『彫刻刀が刻む戦後日本―2つの民衆版画運動』 町田市立国際版画美術館

町田市立国際版画美術館
『彫刻刀が刻む戦後日本―2つの民衆版画運動 工場で、田んぼで、教室で みんな、かつては版画家だった』
2022/4/23~7/3



町田市立国際版画美術館で開催中の『彫刻刀が刻む戦後日本―2つの民衆版画運動』を見てきました。

日本の戦後の学校教育においても広まった木版画は、さまざまな社会、文化的運動と関わりを持って発展していきました。

そうした戦後の版画と社会活動の変遷をたどるのが『彫刻刀が刻む戦後日本―2つの民衆版画運動』で、会場には実に400点もの版画や資料などが展示されていました。

日本の民間の版画運動の範となったのは、意外にも西洋ではなく中国で、1947年に魯迅が主導した中国の木刻と呼ばれる木版画でした。それが日本にて紹介されると、感銘を受けた人々が全国にて展覧会を開き、版画制作への熱意が高まっていきました。

1949年、中日文化研究所内に日本版画運動協会が設立されると、プロレタリア美術や風刺漫画に携わっていた版画家らが主導し、戦後の労働争議や平和運動、また反水爆運動といった社会的テーマを伴った版画を制作していきました。こうした運動にはプロの作家だけでなく、アマチュアも多く参加しました。

一方で生活や教育の中で版画を実践していこうとしたのが、日本版画運動協会のメンバーだった大田耕士により、平塚運一や恩地孝四郎らの協力を得て設立した日本教育版画協会でした。

ここでは生活版画と銘打ち、作文教育とも組み合わせながら版画教育を進めていて、日本版画運動協会のメンバーも関わっては身近な場で起こった問題などをテーマとした作品を制作していきました。


小林喜巳子『グスコーブドリの伝記』 1968年

1950年代半ばに欧米の抽象表現が席巻すると、美術館の主流から具象やリアリズムが外れ、ルポルタージュ絵画などの機運も下火になりました。すると協会に加わっていた作家の多くも社会運動や政治と距離を持つようになり、1956年には日本版画運動協会の組織的な活動が休止しました。


油井正次『牛と共に』 1986年

とはいえ、作家の中には日雇い労働者や被爆者に取材したり、当時の公害問題から明治時代の足尾銅山鉱毒事件をテーマとするなど、それぞれのライフワークともいえるような作品も制作されていきました。


青森県上北郡六戸町立昭陽小学校6年生11名『黒土がきえるとき』 1978年

ラストを飾る子どもたちが協同して制作した版画も見応え十分ではないでしょうか。日本版画教育協会のさまざまな草の根の版画普及運動の成果、1961年に実施された文部省学習指導要領に版画を作ることが奨励されると、日本全国の子どもたちが学校で版画を作るようになりました。


青森県上北郡横浜町立豊栄平小学校烏帽子平分校4〜6年生『私達の村』 1957年

60センチから180センチのベニヤ板の大きさによる共同制作の作品の多くは、数ヶ月から半年をかけて作られていて、計画や主題なども小学校の高学年から中学生たちが主体となって練りました。


神奈川県川崎市東大島小学校版画クラブ6年生13名『工場』 1968年

ここには日本教育版画コンクールの受賞作を中心に、東京、神奈川、青森、石川の各県にて制作された大型作品が並んでいて、工場や動物園、それに駅前といったリアルな風景から村の生活、さらにはファンタジックな要素が加わる版画などを見ることができました。


東京都東久留米市神宝小学校卒業生有志23名『森は生きている』 1999年

東京都東久留米市神宝小学校卒業生の有志による『森は生きている』と題した版画は、子どもたちが平和をテーマに作品を作るキッズゲルニカ・プロジェクトによるもので、生命の木を中心にさまざまな生き物や天使らが集うすがたを巨大な画面にて表現していました。まさに展覧会のハイライトを飾るにふさわしい大作といえるかもしれません。


青森県八戸市湊中学校養護学級約14名『虹の上をとぶ船・総集編』 1975年

日本の戦後の2つの版画運動を軸に、さまざまな版画家の作品を並べつつ、社会との関わりや教育のあり方についても丹念に検証していて、質量ともに大変に充実していました。


『彫刻刀が刻む戦後日本―2つの民衆版画運動』展示風景

第5章以降の一部作品の撮影が可能でした。(本エントリに掲載した写真はすべて撮影OKの作品。)


会期末を迎えました。巡回はありません。7月3日まで開催されています。*一番上の作品は『森は生きている』(部分)

『彫刻刀が刻む戦後日本―2つの民衆版画運動 工場で、田んぼで、教室で みんな、かつては版画家だった』 町田市立国際版画美術館@machida_hanbi
会期:2022年4月23日(土)~7月3日(日)
休館:月曜日。
料金:一般900(700)円、高校・大学生450(350)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
時間:10:00~17:00。
 *土日祝日は17:30まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
住所:東京都町田市原町田4-28-1
交通:JR横浜線町田駅ターミナル口より徒歩約12分。小田急線町田駅東口より徒歩約15分。企画展開催中の土曜・日曜・祝日は無料送迎バスあり。(定員10名)
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『竹村京・鬼頭健吾「色と感情」』 ポーラ ミュージアム アネックス

ポーラ ミュージアム アネックス
『竹村京・鬼頭健吾「色と感情」』
2022/6/17~7/24



ポーラ ミュージアム アネックスで開催中の『竹村京・鬼頭健吾「色と感情」』を見てきました。

ともに群馬県を拠点に活動し、パートナーでもある竹村京と鬼頭健吾は、それぞれ刺繍の作品や既製品を用いた立体作品などを手がけ、幅広く活動してきました。



その竹村と鬼頭の2人展が「色と感情」で、会場には2名の新作を含む計20点の作品が展示されていました。



まず会場に入って目に飛び込んでくるのが、骸骨の標本を用いたインスタレーションで、いずれも色とりどりの刺繍を凝らした服を身につけ、あたかも踊っているようなすがたを見せながら、カラフルな角柱に吊られていました。



