエノコログサへの愛着を見ることもできました。このほか、下塗りに黒を用いていたり、ニードルによるスクラッチ(引っ掻き)を多用するなど、細かな表現の技法についても興味深かったかもしれません。



一方、美術とは無縁の環境に育ったボーシャンは、苗木職人として園芸業を営んでいて、結果的に画家の道を歩みはじめたのは50歳を前にしてからのことでした。

元々、順調に園芸業を営んでいながらも、一次大戦の終結後は農園が荒れて破産し、妻が精神に異常をきたすなど、過酷な現実とも向き合っていて、後に絵こそ高く評価されたものの、必ずしも順風満帆の人生とは言えませんでした。


ともに過酷な状況に置かれつつ、心に染み入るような牧歌的な作品を描いたボーシャンと藤田には、確かに共通する要素が見出せるのではないでしょうか。そのノスタルジックで温かみのある風景世界に心を惹かれました。

東京ステーションギャラリー単独での開催です。他館の巡回はありません。

7月10日まで開かれています。

『牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児』 東京ステーションギャラリー
会期:2022年4月16日(土)~7月10日(日)
休館:月曜日。*5/2、7/4は開館。
料金:一般1300円、高校・大学生1100円、中学生以下無料。
 *オンラインでの日時指定券を販売。
時間:10:00~18:00。
 *金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)
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『ヨシタケシンスケ展かもしれない』 世田谷文学館

世田谷文学館
『ヨシタケシンスケ展かもしれない』
2022/4/9~7/3



世田谷文学館で開催中の『ヨシタケシンスケ展かもしれない』を見てきました。

1973年に生まれ、イラストレーターや造形作家として活動してきたヨシタケシンスケは、2013年に初めての絵本『りんごかもしれない』を出版すると、世代を超えて愛され、絵本作家としても人気を集めて来ました。

そのヨシタケの初めての大規模な個展が『ヨシタケシンスケ展かもしれない』で、会場には発想の源であるスケッチや絵本原画をはじめ、愛蔵のおもちゃといった収集物、さらには新たに考案したインスタレーションなどが展示されていました。



まず冒頭で目に飛び込んでくるのが、何やら被り物をした人形のようなオブジェで、いずれもヨシタケが大学時代に制作していたという「カブリモノシリーズ」でした。



それに続くのが壁一面に並んだスケッチの複製で、いずれも約13センチ×8センチほどの小さな紙に書かれたものでした。ヨシタケは絵本作家としてデビューする前から、日々「大事なこと」あるいは「すぐに忘れてしまう」ことを描き留めていて、約20年余りの間でバインダーにして約80冊、1万枚以上も生み出されました。



今回は約2000枚を複製した上で並べていて、実に細かなスケッチが描かれる様子を目にすることができました。まさにこれこそがヨシタケのアイデアの源泉そのものと言えるのかもしれません。



『りんごかもしれない』や『つまんない つまんない』、それに『なつみはなんにでもなれる』などの人気絵本の原画や構想段階のアイデアスケッチも見どころではないでしょうか。



アイデアスケッチは先の日々のスケッチ同様、とても小さく細かに描かれていて、中には掠れていたりするなど、一体、何が表されるかすぐにわからないものも少なくありませんでした。



そして保存のためがジップロックの袋に入れられているのも特徴で、一部のスケッチは大きく拡大したパネルにて紹介されていました。ともかくスケッチの量は膨大で、物理的にすべてをじっくり見るのは困難とさえ思うほどでした。



一方、一連のスケッチとは別に絵本の世界を体感的に味わえるのが、ヨシタケが今回のために考案した主に参加型の立体インスタレーションでした。



そのうち「りんごでうるさいおとなをだまらせよう」では、「はやくおフロはいって!」などという大人のイラストの口の中へりんごを模した球を投げ入れることができて、それこそゲーム感覚にて楽しむことができました。



また絵本の世界から飛び出してきたような登場人物のパネルや、ヨシタケの直筆のメッセージの記された黄色い付せんなども見逃せないのではないでしょうか。世代を超えて楽しめるような創意工夫が随所に見られました。



混雑緩和のために日時指定制が導入されました。公式オンラインチケットのサイトにて事前に入場日時を予約することができます。ただし日時指定券が予定枚数に達していない場合は、窓口で当日券を購入することも可能です。



Penオンラインにて展示の様子をご紹介しました。


人気絵本作家、ヨシタケシンスケのインスピレーションの源とは?初の大規模な個展が世田谷文学館にて開催中|Pen Online



撮影も可能でした。7月3日まで開催されています。*掲載写真はすべて『ヨシタケシンスケ展かもしれない』展示風景

『ヨシタケシンスケ展かもしれない』 世田谷文学館@SETABUN
会期:2022年4月9日(土)~7月3日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00 *入場、及びミュージアムショップの営業は17時半まで。
料金:一般1000(800)円、大学・高校生・65歳以上600(480)円、小・中学生300(240)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:世田谷区南烏山1-10-10
交通:京王線芦花公園駅より徒歩5分。
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『ダミアン・ハースト 桜』 国立新美術館

国立新美術館
『ダミアン・ハースト 桜』
2022/3/2~5/23



国立新美術館で開催中の『ダミアン・ハースト 桜』を見てきました。

1965年にイギリスで生まれたアーティストのダミアン・ハーストは、1995年にターナー賞を受賞して脚光を浴びると、芸術、宗教、科学、生と死などをテーマに、絵画、彫刻、インスタレーションといったさまざまな作品を発表してきました。

