「セザンヌ展」 国立新美術館

国立新美術館
「セザンヌーパリとプロヴァンス」展
3/28-6/11



国立新美術館で開催中の「セザンヌーパリとプロヴァンス」展、プレスプレビューに参加してきました。

「近代絵画の父」と称され、印象派、後期印象派の画家では最も重要とされるポール・セザンヌ(1839-1906)ですが、意外にも画業をまとめて展観する機会は国内で殆どありませんでした。


ポール・セザンヌ「自画像」1875年頃 オルセー美術館

1974年に東京の国立西洋美術館の他、京都や福岡へ巡回した回顧展があったそうですが、今回はほぼそれ以来、約40年ぶりとなる大規模なセザンヌ展です。

オルセー美術館の他、世界8カ国、約40もの美術館から集められたセザンヌの作品、約90点が一同に介していました。

展覧会の構成は以下の通りです。

1.初期
2.風景
3.身体
4.肖像
5.静物
6.晩年


単純な時系列ではありません。初期作を除き、セザンヌが追求した上記各テーマ毎に、その中での画風の変遷を追う内容となっていました。

さてタイトルもあるように今回の展覧会で最も重要なのは、セザンヌにとってかけがえのない都市、すなわちパリとプロヴァンスにスポットを当てているところです。

1839年、南仏のエクス=アン=プロヴァンス(エクス)に生まれたセザンヌは、一生涯のうちに約20回にも渡ってパリとエクスの間を行き来しています。

若かりしセザンヌはパリへと出向き、ドラクロワやクールベといった画家の影響も受け、一見するところ後期のセザンヌとは結びつかない表現主義的傾向とも捉えられる絵画を描きます。

その一例が「砂糖壺、洋なし、青いカップ」(1865-70年)ではないでしょうか。セザンヌ自身が「クイヤルド」、つまり牛のこう丸と述べたパレットナイフの厚塗りの技法を用い、カップなどをキャンバスへ押し込めるように描いています。

またそれよりはやや薄塗りながらも、やはり重いタッチで描いたのが「パンと卵のある静物」(1865年)です。背景の闇は何やらマネを連想させるものすらありました。


左:「ピアノを弾く少女(タンホイザー序曲)」1869年 エルミタージュ美術館

そして彼が好んでいたというワーグナーを引き出した「ピアノを弾く少女(タンホイザー序曲)」(1869年)も印象深い一枚です。背景の装飾模様はこれに先立つ屏風の作品に似ていますが、手前のピアノを弾く女は妹、また針仕事をしている女性は母をモチーフとしています。


左から「四季 春」1861年頃、「四季 夏」1860-61年頃、「四季 冬」1860-61年頃、「四季 秋」1861年頃 パリ市立プティ・パレ美術館

さらに初期セザンヌの意外な作品が4枚の連作、「四季」(1860-61年)です。写真を見ても一目瞭然、一枚の高さが何と3メートルにも及ぶ大作ですが、これらは父がエクス郊外に購入した別荘の大広間を飾るために描いたものだそうです。

厚塗りパレットナイフとは似ても似つかぬ画風ですが、ここではアングルの引用がある他、セザンヌがルーベンスを最も模写していたという記録も残っています。時に実験的とも言われるセザンヌの作品ですが、初期の頃からこのように多面的というわけでした。

さてパリでピサロに学んだセザンヌは近郊の景色を描く一方、後には「自然に即してプッサンをやり直す。」と述べ、サント=ヴィクトワールに代表されるような南仏の自然をいくつも描きだします。


ポール・セザンヌ「首吊りの家、オーヴェール=シュル=オワーズ」1873年 オルセー美術館

そのようなピサロの影響を伺わせる一枚が「首吊りの家、オーヴェール=シュル=オワーズ」(1873年)です。表面はどことなく点描風で、タッチもいわゆる構築的筆触とも呼ばれる、独特な軽みを帯びたものへと変化しています。60年代の暗い色彩もほぼ消えていました。


左:「大きな松の木と赤い大地」1885-87年 個人蔵

さらに時代が進むと「大きな松の木と赤い大地」(1885-87年)のように、タッチはより自由になっていきますが、画面の構成に一定の幾何学的イメージが浮かび上がってくるのも大きな特徴と言えるかもしれません。

縦を志向する前景の木と、背景における山の稜線という横軸とが画面上で交差します。その軽やかな筆致に反して構成はかなり堅牢でした。


ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山」1886-87年 フィリップス・コレクション

セザンヌの風景画の代表作として知られるサント=ヴィクトワール主題の作品は3点(1点は最終章にて)ほど展示されています。


右:「トロネの道とサント=ヴィクトワール山」1896-98年 エルミタージュ美術館

「トロネの道とサント=ヴィクトワール山」(1896-98年)における空と山肌の透明感のある水色こそ、まさにリズム感と瑞々しさを備えたセザンヌの色と言えるかもしれません。

さて「身体」のセクションこそ、パリとプロヴァンスでのセザンヌの違いを一番分かりやすい形で見ることが出来るのではないでしょうか。

パリではマネを強く意識した性を押し出す裸体の女性を描く一方、プロヴァンスでは風景と人物の調和する理想郷としての水浴図に取り組みました。


ポール・セザンヌ「3人の水浴の女たち」1876-77年頃 パリ市立プティ・パレ美術館

マティスが所有していたことでも知られる「3人の水浴の女たち」(1876-77年ころ)こそセザンヌの見た南仏の理想風景なのかもしれません。「聖アントニウスの誘惑」同様、左右の木によって三角形を意識させる構図の中、裸婦たちがおおらかに水を浴びています。緑と黄色も美しい色彩のハーモニーを奏でていました。

「肖像」においてもパリとエクスの対比は明瞭です。エクスでは庭師ヴァリエといった、セザンヌの生活に身近な人々をモデルにする一方、パリではコレクターや画商らを描きました。

しかしながらセザンヌはどちらかというとモデルの人となりを絵に表すことよりも、純粋に人物を絵画として如何に捉えるかということに注意を払っているのかもしれません。


ポール・セザンヌ「赤いひじ掛け椅子のセザンヌ夫人」1877年頃 ボストン美術館

セザンヌを支えた妻オルタンスを描いた作品も、セザンヌを世に紹介した画商のヴォラールを描いた作品も、ともに親密な間柄であるにも関わらず、表情が強く伝わってくるわけではありません。それよりもヴォラールにおける迫り出す肩のラインの構図や、夫人の赤い肘掛けの色彩など、絵画表現そのものに関心が向いているように思いました。