そして周囲には鬼頭と竹村の刺繍、および平面の作品が分け隔てなく並んでいて、中央の骸骨のダンスを飾り立てるように鮮やかな色彩を放っていました。そしてその一部の平面の作品にも刺繍にて骸骨が象られていて、互いに手を取り合うような仕草を見せていました。



2人のアーティストは色は共通言語であり、また感情は誰もが持っているものとして、現在のコロナ禍において直接話をせずとも色と感情は共有できることに気づき、今回のタイトルを名付けました。



複雑に組み合わさる糸やさまざまな素材、そして折り重なる色を追っていくと、それぞれの作品において色が互いに深く関わり合いながら共存しているように見えるかもしれません。



竹村と鬼頭の2人での展示は、2021年の『DOMANI・明日展』以来のことでしたが、改めて複雑なテクスチャーを描く色彩豊かな作品世界に魅せられました。



ポーラ銀座ビル1階ウィンドウでも、2人の共作のインスタレーションが公開されています。お見逃しなきようにおすすめします。


7月24日まで開催されています。*写真はすべて『竹村京・鬼頭健吾「色と感情」』展示風景。撮影が可能です。

『竹村京・鬼頭健吾「色と感情」』 ポーラ ミュージアム アネックス@POLA_ANNEX
会期:2022年6月17日(金)~7月24日(日)
休館:会期中無休。
料金:無料
時間:11:00~19:00 *入場は18:30まで 
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
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『写真と絵画-セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策』 アーティゾン美術館

アーティゾン美術館
『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策 写真と絵画-セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策』 
4/29〜7/10



アーティゾン美術館における石橋財団コレクションと現代アーティストのコラボレーション企画、『ジャム・セッション』も、今年で第3回目を数えるに至りました。

今回のジャム・セッションに参加したのは、ともに写真家の柴田敏雄と鈴木理策で、2人の新作や未発表作品約130点を含む約240点と、石橋財団コレクション約40点のあわせて計280点の作品が公開されていました。



まず冒頭のセクションIでは、コンクリート擁壁や橋梁といった構造物を写す柴田の写真が展示されていて、藤島武二やマティス、それにモンドリアンの『砂丘』などの絵画も並んでいました。



地形や構造物といったかたちを際立たせるような柴田の写真は、ともすれば抽象絵画を連想させて、同じく抽象的平面を開くモンドリアンらの絵画と響きあっていました。



それに続くのが、故郷の熊野をはじめ、水面や桜の咲く景色などを捉える鈴木の作品で、モネの『睡蓮』やクールベの雪景色を描いた絵画とあわせて展示されていました。



ここでは鈴木が蓮の浮かぶ水辺を写した作品と『睡蓮』が並んでいて、ともにありのままの水面のみを捉えながら、光景そのものを切り取っては画面上で再構成するような表現に目を引かれました。



タイトルが示すように展覧会の1つの核となっていたのが、フランスのポスト印象派の画家、ポール・セザンヌの作品でした。というのも、柴田と鈴木はアーティストを志す頃からセザンヌの表現に触発されたとしていて、例えば柴田は高校時代に購入した画集にて『赤いチョッキの少年』を見たことが、美術へ進もうとしたきっかけだとキャプションにて語っていました。



そして中央にセザンヌの名作『サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール』、左右に柴田の『高知県土佐郡大川村』と鈴木の『サンサシオン 09, C-58』が横一列に並んでいて、山というモチーフから構図、そして遠近感やそれぞれのかたちがよりクリアに浮かび上がっているように思えました。

今回のジャムセッションで興味深いのは、主に絵画のコレクションだけでなく、例えば円空の仏像やジャコメッティといった彫刻の作品も出展していたことでした。



そのうち柴田は円空の二体の仏像を選んで展示していて、山の樹木より削り出されたプリミティブともいえる造形が、柴田の幾何学的な写真の構図と呼応していました。



鈴木の連作『Mirror Portrait』とは、鏡によって反転した人物が写し出されたポートレイトで、エドゥアール・マネの『自画像』を頂点にした通路のようなスペースにて左右並んで展示されていました。



この『Mirror Portrait』の一方の壁の反対側には実際の鏡が設置されていて、ジャコメッティの『ディエゴの胸像』をはじめとした周囲の作品が映り込んでいました。こうした見ると見られるの関係を問い直すような展示も面白いのではないでしょうか。



アーティゾン美術館の定評のある西洋美術コレクションと、いま充実した制作を続ける柴田と鈴木の2人の写真を同時に楽しめる贅沢な内容といえるかもしれません。なおアーティゾン美術館にて写真家の作品を本格的に取り上げるのは、前身のブリヂストン美術館時代を含めて初めてのことだそうです。



このほか、雪舟と2人の写真家の作品を参照するかつてない試みなど、リニューアルオープン以後、ますます活動の幅を広げるアーティゾン美術館ならではのチャレンジングな展示ともいえそうです。


会期末が迫ってきました。7月10日まで開催されています。おすすめします。

*写真は『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策 写真と絵画-セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策』展示風景。撮影が可能です。

『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策 写真と絵画-セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策』 アーティゾン美術館@artizonmuseumJP
会期:2022年4月29日(金・祝)〜7月10日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00
 *毎週金曜日は20時まで。(但し4月29日を除く)
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:【ウェブ予約チケット】一般1200円、大学・高校生無料(要予約)、中学生以下無料(予約不要)。
 *事前日時指定予約制。
 *ウェブ予約チケットが完売していない場合のみ当日チケット(1500円)も販売。
住所:中央区京橋1-7-2
交通:JR線東京駅八重洲中央口、東京メトロ銀座線京橋駅6番、7番出口、東京メトロ銀座線・東西線・都営浅草線日本橋駅B1出口よりそれぞれ徒歩約5分。
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2022年下半期見たい展覧会5選