そのハーストの最新作のシリーズである「桜」に焦点を当てたのが『ダミアン・ハースト 桜』で、会場には2018年から3年間余りにかけて描かれた「桜」107点のうち、24点の作品が展示されていました。



ともかく真っ白な展示室に並ぶのが、大きいもので縦5メートル、横7メートルを超える絵画『桜』で、1枚1枚には『生命の桜』や『夜桜』、『知恵の桜』や『大切な時間の桜』といった異なるタイトルがつけられていました。



いずれも水色の空を背景に茶色の幹や枝を伸ばした桜が、ピンクや白の花を咲かせるすがたを表していて、まさに満開に咲き誇る鮮やかな桜を目にするかのようでした。



とはいえ、近づいて目を凝らしていくと、ピンクや水色のほかに、緑色や黄色、黄土色などの色彩が粒状に重なるようすも見てとれて、あたかも点描を用いた抽象絵画のような趣きもたたえていました。



また絵具は塗られるというよりも、投げつけられているような感触を見せていて、白い飛沫のような線も跳ねていました。それこそポロックの絵画ならぬドリッピングの技法を思わせるのではないでしょうか。



しばらく「桜」と題した絵画を前にしながら、会場を行き来していると、不思議と「桜」のイメージが消え、未だ見たことのない不穏な景色を目にしているような気分にさせられました。具象と抽象を行き来しつつ、絵具そのものの強い物質感が表れているのも、一連の「桜」のユニークな魅力かもしれません。



会場奥のスペース、また美術館のサイト上にて公開されている映像、『HENI、ダミアン・ハースト、カルティエ現代美術財団によるドキュメンタリー・フィルム』(制作:カルティエ現代美術財団)が大変に興味深い内容でした。


そこではハーストが美術史家のティム・マーロウとともに、桜を描いた理由をはじめ、コロナ禍のロックダウン下の制作などについて語っていて、絵筆をキャンバスから離して投げながら色をつけていく制作風景も見ることができました。

一連の作品は世界各地のプライベートコレクション(一部を除く)によるもので、2021年にカルティエ現代美術財団で公開されたのち、ハーストが作品を選定した上で日本へとやって来ました。



ともすればこれらの作品が再び同じ空間に集まることはもうないのかもしれません。桜が花を咲かせてすぐに散ってしまうのと同様に、どこか物悲しくも感じられました。

会期の初めの頃に行きましたが、思いのほかに賑わっていました。東京での花見のシーズンはすでに終えましたが、ゴールデンウィーク期間中にかけてさらに多くの方が詰めかけるかもしれません。

撮影も可能です。5月23日まで開催されています。*掲載写真はいずれも『ダミアン・ハースト 桜』展示作品

『ダミアン・ハースト 桜』 国立新美術館@NACT_PR
会期:2022年3月2日(水)~5月23日(月)
休館:火曜日。但し2月23日(火・祝)、5月4日(火・祝)は開館。2月24日(水)は休館。
時間:10:00~18:00
 *毎週金・土曜日は20:00まで
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500円、大学生1200円。高校生600円。中学生以下無料。
 *団体券の発売は中止。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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特別展『宝石 地球がうみだすキセキ』 国立科学博物館

国立科学博物館
特別展『宝石 地球がうみだすキセキ』
2022/2/19~6/19



国立科学博物館で開催中の特別展『宝石 地球がうみだすキセキ』を見てきました。

宝飾品として親しまれ、地位を示すシンボルとして用いられる宝石は、古くから魔除けやお守りとして扱われるなど、人々の生活と深く関わってきました。

その宝石の魅力を、科学的、文化的なアプローチよりたどるのが『宝石 地球がうみだすキセキ』で、会場には世界各地より集められた宝石の原石やジュエリーが展示されていました。



まず冒頭では「原石の誕生」と題し、地球内部にて作られる宝石の原石を紹介していて、中でも高さ2.5メートルにも及ぶアメシストドームが目立っていました。紫水晶とも呼ばれるアメシストは、熱水に溶け込んだシリカが地下の空隙に沈殿してできた結晶で、まさに紫色の光を放っていました。



またここでは宝石の原石が含まれる岩石に着目し、火成岩やベグマタイトなどの4つのタイプにわけて産状を追っていて、宝石の誕生するプロセスについて知ることができました。



第2章「原石から宝石へ」では、原石から宝石となる重要な過程である採掘とカットについて紹介していて、特に宝石の評価を大きく左右するカットの重要性について資料を交えて細かく触れていました。



そのうち「指輪が語る宝石の歴史」では、国立西洋美術館の橋本コレクションから古今東西の200点もの指輪が一堂に展示されていて、実に4000年にも及ぶ宝石のカットの歴史の変遷を追うことができました。



これらは古美術コレクターの橋本貫志氏が1989年より2004年にかけて収集したコレクションで、2012年に国立西洋美術館へと寄贈されました。



「輝き」、「煌めき」、「彩り」などの性質から、宝石の特性を見る展示も充実していたのではないでしょうか。



第3章「宝石の特性と多様性」では、ダイヤモンドやサファイア、ルビーといった有名な宝石から、ブラックダイヤモンドなどのレアストーンまでの200種類の原石と磨いた石であるルースが並んでいて、ネギのように見えることでも話題を集めたトルマリンなども目を引きました。