左:「アンブロワーズ・ヴォラールの肖像」1899年 パリ市立プティ・パレ美術館

なお「アンブロワーズ・ヴォラールの肖像」(1899年)を描く際においてヴォラールは何と115回ものポーズをとったそうです。描くということに対するセザンヌの強い意識を知るエピソードかもしれません。

私がセザンヌで一番好きな静物画は会場後半でのお目見えです。油絵全1000点のうち、静物は200点と、セザンヌは言わば造形的実験のしやすい静物を好んで描いたようですが、やはり中でも重要なのは王道のリンゴをモチーフとした作品ではないでしょうか。


ポール・セザンヌ「りんごとオレンジ」1899年頃 オルセー美術館

西洋絵画史上、はじめて絵画へ複数の視点を取りこんだセザンヌの代表作としても知られる「りんごとオレンジ」(1899年頃)を見逃すことは出来ません。一見、前へ垂れて大きくずり下がりそうな布とりんごですが、不思議と果物皿へと視点の定まる中心性を帯びた構図にまとめられています。言わば不安定感と安定感が同居した形です。

特に晩年におけるステンドグラスのような透明な色彩は言うまでもありませんが、この構図上におけるスリリングな緊張感も、セザンヌ作品を味わう醍醐味と言えそうです。


レ・ローブのアトリエ・セザンヌ再現展示の前で解説を行うミッシェル・フレッセ同館館長。

さて晩年のコーナーでは今回の目玉でもあるセザンヌのアトリエが再現されています。


レ・ローブのアトリエ・セザンヌ再現展示

セザンヌは晩年の4年間、このエクスのレ・ローブにあるアトリエで毎日、絵画の制作に励みました。


レ・ローブのアトリエ・セザンヌ再現展示

もちろんアトリエ内にあるオブジェも現地から持ち込んできたものです。全部で約20点ほど出ていますが、中でもミケランジェロの石膏像などは、かつて一度しかアトリエ外へ出したことのない作品だそうです。もちろん日本へは初出品とのことでした。

なおこのアトリエでセザンヌを世話したのが他ならぬ庭師のヴァリエですが、最後の最後で彼を描いたこれまた興味深い作品が出ています。

図版がないのでお伝えしにくいのですが、最晩年の出品番号88の「庭師ヴァリエ」(1906年)を見て驚きました。実はセクション4の「肖像」においても同じ年に描かれたヴァリエの肖像が展示(出品番号71)が出ていますが、色彩はもちろん、絵具の使い方が全く異なります。

88のヴァリエは薄塗り、71のそれは厚塗りです。一般的にセザンヌは画業において厚塗りから薄塗りへと変化したとされていますが、この作品を見る限りでは必ずしもそうとは言えないのかもしれません。

実はセザンヌはこれまでそれほど強く意識したことがありませんでしたが、同時代でここまで見れば見るほど発見のある画家も他にいません。視覚構図上のセザンヌの実験は一種の知的遊戯です。まさにその『術』にはまりながら時間を忘れて見入りました。

「もっと知りたいセザンヌ 生涯と作品/永井隆則/東京美術」

展示出品作についても詳細な解説のある東京美術の「もっと知りたいセザンヌ」がとてもよく出来ています。展示会場内のショップでも販売中です。是非ご覧になってください。


会場風景。展示室は一部を除きやや暗めです。(その分照明は強めでした。)

100%セザンヌ、確かにキャッチーなコピーかもしれませんが、内容は驚くほど充実しています。少なくとも国内ではこれ以上望めないセザンヌ展であることは間違いありません。

6月11日まで開催されています。もちろんおすすめします。

「セザンヌーパリとプロヴァンス」展 国立新美術館
会期:3月28日(水)~6月11日(月)
休館:火曜日。但し5月1日は開館。
時間:10:00~18:00 *金曜日は20時まで開館。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「シャッフル2」 東京国際フォーラム(アートフェア東京会場内)

東京国際フォーラム(アートフェア東京会場内)
「シャッフル2」
3/30-4/1



東京国際フォーラムで開催中の「シャッフル2」へ行ってきました。

昨年春、白金のアートコンプレックス全館にて展開した現代美術と古美術の響宴「シャッフル」ですが、その続編は場所と会期を変え、ここ「アートフェア東京2012」の中での開催となりました。

場所は国際フォーラム展示ホール、入口から向かって右、最奥部です。あくまでもフェア内の一ブースです。広さこそ前回には及びませんが、ワンフロアでの展開ということで、むしろより密度の濃い展示が繰り広げられていました。


手前:佐々木誠「八挙須」

その迫力に思わず後ずさりした方もいらっしゃるかもしれません。会場入口にてあたかも来場者に睨みを利かすように立ちはだかるのは、佐々木誠の「八挙須」でした。

髭を靡かせ、顔を上げて正面を見据える姿からは、例えば堂々たるギリシャ彫刻の大理石像を連想出来るかもしれません。また眼をとじているせいか、神秘的なデスマスクでも見つめているような気分にもさせられます。ともかくも掴みとしての存在感は抜群でした。


「シャッフル2」展示室風景

縄文時代の土器が破片に守られているようにして掲げられています。その両側では平安期の勇壮な四天王像が脇を固めていたせいか、何やら祭祀のシンボルのように見えたのは私だけでしょうか。そう言えばこの土器が会場の中心に置かれています。日本の美術における核心、そして全ての源泉は縄文からというわけでした。


手前:本堀雄二「BUTSU」、奥:「簾躑躅図屏風」(江戸時代初期)

本堀雄二の段ボール製の菩薩像の向こうには、何とも涼し気な屏風「簾躑躅図屏風」が展示されています。菩薩の透けと簾の透けのダブルイメージは繊細です。屏風の隣の土器に生けられた生け花も意外な清涼感を醸し出しています。ひょっとすると縄文人もこのようにして花を愛でていたのかもしれません。