夏至を過ぎ、今年も残すところあと半分となりました。7月から12月の下半期に見ておきたい展覧会をPenオンラインに寄稿しました。



「Pen」が選んだ、2022年下半期「必見の展覧会」5選|Pen Online

記事に取り上げたのは以下の5展です。

1.『ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで』@東京都現代美術館【7/16~10/16】
2.『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』@国立新美術館【8/10~11/7】
3.『ナラヒロ ドキュメント展(仮)』@弘前れんが倉庫美術館【9/17~2023/1/28】
4.『アンディ・ウォーホル・キョウト』@京都市京セラ美術館【9/17~2023/2/12】
5.【すべて未知の世界へ ―GUTAI 分化と統合』大阪中之島美術館+国立国際美術館【10/22~2023/1/9】

いずれも楽しみな展覧会ばかりですが、私が特に期待しているのが国立新美術館にて開催される『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』です。これはもの派の重鎮とも呼ばれる李禹煥の軌跡をたどるもので、国内の美術館としては「李禹煥 余白の芸術展」(横浜美術館、2005年)以来、実に17年ぶりのことになります。

当時の展覧会では、李自身がプランニングした空間にて約40点の作品を公開していましたが、今回も同じく本人が展示構成を考案し、最初期から最新作までを彫刻と絵画の2つのセクションに分けて紹介されます。横浜美術館では床のカーペットを取り払い、コンクリート剥き出しの空間を取り込むように作品が展開していましたが、国立新美術館の展示室をどのように用いるのかにも注目が集まりそうです。


上記5展以外にて、7月から12月まででの気になる展覧会をリストアップしてみました。(他会場へ巡回する展覧会を含みます。)

『みる誕生 鴻池朋子展』 高松市美術館 7/16~9/4
『ライアン・ガンダー われらの時代のサイン』 東京オペラシティアートギャラリー 7/16~9/19
『展覧会 岡本太郎』 大阪中之島美術館 7/23~10/2
『ボストン美術館展 芸術×力』 東京都美術館 7/23~10/2 
『ピカソ 青の時代を超えて』 ポーラ美術館 9/17~2023/1/15
『響きあう名宝―曜変・琳派のかがやき―』 静嘉堂文庫美術館 10/1~12/18
『時を超えるイヴ・クラインの想像力―不確かさと非物質的なるもの』 金沢21世紀美術館 10/1~2023/3/5
『特別展 没後80年記念 竹内栖鳳』 山種美術館 10/6~12/4
『野口里佳(仮称)』 東京都写真美術館 10/7~2023/1/22
『特別展 京(みやこ)に生きる文化 茶の湯』 京都国立博物館 10/8~12/4
『鉄道と美術の150年(仮称)』 東京ステーションギャラリー 10/8~2023/1/9
『ベルクグリューン・コレクション展(仮称)』 国立西洋美術館 10/8~2023/1/22
『よみがえる川崎美術館―川崎正蔵が守り伝えた美への招待―』 神戸市立博物館 10/15~12/4
『特別展 国宝 東京国立博物館のすべて』 東京国立博物館 10/18~12/11
『没後200年 亜欧堂田善展』 福島県立美術館 10/29~12/18
『大竹伸朗展』 東京国立近代美術館 11/1~2023/2/5
『戸谷成雄展』 長野県立美術館 11/4~2023/1/29
『中﨑透展』 水戸芸術館 11/5~2023/1/29
『砂澤ビッキ展』 北海道立近代美術館 11/22~2023/1/22
『マリー・クワント展』 Bunkamura ザ・ミュージアム 11/26~2023/1/29
『京都・智積院の名宝』 サントリー美術館 11/30~2023/1/22

また今年はコロナ禍を踏まえ、全国各地にて芸術祭も開かれています。現在開催中の『越後妻有 大地の芸術祭 2022』や『瀬戸内国際芸術祭』だけでなく、『あいちトリエンナーレ』の後継となる『あいち2022』などにも話題が集まりそうです。

『越後妻有 大地の芸術祭 2022』 新潟県十日町市、津南町(越後妻有地域) 4/29~11/13
『Reborn-Art Festival 2021-22』 宮城県石巻市、牡⿅半島 後期:8/20~10/2
『MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館』 奈良県吉野町、天川村、曽爾村 9/17~11/13
『瀬戸内国際芸術祭』 岡山県、香川県(瀬戸内海一帯) 夏会期:8/5~9/4 秋会期:9/29~11/6
『岡山芸術交流 2022』 岡山市 9/30~11/27
『BIWAKOビエンナーレ』 近江八幡市、彦根市 10/8~11/27

関連エントリ:2022年上半期に見たい展覧会5選

今後、会期の変更などが行われる場合もあります。最新の開催状況については各美術館のサイトにてご確認ください。
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『ワニがまわる タムラサトル』 国立新美術館

国立新美術館
『ワニがまわる タムラサトル』 
2022/6/15~7/18



国立新美術館で開催中の『ワニがまわる タムラサトル』を見てきました。

1972年生まれたの現代美術家、タムラサトルは、これまでに主に電気で動く立体作品を手がけ、国内にて個展を開いてきたほか、リバプールや釜山といった海外のビエンナーレにも参加して幅広く活動してきました。

そのタムラの初の国立美術館での個展が『ワニがまわる』で、タイトルの通りにワニをモチーフとした電動の立体作品によるインスタレーションが公開されていました。



ともかく展示室に入って目に飛び込んでくるのがワニを象った約1100体ものオブジェで、いずれもがスピードこそ異なりながらもくるくるとひたすらに回転していました。



ワニは緑や青、赤、黄色など鮮やかな色に彩られていて、サイズも10メートル以上もある巨大なワニから10センチ程度のものまでとさまざまでした。



このワニの回転する作品はタムラが実に30年越しに手がけてきたもので、ワニの数や色、またサイズや回転速度を変化させながらバリエーションを変えて生み出してきました。そしてワニを作るきっかけとなったのが、学生時代に出された「電気を使った芸術装置」という課題でした。



