「メアリー・ブレア 人生の選択、母のしごと。」 銀座三越8階催物会場

三越銀座店8階催物会場
「メアリー・ブレア 人生の選択、母のしごと。」
4/28-5/9



銀座三越で開催中の「メアリー・ブレア 人生の選択、母のしごと。」へ行ってきました。

メアリー・ブレアといえば一昨年、東京都現代美術館で本格的な回顧展が開催されましたが、今回は当然ながらスケールは格段に小さいものの、彼女の画家としての成果を、とりわけ子どもたちへの眼差しに焦点を当てて丁寧に紹介しています。

「ふしぎの国のアリス/講談社」

ディズニーに入社して「アリス」や「シンデレラ」などのコンセプト・アートを手がけたことで知られるメアリーですが、キャリアの出発点は水彩画家でした。


「自画像」

というわけで展示の冒頭に登場するのはメアリー初期作の絵画作品です。この「自画像」などを見ても、メアリーがはじめから確かな画家としての力を持っていたことが伺えるのではないでしょうか。淡い色彩を用いての豊かな質感表現はなかなか魅力的でした。

「ピーター・パン (ディズニーストーリーブック)/講談社」

もちろんハイライトはディズニー時代の作品です。今にも画面から飛び出そうとするような生き生きとしたアリスやピーターパンなどが何点か登場します。ここはやはり一番人気のようでした。

さて今回、私が最も興味深かったのは後期の作品です。メアリーはディズニーを退社した後、様々な絵本の挿絵などを描いて生活していましたが、その表現は初期作に比べてかなりアクの強いものとなっています。原色も多用した色彩からしても全く異なっていました。


「イッツ・ア・スモールワールド」コンセプト・アー

メアリーが手がけたことでも有名な「イッツ・ア・スモールワールド」のデザインも展示されています。もちろんBGMもお馴染みの曲でした。

都現美の時はいわゆる夏のジブリ展ということで混雑が激しく、なかなか作品に近寄れなかった記憶がありますが、少なくともそうしたことはないかもしれません。GWの2日目、本日の土曜の夕方前に出向きましたが、会場内にはかなり余裕がありました。

「メアリー・ブレア―ある芸術家の燦きと、その作品/岩波書店」

5月9日まで開催されています。

「メアリー・ブレア 人生の選択、母のしごと。」 三越銀座店8階催物会場
会期:4/28(木)~5月9日(月)
休館:会期中無休
時間:10:00~20:00(入館は閉場の30分前まで。最終日は17時閉場。)
場所:中央区銀座4-6-16
交通:東京メトロ銀座線・丸の内線・日比谷線銀座駅直結。
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「五百羅漢展 狩野一信」 江戸東京博物館

江戸東京博物館
「五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信」
4/29-7/3



前人未到の「五百羅漢図」が150年の時を経て甦ります。江戸東京博物館で開催中の「五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信」のプレスプレビューに参加してきました。

記者発表会の記事にも空前絶後と記しましたが、今回の展示を一目見れば、あながちそれも誇張でないことがお分かりいただけるかもしれません。幕末の知られざる絵師、狩野一信が、半ば自らの命も削りながらも約10年をかけて描いた「五百羅漢図」が、ここ江戸東京博物館でとうとう公開されました。

「狩野一信 五百羅漢」展 記者発表会 (前編)
「狩野一信 五百羅漢」展 記者発表会 (後編)

その数は何と全部で100幅です。一信の筆にはかなり波があり、必ずしも全てが傑作ではありませんが、まさに奇妙奇天烈に描かれた羅漢の多様な世界は、ともかくも見る者を圧倒することは間違いありません。私自身、何年か前に初めて「五百羅漢図」を数点見た時も強い印象を受けましたが、当然ながら今回の展覧会はそれを遥かに上回るほどに衝撃的でした。


プレビュー時に展示を解説する監修の山下裕二先生。

個々の作品についての感想はまた別途記事にするとして、本エントリでは会場の全体の様子を簡単にお伝えしたいと思います。非常に良く練られた展示は作品の魅力と魔力を引き出すことに成功していました。

会場では基本的に五百羅漢図の100幅を時系列に並べるものですが、その画風、及び主題の変遷にも注視した構成がとられています。



冒頭、羅漢の日常や地獄のシーンの描かれた作品の展示を名付けるとすれば羅漢の森です。暗がりの中、林立するケースの中に収まる羅漢図は、言わば来場者の前に立ちはだかりながら、一信の生み出した羅漢の迷宮へと誘います。羅漢を照らす効果的なライティングはその鮮やかな色はもとより、意外にもふんだんに用いられた金を見事に浮き上がらせていました。



その羅漢の森からは、カーテン越しに五百羅漢図にあわせて出品された下絵などを望むことが出来ます。これまでの江戸博の企画展示室というと手狭な印象が否めませんでしたが、決して物理的に面積が広がったわけではないのにも関わらず、今回は完全に払拭されていました。はっきり申し上げて今までとは見違えます。



ライティングとしてもう一つ注目すべきは、五百羅漢図と並んでの本展の目玉、「釈迦文殊普賢四天王十大弟子図」です。一信が成田山新勝寺のために描いたこの掛軸画は、全体で4m×5m超ほどある巨大なものですが、その照明は約1分間ほどで微妙に変化し、弟子たちから釈迦だけがぽっかりと浮かび上がるような仕掛けがとられています。また本作のみケースなしの露出展示です。図版では分かりにくい金の輝きを目に焼き付けることが出来ました。



弟子図を経由すると羅漢の神通、ようは超能力を発揮する場面を描いた50幅へと到達します。そこが今回のハイライトかもしれません。ぐるりと一周、円形の展示室には、思わず目を背けたくなるほどにおどろおどろしい羅漢たちが次々と登場します。一信の筆ものっているのか、モチーフの面白さもスケールも超弩級です。頭がくらくらしてしまうほどでした。



しかしながら主に70幅、羅漢の龍供、つまりは羅漢が龍宮で供養を受ける作品からは様子が変化します。一信は晩年、健康を害し、実際にも96幅まで描いたところで亡くなりましたが、この70幅以降からは、一信の衰えを絵からも感じられるかもしれません。全体的に余白の増した空間に登場する羅漢たちはまるでミニチュアのようで、それまでの圧倒的な存在感は鳴りを潜めていました。

もはや明朗なイメージの最後の4幅は弟子が描いています。その画風の変化とリンクするかのように明るくなった展示室の先には出口が待ち構え、羅漢たちの旅の追体験はここに終了しました。



この作品ならショップのグッズも濃厚です。羅漢らの群がるクリアファイルやハガキのインパクトは絶大でした。

「芸術新潮2011年5月号/五百羅漢の絵師 狩野一信/新潮社」

約1時間半ほど会場にいましたが、到底最後までじっくりみきれませんでした。初日から上々の滑り出しとのことでしたが、私も近日中に再訪問するつもりでいます。

「狩野一信 五百羅漢図/安村敏信,山下裕二/小学館」

7月3日までの開催です。猛烈におすすめします。

「法然上人八百年御忌奉賛 五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信」 江戸東京博物館
会期:4月29日(金・祝)~ 7月3日(日)
休館:毎週月曜日(但し5/2、5/16は開館)
時間:9:30~17:30 *夜間開館は行いません 
場所:東京都墨田区横網1-4-1
交通:JR総武線両国駅西口徒歩3分、都営地下鉄大江戸線両国駅A4出口徒歩1分。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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「千住の琳派」 足立区立郷土博物館