佐々木誠「祖形」

ミヅマの個展の印象も未だ深く残る森淳一の彫像も鮮烈です。また鋭い眼光を飛ばす佐々木誠の彫像の向こうには応挙や芦雪の軸画が掲げられていました。


山口英紀「右心房・左心室」

いつもながらにその質感表現に驚かされるのは山口英紀の「右心房・左心室」です。よくよく目を凝らして、現代に甦る精緻な水墨を堪能して下さい。


手前:「縄文土器」(縄文時代)、奥:神戸智行「いつもの場所で」他

借景にするには難しい吹き抜けの空間ですが、練りに練られたライティングは作品の魅力を巧みに引きだしています。決して下から光が当たっているわけではないにも関わらず、まるで下から炎が立ち上がるかのように灯る縄文土器の美しさには思わずため息が漏れました。


手前:「根来瓶子」、奥:岩田俊彦「カラバナ」

シャッフル展をキュレーションされた山下裕二先生のインタビュー記事がCINRA.NETに掲載されています。

日本人なら知るべき、日本美術の本当の凄さ『シャッフル2』@CINRA.NET

フェアに因み、作品を購入することについての示唆にとんだお話もあります。是非ともご覧ください。


森淳一「coma」(部分)

アートフェアとの連動企画です。よって会期は次の日曜日までしかありません。超・短期決戦の展覧会です。


「アートフェア東京2012」会場風景

4月1日まで開催されています。

「シャッフル2」(アートフェア東京2012) 東京国際フォーラム 展示ホール
会期:3月30日(金)~4月1日(日)
休館:会期中無休。
時間:3/30(金)11:00~21:00、3/31(土)11:00~20:00、4/1(日)10:30~17:00
住所:千代田区丸の内3-5-1
交通:JR線有楽町駅より徒歩1分。東京メトロ有楽町線有楽町駅から地下コンコースで直結。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「アール・デコ・レクチャー」サイトオープン!

旧朝香宮邸のアール・デコ様式をそのまま今に伝える東京都庭園美術館



現在、保存改修、及び管理棟新設工事のため、長期休館中(平成26年までを予定。)ですが、その間も公式WEBサイトが何度となく更新されていることをご存知でしょうか。



その一つ、本日公開されたのが、ずばり「女子に捧げる アール・デコレクチャー」のコーナーです。

アール・デコとは何ぞやということを漠然と分かっていても、その名前の由来や歴史、そして時代背景までを詳細に知っている方は意外と少ないかもしれません。

(3)

レクチャーではそのようなアール・デコを、親しみやすいイラストとテキストで「コトバの説明」から解説してくれます。

(3)

それにしても親しみやすいと書きましたが、本当にキャッチーなテキストが目白押しです。

(1)

その一例がアール・デコの「7つのポイント」です。

1.景気よく出ているものに萌える
2.パターン化が得意♪うずまきとギザギザが好き
3.メタリックな流線型(ストリームライン)にシビれる
4.質感フェチ
5.エキゾチックなものに対してミーハー
6.なにかというと古代ギリシャ・ローマ風の衣装や小道具を使う
7.鮮やかな色彩が好き

アール・ヌーヴォーとの色彩の対比、またギリシャ・ローマを源流にしながらも、南米や東洋美術へのシンパシーがあるという指摘など、言われてみれば納得の内容ではないでしょうか。

(3)

ちなみに「女子に捧げる」とありますが、男子禁制ではないそうです。ここは助かりました。

(1)

なおこの「アール・デコ・レクチャー」の他にも、三菱一号館と原美術館に取材した「邸宅美術館のアートな空間」や、創刊号以来の美術館ニュースの一部を再掲した「旧朝香宮邸の歴史を訪ねて」など、充実したコンテンツがいくつもあります。

庭園美術館のアートな空間
当館と同じように本来、美術館を目的として建てられていなかった建造物を、展示スペースとして使用している施設を訪れ、「美術館ではない空間」が持つ魅力をご紹介していきます。

旧朝香宮邸の歴史を訪ねて
「東京都庭園美術館ニュース」創刊号より連載を続けている「旧朝香宮邸の歴史を訪ねて」(第1回~第41回)を再録いたします。



美術館のサイトというと、どうしても展覧会情報ばかりに目が向いてしまいますが、休館中でも読み応えのあるコラムなどを更新する庭園美術館は要チェックです。是非ご覧になって下さい。

(2)

注)館内の写真はそれぞれ2011年の「タイポグラフィ展」(1)、2010年の「マッキアイオーリ展」(2)、2009年の「ステッチ・バイ・ステッチ」(3)のプレス内覧時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「ボストン美術館 日本美術の至宝」 東京国立博物館

東京国立博物館
「ボストン美術館 日本美術の至宝」
3/20-6/10



今年最大の日本美術展としても過言ではありません。東京国立博物館で開催中の「ボストン美術館 日本美術の至宝」展のプレスプレビューに参加してきました。

昨年、記者発表会に参加してから、ともかく今か今かと待っていた展覧会でしたが、とうとう3月20日より上野の東京国立博物館ではじまりました。

「ボストン美術館 日本美術の至宝展」記者発表会(拙ブログ)

それが「海の向こうの正倉院」とまで称される、ボストン美術館の日本美術・里帰り展です。


「岡倉覚三像」一躯 平櫛田中 昭和38年(1963) ボストン美術館

遡ること幕末から明治期、フェノロサや天心らに始まり、以来、多様な東洋美術品を収集してきた同館ですが、その膨大なコレクションより、修復後初公開となる曾我蕭白の「雲龍図」をはじめ、「平時物語絵巻」と「吉備大臣入唐絵巻」、そして仏画や中世水墨画に近世絵画、さらには刀剣に染織などの名品、全70点が一同に公開されました。

展覧会の構成は以下の通りです。(出品リスト

第1章 「仏のかたち 神のすがた」
第2章 「海を渡った二大絵巻」
第3章 「静寂と輝き 中世水墨画と初期狩野派」
第4章 「華ひらく近世絵画」
第5章 「奇才 曽我蕭白」
第6章 「アメリカ人を魅了した日本のわざ 刀剣と染織