ワニの一部は、タムラが籍を置く宇都宮メディア・アーツ専門学校の学生や、日本大学芸術学部デザイン学科の有志、それに国立新美術館にて行われたワークショップの参加者によって制作されていて、ワークショップの様子を捉えた写真もパネルにて紹介されていました。



ひたすらに回転を続けるワニがひしめく中、唯一、展示室の奥の黄色の大きなワニだけは静止していて、しばらくするといきなり音を立てながら勇ましく回転しはじめました。こうしたサプライズのようなワニの動きも面白いところかもしれません。

タムラは来場者へ「わけが分からないもやもやの楽しさを感じてほしい。」とのメッセージを発していましたが、まさに美術館の展示室にて無数のワニのオブジェがまわるという不可思議な状況にこそ面白さがあるのではないでしょうか。



何せ1100体ものワニを回転させているゆえに、床面には多くの電線が張り巡らされていました。タムラ自身もインタビュー映像にて「歯車1つ足りないと動かなくなる。」と語っていましたが、いわゆるメンテナンスも展示を続ける上で大切の作業といえるかもしれません。



入場は無料です。7月18日まで開催されています。

『ワニがまわる タムラサトル』 国立新美術館@NACT_PR
会期:2022年6月15日(水)~7月18日(月・祝)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00
 *毎週金・土曜日は20:00まで
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:無料
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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『孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治』 府中市美術館

府中市美術館
『孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治』
2022/5/21〜7/10



府中市美術館で開催中の『孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治』を見てきました。

明治時代、主にイギリスなどの海外からやってきた画家たちは、日本の風景を主に水彩にて描き、作品を本国に持ち帰っては親しみました。一方で日本の画家も水彩の表現に魅せられると、観光名所などを描き続け、多くの作品が海外へと渡りました。

そうした海外へと渡った明治時代の風景水彩画に着目したのが『孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治』で、いずれも実業家の高野光正が海外にて収集したコレクション、約360点(展示替えあり)が公開されていました。

さてこの展覧会ではチャールズ・ワーグマン、五姓田義松、吉田博、鹿子木孟郎、大下藤次郎といった、比較的名の知れた画家の作品も少なくありませんが、むしろ興味深いのは、ほとんど知られていない画家の作品が多く展示されていることでした。


左から笠木治郎吉『帰猟』、『花を持つ少女』

たとえば冒頭に紹介された画家、笠木治郎吉は、高野コレクションによって発見された人物で、高野自身が絵に記されたサインのみを頼りに、電話帳から遺族の連絡先を探りあてました。


左から笠木治郎吉『春の少女』、『提灯屋の店先』

笠木は明治の人々の暮らしを外国人向けに明快に表していて、一連の水彩画からは漁業や狩猟に従事する人々の息遣いが伝わってきました。名は知られていなかったとはいえ、細かな描写は瑞々しい水彩表現などは魅力的ではないでしょうか。(笠木治郎吉の展示スペースのみ撮影が可能でした。)

この笠木の次に続くのが、明治時代に来日したイギリス人を中心とする外国人画家の描いた風景画でした。そしてアルフレッド・イーストやモーティマー・メンペス、ウォルター・ティンデル、エラ・デュ・ケインなど、ほとんど知られていない画家で占められていて、そもそも初めて見る作品ばかりでした。

ここでは東照宮や富士山、また宮島といった観光地とともに、京都の芸妓や子守の少年、また芝居小屋に集う人々などの市井の人々のすがたを情感豊かに描いていて、まさにいまは失われた明治の情景を目にすることができました。



一方で日本人画家においてもやはり知られざる画家の作品が目立っていて、沼辺強太郎や河久保正名、田淵保らに至っては生没年すら分かっていませんでした。ともすれば今回の高野コレクションの公開に伴う研究や調査により、今後、制作の全容が明らかになっていく画家も少なくないかもしれません。

高野は一連のコレクションをほぼ全て、アメリカ、またはロンドンにて入手していて、結果的に今に至るまで700点のコレクションを築き上げました。

展示は昨年に京都国立近代美術館で開催された『発見された日本の風景』に作品を追加して構成したもので、多くの作品を公開するためか、通常、常設展に用いられるスペースへも拡張して展示が行われていました。

いずれの作品も大半は東京で初公開となるものばかりで、それこそこのような画家とコレクターがいたのかという驚きと発見に満ちた展覧会でした。



展示替えの情報です。会期中、前後期にて約50点ほどの作品が入れ替わります。

『孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治』出品リスト(PDF)
前期:5月21日(土)〜6月12日(日)
後期:6月15日(水)〜7月10日(日)


チケットに2度目の観覧が半額になる割引券がついていました。私は前期のラストでの滑り込みとなりましたが、後期も出向くつもりです。



7月10日まで開催されています。おすすめします。

『孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治』 府中市美術館@FuchuArtMuseum
会期:2022年5月21日(土)〜7月10日(日)
休館:月曜日。6月14日(火)。
時間:10:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで
料金:一般700(560)円、大学・高校生350(280)円、中学・小学生150(120)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *府中市内の小中学生は「学びのパスポート」で無料。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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『ミントデザインズ大百科:Mintpedia』 スパイラル

スパイラル
『ミントデザインズ大百科:Mintpedia』
2022/6/8〜6/19



スパイラルで開催中の『ミントデザインズ大百科:Mintpedia』を見てきました。

2001年に設立されたブランド、ミントデザインズは、「プロダクトデザインとしての衣服」や「ユニバーサルデザインの視点」をコンセプトに衣服などを作り続け、多くの人々の心をとらえてきました。

そのミントデザインズの20周年を期して開かれているのが『ミントデザインズ大百科:Mintpedia』で、会場では衣服、プロダクト、映像などを通してミントデザインズの仕事が紹介されていました。



まずはじめに展示されていたのは、ミントデザインズのショーの光景やデザイナーのインタビューを収録した映像で、これまでのミントデザインズの活動や基盤となる世界観について触れることができました。