足立区立郷土博物館
「千住の琳派 - 村越其栄・向栄父子の画業」
4/13-5/15



幕末より明治にかけ、千住で華開いた琳派の系譜を紹介します。足立区立郷土博物館で開催中の「千住の琳派 - 村越其栄・向栄父子の画業」へ行ってきました。

江戸琳派といえばともかく抱一、其一の名が断然知られていますが、彼らには数多くの弟子たちがいたことも見逃すことは出来ません。

今回の展示に登場するのは其一門下で、その名を一字受け継いだ村越其栄と、その子尚栄です。

其一より一回り下の村越其栄は1840年、おおよそ其一が没する二十年前に、千住に寺子屋を開業し、子尚栄とともに当地の教育活動に尽力しました。

彼らはいわゆる専門の絵師ではありません。しかしながら学校経営の傍ら、伝統的な琳派の掛軸画や屏風絵を多く描き、そのうちのいくつかが千住の旦那衆によって大切に保存されてきました。

実際、彼らの絵師としての資料は乏しく、画業についてはさらなる研究が必要とのことでしたが、図像でも一目瞭然、確かに琳派のエッセンスを受け継いでいることが良くわかります。


村越向栄「十二カ月花卉図屏風」

どちらかと言えば画風は父子ともに其一よりも穏和な抱一に似ているかもしれません。それこそ抱一の「十二ヶ月花鳥図」を思わせる向栄の「十二カ月花卉図屏風」など、端正なタッチで描かれた花鳥画などを楽しむことが出来ました。


村越向栄「八橋図屏風」

さて今回、私がとりわけ印象深かったのは尚栄の「八橋図屏風」です。お馴染みの伊勢物語に由来する同名の作品は、光琳、また抱一によっても描かれてきましたが、それらの背景はあくまでも金であるのに対し、ここでは銀が用いられています。

残念ながら黒変が著しく、銀の輝きはかなり減退していますが、言わば月明かりに照らされた八橋の夜景はどこか物悲しいものを感じました。なおこの銀による八橋図屏風は、現時点で他に類例がないそうです。そうした意味でも貴重な作品と言えるのかもしれません。


村越其栄「夏秋草図屏風」

父其栄では抱一の同名の作品も名高い「夏秋草図屏風」が秀逸です。向日葵や朝顔、萩や芒などの秋にも因んだ草花が描かれていますが、その表現の様式はかなり自由です。芒のダンスは其一の空間構成を、また絡み合う朝顔や芒の蔓がたなびく様は抱一を、さらにはどこか鬱蒼とした草花の描写は宗達一派の伊年印の作を連想させるものがあります。

其栄、尚栄の草花図は抱一らよりも野趣に富むという指摘もありましたが、比較的的確なデッサンによる身近な植物表現もまた魅力の一つでした。

ところで千住と琳派の関係は抱一にまで遡ります。当時、下谷に庵を構えていた抱一は、友人を通じて時折千住へ通い、例えば芭蕉の碑を建立したりするなどして、同地と関わりを持っていました。村越父子が千住で琳派のDNAを受け継いだのも、そうした下地があったからなのかもしれません。

なお私が出向いた当日、本展監修で武蔵野美術大学の玉蟲氏と、東京文化財研究所の江村氏の講演を聞いてきました。非常に密度の濃いお話だったのでうまく書けないかもしれませんが、出来れば別記事でまとめてみたいと思います。



展示にあわせて是非とも買っておきたいのが図録です。図版はもとより玉蟲、江村の各氏、そして同郷土資料館の学芸員2名による論文4本、また村越家の系譜など、読み物として大変に充実しています。800円とはお手頃でした。

会場は区立の郷土資料館の一室ということで、出品作は全部で20点(さらに途中展示替えあり)もありませんが、江戸琳派の一端は千住にもあったことを初めて世に知らしめた展覧会といえるのではないでしょうか。琳派ファンとしては楽しめました。

前期:4/13~5/1、後期:5/3~5/15 出品リスト(PDF)

さて「千住の琳派」とあるので会場も北千住かと思ってしまいますが、実際は足立区の大谷田です。綾瀬、亀有駅からのバス(ともに約15分程度)、もしくは駐車場を利用しての車が必須となります。十分にご注意下さい。



開催当初は停電等で週末のみの公開とされていましたが、現在は通常通り、平日も開館しています。



博物館横には和風の庭園、東瑞江庭園も併設されています。

5月15日までの開催です。

「千住の琳派 - 村越其栄・向栄父子の画業」 足立区立郷土博物館
会期:4月13日(水)~5月15日(日)
休館:毎週月曜日
時間:9:00~17:00
場所:東京都足立区大谷田5-20-1
交通:JR亀有駅北口から東武バス八潮駅南口行、足立郷土博物館下車徒歩1分。もしくは東武バス六ツ木都住行、東渕江庭園下車徒歩4分。東京メトロ千代田線綾瀬駅西口から東武バス六ツ木都住行、東渕江庭園下車徒歩4分。駐車場有。
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「江戸の人物画 姿の美、力、奇」(後期) 府中市美術館

府中市美術館
「江戸の人物画 姿の美、力、奇」(後期展示)
4/19~5/8



府中市美術館ご自慢の江戸絵画展もそろそろ佳境です。「江戸の人物画 姿の美、力、奇」の後期展示へ行ってきました。

人のかたちに注目し、浮世絵から文人画、そして奇想系と、様々な江戸絵画を紹介する展覧会ですが、4月中旬の展示替えを挟んで、また趣きを一新しました。(出品リスト

「江戸の人物画 姿の美、力、奇」(前期) 府中市美術館 *前期の感想です。


曾我蕭白「寒山拾得図」(興聖寺 *京都国立博物館寄託) 後期

冒頭にいきなり目玉作品が登場します。曾我蕭白の「寒山拾得図」のドキツイ表現には思わず後退りしてしまうかもしれません。硬軟に塗りわけた墨線は自在で、その先から妖気すら放たれるような異様な雰囲気をたたえています。掴みは抜群でした。

実はこの展覧会、前後期通しての主役は蕭白ではないかと思っていますが、今挙げた寒山拾得を含め、後期も粒ぞろいの作品がいくつか紹介されています。

まず一推しなのは「中国人物図押絵貼付屏風」です。がまを操る仙人たちなどが何面かに描かれた屏風絵ですが、ともかくは一番右の小さながまに注目してください。両手を広げて片足で立つ様子は何とも滑稽です。可愛らしい出で立ちには目を奪われました。

また蕭白ではもう一点、「琴高仙人図」も見逃せません。まるで鮪のように堂々たる体躯をした鯉が水辺から飛び出し、その上を仙人が駆けています。決して細かな筆ではありませんが、一瞬を切り取った動きのある画面は迫力満点でした。