冒頭、ボストン美術館の中国・日本部長としてコレクションに尽力した岡倉天心の像(平櫛田中作)を過ぎると、これ見よがしにずらりと並ぶのが、貴重な仏画の数々です。


第1章「仏のかたち 神のすがた」展示室風景

いきなりの見どころ到来ということで、思わず息をのんでしまいましたが、ここでは奈良時代より鎌倉時代へと至る仏画、約17点が展示されています。


「法華堂根本曼荼羅図」奈良時代・8世紀 ボストン美術館

中でも注目なのが最奥部に掲げられた「法華堂根本曼荼羅図」です。

1882年、ビゲローが奈良東大寺の法華堂から持ち出したとされる作品ですが、その希少性は本展でも随一と言えるかもしれません。


「法華堂根本曼荼羅図」の前で作品解説を行う田沢裕賀氏(右、東京国立博物館絵画・彫刻室長)とアン・ニシムラ・モース(左、ボストン美術館日本美術課長)。

これまでに幾たびも損傷を受けてきたこともあり、必ずしも状態は良好ではありませんが、よく目を凝らすと背景に、この時代としては珍しい山水が描かれていることが分かります。

着彩は群青や緑青など、正倉院絵画にも類例の見られる中国絵画風とのことですが、その広がりある空間構成は、後のやまと絵の萌芽とも受け取れるのだそうです。

保存の観点からか、仏画展示室の照明はかなり暗く、見やすいとは言えませんが、ここは是非とも単眼鏡でじっくりと楽しんで下さい。


第2章「海を渡った二大絵巻」展示室風景

さて仏画を経由すると、また大きな見どころである在外二大絵巻コーナーへとたどり着きます。

もちろんそれは言うまでもなく「吉備大臣入唐絵巻」と、「平治物語絵巻」から「三条殿夜討絵巻」です。


「吉備大臣入唐絵巻」一巻 平安時代・12世紀後半 ボストン美術館 展示風景

ともに制作以来、大切に保存されながらも、幕末の混乱期に市場へと投げ出され、結果フェノロサらの手によりボストンへと渡った作品ですが、今回はともに全巻、まさに目と鼻の先で味わうことが出来ます。

吉備大臣絵巻はともかくユーモラスです。作品の上部に解説パネルが設置され、簡単なストーリーを追えるのも嬉しいところですが、大臣が幽鬼の案内により超能力を使って空を飛んで楼閣を抜け出すシーンなどはもはやおかしみの世界と言えるのではないでしょうか。

人物描写も細かく、唐の人々の困った様子もダイレクトに伝わってきます。

一方での「平治物語絵巻」はひしめく群衆と火焔に思わず後退りしてしまうような迫力ある作品です。


「平治物語絵巻 三条殿夜討巻」一巻 鎌倉時代・13世紀後半 部分

とりわけ焼き打ちの凄惨な光景は目に焼きつきます。逃げ惑う人々は時に首を切られ、その血が火焔の火の粉と一体となっていきます。終始、緊迫感のある光景が続いていました。


「平治物語絵巻 三条殿夜討巻」一巻 鎌倉時代・13世紀後半 展示風景

なお「吉備大臣入唐絵巻」は全長25メートル、「平治物語絵巻」の「三条夜討絵巻」は約7メートルほどの作品です。

やはり絵巻は最前列で見ないとよく分かりません。現在、絵巻を見るための長大な行列は発生していないようですが、もし開館時に行かれるのであれば、まずこの絵巻コーナーを目指すのが良いのではないでしょうか。場所はエスカレーターを上がって左側、第一会場の二つ目の展示室でした。

中世絵画も充実しています。絵巻に続いて登場するのが、伝雪舟をはじめ祥啓、また狩野元信らによる室町絵画、約10数点です。


「山水図」祥啓 室町時代・15世紀末~16世紀 ボストン美術館

ここで印象的なのは祥啓の「山水図」です。鎌倉・建長寺由来の禅宗画家として知られる彼の本作は、簡潔な筆致ながらも深淵な空間を作り上げています。長閑な情緒も伝わる作品と言えるかもしれません。

また諸説あるものの、一部では雪舟と伝えられる拙宗等揚の「三聖・蓮図」における蓮の瑞々しい描写にも惹かれました。

さて本展は巡回展ですが、東京会場のみ展示されるのが、刀剣と染織、あわせて約20点です。


第6章「アメリカ人を魅了した日本のわざ 刀剣と染織」展示室風景

ここは東博の展示センスも冴えています。自慢の古いケースを用い、やや強めの照明によって、刀の白い光と染織の艶やかな色彩を引き出していました。

ラストの蕭白の前には等伯、山雪、探幽、そして光琳に若冲といった江戸絵画のスターたちが並びます。

一押しは等伯の「龍虎図屏風」です。


「龍虎図屏風」六曲一双 長谷川等伯 江戸時代・慶長11年(1606) ボストン美術館

まさに気宇壮大、広がりのある空間を使って、龍と虎が対峙する姿を描いています。

もちろん注目は作中における大気の表現です。雨と風、そして雲に大波が、いつもながらにニュアンスに富んだ水墨の筆致で示されていました。

また琳派ファンとしては光琳の「松島図屏風」も注目の一作です。


「松島図屏風」六曲一隻 尾形光琳 江戸時代・18世紀前半 ボストン美術館

宗達の同名作の右隻を写した作品ですが、なにやらアクロバットにうねる波、そしてやや簡略化された島などは、いかにも光琳と言えるのではないでしょうか。


「四季花鳥図屏風」(右隻)狩野永納 江戸時代・17世紀後半 ボストン美術館

またねっとりしたような色彩が濃厚でかつ緻密な上、デフォルメ的な岩や草木の表現が鮮烈な山雪、永納らの、いわゆる京狩野の佳品も印象に残りました。

そしてラストは曾我蕭白、全11点揃い踏みです。


第5章「奇才 曽我蕭白」展示室風景

出品作は全てビゲローとフェノロサ自身が収集したものだそうですが、ともかくこれだけでも一つの展覧会が成り立つのではないかと思うほど充実しています。


「風仙図屏風」六曲一隻 曽我蕭白 江戸時代・18世紀後半 ボストン美術館

筆の硬軟を使い分ける蕭白のこと、必ずしもこの一点を挙げるのが難しいところですが、やはり渦巻き状の雲にシュールならぬ表現の男の立つ「風仙図屏風」などに注目が集まるのではないでしょうか。