また紫外線を蛍石に当てると発光する、いわゆる光る宝石についてのコーナーもあり、妖しくも美しい光を放つさまざまな宝石を見ることができました。



第4章の「ジュエリーの技巧」では、宝石を貴金属にセッティングする方法などの技術が紹介されていて、パリのジュエリーメゾンのヴァン クリーフ&アーペルや、兵庫県芦屋市のブランドであるギメルなどのブリーチやネックレスが展示されていました。

そしてラストの「宝石のきわみ」では、世界的な宝飾コレクションであるアルビオン・アートの協力のもと、古代メソポタミアやエジプトで作られた作品から20世紀の最先端のジュエリーが約60点ほど公開されていました。



イロハニアートへも『宝石 地球がうみだすキセキ』について寄稿しました。(撮影許可をいただき、会場後半のジュエリーの展示についても写真を掲載しています。)

知っているようで知らない宝石のすべてが明らかに!特別展『宝石 地球がうみだすキセキ』レポート | イロハニアート


4月22日(金)から、毎週金曜、土曜、およびGW期間(4/29~5/7)の20時までの夜間開館が決まりました。

6月19日まで開催されています。なお東京での展示を終えると、名古屋市科学館(2022年7月〜9月)へと巡回(予定)します。

特別展『宝石 地球がうみだすキセキ』@hoseki_ten2022) 国立科学博物館@museum_kahaku
会期:2022年2月19日(土)~ 6月19日(日)
休館:月曜日(祝日の場合は翌火曜日休館)※ただし3月28日、5月2日、6月13日は開館。
時間:9:00~17:00。
 *入館は閉館の30分前まで。
 *4月22日(金)より、毎週金曜、土曜、及びGW期間(4/29~5/7)は20時まで開館。
料金:一般・大学生2000円、小・中・高校生600円。
住所:台東区上野公園7-20
交通:JR線上野駅公園口徒歩5分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成線京成上野駅徒歩10分。
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『最後の印象派、二大巨匠 シダネルとマルタン展』 SOMPO美術館

SOMPO美術館
『最後の印象派、二大巨匠 シダネルとマルタン展』
2022/3/26~6/26



SOMPO美術館にて開催中の『最後の印象派、二大巨匠 シダネルとマルタン展』へ行ってきました。

19世紀末から20世紀中頃にかけて活動した画家、アンリ・ル・シダネルとアンリ・マルタンは、フランスの南北に異なった拠点を構えながら親交を深め、それぞれに独自の光の表現を追求しました。

そのシダネルとマルタンの2人の画業をたどるのが『最後の印象派、二大巨匠 シダネルとマルタン展』で、主にフランスからやって来た油彩、素描、版画などが約70点ほど展示されていました。

まず冒頭は若いシダネルの描いた作品で、北部の港町エタプルに滞在し、同地に特有な淡い光を描いた作品などが並んでいました。シダネルはミレーといったレアリスムの画家の影響を受けると、孤児や羊飼いなどの田舎の風景を描いていて、1891年にはサロンでの入賞も果たし、マルタンとも出会いました。

19世紀末にヨーロッパを席巻した象徴主義も2人に影響を与えていて、特にマルタンは強い関心を示しつつ、人物画などにて神秘的ともいえる表現を取り入れました。

シダネルもマルタンもともに旅をしながら風景を表した画家で、シダネルはフランス北部の町や村を巡りながら作品を描きました。そして1898年、ベルギー北部のブルージュを見出すと、まどろみの中に都市の景観を表し、人影を消していくような画風へと至るようになりました。


アンリ・マルタン『ガブリエルと無花果の木[エルベクール医師邸の食堂の装飾画のための習作]』 1911年 個人蔵、フランス)

マルタンの画業の中で重要だったのは、30代の前半から晩年にまで手がけた公共建築の壁画で、中でもパリの国務院の壁画連作はマルタンの仕事の集大成と位置付けられるほど評価を得ました。


アンリ・マルタン『二番草』 1910年 個人蔵、フランス

そして会場でも国務院の壁画の習作が何点か展示されていて、点描表現を用い、明るい色彩を取り入れながら労働者のすがたなどを描くマルタンの作品を見ることができました。


アンリ・ル・シダネル『シェルブロワ、テラスの食卓』 1930年 個人蔵、フランス

1901年、パリから北100キロに位置する田舎町ジェルブロワを見出したシダネルは、数年後に家を購入すると活動の拠点として制作に勤しみました。ここでは薔薇の咲き誇る自邸や庭を画題に、人のすがたのいない風景を描いていて、とりわけ庭のテラスから街を見下ろす眺めを表した『ジェルブロワ、テラスの食卓』に魅せられました。

またジェルブロワではマルタンをはじめ、友人で作曲家のギュスターヴ・シャルパンティエなども自邸に招いていて、シダネルとともにバラ園を散策する光景を映した映像も公開されていました。

一方のマルタンは同じ頃、南フランスのラバスティド・デュ・ヴェールに別荘「マルケロル」を購入してアトリエを構えていて、花に囲まれた池や館を取り囲むテラスといった光景を鮮やかな色遣いにて描きました。

そして後年になるとシダネルはヴェルサイユ、マルタンはさらに南の港町コリウールへと移り、公園や港湾などの景観を表していきました。こうしたシダネルとマルタンの足跡や画風の変遷も見どころの1つといえるかもしれません。


フィンセント・ファン・ゴッホ『ひまわり』 1888年 SOMPO美術館

最後にウクライナ支援についての情報です。現在、SOMPO美術館では、ゴッホの『ひまわり』等を通じたウクライナおよび近隣国における人道支援活動に向けた寄付を募っています。