それに続くのが衣服以外のデザインのプロダクトで、靴や紙ボタンネックレスなどが、道具類やモックアップとともに、まるで標本資料のように展示していました。



そして螺旋の通路のある吹き抜けのスペースでは、「ランドスケープとしての衣服」をテーマに、2000年から現在までの40シーズンの衣服が並んでいて、20年にわたるコレクションを一望することができました。



このほか、プリントドレスや、プリント工場にて使われる捺染用のシルクスクリーンの版も興味深いのではないでしょうか。



ミントデザインズでは、服を着る楽しみとともに、見る人を楽しませるものであって欲しいとの思考の元、これまでに豊かな色彩やグラフィカルなモチーフによるテキスタイルを多く手がけてきました。まさにそうしたファッションの楽しさを感じられるような展示だったかもしれません。


入場は無料です、6月19日まで開催されています。

『ミントデザインズ大百科:Mintpedia』 スパイラル@SPIRAL_jp
会期:2022年6月8日(水)〜6月19日(日)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-6-23
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅B1出口すぐ。
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泉屋博古館東京にて『光陰礼讃―モネからはじまる住友洋画コレクション』が開かれています 

今年3月にリニューアルオープンを果たした泉屋博古館東京にて、リニューアル記念展の第2弾となる『光陰礼讃―モネからはじまる住友洋画コレクション』が開催されています。



その内容についてWEBメディアのイロハニアートへ寄稿しました。

激動の時代を経て今に伝わる名画たち。『光陰礼讃―モネからはじまる住友洋画コレクション』の見どころ | イロハニアート

今回の展覧会では、泉屋博古館のコレクションの元になった住友家が、どのように作品を選び、また収集していたのかについて紹介していて、とりわけ現在の住友グループの礎を築いた住友春翠の活動について掘り下げていました。

春翠は明治時代、渡欧していた画家、鹿子木孟郎に留学資金を支援する代わりとして、西洋絵画の収集を依頼していて、当時、ジャン=ポール・ローランスの弟子だった鹿子木は、ローランスの作品とともに、フランスの外光派やイギリスのアカデミーの画家の作品を春翠の元へと送りました。

そして帰国後もアカデミックな写実画を志向する太平洋画会の画家らの作品をはじめ、文展などの出展作より春翠好みの作品などを仲介しました。



春翠が絵画を熱心に収集した理由の1つとして挙げられるのが、明治36年に須磨に建てた「須磨別邸」と呼ばれる邸宅でした。ここに洋館を築いた春翠は、各部屋の用途や性格に応じて絵画を飾り、要人から近隣の人々を招待してはコレクションを見せました。

展示では春翠らの集めた一連のコレクションとともに、須磨別邸の模型なども紹介されていて、当時の邸宅内を捉えた写真もパネルにて見ることができました。


住友家の収集したモネの『モンソー公園』は、かなり早い段階に日本に流入したモネの絵画の1つとされていて、ローランスの大作『マルソー将軍の遺体の前のオーストリアの参謀たち』なども見応えがありました。

一方で作品数としては国内の画家の方が充実していて、浅井忠や藤島武二、岸田劉生といったよく知られた画家とともに、東京ではほぼ初公開とされる仙波均平の『静物』や、別邸に飾られて今回が初公開となる川久保正名の『海岸燈台之図』などの珍しい作品にも目を引かれました。



会期中の展示替えはありません。7月31日まで開催されています。

『泉屋博古館東京リニューアルオープン記念展Ⅱ 光陰礼讃 ―モネからはじまる住友洋画コレクション』 泉屋博古館東京@SenOkuTokyo
会期:2022年5月21日(土)~7月31日(日)
休館:月曜日。月曜日(祝日の場合は翌平日休館)
時間:11:00~18:00
 *金曜日は19時まで開館
 *入館は閉館の30分前まで
料金:一般1000(800)円、高校・大学生600(500)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体。
住所:港区六本木1-5-1
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅北改札1-2出口より直通エスカレーターにて徒歩5分。
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『空箱職人はるきる展 Miracle Package Art』 そごう美術館

そごう美術館
『空箱職人はるきる展 Miracle Package Art』
2022/5/27~7/3



そごう美術館で開催中の『空箱職人はるきる展 Miracle Package Art』を見てきました。

お菓子や飲料の空き箱といったパッケージを用い、独自のキャラクターや乗り物、また建物に街などを制作するはるきるは、SNSにて作品を公開するだけでなく、企業とのコラボを行うなど多様に活動してきました。

そのはるきるの美術館として初の個展が『空箱職人はるきる展 Miracle Package Art』で、旧作から新作までのいわゆる空箱アートの作品、約60点が公開されていました。


『アルフォートの空飛ぶ船』

まずはるきるが最初にSNSへ発表したのが『アルフォートの空飛ぶ船』で、ブルボンのアルフォートミニチョコレートから立体的な飛行艇を作り上げていました。


『アルフォートの鯨と船』

そして隣には最近の新作で同じくアルフォートの空き箱を用いた『アルフォートの鯨と船』が並んでいて、新旧作を見比べることができました。


『ムーンライトの時計塔』

はるきるの制作の重要なポイントとして挙げられるのが、箱のイメージを大切にしつつ、箱の文字を活かし、また奥行きを生み出すように立体的に作ることで、例えば森永のムーンライトを用いた『ムーンライトの時計塔』においても月をテーマにした箱のイメージを巧みに活かしていました。


『スタイリッシュなガリガリ君』

『スタイリッシュなガリガリ君』では翼にソーダの文字をつけ、クールなキャラクターの個性を引き立てていて、パッケージに登場する丸刈りの子どものすがたとは異なったヒーローとして表現していました。


『リッツのライオン』

このようにはるきるは箱の本体や包紙といった箱そのものだけの素材を用い、設計図などは描かず、頭の中で想像しながらハサミやカッター、接着剤を使って作品を作り続けてきました。