「雲龍図」八面 曽我蕭白 江戸時代・宝暦13年(1763) ボストン美術館

また修復後、世界初公開となる「雲龍図」のど迫力は写真や図版では到底伝わりません。


「雲龍図」の前で作品解説を行う田沢裕賀氏とアン・ニシムラ・モース氏(肩書きは同上)。

ボストン美術館ではめくり、つまり巻かれた状態であったことを思うと、この襖にまでよく仕立てたものかと感心させられますが、描かれた当初は「鷹図」とともに、とある寺院に収められていた(図録には裏に設置されていたのではないかという指摘あり。)のではないかと考えられているそうです。


「鷹図」二面 曽我蕭白 江戸時代・18世紀後半 ボストン美術館

「鷹図」はちょうど「雲龍図」の左後方にあります。見比べるのも面白いかもしれません。


第4章「華ひらく近世絵画」展示室風景

さてボストン美術館は作品の管理が厳しく、一度展示すると当面出品を見合わせることが多いそうです。

ちなみに今回の展覧会は5年越しです。目玉の「雲龍図」はもちろん、他の作品の多くも本展の開催にあわせて調査、修復を経て公開されています。とくに出品の染織は全て修復されました。

図録巻頭のボストン美術館館長のメッセージに、30年前に東京で開催した展覧会に足を運んだ一人の学生が今や本展のキュレーターになったとの記述がありました。

幕末以来の長期に渡るコレクションの形成史はおろか、この30年ぶりという機会、また修復をはじめとする展示に携わった方々の熱意などに思いを馳せてみるのも良いのではないでしょうか。

本展は巡回展です。以下のスケジュールで巡回します。

名古屋ボストン美術館 2012年6月23日(土)~9月17日(月・祝)・2012年9月29日(土)~12月9日(日)
九州国立博物館    2013年1月1日(火・祝)~3月17日(日)
大阪市立美術館    2013年4月2日(火)~6月16日(日)


なお先にも触れたように全ての刀剣と染織、またその他の一部の作品も東京会場のみの出品です。(名古屋と福岡会場では仏像が出品されません。また近世絵画の大半も福岡会場では不出品です。)十分にご注意下さい。


第1章「仏のかたち 神のすがた」展示室風景

平成館の企画展としては作品数が多いとは言えないかもしれませんが、それは全く気になりませんでした。プレビュー時と、もう一度別の日に出かけましたが、観覧はゆうに2時間以上かかりました。

6月10日までの開催です。もちろんおすすめします。

「ボストン美術館 日本美術の至宝」 東京国立博物館
会期:3月20日(火)~6月10日(日)
休館:月曜日。但し4月30日(月・休)は開館。
時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで) *毎週金曜日は20時、土・日・祝・休日は18時まで開館。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「VOCA展2012」 上野の森美術館

上野の森美術館
「VOCA展2012 新しい平面の画家たち」
3/1-3/30



上野の森美術館で開催中の「VOCA2012展」へ行って来ました。

第19回目を迎えるVOCA展も、すっかり春の上野の展覧会として定着した感がありますが、今年も各推薦委員より推挙された計34名の作家の作品が一同に展示されています。


鈴木星亜「絵が見る世界11_03」

受賞作家は以下の通りでした。 (出品作家/推薦委員

VOCA賞 鈴木星亜
VOCA奨励賞 桑久保徹、武居功一郎
佳作賞 大成哲
佳作賞・大原美術館賞 柏原由佳


さていわゆる平面作のみと言うことで、その定まったフォーマットの中で、モチーフは当然のことながら、素材の面白さ、また技術をどのように作家が見せているのかにも注目した方も多いかもしれません。


柏原由佳「21’19」

その意味でまず印象に深いのが、冒頭、一面のモノクロームに雪山を臨む景色を描いた永岡大輔の「accumulating - 01」です。

一瞬、何か版画かと思うような質感を見せていますが、よく近づくと全て鉛筆で描かれていることが分かります。

全体を覆う白い点描にもよるのか、静けさに包まれた雪景色を前にしているよな気分にさせられました。

一面の闇にサムフランシスばりの光沢感のある色彩を散らしたのが、田中千智の「きょう、世界のどこか」です。

眩い黄色や白は帯状になって横切る平面はまるで抽象ですが、しばらく眺めていると港の景色が浮き上がってくるではありませんか。

まさに夜の港の夜景です。漁船、また立ち並ぶ家々は光に還元され、美しい光を放っていました。

さて日本画の素材を用い、絵画平面が前へ迫り出すかのような力強さを見せるのが、高橋芙美子の「はざま」です。

白とグレーの岩絵具の質感は重く、柱のように立ち並ぶモチーフから、不思議な粘り気を帯びた光が浸み出しています。シンプルなモチーフ、また色遣いではありますが、その特異な物質感には圧倒されました。

目黒の「線の迷宮」やMOTアニュアル2011でも印象深かった関根直子が2点の鉛筆画、「とめどない話」と「差異と連動」を出品しています。

霞かがったような平面に朧げに浮き上がる景色は森なのでしょうか。平面上には白い切れ込みのような線も散っています。静謐な中にもざわめく動き、また揺らぎが感じられました。


桑久保徹「Study of mom」

近藤智美の「のこそうヒトプラネスト」の大きな瞳に思わず足を止めてしまった方も多いかもしれません。

2面のパネルの右には瞳を見開く女性の顔が、また左には黄色の部屋で裸でキスしあう男女の姿が描かれています。

また画中に登場する銃やリンゴなど、さりげないモチーフはどこか暗喩的です。それに表面に散る飛沫状の絵の具など、なにかギラギラするまでの性と愛がシュールな感覚で示されています。その濃厚な空間には酔ってしまいました。

あざみ野コンテンポラリー、そして現在、丸ビル一階のH.P.FRANCEウィンドウでも出品中の椛田ちひろは、3枚の紙を横に並べた「影の声」を展示しています。

ボールペンによる赤褐色の光沢はあまり強くなく、どちらかといえば雲や水蒸気を連想させるように軽やかでした。

白い布に今にも消え入りそうな女性の姿を描いた山田郁予の「安心毛布とかそういうのください」の儚さもまた魅惑的ではないでしょうか。

だらんと壁に吊るされた布の上に横たわるパステルカラーの女性は悲しみに包まれていました。


武居功一郎「untitled(adaptation)」

他、ピンクやオレンジの細かなタッチから森などを思わせる景色を開いた武井功一郎、また面を複雑に組み合わせ、見る側の空間認識を揺さぶる五月女哲平の「彼、彼女、あなた、私」も心にとまりました。