司馬江漢「円窓唐美人図」(府中市美術館) 後期

江漢の初期の浮世絵にも要注目です。「月下柴門美人図」では背景が狩野派風である一方、人物は江漢ならではの洋画的な表現で描かれています。

また同じく西洋的な遠近、陰影を取り入れた作品としては安田雷洲の「水辺村童図」が挙げられるかもしれません。

安田のアクの強い画風については以前、板橋区美の北斎展で見た時もに衝撃を受けましたが、こうした単なる和洋折衷を越えたエキゾチックな表現をとる絵画も見どころの一つでした。


小泉斐「唐美人図」(栃木県立博物館) 後期

小泉斐の「唐美人図」における着衣はまさに透け表現の極致です。透けて折り重なる衣の雅やかな様子にはうっとりさせられました。


伊藤若冲「付喪神図」(福岡市博物館) 後期

これぞ奇想と言うべきなのは若冲の「付喪神図」です。人格化した太鼓や琵琶などの楽器、また臼などの身近な器物などの集う様子は、それこそ江戸絵画のトイストーリーと言えるのではないでしょうか。暗がりの中を棗を基点に並ぶ彼らは、まさに生命を吹き込まれて、今にもガヤガヤと動き出すかのようでした。


葛飾北斎「花和尚図」(個人蔵) 後期

なお初めにも触れましたが、会期途中で出品作のほぼ全てが入れ替わっています。前後期あわせて一つと捉えても差し支えないかもしれません。

【前期】3月25日(金)~4月17日(日)
【後期】4月19日(火)~5月8日(日)


会期当初は計画停電時に一時閉館するとのアナウンスが出ていましたが、現在のところ通常(10時~17時)の通りに開館中です。GW中に見納めという方も多いかもしれません。

「ギョッとする江戸の絵画/羽鳥書店」

5月8日までの開催です。お見逃しなきようご注意下さい。

「江戸の人物画 姿の美、力、奇」(後期展示) 府中市美術館
会期:4月19日(火)~5月22日(日)
休館:毎週月曜日、5月6日(金)
時間:10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
住所:府中市浅間町1-3
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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「特集 五百羅漢の絵師 狩野一信」 芸術新潮2011年5月号 

いよいよ展覧会も今週金曜(4/29)に迫りました。本日発売の芸術新潮5月号、「五百羅漢の絵師 狩野一信」を買ってきました。



震災により開催が約1ヶ月半ほど延期された「五百羅漢 狩野一信展」ですが、本誌面上にてそれに準拠する特集が組まれています。



見開きに登場する怒涛の全100幅の図版だけでもお腹いっぱいになりそうですが、豊富なテキストも一信の五百羅漢の特異性を知るのに相応しい内容ではないでしょうか。

特集の目次は以下の通りです。

第一部 江戸絵画の最終ランナー 狩野一信再発見 解説:山下裕二
 折り込み全図集 150年の眠りから覚めた これが狩野一信「五百羅漢図」の全てだ

 狩野一信「五百羅漢図」で読み解く 羅漢様の生活と意見
  羅漢様のデイリーライフ(1~10幅)
  良い子からチョイ不良オヤジまで 羅漢学院ただいま入学受付中(11~20幅)
  羅漢レスキュー隊、六道をゆく(21~40幅)
  洋風に描いてみました 羅漢さまの修行あれこれ(41~50幅)
  とーぜん超能力者です(51~60幅)
  ペットは霊獣(61~70幅)
  波乗り羅漢の龍宮ツアー(71~74幅)
  羅漢さまにおまかせ、出産も建築も(75~80幅)
  羅漢レスキュー隊ふたたび(81~90幅)
  一信死すとも羅漢は死せず(91~100幅)

狩野一信 幕末の激動を生きた48年

第二部 一信に導かれて全国の五百羅漢を旅する 文:山下裕二
 五百羅漢寺(東京)、少林寺(埼玉)、建長寺(神奈川)他
 全国五百羅漢図めぐりマップ


インタビューはもちろん、文章の殆どを展覧会の監修をつとめた山下裕二氏が担当しています。読みごたえは十分でした。



特集第一部は「狩野一信再発見」と題し、全100幅の五百羅漢図を順に沿って解き明かしています。

例えば「羅漢レスキュー隊、六道をゆく」などのキャッチーなタイトルからしてぐいぐい引き込まれますが、解説自体は当然ながら本格的です。

そもそも一信の五百羅漢図にはほぼ先行例がないことや、登場する全500人の羅漢の衣装には殆ど同じ柄がないこと、一方で西洋の銅版画の技法を参照していたことなどが示されています。

また一見、同じような作風にもとれる100幅にも実は波があり、表現の激しさでは二十二幅の「六道」が、また技法面では五十幅の「十二頭陀」がピークに当たることにも触れられています。

掲載の図版を見ても、晩年の作品はどこか弛んでいる様子が分かりますが、その要因として一信の健康や弟子の関与の問題などが挙げられていました。



またどうしても異様なビジュアル面ばかりに目が向いてしまいますが、当然ながら作品は仏画であり、登場する羅漢には役割も与えられています。あの気持ち悪い顔をはぐ菩薩なども、中国の六朝時代の伝承に基づいていることが指摘されていました。

また興味深いのは一信の女性に対する視線です。 五十五幅における首吊り死の女性や七十五幅の出産直後の女性の描写は恐ろしく、彼のどこか屈折した性癖のようなものが表れていないかとの記述がありました。



第二部は羅漢への旅です。江戸時代に隆盛した羅漢信仰によって、今も全国には羅漢の石仏が点在しますが、それを山下先生が訪ねていきます。



若冲が晩年過ごした京都・石峰寺などは有名なところですが、ここで注目すべきは兵庫県の北条五百羅漢と大分県の耶馬溪羅漢寺です。 特に耶馬溪には一信の作品に通じる驚くべき羅漢が登場します。是非とも誌面でご覧になって下さい。

ちなみにこの耶馬溪への取材は東日本大震災の後に行われたそうです。実は震災当日も山下先生は展示の確認のために両国へと向かいながら、結局たどり着くことが出来かったそうですが、この特集を読んでいると、震災後も更なる取材・研究を続け、ついには展覧会の再開へとこぎ着けた一種の執念を感じてなりません。

一信自身も安政の大地震に被災したそうですが、ともかくも災害を超えて羅漢に思いをよせる山下先生の熱意には心打たれました。

さて改めて展覧会の情報です。



「法然上人八百年御忌奉賛 五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信」
会期:平成23年4月29日(金・祝)~ 7月3日(日)
時間:9:30~17:30 *夜間開館は行いません 
休館:毎週月曜日(但し5/2、5/16は開館)
会場:江戸東京博物館 1階展示室 (東京都墨田区横網1丁目4番1号)
主催:東京都江戸東京博物館/大本山増上寺/日本経済新聞社
監修:山下裕二(明治学院大学教授)
協力:浅野研究所


先だって行われた記者発表会も以下のエントリにまとめてあります。


記者発表時に作品を前にして解説する山下先生。

「狩野一信 五百羅漢」展 記者発表会 (前編)
「狩野一信 五百羅漢」展 記者発表会 (後編)