『鬼ころしの鬼』

今回の個展でとりわけ目を引いたのが、暗室の中、赤いライトに浮かび上がる『鬼ころしの鬼』で、清洲桜醸造の鬼ころし2Lパックを用いた作品でした。


『鬼ころしの鬼』

そこには鬼滅の刃からインスピレーションを受けたというパッケージの鬼が立体的に表現されていて、箱の裏側の銀紙を使って表現した逆立つ髪なども細かに作られていました。


『どん兵衛の侍』

このほか、日清のどん兵衛を使った『どん兵衛の侍』や、明治のきのこの山から作り出した『きのこの山・たけのこの里の終わらない戦い』なども動きを感じさせる躍動的な作品といえるかもしれません。


『カップヌードル スーパー合体』

2種類のカップヌードルのパッケージを用い、4体の融合戦士を作った『カップヌードル スーパー合体』も迫力十分ではなかったでしょうか。そこにはカップヌードルと塩味や欧風チーズカレーとチリトマト、それにシーフードとカレーといったパッケージから異なったキャラクターが生み出されていて、まさに戦隊モノのような勇ましくスタイリッシュなすがたを見せていました。


『カップヌードル スーパー合体』から

またパワータイプの戦士やスナイパー、それに野生的で獣のような感じなど、個々のキャラクターに異なった性格もつけられていました。このように細かな箱の工作ではなく、箱とキャラクターの関係に意味を与えるようなアイデアもはるきるの制作の魅力かもしれません。


「はるきるルーム」

「はるきるルーム」と題し、はるきるが空箱工作を行う部屋を再現した展示も面白いかもしれません。また一部作品における制作時の映像も公開されていました。


SNSでも大人気!空箱職人・はるきるが生み出す空箱アートとは? | イロハニアート

会場内の撮影も可能です。7月3日まで開催されています。

『空箱職人はるきる展 Miracle Package Art』 そごう美術館@sogo_museum
会期:2022年5月27日(金)~7月3日(日) 
休館:会期中無休。
時間:10:00~20:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1200(1000)円、大学・高校生800(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は各種割引料金。
住所:横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店6階
交通:JR線横浜駅・京急線横浜駅東口より徒歩3分。東急線・みなとみらい線横浜駅より徒歩5分。相鉄線横浜駅より徒歩7分。横浜市営地下鉄ブルーライン横浜駅より徒歩10分。
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『JAGDA新人賞展2022 佐々木拓・竹田美織・前原翔一』 クリエイションギャラリーG8

クリエイションギャラリーG8
『JAGDA新人賞展2022 佐々木拓・竹田美織・前原翔一』 
2022/5/31~7/2



公益社団法人日本グラフィックデザイン協会(略称JAGDA)が、39歳以下の若い世代のグラフィックデザイナーを顕彰する『JAGDA新人賞展2022』が、今年も銀座のクリエイションギャラリーG8にて開かれています。

今年度の新人賞に輝いたのが、137名の対象者より選定された佐々木拓、竹田美織、前原翔一の3名のデザイナーで、会場にはポスターやプロダクトなどを中心に、受賞作品や近作が展示されていました。



1985年に生まれてコクヨにて活動する佐々木拓は、商品ブランドの企画や空間サイン計画などに携わっていて、今回もコクヨに関するグッズ類を多く出展していました。



ここで面白いのはライフスタイルショップの「THINK OF THINGS(シンク オブ シングス)」のスタンダードのアイテムを「夜仕様」にアレンジした商品で、「夜ならではの生活のシーンから着想したコーヒー豆」や「ホログラムの塊のような、光り輝くノート」といった夜をイメージした作品が並んでいました。



デザインとともに、作品を生み出すアイデアそのものもユニークで楽しいのではないでしょうか。



3名の中で最年少の竹田美織は、資生堂クリエイティブ本部に所属後、昨年に独立を果たしていて、ファッションやジュエリーブランドのアートディレクションなどを手がけてきました。



よってベイクルーズのファッションブランドの「IENA」のラッピングツールや、資生堂の化粧ブランドのポスターなどが並んでいて、スタイリッシュともいえるデザインを見ることができました。



一方で電通テックなどを経て独立して活動する前原翔一は、屋外作業機械メーカーやまびこの社内報のポスターや、花いけワークショップのポスター「花あそ部」などを展示していて、プリミティブとも呼べるような遊び心のあるデザインが目を引きました。



受付にて販売されていた3名のデザインした測量野帳も魅惑的かもしれません。それぞれのデザイナーが創意工夫を凝らした三者三様のデザインを見ることができました。


いま注目の若手グラフィック・デザイナーをチェック!『JAGDA新人賞展2022』|Pen Online

会場内の撮影も可能です。7月2日まで開催されています。

『JAGDA新人賞展2022 佐々木拓・竹田美織・前原翔一』 クリエイションギャラリーG8@g8gallery
会期:2022年5月31日(火)~7月2日(土)
休館:日曜日。
時間:11:00~19:00。
料金:無料。
住所:中央区銀座8-4-17 リクルートGINZA8ビル1F
交通:JR線新橋駅銀座口、東京メトロ銀座線新橋駅5番出口より徒歩3分。
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『聖観音立像/長浜市湖北町山本 常楽寺蔵』 東京長浜観音堂

東京長浜観音堂
『聖観音立像/長浜市湖北町山本 常楽寺蔵』
2022/​5/12〜6/12



かつて上野に「びわ湖長浜KANNON HOUSE」として開設され、2021年度に八重洲へと移転オープンした東京長浜観音堂にて、滋賀県湖北地域にゆかりのある観音像が公開されています。



それが長浜市湖北町山本の常楽寺蔵の『聖観音立像』で、平安時代後期(12世紀)の一木造の仏像でした。像高は101センチほどで左手で蓮華を持ち、右手で茎を支えながら、やや腰を左に曲げて台座の上に立っていました。



衣は平滑にかたどられていて、表情は穏やかに見えましたが、見開きは強く、泰然としつつも僅かな笑みを浮かべているようにも思えました。現在は古色であるものの、一部には金箔痕も残されていて、独立したケースに納められているために、360度の角度から鑑賞することもできました。