公式WEBサイトに割引入場券があります。

また美術館内で「日経日本画大賞展」のチラシを見つけました。



かつてはニューオータニ美術館で開催されていましたが、ここしばらくは展示が行われていませんでした。

「第5回 東山魁夷記念 日経日本画大賞展」@上野の森美術館 5月19日(土)~6月3日(日)

今年は上野の森美術館でスケールアップする形で開催されるようです。楽しみにしたいと思います。

3月30日まで開催されています。

「VOCA展2012 新しい平面の画家たち」 上野の森美術館
会期:3月15日(木)~3月30日(金)
休館:会期中無休
時間:10:00~17:00(入場は閉館30分前まで)*木・金・土曜は18時閉館。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅徒歩5分。京成線京成上野駅徒歩5分。
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「六本木アートナイト2012」 六本木地区一帯

六本木地区一帯
「六本木アートナイト2012」
3/24-3/25



「六本木アートナイト2012」へ行ってきました。

昨年は震災で中止となった年に一度の六本木のアートの祭典、「六本木アートナイト」ですが、今年は無事開催を迎えました。



ともかくイベント盛りだくさん、2日間限定のタイトなスケジュールのイベントです。簡単に歩いて廻った展示なりイベントを記録しておきたいと思います。

まず六本木に着いたのは夕方16時半過ぎです。実はこの日までアートナイトに参加出来るかどうか分からなかったので、ほぼ予備知識ゼロで到着しました。

とりあえずコアタイム18時からのオープニングイベントのある六本木ヒルズへ向かいます。



お出迎えはタムラサトルさんの「スピンクロコダイル・ガーデン」。ワニが何やら摩訶不思議に回転し続けます。



続いては同じくタムラさんの「六本木マシーン」です。チェーンの軌跡が六本木という文字を描いていました。

さてメイン会場のアリーナには今年の作家、草間彌生さんによる巨大バルーン人形「ヤヨイちゃん」が既にお待ちかねです。



早くも多くの人が集まっていたため、「リンリン」を連れてのオープニングは遠目から拝見、ともかくまずは賑やかな雰囲気を味わいました。

何も行程を決めていなかっため、頼りになるのは公式ガイドとツイッターです。他の方のつぶやきを頼りにまずはヒルズ内の各展示を見て回ることにしました。


ホワン・スー・チエ「オーガニック・コンセプト」


泉太郎「糸ミミズのためのスケートリンク」


チームラボ×高橋英明「浮遊する楽器」

一通り歩いた後は、ヒルズ、ミッドタウン、新美の三箇所を廻ると「草間マフラー」なるものがもらえるというスタンプラリーに参加することにします。ヒルズ内のポイントは既に長蛇の列ということで、そちらは後に回すことにしてミッドタウンへ向かいました。



六本木交差点のアマンドも「水玉カフェ」へと変化し、大行列です。総じて今年の人出はかなり多いように感じました。

ミッドタウンでは全長13メートルの巨大こけしの他、デザインサイト前の庭に草間さんの「いのちのあしあと」などが展示されています。


「いつつのゆびわ」

ゆびわはミッドタウン開業5周年を記念してのオブジェだそうです。


草間彌生「いのちのあしあと」


yotta Groove「花子」

ちなみにこけしは東北の伝統的工芸品です。言うまでもなく震災の件もあり、東北と関係するイベントが目立っていました。



またうまく写真におさめられませんでしたが、ミッドタウンの芝生広場では、毎度お馴染みのジャッピー御輿が提灯の光を放ってのお堂インスタレーションを展開しています。



さてこの後は新美です。こちらは大かぼちゃが入口前に鎮座していました。人気の撮影スポットかもしれません。



また開発好明さんの茶室と納屋「発泡苑」も目を引きます。中へ入れればと思ったりしました。

ヒルズへ戻ると相変わらずの凄い人で屋台村へおちおち近寄ることも出来ません。というわけで、少し会場を離れ、事前に唯一ツィートでチェックしていたツタヤ六本木でのライターの橋本麻里さんと写真家の鈴木理策さんのセザンヌ・トークを聞くことにしました。



今度開催される新美セザンヌ展に因んでのトークショーです。セザンヌの作品と、セザンヌ好きの鈴木さんがサント・ヴィクトワールまで追っかけたというエピソード、それにもちろん鈴木さんの作品の写真のお話が、橋本さんの鋭い突っ込みでテンポ良く進みます。

内容はツイッターで少しまとめましたので、そちらを転記しておきます。メモ程度であまり参考にならないかもしれませんが、宜しければご覧ください。

昨日の橋本麻里さんと鈴木理策さんのセザンヌトーク、初めは今回のセザンヌ展に出る作品についてスライドを見ながらのお話。セザンヌ作の中にある複数の視点がまず興味深いと鈴木さん。そしてそれが写真と関係あるのではないかと。ちなみにセザンヌは写真が生み出された年に生まれたとか。

理策さんのセザンヌ初体験は小学校か中学校の時に美術の教科書で見た「赤いチョッキの少年」。ともかく腕が長くて、何でこんな変な絵を描いたのだろうと強く印象に残ったとか。

三次元を二次元の中に落とし込むことを写真はいとも簡単にやってしまったが、セザンヌはいくつもの視点を絵画中にとりこむことで、それを実現しようとしていたのではないかと。その代表例として橋本さんと理策さんは「リンゴとオレンジ」を挙げておられました。

セザンヌが好きなのは対象を諸々の文脈から切り離してそのものだけを捉えようとしたから。その例が山を山としてのみだけ描いた「サントヴィクトワール」。そしてまさにこれはストレート写真と同じではないかと理策さん。

そしてサントヴィクトワールを写真で自分が追うことで、セザンヌの視点を追体験出来るのではないかと思って現地へ。するとそこで感じたのは光の具合によって山の色、そして自分との距離感も変わる、何とも捉え難い不思議な景色だった。