まず『シダネルとマルタン展』の会期中、館内に募金箱を設置するほか、ショップで発売する『ひまわり』のポストカードの売上の一部が国連難民高等弁務官事務所などに寄付されます。また同展の入場者数や紹介動画の再生数などに応じて1億円を上限額に寄付が実施されます。



展覧会の内容についてイロハニアートへ寄稿しました。(撮影許可をいただき、展示作品の写真を掲載しています。)


フランスの2人の画家、マルタンとシダネルが追い求めた風景とは?『シダネルとマルタン展』レポート | イロハニアート

会場内の3点の作品、および『ひまわり』の撮影が可能です。6月26日まで開催されています。

『最後の印象派、二大巨匠 シダネルとマルタン展』 SOMPO美術館@sompomuseum
会期:2022年3月26日(土)~6月26日(日)
休館:月曜日。但し祝日・振替休日の場合は開館。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1500)円、大学生1100(1000)円、高校生以下無料。
 ※( )内は電子チケット「アソビュー!」での事前購入券料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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『Soul ジェーン エヴリン アトウッド展』 シャネル・ネクサス・ホール

シャネル・ネクサス・ホール
『Soul ジェーン エヴリン アトウッド展』 
2022/3/30~5/8



シャネル・ネクサス・ホールで開催中の『Soul ジェーン エヴリン アトウッド展』を見てきました。

1947年にニューヨークにて生まれ、パリへと移住したジェーン エヴリン アトウッドは、1980年に第1回ユージン スミス賞を受賞すると、その後も世界各地にて受刑者や地雷被害者といった人々を撮影するなどして活動してきました。

そのアトウッドの日本初の個展が『Soul』と題した展示で、会場には代表的なシリーズをはじめとした初期から近年までの作品が公開されていました。



アトウッドが写真家を志したきっかけになったのは、学生時代にアメリカの写真家、ダイアン アーバスの展示を見たことで、そこでアーバスの写したポートレイトに感銘を受けると、自らもカメラを手にしては、パリの路上に立つ娼婦たちを写しました。



そして目の不自由な子どもたちやフランスの外人部隊、またヨーロッパで公の場で初めてエイズ患者と認めたジャン=ルイを撮影すると、オスカー バルナック賞(ライカ社)を受賞するなどして高く評価されました。



今回の個展で興味深いのは、作品が年代別やシリーズ別に分けられることなく、すべてがばらばらに展示されていることで、地下鉄の入り口でうずくまる路上生活者や酒に酔って前後不覚となった浮浪者など、いわゆる社会の周縁に生きる人々たちを写していました。



そのうちとりわけショッキングともいえるのが、手錠をかけられたまま出産する女性の写真で、アトウッドが約10年間に渡って刑務所の受刑者に取材して撮影された作品でした。そしてこの写真をきっかけに、アメリカの複数の州において出産する囚人に手錠をかける慣行が非合法化されるなど、社会へ強い影響を与えました。


写真家・ジェーン エヴリン アトウッドを知っているか?シャネル・ネクサスホールで『Soul ジェーン エヴリン アトウッド展』が開催中|Pen Online



このほかにも地雷で身体の一部を失った男のなど、厳しい状況下に置かれた人を捉えた写真にも目を引かれましたが、どこか詩的な情感を呼び起こすような雰囲気も感じられて、ポートレイトそのものとしても魅力的に思えました。



「私が写真を撮るのは、彼らに近づいて理解する為だからです」ジェーン エヴリン アトウッド



会場内の撮影も可能でした。会期中無休です。5月8日まで開催されています。

『Soul ジェーン エヴリン アトウッド展』 シャネル・ネクサス・ホール
会期:2022年3月30日(水)~5月8日(日)
休廊:会期中無休。
料金:無料。
時間:11:00~19:00。 
 *最終入場は18:30まで。
住所:中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A13出口より徒歩1分。東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅5番出口より徒歩1分。
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『生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展』 東京都現代美術館

東京都現代美術館
『生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展』
2022/3/19〜6/19



東京都現代美術館で開催中の『生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展』を見てきました。

1954年の「ゴジラ」で特撮美術スタッフの一員に関わり、デザイナー、特撮美術監督として活躍した井上泰幸は、戦後日本の特撮映像史を支えながら、次世代のクリエイターにも大きな影響を与えました。

その井上の生誕100年を記念したのが『生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展』で、会場には図面や絵コンテ、現場写真にミニチュアなど500点にも及ぶ作品と資料が公開されていました。



今回の回顧展では特撮に関する資料のみならず、作り手としての井上に焦点を当てているのも特徴で、冒頭では家族との写真や学生時代のスケッチブック、それに大学の卒業証書なども展示されていました。また彫刻家である妻・玲子の創作もあわせて紹介されていて、生涯にわたって協働した2人の人生の歩みをたどることもできました。

手描きによる膨大な絵コンテなどを追っていくと、いかに井上が特撮美術監督として長きにわたって活動していたことが分かりましたが、特に印象に深いのは「仕事の進め方」ともいうべき特撮映画の制作プロセスでした。


というのも、井上は特撮美術監督としてデザイン画を数多く描くと、イメージプランから造形管理、またミニチュア制作を実装する方法を探求していて、「井上式セット設計」と呼ばれる独自の俯瞰的スタイルを築いていたからでした。