常楽寺は琵琶湖に面した山本山の中腹に建っていて、戦国時代には浅井氏側の支城が置かれたことから、信長軍らの兵火などによって多くの寺宝が焼失しました。そして一部が移されて再興すると、現在は自治会から選ばれた3名の総代と呼ばれる役員らが寺を守り、「山寺」と呼ばれて親しまれてきました。



東京長浜観音堂は東京駅に程近い、八重洲中通りに面した八重洲セントラルビルの4階に開設されていて、長浜市に本社を置く近交運輸グループの東京支社一角を借りてオープンしました。また同じ日本橋には、コレドの向かいに滋賀県のアンテナショップである「ここ滋賀」も位置しています。

【東京長浜観音堂 2022年度 公開スケジュール】

第1期:2022年5月12日(木)~6月12日(日)
第2期:8月2日(火)~8月31日(水)
第3期:11月1日(火)~11月30日(水)
第4期:2023年2月1日(水)~2月28日(火)


今年度は『聖観音立像』を含め、5月より1ヶ月ずつ、それぞれに異なった仏像が出陳されます。

入場は無料です。『聖観音立像』(長浜市湖北町山本 常楽寺蔵)は6月12日まで公開されています。

『聖観音立像/長浜市湖北町山本 常楽寺蔵』 東京長浜観音堂@nagahama_kannon

会期:2022年​5月12日(木)〜6月12日(日)
休館:月曜日。(祝日の場合は翌日)
時間:10:00~18:00
料金:無料
場所:中央区日本橋2-3-21 八重洲セントラルビル4階内
交通:JR線東京駅八重洲北口より徒歩5分。東京メトロ銀座線・東西線・都営浅草線日本橋駅B7出口より徒歩5分。
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『アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真』 東京都写真美術館

東京都写真美術館
『アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真』
2022/5/20~8/21



東京都写真美術館で開催中の『アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真』を見てきました。


左:マン・レイ『長い髪の女』 1929年

1930年から40年代の前半にかけ、海外のシュルレアリスムや抽象美術の影響を受けて、国内において前衛的な写真表現を目指す主にアマチュアの写真家たちがいました。


右:平井輝七『生命』 1938年

そうした写真家の活動を紹介するのが『アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真』で、会場には国内と影響を与えた海外の写真をあわせ、約150点の作品が公開されていました。


安井仲治『ネギの花』 1937年

今回の展示で興味深いのは、前衛的な表現を志向した写真家を、大阪、名古屋、福岡、そして東京の4つのグールプに分けて紹介していることで、それぞれ地域でどのように写真家が活動していったのかをたどることができました。


矢野敏延『曲線』 1935年

大阪は日本において最も前衛写真が早くから広がった地域で、1904年創設の国内最古の写真クラブである「浪華写真倶楽部」をきっかけに、1930年に安井仲治らによる「丹平写真倶楽部」、そして1937年に平井輝七らよって「アヴァンギャルド造影集団」が結成されるなど、前衛写真表現が多様に広がっていきました。


右:後藤敬一郎『最後の審判図』 1935〜40年

一方で名古屋では評論家や詩人、写真家らが協同するようなかたちで進展していって、日本にシュルレアリスムを紹介した詩人の山中散生による「ナゴヤアバンガルドクラブ」の写真部が独立し、1939年に「ナゴヤ・フォト・アヴァンガルド」が結成されるなどして活動しました。


『アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真』展示風景

福岡では古い(フルイ)を逆さ読みした「イルフ」と名乗る「ソシエテ・イルフ」が、1930年代半ばから活動し、シュルレアリスムや抽象芸術といった新しい表現を実践していきました。

1934年に「なごや・ふぉと・ぐるっぺ」を結成した坂田稔は、大阪在住時代に「浪華写真倶楽部」に属していて、福岡を訪ねては「ソシエテ・イルフ」にも影響を与えました。各地域における前衛写真家のグループは、それぞれ独自に活動しつつも、横断するように行き来することもありました。


濱谷浩『東京浅草 花月劇場の楽屋〈東京〉より』 1939年

東京で前衛写真の中心となったのは、1938年に瀧口修造や奈良原弘によって設立された「前衛写真協会」でした。そこは写真家だけでなく画家らも参加した一方、瑛九や恩地孝四郎といった美術家は、グループに属さずにフォトグラムやフォトモンタージュといった前衛的な作品を発表しました。


右:中山岩太『コンポジション(ミモザ)』 1930年頃

こうして各地で隆盛した日本の前衛写真でしたが、当時の戦時下体制の強化に伴って規制を受けると、1939年頃から各グループにおいて名称の変更を余儀なくされるなど影響を受けました。そして1941年には滝口が逮捕され、写真雑誌も統合されると、自由な表現ができなくなり、写真材料の輸入も困難となって、活動は収束へと追い込まれてしまいました。


小石清『静謐〈半世界〉より』 1940年

こうした前衛写真の研究が進んだのは、ここ20~30年程度に過ぎないそうですが、日本の一時期に同時多発的に起こった動きを多面的に検証していたのではないでしょうか。見応えは十分でした。


日本の知られざる前衛写真家たちの作品が集結。『アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真』展|Pen Online

同館所蔵作品のみ撮影も可能です。8月21日まで開催されています。

『アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真』 東京都写真美術館@topmuseum
会期:2022年5月20日(金)~8月21日(日)
休館:月曜日。(月曜日が祝休日の場合開館し、翌平日休館)
時間:10:00~18:00
 *木・金曜日は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700円、学生560円、中高生・65歳以上350円。
場所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口より徒歩約7分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分。
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2022年6月に見たい展覧会【自然と人のダイアローグ/リヒター/シャネル】

梅雨を控え、蒸し暑い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。5月にはこの春の西洋美術展にて最も人気を集めた『メトロポリタン美術館展』や、会期末にかけて多くの人が詰めかけた『上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー』などが閉幕しました。ご覧になった方も多いかもしれません。