展覧会の開幕はGW初日の4月29日です。閉幕も7月までと延長されました。

「芸術新潮2011年5月号/五百羅漢の絵師 狩野一信/新潮社」

まずはこの特集号を存分に楽しみたいと思います。
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「フェルメール地理学者とオランダ・フランドル絵画展」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「シュテーデル美術館所蔵 フェルメール地理学者とオランダ・フランドル絵画展」
3/3~5/22



ドイツ・フランクフルトのシュテーデル美術館所蔵のオランダ・フランドル絵画を展観します。Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「シュテーデル美術館所蔵 フェルメール地理学者とオランダ・フランドル絵画展」へ行って来ました。

いつもながらフェルメールとあるとさも一点豪華主義かと思ってしまいがちですが、実は同時代のフランドル絵画を一定量のスケールで楽しむことの出来る展覧会です。


ウィレム・ファン・デ・フェルデ(子)「穏やかな海」1660年頃 油彩・キャンヴァス シュテーデル美術館所蔵

そもそも今回は同館の改装にともなって実現した企画ですが、そうした展示は粒ぞろいの作品がやってくることが珍しくありません。良質な作品でフランドル絵画を追えるまたとない機会となりました。

構成は以下の通りです。

歴史画と寓意画
肖像画
風俗画と室内画
静物画
地誌と風景画


シンプルなジャンル別の章立てにて、17世紀前後のオランダの文化や歴史を紹介していました。

私自身、フランドルの静物画では花卉画が一番好きですが、今回ほど魅惑的なそれを見たのは初めてかもしれません。


ヤン・ブリューゲル(父)の工房「ガラスの花瓶に生けた花」1610-25年頃 油彩・銅板 シュテーデル美術館所蔵

中でも秀逸なのはヤン・ブリューゲル(父)の工房の「ガラスの花瓶に生けた花」です。いわゆるヴァニタスもこめられているお馴染みの主題ではありますが、まさにその一瞬だけが放つ美しさには強く惹かれるものがあります。

調理台の魚や死んだ禽類を描いた作品など、この時代の静物画には思わず目を背けてしまうほどアクの強い作品も少なくありませんが、花の美しい色彩には素直に感じ入りました。

上野の西洋美術館でもレンブラント展が行われていますが、ここ文化村にも彼の大作の油彩が登場しています。それが「サウル王の前で竪琴を弾くダヴィデ」でした。


レンブラント・ファン・レイン「サウル王の前で竪琴を弾くダヴィデ」1630-31年頃 油彩・板 シュテーデル美術館所蔵

スポットライトのあたるサウルは憎悪を思わせるような複雑な面持ちをする一方、暗がりの中で琴を奏でるダビデからはどこか真摯な態度が感じられます。イスラエルの王サウルはダビデの名声を恐れ、結果彼に槍を投げつけるという逸話が知られていますが、そうした両者の心理を巧みに表現していました。


ヤーコプ・ファン・ロイスダール「滝のあるノルウェーの風景」 1670年頃 油彩・キャンヴァス シュテーデル美術館所蔵

風景画ではこれぞオランダといった海景色を描くホイエンにも魅せられましたが、私として一推しなのはロイスダールです。そもそもロイスダールが約5点ほど出ているのも嬉しくなってしまいますが、濃密なタッチによる森や湖などの風景を見ると郷愁に誘われます。深い緑の香りと、うっすらと湿り気を帯びた空気の感触が伝わってきました。


ヤン・ブリューゲル(子)「楽園でのエヴァの創造」1630年代後半 油彩・銅板 シュテーデル美術館所蔵

比較的、写実を意識させながらも、全体としては牧歌的な印象を与えられるのはヤン・ブリューゲル(子)の「楽園でのエヴァの創造」です。前景の植物や動物は、当時の博物学の反映して精緻に表されていますが、やはり主題が創世記にも由来するのか、物語の一編を見るかのような幻想的な雰囲気を醸し出していました。

さてお待ちかねのフェルメールです。彼の作としては比較的後期の「地理学者」が登場しています。東京初公開ということでそれだけでも大きな話題となりそうですが、会場では当時の社会的背景などに踏み込んだ丁寧な構成がとられていました。


ヨハネス・フェルメール「地理学者」1669年 油彩・キャンヴァス シュテーデル美術館所蔵

それこそ順を追っていくと、絵を読み解いていくような気分を味わうことが出来るかもしれません。画中の地球儀、また地図までが参考作品として展示されていました。

作品自体でやはり感心するのは、フェルメール一流の光の透明感のある質感表現です。窓からの光は巻いた紙の中へ染み渡るかのように差し込み、学者を包みつつも、その背後の地図や地球儀までを穏やかに照らし出しています。

フェルメールの光と言えば、白い粒状のハイライト表現なども見どころですが、本作では手前の机にかかるゴブラン織に一部認められるもの、全体としてはあまり用いられていません。また絵具の塗りも抑制的で、いわゆる円熟期特有の温和な表情を見せていました。

なお教えていただけるまで気がつきませんでしたが、作品背景の壁の下部に描かれた青いデルフト焼きのタイルが、実際の会場でも地球儀の展示スペースの下にはめこまれています。お見逃しなきようご注意下さい。

震災の影響で中止されていた夜間開館が4月22日に復活しました。今後は毎週金・土は21時まで開館します。GWにかけて混雑も予想されるので、やはり夜間が狙い目かもしれません。

5月22日まで開催されています。*会期終了後、豊田市美術館(6/11~8/28)へと巡回予定。

「フェルメール地理学者とオランダ・フランドル絵画展」 Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:3月3日(木)~5月22日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~19:00、毎週金・土曜日21:00まで。(入館は閉館の30分前まで)
住所:渋谷区道玄坂2-24-1 B1F
交通:東京メトロ半蔵門線・東急田園都市線渋谷駅3a出口より徒歩5分。JR渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線、東京メトロ銀座線、京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。
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「成層圏 vol.1 椛田ちひろ」 ギャラリーαM

ギャラリーαM
「成層圏 vol.1 椛田ちひろ」
4/2-5/7



ギャラリーαMで開催中の「成層圏 vol.1」、椛田ちひろ個展へ行ってきました。

展示概要、作家プロフィールについては同ギャラリーWEBサイトをご参照下さい。

vol.1 椛田ちひろ Chihiro KABATA

作家は現在、東京都現代美術館で開催中の「MOTアニュアル2011」にも出品中です。

「MOTアニュアル2011 Nearest Faraway」@東京都現代美術館

MOTでは油彩ボールペンを塗りつぶして出来た巨大な平面作品がとても印象的でした。

さて今回も支持体に対して徹底的に塗り込めるという方法はそのままですが、その素材は言わばもっと絵画的なものに変わっています。


「Boundary」 2011 キャンバス、アクリル

それはアクリル絵具です。縦2メートル、横はゆうに3メートルを超える大きなキャンバスには、黒やグレー、それに白などの絵具が何層にも塗りこまれています。モノクロームの重みは絵具の質感を借りてか、極めて重厚です。見る側を押しつぶすかのような強い存在感を放っていました。