セザンヌは部分部分で色彩を変化させ、全体のハーモニーを作る。山の景色がそれと同じ。またアトリエを訪ねて写真を撮ったが、それはセザンヌが居た場所、見た視点と、自分の視点を重ねたいというミーハーな興味でというお話も。理策さん。

後はセザンヌがパリで失敗したことに妙な共感を覚えるとか、セザンヌはモネの色彩の実験を強く意識し、それを超えようとして画面に複数の視点を入れていたのではないかというお話なども。なお次は映像作品に取り組んでおられるとか。理策さん。

簡単なメモ書きを起こしただけですが、とりあえずこんな内容でした。TSUTAYA六本木での橋本さんと鈴木理策さんのセザンヌトーク。大体50分くらいだったかな。スライド写して写真集を会場にまわしながらのお話でした。

お話を聞き終えてヒルズに戻ると、スタンプ台の行列が解消していたので、マフラーをいただき、偶然居合わせた知人と軽くビールをいただきました。思わぬ出会いがあるのもこうしたお祭りならではのことかもしれません。



草間マフラーに「2011年」、つまりは昨年の記載があるのを見つけ、改めてあれから自分に何が出来たのだろうかと自問しながら、六本木を後にしました。


志村信裕「赤い靴」

それにしても凄い人出です。私が帰る23時前でも続々人がヒルズへ押し寄せているのには驚きました。さすがオールナイトイベントです。

皆さんのアートナイトはいかがだったでしょうか。この時期はいつも状況が読めず、直前までギリギリになってしまうのですが、来年はもう少し準備して参加したいと思います。
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「椛田ちひろ 今、甦り、絶えず過ぎ去ってゆく」 H.P.FRANCEウィンドウギャラリー

H.P.FRANCEウィンドウギャラリー
「椛田ちひろ 今、甦り、絶えず過ぎ去ってゆく」
3/2-3/29



H.P.FRANCEウィンドウギャラリーで開催中の椛田ちひろ個展、「今、甦り、絶えず過ぎ去ってゆく」へ行ってきました。

東京駅より直結、丸の内のランドマークでもある丸ビルですが、その一階、正面のアクセサリー店「アッシュ・ペー」のショーウィンドウでは、先だってのあざみ野コンテンポラリーでも印象深かった椛田ちひろの展示が行われています。



素材はもちろんボールペンです。その描き込まれた線と面、そして塊は、いつもながらに深淵な闇のような表情をたたえていますが、今回は支持体を丸めて吊したからか、どこかリズミカルで心地よい空間を生み出していました。

やや青みがかった黒の筒は、空調に由来するのか、時より仄かに吹き込む風に揺られています。その振動する姿はまるで音楽を奏でる楽器のようでした。



それにしても宙で断片的に舞う闇は一度たりとも同じ表情をとることがありません。まさに変幻自在に姿を変えるモビールです。手前、そして横からと、移りゆく景色を楽しみました。

会場は交通至便、東京駅前の丸ビル内1階です。連日21時(日祝は20時)までオープンしています。お仕事帰りに立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

また椛田は現在、上野の森美術館で開催中の「VOCA」展にも出品しています。



「VOCA展2012 新しい平面の作家たち」@上野の森美術館 3/15~3/30

こちらも要注目です。

3月29日まで開催されています。

「椛田ちひろ 今、甦り、絶えず過ぎ去ってゆく」 H.P.FRANCEウィンドウギャラリー
会期:3月2日(金)~3月29日(木)
休廊:会期中無休
時間:11:00~21:00 *日祝は20時まで。
住所:千代田区丸の内2-4-1 丸の内ビルディング1階
交通:JR線東京駅丸の内南口より徒歩1分、東京メトロ丸ノ内線東京駅より直結、東京メトロ千代田線二重橋前駅7番出口より徒歩2分。
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「三都画家くらべ」 府中市美術館

府中市美術館
「三都画家くらべ 京、大坂をみて江戸を知る」
3/17~5/6 前期:3/17~4/15、後期:4/17~5/6



恒例の春の府中・江戸絵画展が今年もやって来ました。府中市美術館で開催中の「三都画家くらべ」へ行ってきました。

これまでにも「動物」、「山水」、「人物画」など、様々な切り口で江戸絵画を紹介してきた府中市美術館ですが、今回は趣向をがらっと変え、タイトルの如く「三都」、ようは京、大坂、江戸の三都市にスポットを当てています。

江戸時代、おそらく現在よりもさらに個性際立っていただろう三都市ですが、当然ながら異なった文化を背景に、絵画表現においてもまた違った方向を指し示しました。



また三都といっても、単純に京、大坂、江戸の画家の作品をつらつら並べているだけではないのも大きなポイントです。

「花と動物」 (前期のみ)
「山水」
「笑い」
「特産」


メイントピックは上の4点です。個々の画家の作品を俯瞰しながら、三都の特徴を比較する構成となっていました。

まずは「花と動物」です。京の画家たちは、やまと絵の伝統を受け継ぐ優美さとともに、時に応挙に代表される写生的なリアルさをも追求しました。


森狙仙(大坂)「猿図」大阪市立美術館 前期展示

一方、大坂では中国絵画への憧憬が強く、とりわけ沈南蘋の濃厚な画風の影響を受けています。

その両者を端的に見比べられるのが、岸駒(京)と上田公長(大坂)の同主題の作品、「牡丹に孔雀図」です。

ともに南蘋風の孔雀が登場していますが、岸駒作は羽を右上へのばし、広がりのある空間を志向している一方、上田作は首がぐっ捻られ、言わばオーバーアクションなまでの孔雀が描かれています。

またここでは羽にも注目です。大坂は一部で簡潔な表現を好みます。上田の方がザックリと羽を描いていることを見て取れるのではないでしょうか。


吉村孝敬(京)「竜虎図」個人蔵 前期展示

それに大坂は文人画の趣味もあり、絵画において技巧よりもあえて拙さを楽しむ習慣もありました。

江戸では幕府の絵師、狩野探幽の力が大きく、例えば余白を巧みに利用した喜多武清の「秋草図屏風」など、あっさりとした自然描写が主流となります。


狩野探幽(江戸)「四季花鳥図」(部分)大本山永平寺蔵 前期展示

京の優雅、大坂の明瞭、江戸の抑制がキーワードです。

さて続いての山水では、江戸に西洋画に基づく洋風的な表現が出てくる点が重要と言えるかもしれません。


亜欧堂田善(江戸)「墨堤観桜図」府中市美術館寄託 前期展示

先に触れたように京はやまと絵的な空間の緩やかな広がりを求めましたが、江戸は遠近法を取り入れることによって、半ば理知的でより三次元的な空間を作り上げます。

もちろん司馬江漢の銅版画も有名ですが、江戸の風景を遠近感のある表現で示した広重の「江戸近郊図」など、横よりも縦、奥行を志向した風景画こそ、江戸ならではの作品と言えそうです。