夏に向けて6月に新たにスタートする展覧会は少なくありません。今月に見たい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・『金氏徹平 S.F. (Something Falling/Floating)』 市原湖畔美術館(4/16~6/26)
・『新しいエコロジーとアート』 東京藝術大学大学美術館(5/28~6/26)
・『生誕110周年 奥田元宋と日展の巨匠―福田平八郎から東山魁夷へ』 山種美術館(4/23~7/3)
・『OKETA COLLECTION Mariage -骨董から現代アート-」展 WHAT MUSEUM(4/28~7/3)
・『空箱職人はるきる展』 そごう美術館(5/27~7/3)
・『阿弥陀如来 浄土への憧れ』 根津美術館(5/28~7/3)
・『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策 写真と絵画-セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策』 アーティゾン美術館(4/29~7/10)
・『孤高の高野光正コレクションが語る  ただいま やさしき明治 発見された日本の風景』 府中市美術館(5/21~7/10)
・『ワニがまわる タムラサトル』 国立新美術館(6/15~7/18)
・『津田青楓 図案と、時代と、』 渋谷区立松濤美術館(6/18~8/14)
・『生誕100年朝倉摂展』 練馬区立美術館(6/26~8/14)
・『生誕150年 板谷波山 ―時空を超えた新たなる陶芸の世界』 出光美術館(6/18~8/21)
・『北斎 百鬼見参』 すみだ北斎美術館(6/21~8/28)
・『歌枕 あなたの知らない心の風景』サントリー美術館(6/29~8/28)
・『カラーフィールド 色の海を泳ぐ』 DIC川村記念美術館(3/19~9/4)
・『蜷川実花「瞬く光の庭」』 東京都庭園美術館(6/25~9/4)
・『開館20周年記念展 モネからリヒターへ ―新収蔵作品を中心に』 ポーラ美術館(4/9~9/6)
・『リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで』 国立西洋美術館(6/4~9/11)
・『ガブリエル・シャネル展 ― Manifeste de mode』 三菱一号館美術館(6/18~9/25)
・『ゲルハルト・リヒター展』 東京国立近代美術館(6/7~10/2)
・『クリストとジャンヌ=クロード』 21_21 DESIGN SIGHT(6/13~2023/2/12)

ギャラリー

・『熊谷亜莉沙|私はお前に生まれたかった』 ギャラリー小柳(4/16~6/22)
・『線のしぐさ』 東京都渋谷公園通りギャラリー(4/23~6/26)
・『䑓原蓉子 : 食べてください食べないでください』 Take Ninagawa(5/7~7/2)
・『JAGDA新人賞展2022 佐々木拓・竹田美織・前原翔一』 クリエイションギャラリーG8(5/31~7/2)
・『世界の終わりと環境世界展』 GYRE GALLERY(5/13~7/3)
・『和田礼治郎 Market and Thieves in a Cloister」 SCAI THE BATHHOUSE(5/31~7/9)
・『米田知子 残響―打ち寄せる波』 シュウゴアーツ(6/4~7/9)
・『菅木志雄 有でもなく無でもなく」 小山登美夫ギャラリー六本木(6/11~7/9)
・『竹村京・鬼頭健吾「色と感情」』 ポーラ ミュージアム アネックス(6/17~7/24)
・『末光弘和+末光陽子 / SUEP.展 Harvest in Architecture 自然を受け入れるかたち』 TOTOギャラリー・間(6/8~9/11)

まずは今年4月にリニューアルした国立西洋美術館が、それ以降に初めて企画展示室にて開く展覧会です。『自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで』が開かれます。



『リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで』@国立西洋美術館(6/4~9/11)

ここでは国立西洋美術館とドイツ・エッセンのフォルクヴァング美術館のコレクションから、印象派とポスト印象派を軸に、ドイツ・ロマン主義から20世紀絵画までの100点を超える作品を紹介するもので、「自然」をキーワードにして芸術表現の展開をたどります。


両館はともに同時代を生きた松方幸次郎とカール・エルンスト・オストハウスの二人のコレクターの作品を基盤としていて、すでに行われたドイツ展とは作品をテーマをかえて開かれるコラボレーション展となります。

続いては現代美術です。ドイツのアーティスト、ゲルハルト・リヒターの個展が東京国立近代美術館にて開催されます。



『ゲルハルト・リヒター展』@東京国立近代美術館(6/7~10/2)

これはリヒターの画業を旧作から最新作のドローイングを含む約110点の作品にてたどるもので、あわせてホロコーストを主題とした近年の大作『ビルケナウ』が日本で初めて公開されます。


リヒターでの国内の個展は2005年から翌年2006年にかけて金沢21世紀美術館とDIC川村記念美術館で開催されて以来、実に16年ぶりとなるだけに、ともすれば今年最も注目される現代アート展になるかもしれません。

ラストは日本では32年ぶりとなるシャネルの回顧展です。三菱一号館美術館にて『ガブリエル・シャネル展 ― Manifeste de mode』が行われます。



『ガブリエル・シャネル展 ― Manifeste de mode』@三菱一号館美術館(6/18~9/25)

1920年代の新しい女性像の流行を先導したガブリエル・シャネルは、20世紀で最も影響力の大きいデザイナーの1人とも言われ、現在も世界有数のファッションブランドとして知られるなど多くの人々に愛されてきました。


そのシャネルの業績を、各時代を代表する服飾作品だけでなく、香水瓶やイヤリング、ネックレスといったアクセサリーなどにて明らかにするもので、ガリエラ宮パリ市立モード美術館、およびパリ・ミュゼが主催する国際巡回展となります。ジョサイア・コンドル設計の三菱一号館を復元した、煉瓦造りの重厚な空間との響き合いにも注目が集まりそうです。

イロハニアートでも6月のおすすめの展覧会をご紹介しました。


リヒター、タムラサトル、そして青楓まで。6月のおすすめ展覧会5選 | イロハニアート

それでは今月もどうぞよろしくお願いします。
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