それらは単に美術面だけでなく、予算管理やスタッフの配置などにまで網羅されていて、いわば高いマネジメント力を見ることができました。

井上は東宝からの独立後、アルファ企画を立ち上げてからも幅広く仕事を手がけていて、フリーランスの特撮美術監督として映画に携わっただけでなく、コマーシャルやテレビ番組などにもミニチュアを作りました。そうした独立してからの仕事に関する資料や作品も見応えがあったかもしれません。



ラストのアトリウムでは、映画「空の大怪獣ラドン」の舞台となった西鉄福岡駅のターミナルビルである岩田屋周辺のミニチュアセットが20分の1スケールにて再現されていました。*ミニチュアは撮影OK



これは当時のセットではなく、井上の愛弟子である特撮研究所の三池敏夫によって手がけられたものので、背景画を特撮映画専門の絵描きとして知られる島倉二千六が担いました。



ともかく細部まで精巧に作られていて、さながら映画の世界へと迷い込むかのような高い再現度を見せていたのではないでしょうか。なお岩田屋のミニチュアは2021年に佐世保市博物館島瀬美術センターにて開かれた『ゴジラシリーズを支えた特撮映画美術監督 井上泰幸展』にて初めて公開され、福岡駅ホームや西鉄電車は今回のために新たに制作されました。


Penオンラインへも展示の内容について寄稿しました。*撮影許可をいただき、展示作品の写真を掲載しています。

ゴジラの特撮はこうして作られた!『生誕100年特撮美術監督 井上泰幸展』へ|Pen Online

ともかく質量ともに膨大です。時間に余裕をもってお出かけください。



6月19日まで開催されています。

『生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展』 東京都現代美術館@MOT_art_museum
会期:2022年3月19日(土)〜6月19日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1700円、大学・専門学校生・65歳以上1200円、中高生600円、小学生以下無料。
 *コレクション展も観覧可。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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「温泉・食・本」がコンセプト。「湯河原惣湯 Books and Retreat」で楽しむ日帰り温泉

2021年8月、湯河原の万葉公園内にグランドオープンした「湯河原惣湯 Books and Retreat」。温泉、食、本などをコンセプトにした施設は、日帰り温泉の「惣湯テラス」と、カフェなどの「玄関テラス」からなり、新たな温泉の楽しみ方ができるスペースとして注目を集めてきました。



「湯河原惣湯 Books and Retreat」
https://yugawarasoyu.jp

東海道本線の湯河原駅を降り、駅前ロータリーから「奥湯河原行き」のバスに乗ると、山あいに開けた湯河原温泉場の街並みが見えてきました。湯河原惣湯が位置するのは温泉場のちょうど中央といっても良い落合橋バス停の近くで、あたりには明治15年創業の藤田屋や、二・二六事件の舞台となった伊藤屋などの老舗旅館が点在していました。



まず万葉公園の入り口に建つのが「玄関テラス」で、カフェやインフォメーションの他にコワーキングスペースなどが入居していました。



ここでは温泉場のガイドとともに、サンドイッチなどの軽食も販売されていて、無料にて立ち寄ることができました。(テイクアウトも可)



また本の貸し出しも行われていて、園内のテラスにて自由に読むことも可能でした。ただこの日は雨が降りしきる荒天だったため、屋外でゆっくり過ごすことは叶いませんでした。



この「玄関テラス」から千歳川に沿って、万葉公園を奥へと進むと現れるのが、日帰り温泉の「惣湯テラス」でした。これはかつて市民プールや足湯だった頃から使われていた建物をリノベーションした施設で、館内には2種の温泉とダイニングとラウンジ、それにライブラリーなどがありました。



「惣湯テラス」は有料の事前予約制で、食事付き(5500円、5時間利用可。)と食事なし(2600円、3時間利用可。)の2種類のプランがありました。いずれのプランも滞在可能時間を除けば温泉やライブラリーの利用条件に差はありませんが、私は食事付きのプランを利用しました。(食事付きプランは、湯河原の宿泊施設に泊まると500円引き。)



受付にてチェックインを済ませると、入り口で靴を脱ぎ、館内着、タオル、館内バッグを受け取ってロッカールームへと移動しました。「惣湯テラス」では館内着に着替えてから利用することが決められていて、私服にてダイニングなどに入室することはできませんでした。



ちょうどお昼過ぎの時間に着いたので、温泉の前に食事の提供されるダイニングへ行くことにしました。メニューは桜鱒と木の芽のご飯を中心に、新玉ねぎの煮物や菜の花の白和え、それにふきのとうの味噌汁など季節の素材を用いたもので、どれも素材の持ち味を活かして丁寧に仕上げられていました。(メニューは月替わり)



また食事はアルコールを含め1杯目が無料の上、コーヒーや紅茶などもフリードリンクとして用意されていました。(フリードリンクは紙カップにて提供)来館者はほぼ2人か3人連れの方で占められていましたが、ゆっくり窓の外の緑を眺めながら食事をいただくのも良いかもしれません。



このダイニングから1つ上の2階に広がるのが、湯河原惣湯のコンセプトでもある本が並ぶライブラリーでした。ここには1500冊の蔵書よりエッセイ、小説、アート、旅に建築など、さまざまなジャンルの本や雑誌が常時150冊ほど開架されていて、自由に手に取って読むことができました。



そしてライブラリーには椅子やソファー、また机の置かれたスペースもあり、実際にノートパソコンを開いては作業している方を見受けられました。わずかな川の音のみが響く静寂の空間で、本へと向き合うのに最適な空間だったかもしれません。