「Boundary」 2011 キャンバス、アクリル (一部

さてその表情は一見、鏡のようにフラットですが、画肌に注視すると、実はかなり繊細な表情をたたえていることが良く分かります。時折垣間見えるひっかき傷のようなタッチの他、錯綜するストロークなどからは、たとえばリヒターの絵画を連想させました。


「anonymous#2」 2011 鏡、樹脂 *作品コンディションの都合により現在、展示を中止しています。

一方、アクリルだけでなく、アルミや樹脂を用いた作品も空間に変化を与えています。こちらは壁そのものや鏡といった支持体にも注目したいところではないでしょうか。

アニュアル展とは異なった作家の展開を知る格好の機会です。その差異、また意外性に興味深いものを感じました。

なおギャラリーαMは電力事情等に対応し、開廊時間を12時から16時までに限定しています。十分にご注意下さい。

また6月には代官山のアートフロントギャラリーでも個展が予定されているそうです。



椛田ちひろ個展@アートフロントギャラリー 6/17~7/10

5月7日まで開催されています。

「成層圏 vol.1 椛田ちひろ」 ギャラリーαM
会期:4月2日(土)~5月7日(土)
休廊:日月祝休。4/29~5/5休。
時間:12:00~16:00
住所:千代田区東神田1-2-11アガタ竹澤ビルB1F
交通:都営新宿線馬喰横山駅A1出口より徒歩2分、JR総武快速線馬喰町駅西口2番出口より徒歩2分、日比谷線小伝馬町駅2、4番出口より徒歩6分
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「国宝 燕子花図屏風2011」 根津美術館

根津美術館
「コレクション展 国宝 燕子花図屏風2011」
4/16~5/15



恒例の燕子花の季節です。根津美術館で開催中の「国宝 燕子花図屏風2011」のプレスプレビューに参加してきました。

当初はメトロポリタン美術館の「八橋図」を含む「KORIN展」が予定されていましたが、震災の影響により1年延期され、同館所蔵の「燕子花図屏風」と関連作による展示へ変更となりました。


「国宝 燕子花図屏風2011」展示風景

燕子花といえば昨年、美術館の全面新装オープンにて華々しくお披露目されたことを思い出しますが、その時は作品の絵画性に着目していたのに対し、今回は物語性について追う構成となっています。

もちろんその物語とは伊勢物語です。「燕子花図屏風」は伊勢物語の第9段、東国へ下る在原業平が燕子花の名所の三河・八橋で歌を読む場面に由来していますが、展示ではその伊勢物語をはじめ、源氏物語など、和歌や文学につながる作品が一同に会しています。


「燕子花図屏風」 尾形光琳 江戸時代 根津美術館蔵

まさに絵画で歌を読む展覧会です。「燕子花図屏風」もこれまでにない叙情性をたたえながら、その艶やかな輝きを放っていました。


「扇面歌意画巻」 室町時代 根津美術館蔵

ずばり八橋の情景を取り込んだものとしてまず挙げたいのは、「扇面歌意画巻」です。扇面に歌と絵を表した雅やかな作品ですが、うち一つに燕子花のモチーフと業平の歌が記されています。

またその名の通りの「伊勢物語図屏風」にも当然ながら物語中の49場面が描かれています。八橋を探してみるのも面白いのではないでしょうか。


「吉野龍田図屏風」 江戸時代 根津美術館蔵

さて伊勢主題以外でおすすめしたいのは、桜と紅葉を画面いっぱいに散らして描いた「吉野龍田図屏風」です。このデコラティブな光景はどこか琳派的ですが、そもそも龍田とは歌枕として知られたものであり、実際に画中にも短冊にて歌が記されています。


「和漢朗詠妙」 本阿弥光悦 1626年 根津美術館蔵

一方、和歌そのものを視覚で楽しめるのは、光悦の「和漢朗詠妙」です。いつもながらに光悦一流の流麗な書体に感心させられました。

さて源氏物語においても伊勢物語をふまえている作品があるのも興味深いポイントです。

伝土佐光起の「源氏物語画帖」では、他の文学との比較についての話題が取り込まれ、そこには業平の名を下に見ることは出来まい云々と、伊勢物語を称える記述が示されていました。

こうした作品の中でも光琳の燕子花の特異性は際立っていますが、古来の物語は時代を超えて、近代でも絵画として様々に表されていきます。伊勢物語や源氏物語は絵画イメージへと変奏しました。


第6室「初風炉の茶」展示風景

さて燕子花展にあわせて開催中のテーマ展も見応え十分です。主に江戸時代の棚や卓を紹介した展示と、「初風炉の茶」と題した茶道具展が行われています。


第5室「棚と卓」展示風景

さりげなく大好きな志野の「銘 山の端」が出ているだけでも嬉しくなりましたが、一方で根津美術館の効果的なライティングによって浮かび上がる螺鈿の眩い煌めきには息をのみました。



根津美術館のもう一つの楽しみといえば広大な日本庭園です。茶室「弘仁亭」前のカキツバタは、本展の会期後半、4月末から5月初旬に見頃を迎えます。ちょうどGWとも重なるとのことで、また賑わいが増すかもしれません。

初めにも触れましたが、当初予定の「KORIN展」は中止ではなく延期です。来春、ここ根津美術館で光琳の燕子花と八橋図が出会うことを心待ちにしたいと思います。

5月15日まで開催されています。



「コレクション展 国宝 燕子花図屏風2011」 根津美術館
会期:4月16日(土)~5月15日(日)
休館:毎週月曜日
時間:10:00~17:00
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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「あるべきようわ 三嶋りつ惠展」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「あるべきようわ 三嶋りつ惠展」
4/12~6/19



資生堂ギャラリーで開催中の三嶋りつ惠個展、「あるべきようわ」へ行ってきました。

展示概要、作家プロフィールについては同ギャラリーWEBサイトをご参照下さい。

「あるべきようわ 三嶋りつ惠展」@資生堂ギャラリー

1989年にベネチアへ移住後、当地のガラス工房へ通い、主にベネチアガラスの手法による作品を制作してきました。

さて本展では三嶋によるベネチアガラスの作品が約25点ほど出ていますが、ともかくはまずその巧みな見せ方、ようは会場の演出に大きな魅力を感じてなりません。

お馴染みの階段を降り、狭い通路を進んだ先には、鏡のケースの中には透明ガラスの「PAGODA パゴダ」(2010)がうやうやしく鎮座しています。その様子はまるでガラスの祠に収められたご神体です。メインのスペースに並ぶガラスのオブジェと同様に、たとえば古代の祭祀具を思わせるかのような神秘的な面持ちをたたえていました。

三嶋はベネチアガラスでもあえて透明のもの用いることで、空間全体を澄み切った、白い輝きだけで包み込みこむことに成功しています。ガラスと光は互いに共鳴していました。

なお今回の会場設計を担当したのは建築家の青木淳です。道理で小道、祭壇、そしてガラスの泉など、作品を効果的に引き立てる仕掛けがあるわけでした。この空間デザインだけでも一見の価値があります。