こうしたダイニングとライブラリーの入った建物に続くのが、男女の2つの温泉からなる露天の大浴場でした。


*浴室の写真は公式サイトより

源泉掛け流しによる大浴場は、石で湯船いくつかに区切られた独特のかたちをしていて、手前から奥へ向かって徐々に温度が低くなるように設定されていました。また浴場にはシャワーとサウナも用意されていましたが、いわゆる洗い場はありませんでした。(シャワーブースにボディソープを用意)

浴場は山の緑に向かって開かれていて、デッキチェアもあり、天井はルーバーの構造になっていました。この日はとても寒く、雨水も浴場に滴り落ちていたからか、お湯はややぬるめでしたが、その分、長い時間ゆったりと浸かることができました。



この大浴場に加え、男女別の1組用の湯船があるのが奥の湯で、ダイニング棟から川沿いの小道をさらに進んだ先に位置していました。



奥の湯は現地での予約順番制によるプライベート用の貸切湯で、利用客がいない場合は自由に入浴することができました。(1組20分程度が目安)



また奥の湯の近くには3〜4名ほどの人が利用できる「奥のラウンジ」があり、椅子に腰掛けて休憩することも可能でした。



結局、ランチをいただき、温泉に2度浸かって、ライブラリーにて本をめくっていると、約4時間ほどは経過していました。ちょうど春休み期間中の平日に利用したこともあり、館内には比較的余裕がありましたが、奥の湯は予約は1時間先まで埋まっていました。あらかじめ入館時に予約しておくのも良いかもしれません。



全国各地に日帰り温泉は数多く点在しますが、食はもとより、本をコンセプトに取り入れた施設はなかなかユニークではないでしょうか。ともかく荒天ゆえに屋外のテラスの利用や散歩を楽しめなかったのは残念でしたが、それでも贅沢な時間を過ごすことができました。

『湯河原惣湯 Books and Retreat』 玄関テラス
営業時間:10:00〜17:30
定休日:第2火曜日 
料金:無料
住所:神奈川県足柄下郡湯河原町宮上566番地(万葉公園内)
交通:JR線湯河原駅2番乗り場より「不動滝行き」または「奥湯河原行き」に乗車、「落合橋」バス停下車すぐ。(約12分)

『湯河原惣湯 Books and Retreat』 惣湯テラス
営業時間:10:00〜20:00(土・日・祝)、10:00〜18:00(平日)
 *最終入館は閉館の30分前まで。
定休日:毎週水曜日、第2火曜日 
料金:5500円(食事付き)、2600円(食事なし)
 *食事付きプランの滞在時間は最大5時間。食事なしプランは3時間。
 *湯河原の宿泊施設に泊まる場合は500円割引(食事付きプランのみ)
住所:神奈川県足柄下郡湯河原町宮上704 (万葉公園内)
交通:JR線湯河原駅2番乗り場より「不動滝行き」または「奥湯河原行き」に乗車、「落合橋」バス停下車すぐ。(約12分)
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『美術館の春まつり』 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
『美術館の春まつり』
2022/3/18~4/10 *作品の展示は〜5/8



東京国立近代美術館の所蔵作品展「MOMATコレクション」(10室)にて、桜にちなんだ作品などを展示する『美術館の春まつり』が開かれています。


菊池芳文『小雨ふる吉野』 1914年

まず目を引くのが菊池芳文の『小雨ふる吉野』で、雨の降る中、雲に紛れつつも、満開の花を開く吉野の桜を描いていました。


菊池芳文『小雨ふる吉野』(部分) 1914年

白い胡粉を重ねているのか、一枚一枚の桜の花びらの質感も丁寧に表されていて、吉野の山々を望むような鳥瞰的な構図も魅力に思えました。


川合玉堂『行く春』 1916年

この『小雨ふる吉野』と同じくらいに存在感があるのが、長瀞の渓谷へ桜が散る光景を示した川合玉堂の『行く春』でした。まるで岩肌を削るようにして水が流れる渓谷は、それこそ飛沫の音が聞こえるようにダイナミックに表されていて、一方での桜の散る光景は細かに描かれていました。まさに散り際ならではのはかない情感も感じられるかもしれません。


跡見玉枝『桜花図巻』 1934年

25の画面に桜の枝を描きこんだ跡見玉枝の『桜花図巻』も魅惑的ではないでしょうか。40を超えるという桜を描き分けた表現は、図鑑などを連想させるほど真に迫っていて、画家の博物学的な視点を思わせるものがありました。


松林桂月『春宵花影図』 1939年

松林桂月の『春宵花影図』にも目を奪われるかもしれません。満月の夜なのか、月明かりの中で咲き誇る桜は、まるで夢幻の世界の中のように表されていました。私もかねてより大好きな作品の1つですが、その美しい佇まいに改めて魅了されました。


浅見貴子『梅に楓図』 2009年

また直接、桜を主題とした作品ではありませんが、浅見貴子や日高理恵子といった現代の作家の日本画も見応えがあったのではないでしょうか。


日高理恵子『樹を見上げて Ⅶ』 1993年

樹木を下から見上げた光景を描いた、日高理恵子の『樹を見上げて Ⅶ』におけるシンプルながらもダイナミックな光景にも心を引かれました。


ピエール・ボナール『プロヴァンス風景』 1932年

さて東京国立近代美術館の所蔵作品展「MOMATコレクション」では、『美術館の春まつり』にあわせて、2020年度に収蔵されたピエール・ボナールの『プロヴァンス風景』が初めて公開されています。*会場は2階ギャラリー4


佐伯祐三『雪景色』 1927年

この新収蔵&特別公開『ピエール・ボナール《プロヴァンス風景》』と題した展示では、同作のみならず、同時代の日本人画家の風景画や現代絵画なども公開されていて、互いに見て楽しむことができました。


東京での桜は見頃を終えましたが、美術館にて桜にちなんだ作品を愛でるのも良いかもしれません。*『美術館の春まつり』は、新収蔵&特別公開『ピエール・ボナール《プロヴァンス風景》』を含め、所蔵作品展「MOMATコレクション」のチケット料金にて観覧することができます。



『美術館の春まつり』は4月10日までの開催です。なお桜にちなむ所蔵作品の展示、および新収蔵&特別公開『ピエール・ボナール《プロヴァンス風景》』は5月8日まで開かれています。

『美術館の春まつり』 東京国立近代美術館@MOMAT60th
会期:2022年3月18日(金)~4月10日(日)
時間:10:00~17:00。
 *金・土曜は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し3月21日、28日は開館、3月22日(火)は休館。
料金:一般500(400)円、大学生250(200)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *『没後50年 鏑木清方展』のチケットにて観覧可。
住所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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東京国立近代美術館にて『没後50年 鏑木清方展』が開催されています

今年、没後50年を迎えた日本画家、鏑木清方の回顧展が、東京国立近代美術館にて開かれています。



その鏑木清方展について、WEBメディア「イロハニアート」へ寄稿しました。

市井の人々の生活を描き続ける。3つの時代を生きた日本画家、鏑木清方の魅力とは? | イロハニアート

今回の回顧展の特徴は、清方の画業を時系列に紹介するのではなく、「第1章 生活をえがく」、「第2章 物語をえがく」、「第3章 小さくえがく」の3つのテーマに分けて作品を展示していることで、そこから清方の表現のあり方や魅力を探っていました。(*巡回先の京都会場では年代順の展示)

そして清方が生前、自らの作品を評価するために採点していたことにも着目していて、「会心の作」、「やや会心の作」、「まあまあ」なる三段階の評価をキャプションにて紹介していました。


2019年に44年ぶりに揃って公開された『築地明石町』、『新富町』、『浜町河岸』の三部作の展示も見応え十分だったかもしれません。いずれも清方の代表的名品として知られていて、とりわけ振り返るすがたの女性を明石町の光景とあわせて描いた『築地明石町』は、第8回帝展にて帝国美術院賞を受賞するなど高く評価されました。

会場内にて公開されていた清方の映像も興味深いのではないでしょうか。戦後、1950年代に収録されたインタビューで、とりわけ「明治は幸せな時代だった」とし、「嫌いなものは描かない」とする清方の語り口が印象に残りました。清方は戦中も一貫して美人画や物語に関する作品を描き続けましたが、まさに彼とって昭和とは戦争の時代だったのかもしれません。



展示は初公開の10点を含む、110点の日本画にて構成されていて、いわゆる挿絵はありません。美人画家としての清方画の魅力はもとより、市井の人々を見据え、日々の暮らしを絵にしていった清方の制作のスタンスも伺えるような内容だったのではないでしょうか。質量ともに不足はありませんでした。

最後に展示替えの情報です。作品保護の観点より会期中に作品が入れ替わります。

『没後50年 鏑木清方展』出品リスト(PDF)

なお『築地明石町』、『新富町』、『浜町河岸』は全会期を通して公開されます。



5月8日まで開催されています。*東京での展示を終えると、京都国立近代美術館(5月27日〜7月10日)へ巡回。

『没後50年 鏑木清方展』@kiyokata_2022) 東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー(@MOMAT60th
会期:2022年3月18日(金)~5月8日(日)
時間:9:30~17:00。
 *金曜は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し3月21日、28日、5月2日は開館、3月22日(火)は休館。
料金:一般1800(1600)円、大学生1200(1000)円、高校生700(500)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *当日に限り所蔵作品展「MOMATコレクション」、コレクションによる小企画「新収蔵&特別公開|ピエール・ボナール《プロヴァンス風景》」も観覧可。
住所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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2022年4月に見たい展覧会【SHIBUYAで仏教美術/清水九兵衞・六兵衞/ボテロ】

東京や大阪では桜の満開を迎えましたが、全国的な桜前線は北上を続け、北陸や東北でも桜の開花のたよりが伝えられようとしています。私は今年も近場で花見を楽しみましたが、遠方へのお出かけも予定している方も多いかもしれません。