階段の手すりにも一工夫なされています。視覚だけでなく、嗅覚でも楽しめる展示でした。

6月19日まで開催されています。これはおすすめします。

「あるべきようわ 三嶋りつ惠展」 資生堂ギャラリー
会期:4月12日(火)~6月19日(日)
休館:毎週月曜日
時間:11:00~19:00(平日)/11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「ポーラミュージアム アネックス展2011」 ポーラミュージアムアネックス

ポーラミュージアムアネックス
「ポーラミュージアム アネックス展2011 - 早春」
3/26-4/17



ポーラ美術振興財団の助成制度によって選ばれた4名の若手アーティストを紹介します。ポーラミュージアムアネックスで開催中の「ポーラミュージアム アネックス展2011 - 早春」へ行ってきました。

出品作家は以下の方々です。(作家プロフィール

小笹彰子
田口一枝
英ゆう
長瀬香織

昨年もほぼ同時期に開催されたポーラアネックス恒例のグループ展ですが、今年は偶然にも全て女性の作家が選ばれました。


小笹彰子「リボンと時計」2007年

さて今回、私が断然におすすめしたいのは、1981年に大阪で生まれ、現在はドイツでも活動を続ける小笹彰子による刺繍の作品です。


小笹彰子「リボンと時計」2007年 部分

画像からは一見、絵画と思ってしまうかもしれませんが、近づいて見ると色とりどりのミシン糸が連なり、また絡み合うことで、人物などのモチーフを象っていることが分かります。


小笹彰子「Su-35BM」2008年 他

また三点の戦闘機などを素材とした連作にも魅力を感じました。


小笹彰子「J-10」2008年 部分

決して精緻に糸を繋げるのではなく、あくまでも互いが緩やかに干渉しあうかのような、独特の間をもたせている部分も注目すべき点かもしれません。


田口一枝「llum d'onada」2007年/2011年

その他では、光と影のコントラストが美しい田口一枝の「llum d'onada」も心に残ります。とてもメタリックな印象を受けるかもしれませんが、実際はもっと手軽な素材で作られていました。

なお東南アジアの伝説などをモチーフに絵画を描く森ゆうは、現在、ポーラアネックスのすぐ近く、京橋のINAXギャラリーでも個展開催中です。



森ゆう展 - 祖を巡る旅@INAXギャラリー2 4月1日(金)~4月26日(火)

ご紹介が遅れました。展示は明日17日までの開催です。

「ポーラミュージアム アネックス展2011 - 早春」 ポーラミュージアムアネックス
会期:3月26日(土)~4月17日(日)
休館:会期中無休
時間:11:00~18:00
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
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「香り かぐわしき名宝」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館
「香り かぐわしき名宝」
4/7-5/29



東京藝術大学大学美術館で開催中の「香り かぐわしき名宝展」のプレスプレビューに参加して来ました。

例えばお香など身近にある香りの文化ですが、それを嗅覚だけでなく視覚でも捉えようとする、今までにないアプローチで切り込んだ展覧会です。会場には日本人が古来親しんできた香りにまつわる様々な文物、美術品が一同に会していました。


第3章「香りの日本文化2~武家から庶民へ」展示風景

構成は以下の通りです。

序「香りの源」
第1章「香りの日本文化1~聖徳太子から王朝貴族へ」
第2章「香道と香りの道具」
第3章「香りの日本文化2~武家から庶民へ」
第4章「絵画の香り」

初めに古代の日本に伝わってきた香木を紹介し、香道などの香りにまつわる文化を提示した上で、最後に香りを意識させる近世・近代絵画を俯瞰する流れとなっていました。

香りが日本人にとって文化となるのは推古朝、6世紀末の頃まで遡ります。元々日本には香木がありませんが、595年に淡路島へ熱帯地方原産の「沈水」が漂着すると、人々はその香りに魅了され、以来特別なものとして珍重してきました。

展示では正倉院宝物の香木を写した「黄熟香」の摸本や、戦国大名らが代々宝物として愛でていた香木の置物などが紹介されています。


「香木 白壇木」*触ることが出来ます。

また香木には様々な種類がありますが、それらを小瓶に積めて並べたものや、実際に触ることのできる香木も展示されていました。

こうしたものに接すれば、今回のキーワードでもある「香りを見る」ことが決して特別なものではないことがお分かりいただけるかもしれません。香木を美術品としても扱ってきた先人たちは、香りを目で楽しむことを既に知っていました。

言わば香木が渡来品であることにも関係するのか、香りは仏教が伝わっていくとともに日本人の生活に欠かせないものとなっていきます。

香炉などは香りにまつわるお馴染みの仏具かもしれませんが、仏像そのものを香りの観点から紹介する点には良い意味で意表をつかれました。


第1章「香りの日本文化1~聖徳太子から王朝貴族へ」展示風景

二体の観音立像、「十一面観音立像」は、ともに香木の白檀から作られた仏像です。ちなみにこれらを壇像と呼びますが、その香りを生かすため、極力彩色を抑えて制作されていました。


「十一面観音立像」 8~9世紀 奈良国立博物館 全会期

ともにガラスケースの中に入っているため、その香りを確かめることはかないませんが、一部にはまだ芳香が残っているそうです。驚かされました。


「阿弥陀浄土曼荼羅」 12世紀 奈良国立博物館 期間:4/7~4/20

ちなみにこうした仏像や仏具、さらには「阿弥陀浄土曼荼羅」の曼荼羅など、仏教美術品が出ているのも見どころの一つではないでしょうか。確かに香炉を持っているとはいえ、まさか香り展で法隆寺の「聖徳太子像」を見られるとは思いませんでした。

中世から近世へ進むと、香りの文化はもっと広がりをもっていきます。その最たる例として挙げられるのが、室町時代に成立した「香道」です。香りは「嗅ぐ」のではなく「聞く」ものだと称し、それにまつわる作法や道具などを次々と作り出していきました。

実のところ私として一番興味を引かれたのは、この香道の展示かもしれません。香木の銘に応じた香りの優劣を競う香合はまだしも、香りの違いを当てる組香には驚くべき形式をとるものがありました。それがこの組香の勝負を盤上で示す「三組盤」です。


「三組盤」1863年 個人蔵 全会期

図版などではこれがどう香りと関係するかなかなか分かりにくいかもしれませんが、幸いなことに「競馬香」に関しては実際の競技の様子がVTRで紹介されています。


伝五十嵐道甫「秋野蒔絵十種香箱」 江戸時代 全会期

艶やかな蒔絵の香箱なども多数出ていましたが、ともかくはこの香道の在り方からは、改めて香り文化の幅広さを感じました。


鈴木春信「梅の枝折り」 江戸時代 山種美術館 期間:4/7~5/8

絵画からも香りのエッセンスを見出だします。浮世絵、また屏風と、近世絵画がいくつも出ているのも展示の魅力の一つかもしれません。


「邸内遊楽図」 江戸時代 MOA美術館 期間:4/7~5/8

男女が享楽の限りをつくす様を表した「邸内遊楽図」の艶やかさには目を奪われます。右に男色の世界を、そして左には遊郭を描いた作品ですが、香りの点から注目したいのは左の座敷から縁側に座る男女の姿です。足元には確かに香炉が置かれていました。

ところで何も香はこうした華やかな場だけに用いられたわけではありません。それこそ香炉のように死の世界と関わってきた点も注目すべきではないでしょうか。

そこで興味深いのは錦絵から「死絵」と呼ばれる一連の作品です。江戸後期、歌舞伎役者などが死亡した際、故人の似顔絵を描くことがあったそうですが、そこには仏具としての香炉なども確かに描かかれています。

こうした供香など、香は現在と同様に日常の生活へと組み込まれていました。


上村松園「楚蓮香之図」1924年頃 京都国立近代美術館 期間:4/7~5/8

やはりハイライトは最終章「絵画の香り」ではないでしょうか。ここでは春信以降、大雅、春草、古径、松園、そして御舟らによる「かぐわしい絵画」(キャプションより引用)が30点ほど展示されています。


速水御舟「夜梅」1930年 東京国立近代美術館 全会期

個々の作品の感想をあげてしまうとキリがつかないので控えますが、私が一押しにしたいのは池大雅と速水御舟です。 とりわけチラシ表紙を飾った御舟の「夜梅」のどこか物悲しいまでの叙情性には心を打たれます。


第4章「絵画の香り」 展示風景

先ほど仏教美術もこの展示の見どころの一つと書きましたが、この近代絵画もそれに並ぶ必見のポイントであること間違いありません。率直なところまさかここまで粒ぞろいの作品が出ているとは思いませんでした。

さて最後に重要なのは途中に展示替えがあることです。

前期:4月7日(木)~5月8日(日)
後期:5月10日(火)~5月29日(日)


会期は前後期に分かれていますが、一部に会期中10日間ほどしか展示されない作品もあります。詳しくは公式WEBサイト内の「展示替え情報」をご覧ください。


「志野流香席再現」展示風景

会場内にはお香のサンプルを楽しめるコーナーや、香席を再現した展示なども用意されています。またフロアを移動する際のエレベーターにもちょっとした仕掛けが隠されていました。粋な演出です。

5月29日まで開催されています。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。

「香り かぐわしき名宝」 東京藝術大学大学美術館
会期:4月7日(木)~5月29日(日)*途中展示替えあり。
休館:月曜。但し5月2日は開館。
時間:10:00~17:00(土曜は18:00まで。)
住所:東京都台東区上野公園12-8
交通:JR上野駅公園口、東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。
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「田窪恭治展」 東京都現代美術館

東京都現代美術館
「田窪恭治 - 風景芸術」
2/26-5/8



東京都現代美術館で開催中の田窪恭治展へ行って来ました。

作家、田窪恭治(1949~)のプロフィールについては同館WEBサイトをご覧下さい。

「田窪恭治展 風景芸術」アーティスト

既に美術家としてのキャリアの長い田窪ですが、意外にも東京での「包括的」(ちらしより引用)な個展は初めてだそうです。

さて元々、絵画を学び、その後パフォーマンスなどで制作を続けてきた田窪ですが、今回の展示では主に彼が近年手掛けている建築や文化遺産の再生計画を紹介するものとなっています。

とりわけ重要なのがフランス、ノルマンディー地方の廃墟と化した礼拝堂を再生した「林檎の礼拝堂」と、今も進行中の金刀比羅宮全体を対象とした「琴平山再生計画」です。

会場ではこの2つのプロジェクトを時に実寸大のスケールで紹介しています。現代美術館の広々とした空間を用いての大がかりな建築インスタレーションが一番の見どころでした。


田窪恭治「林檎の礼拝堂」1999年

田窪がフランスの礼拝堂を再生するプロジェクトに着手したのは1989年のことです。以来10数年、建物の修復と補強、それに改築を行い、最後には屋内を装飾するための絵画を制作して、このプロジェクトを完成させました。

会場では礼拝堂の映像の他、壁面などが紹介されていますが、中でも圧巻なのは実寸の床面による礼拝堂の敷地の再現展示です。

実際には現地で叶わなかった部分にも手を加えた「東京バージョン」と呼ばれるセットですが、床一面に敷かれた大谷石や鋳物の上を歩いていると、あたかも礼拝堂へと旅したかのような気分を味わうことが出来ます。

また美術館で最も天井高のあるB2の吹き抜けフロアと礼拝堂の床面がほぼ同一サイズというのにも驚かされました。まさにこの会場だからこその展示と言えるかもしれません。

一方で現在も二次プランが進む琴平山再生計画では、礼拝堂と同様の鋳物を敷き詰めた空間の他、制作中の椿の襖絵、また同じく椿を描いた有田焼の磁器の壁面などが展示されています。


田窪恭治「ヤブツバキ」2005年 金刀比羅宮白書院襖絵、オイルパステル

この襖絵が若冲と応挙の書院の間に設置されるというだけでも名誉なことですが、作品自体の魅力はともかくも、現地の風景をとりこんで設置された書院の再現はなかなか壮観でした。


鈴木了二・田窪恭治・安齊重男「絶対現場 1987」1987年

他にも初期のパフォーマンスや、後の礼拝堂や琴平山にもつながっていく木造住宅の解体プロジェクト「絶対現場」など、時代がいささか前後する部分もありましたが、一人の美術家の業績を知るには遜色のない展覧会でした。

なお地震の影響で遅れていた図録が完成したそうです。また同館サイトにも記載がありますが、会場には鋳物などを敷き詰めたフロアがあります。歩きやすい靴での観覧が良さそうです。

「林檎の礼拝堂 La chapelle des pommiers/集英社」

5月8日まで開催されています。

「田窪恭治 - 風景芸術」 東京都現代美術館
会期:2月26日(土)~5月8日(日)
時間:10:00~17:00(通常より1時間早く閉館。)
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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「MOTアニュアル2011」 東京都現代美術館

東京都現代美術館
「MOTアニュアル2011 Nearest Faraway|世界の深さのはかり方」
2/26~5/8



恒例のアニュアル展も今年で11回目を迎えました。東京都現代美術館で開催中の「MOTアニュアル2011」へ行って来ました。

本展に出品の作家は以下の通りです。 (参加アーティスト

池内晶子
椛田ちひろ
木藤純子
関根直子
冨井大裕
八木良太


毎年テーマを設定して現代アーティストを紹介するグループ展ですが、個々に全く異なった性格を持つ作家をとりあげながらも、全体の統一感のある展示にはいつもながらに感心させられます。

今回のサブタイトルは「Nearest Faraway|世界の深さのはかり方」です。いずれもがシンプルな素材でありながら、独特の静謐感や意外性を見せる作品などが並んでいました。


冨井大裕「ball sheet ball」2006 アルミ板、スーパーボール

そのシンプルと意外性において最も注目すべきは、トップバッターの冨井大裕かもしれません。つい先だってのレントゲンの個展でも薄いカーペットを用いながら、逆に強度のあるオブジェを出品していましたが、今回は画鋲にストローに鉛筆、またハンマーといった日用品が思わぬ非日常的な形をとって会場を賑わせています。