4月に見ておきたい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・『21_21 DESIGN Future SIGHT』 21_21 DESIGN SIGHT(2021/12/21~2022/5/8)
・『浅田政志展』 水戸芸術館(2/19~5/8)
・『藝大コレクション展 2022 春の名品探訪 天平の誘惑』 東京藝術大学大学美術館(4/2~5/8)
・『日本画トライアングル 画家たちの大阪・京都・東京』 泉屋博古館東京(3/19~5/8)
・『アイラブアート16 視覚トリップ展  ~ウォーホル、パイク、ボイス 15人のドローイングを中心に~』 ワタリウム美術館(1/22~5/15)
・『開館40周年記念展 扉は開いているか ―美術館とコレクション1982-2022』 埼玉県立近代美術館(2/5~5/15)
・『上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー』 三菱一号館美術館(2/18~5/15)
・『丸山コレクション 西アジア遊牧民の染織 塩袋と伝統のギャッベ展』 たばこと塩の博物館(2/26~5/15)
・『本城直季 (un)real utopia』 東京都写真美術館(3/19~5/15)
・『燕子花図屏風の茶会 昭和12年5月の取り合わせ』 根津美術館(4/16~5/15)
・『北斎花らんまん』 すみだ北斎美術館(3/15~5/22)
・『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』 森美術館(2/18~5/29)
・『人のすがた、人の思い―収蔵品にみる人々の物語』 大倉集古館(4/5~5/29)
・『SHIBUYAで仏教美術―奈良国立博物館コレクションより』 渋谷区立松濤美術館(4/9~5/29)
・『大英博物館 北斎 ―国内の肉筆画の名品とともに―』 サントリー美術館(4/16~6/12)
・『大正ロマン×百段階段』 ホテル雅叙園東京百段階段(4/16~6/12)
・『建物公開2022 アール・デコの貴重書』 東京都庭園美術館(4/23~6/12)
・『出版120周年 ピーターラビット展』 世田谷美術館(3/26~6/19)
・『イスラエル博物館所蔵ピカソ ― ひらめきの原点 ―』 パナソニック汐留美術館(4/9~6/19)
・『篠田桃紅展』 東京オペラシティ アートギャラリー(4/16~6/22)
・『シダネルとマルタン展』 SOMPO美術館(3/26~6/26)
・『ヨシタケシンスケ展かもしれない』 世田谷文学館(4/9~7/3)
・『生誕100年 清水九兵衞/六兵衞』 千葉市美術館(4/13~7/3)
・『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』 東京都美術館(4/22~7/3)
・『生誕110周年 奥田元宋と日展の巨匠―福田平八郎から東山魁夷へ』 山種美術館(4/23~7/3)
・『ボテロ展 ふくよかな魔法』  Bunkamura ザ・ミュージアム(4/29~7/3)
・『牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児』 東京ステーションギャラリー(4/16~7/10)
・『コジコジ万博』 PLAY! MUSEUM (4/23~7/10)
・『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策 写真と絵画-セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策』 アーティゾン美術館(4/29~7/10)
・『カラーフィールド 色の海を泳ぐ』 DIC川村記念美術館(3/19~9/4)
・『開館20周年記念展 モネからリヒターへ ―新収蔵作品を中心に』 ポーラ美術館(4/9~9/6)

ギャラリー

・『TDC 2022』 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(4/1~4/30)
・『佐藤翠 Floating Drapery – 浮遊するドレーパリー』 小山登美夫ギャラリー(4/2~4/30)
・『Soul ジェーン エヴリン アトウッド展』 シャネル・ネクサス・ホール(3/30~5/8)
・『ミロコマチコ展 うみまとう』 クリエイションギャラリーG8(4/5~5/23)
・『流麻二果 その光に色を見る Spectrum of Vivid Moments』 ポーラ ミュージアム アネックス(4/22~5/29)
・『熊谷亜莉沙|私はお前に生まれたかった』 ギャラリー小柳(4/16~6/22)

まずは仏教美術です。渋谷区立松濤美術館にて『SHIBUYAで仏教美術―奈良国立博物館コレクションより』が開かれます。



『SHIBUYAで仏教美術―奈良国立博物館コレクションより』@渋谷区立松濤美術館(4/9~5/29)


これは奈良国立博物館の仏教美術を初めてまとめて東京で公開するもので、国宝『牛皮華鬘』や重要文化財『如意輪観音菩薩坐像』をはじめとする美術工芸品、全83件が展示されます。奈良博といえば、主になら仏像館に収蔵された仏教美術で知られるだけに、同博物館の貴重なコレクションを見る良い機会となりそうです。

陶芸、彫刻ファンにとっては待ちに待った展覧会となるかもしれません。千葉市美術館にて『生誕100年 清水九兵衞/六兵衞』が行われます。



『生誕100年 清水九兵衞/六兵衞』@千葉市美術館(4/13~7/3)

清水九兵衞、あるいは七代清水六兵衞(1922~2006年)は、京都を代表する京焼の名家として名を馳せると、1960年代末より彫刻制作への道に進み、金属による抽象的な作品を発表しては芸術祭などにて評価されてきました。


そうした彫刻家と陶芸家の2つの顔を持つ清水九兵衞/七代清水六兵衞の足跡を、新出の資料や代表的な作品によってたどっていくもので、意外にも初めての大規模な回顧展となります。

ラストは90歳を超えてもなお活躍する画家の回顧展です。Bunkamura ザ・ミュージアムにて『ボテロ展 ふくよかな魔法』 が開催されます。



『ボテロ展 ふくよかな魔法』 @Bunkamura ザ・ミュージアム(4/29~7/3)

1932年にコロンビアにて生まれたフェルナンド・ボテロは、人物や静物をふくよかに描く絵画で知られ、1950年代の後半より主に欧米にて評価されてきました。


そのボテロの実に26年ぶりの国内での展示が『ボテロ展 ふくよかな魔法』 で、初期から近年までの油彩、水彩、素描など約70点が展示されます。また展覧会にあわせて、ボテロの素顔と作品を迫るドキュメンタリー映画、『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』も公開されます。

チラシからしてインパクトのあるヴィジュアルだけに、映画への展開も含めて、ひょっとすると春から夏にかけてボテロ・ムーブメントが起こるかもしれません。

WEBメディア「イロハニアート」にも今月に見たいおすすめの展覧会を寄稿しました。

モディリアーニと北斎、それに「ふくらみ」のボテロまで。4月に見たいおすすめ展覧会5選 | イロハニアート

それでは今月もどうぞよろしくお願いします。
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