一推しは「えんぴつのテーブル」です。素材は色鉛筆のみですが、それが文字通りテーブルを象っての意外な美しさを見せています。

また壁面に画鋲をひたすらにおした「ゴールドフィンガー」を見ていると、そこに特段の図像がないのにも関わらず、不思議と何らかのイメージが浮き上がってくるような気がしてなりません。「見慣れた世界の風景」(ちらしより引用)は、作家のさりげない作為によって確かに変化していました。


関根直子「点の配置」2007 鉛筆、水彩紙(シリウス)

カラフルな素材を使う冨井とは一変、他の作家は主にモノクロの世界で見る側の想像力を喚起します。目黒区美術館の「線の迷宮」展(2007年)の印象も鮮烈な関根直子の鉛筆によるドローイングは、さざ波のような繊細極まりないタッチによって、闇夜に蛍が舞っているような静謐な光景を生み出していました。

一方で椛田ちひろは、同じくモノクロながらも非常に「強靭」(ちらしより引用)なイメージを作っています。

彼女の素材は黒の油彩ボールペンです。それをひたすらなぞって重ねあわせて出来た面は縦5メートル近くはあろうかというほどに巨大で、それが黒を通り越して光沢を帯びる様はもはや神々しいくらいでした。到底、この壁のような光沢面が、細いボールペンの先から生まれたとは思えません。

視覚だけでなく聴覚を利用して感覚を揺さぶるのは、ラストを飾る八木良太でした。


八木良太「Soundsphere」2010 ミクストメディア

ここで八木はカセットテープを素材にした双方向のインスタレーション「Sound sphere」で、刻まれた音の痕跡を新たなる形に解き放っています。テープのボールを持って再生機に近づけた時、元の文脈から切り離された記録の叫びが館内を木霊しました。

会期中、作家を交えてのイベントも予定されています。

MOTアニュアル2011 関連イベント

なお地震により木藤純子の作品の一部が撤去されていましたが、4月7日より展示が再開しました。


木藤純子「空見の間」2010 カッティングシート、ガラス、水、紙、ほか *参考図版

決して派手さはありませんが、じっくりと作品と向き合える良質な企画です。

5月8日まで開催されています。

「MOTアニュアル2011 Nearest Faraway|世界の深さのはかり方」 東京都現代美術館
会期:2月26日(土)~5月8日(日)
時間:10:00~17:00(通常より1時間早く閉館。)
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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「バク・スンウ Blow Up」 MISA SHIN GALLERY

MISA SHIN GALLERY
「バク・スンウ Blow Up」
3/4-4/16

MISA SHIN GALLERYで開催中のバク・スンウ個展、「Blow Up」へ行ってきました。

作家プロフィール、及び展示概要については、同ギャラリーのプレスリリースをご覧ください。

バク・スンウ BACK Seung Woo「Blow Up」@プレスリリース(pdf)

1973年韓国生まれのバクは現在、ソウルやロンドンなどで制作を続けています。また最近ではポンピドゥーセンターで開催されたグループ展(2010年)などにも参加しました。

さて今回の個展では、2001年にバクが平壌で写した北朝鮮の人々の生活や風景の写真が展示されていますが、その撮影、特にその表現の技法を知るとまた興味深いものがあります。

当然ながら監視の厳しい北朝鮮では自由に撮影出来ず、そもそも作品自体も検閲によってごく一般的な風景以外、殆ど没収されてしまったそうですが、バクは残った一部の作品をとある方法で再生し、通常では見えて来なかった北朝鮮の日常を抉りだすことに成功しました。

実際の作品を見てもなかなか気がつきませんが、どこか表面のざらっとした感触は、確かにその技法に由来するのではないかと思わせる面もあります。

隠し撮りをしたわけでもなく、言ってみれば北朝鮮当局によってお墨付きを経た作品が、バクの機転によって逆に彼の地のあるがままの姿を切り取っていることもまた面白く感じました。

「REAL WORLD/Seung Woo Back/フォイル」

4月16日まで開催されています。

「バク・スンウ Blow Up」MISA SHIN GALLERY
会期:3月4日~4月16日 火~土(日月祝休)
時間:12:00~19:00
住所:東京都港区白金1-2-7
交通:東京メトロ南北線・都営三田線白金高輪駅4番出口より徒歩5分。
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足立区立郷土博物館で「千住の琳派展」を開催

今年は酒井抱一のメモリアルイヤーということで、畠山記念館や出光美術館などで琳派関連の展覧会が続いていますが、今日より足立区の郷土博物館でも興味深い展示がはじまりました。

ちらしPDF

「千住の琳派 - 村越其栄・向栄父子の画業」 足立区立郷土博物館 4月9日~5月15日

博物館サイトによれば村越其栄と向栄の父子は、酒井抱一、鈴木其一一門の絵師で、幕末から明治にかけて、主に千住を拠点に活躍していました。

そこに掲載されている図版を見る限りでも、彼らが抱一を思わせるような花鳥画を描いていたことが伺い知れるのではないでしょうか。また「夏秋草図屏風」や「八橋図屏風」など、琳派ではお馴染みの主題の作品も手がけていました。

千住の琳派展出品リスト(PDF)

本展示は当初、3月19日より開催が予定されていましたが、震災の影響で延期され、ようやく今日からスタートすることになりました。なおスタート時は電力事情などを考慮し、公開を週末に限定していましたが、現在は通常通り平日も開館しています。

ところで琳派好きにとって見逃せないのは、酒井抱一の研究で名高い玉蟲敏子氏(武蔵野美術大学教授)の講演会が予定されていることです。

講演会:4月16日(土)14:00~ 申込不要
「琳派の受容と再生:夢の花園への憧れ」玉蟲敏子氏(武蔵野美術大学教授)
「清澄なる名残の花:村越其栄・向栄の画風について」江村知子氏(東京文化財研究所研究員)


「もっと知りたい酒井抱一/玉蟲敏子/東京美術」

玉蟲氏は東京美術の「もっと知りたい酒井抱一」など、抱一本もいくつか著されています。またこの16日は無料開館日です。私も出来れば講演にあわせて伺うつもりです。

最後にもう一つ注意したいのは会場の所在地です。「千住の琳派」と題されているので、博物館は北千住駅近辺にでもあるのかと想像してしまいますが、実際には常磐線亀有駅から北へ約2キロ程度離れた大谷田にあります。

郷土博物館にようこそ@足立区立郷土博物館(周辺地図、交通案内あり)

バス、もしくは車ではないと厳しいかもしれません。(駐車場あり)

出品数こそ少ないものの、知られざる琳派の絵師に着目したご当地ものの展覧会です。大いに注目したいと思います。

「千住の琳派 - 村越其栄・向栄父子の画業」
会期:4月9日~5月15日 月休。
時間:9:00~17:00
場所:足立区立郷土博物館 東京都足立区大谷田5-20-1
交通:JR亀有駅北口から東武バス八潮駅南口行、足立郷土博物館下車徒歩1分。もしくは東武バス六ツ木都住行、東渕江庭園下車徒歩4分。東京メトロ千代田線綾瀬駅西口から東武バス六ツ木都住行、東渕江庭園下車徒歩4分。駐車場有。
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