佐藤魚大(大坂)「閻魔図」個人蔵 前期・後期

「笑い」はそれこそ大坂の独擅場かもしれませんが、私として好きなのは京に独特なデリケートでかつ和みの笑いです。

ここでは通称『和みの琳派』、中村芳中の「人物花鳥図巻」が見逃せません。


中村芳中(大坂)「人物・花鳥図巻」(部分)真田宝物館蔵 前期・後期展示

芳中ならではの軽やかなタッチのもと、皆にこにこするように佇む人物や動物たちが描かれています。

芳中作はどれも見ていると思わずにやりとさせられるような不思議な魅力がありますが、例えば同じく微笑ましい若冲の伏見人形図など、京には何とも言い難いほんわかとした笑いがあるように思えてなりませんでした。

ちなみに大坂には体を張ってまで笑わせる強引さが、江戸はバカバカしいことなど何か笑いに原因を求めることの特徴が絵画から引き出されるそうです。その辺は今もあまり変わらないかもしれません。


狩野山雪(京)「寒山拾得図」真正極楽寺蔵 前期展示

さて最後に京で最も重要なのが奇抜さに他なりません。

最初に触れた優美さももちろん京の特徴ですが、それに相対する奇抜さを求めたのもまた京でした。

元々京は禅宗の存在が大きく、そこから絵画においても奇抜さや難解さが引き出されてきたそうですが、その代表的な例が伊藤若冲ではないでしょうか。


伊藤若冲(京)「垣豆群虫図」個人蔵 前期・後期展示

何と昭和2年以来、約85年も一度たりとも展示される機会がなかったという幻の作品、「垣豆群虫図」がラストを飾ります。

また奇抜と言えばもう1点、長沢蘆雪の「なめくじ図」が忘れられません。


長澤蘆雪(京)「なめくじ図」個人蔵 前期・後期展示

なめくじが平面上をただ一匹、その足跡ならぬ粘膜の軌跡とともに描かれた作品ですが、簡潔明瞭ながらも画家の斬新な発想力には驚かされます。

蘆雪にはかつて府中で余白にただの一匹、蛙を描いた「蛙図」を見た時にも、その稀な空間構成に強く感銘しましたが、それと同じくらいの衝撃をこの作品から受けました。

と言うわけで、京、大坂、江戸と三都の画家では、この奇抜さをとる京に軍配をあげたいと思います。

さて展示替えの情報です。本展は会期中一度、4月半ばに作品の大半が入れ替わります。 (展示予定表)*前期89点、後期87点、総計152点。

前期展示:3月17日(土)~4月15日(日)
後期展示:4月17日(火)~5月6日(日)


前後期あわせて一つの展覧会です。トピックも「花と動物」が「人物画くらべ」に替わります。まずは早めにお出かけ下さい。

なお比較や特質云々というと難しい展示かと思ってしまうかもしれませんが、決してそんなことはありません。



お馴染みのクイズ形式ワークシートの「三都探検隊」、そしてスタンプの「さんとくんのはんこ旅」など、同館ならではのちょっとした仕掛けも用意されています。ここはさすが府中市美術館、抜かりありませんでした。

出品作は個人蔵が多く、全体としてかなり新鮮味があります。

宗達の水墨に抱一の小品、また探幽の4幅対の大作「四季花鳥図」など、お馴染みの画家の作品にも目が引かれましたが、初めて名前を知るような画家も多数紹介されていました。



江戸では若冲は受けず、また洋風画は実は京の人々が一番理解すると江漢が述べたエピソードも残っているそうです。作品を見比べることで浮かび上がる都市の性質、ありそうでなかった展覧会と言えるのではないでしょうか。

「もっと知りたい狩野永徳と京狩野/成澤勝嗣/東京美術」

前期展示は4月15日まで開催されています。 (全体会期は5月6日まで。)

「三都画家くらべ 京、大坂をみて江戸を知る」 府中市美術館
会期:3月17日(土)~5月6日(日)
休館:月曜(但し4/30を除く)。及び3月21日(水)。
時間:10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
場所:府中市浅間町1-3
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」展を開催

西ヨーロッパ中央部に位置し、小国ながらも高い経済力を誇り、立憲君主制の永世中立国でも知られるリヒテンシュタイン公国。



その元首でもあるリヒテンシュタイン公爵家の誇る美術コレクションが、今秋、東京の国立新美術館を皮切りに、高知、京都の各美術館で公開されます。

「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」@国立新美術館 10月3日(水)~12月23日(日)

ハプスブルク家とも関係が深く、18世紀より当地を治めたリヒテンシュタイン侯爵家です。以来、約5世紀、歴代の侯爵らがヨーロッパの様々な美術品を収集してきました。

その美術品は現在、計3万点にも及ぶそうです。うち今回はルーベンスなどの絵画をはじめ、調度品、工芸品、また陶磁器など、約140点が展示されます。


ラファエッロ・サンティ「男の肖像」1502/04年

ちなみにリヒテンシュタイン侯爵家の美術品を日本で展示するのは初めてだそうです。初見の名品も数多く登場すること間違いありません。


パウル・ルーベンス「マルスとレア・シルヴィア」1616/17年

さて詳細はまだ発表されていませんが、展示についての一部情報が先日公開されました。目玉は3点です。

・リヒテンシュタイン宮殿の雰囲気を「バロック・サロン」として再現
リヒテンシュタイン侯爵家所蔵の絵画、彫刻、工芸品や家具調度が一堂に会する「バロック・サロン」 を設置。バロック時代の豪奢な宮廷の空間を再現。

・「ルーベンス・ルーム」には、4メートル級の大作を含む十数点を一挙公開。
ルーベンスが愛娘を描いた、マスターピース「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」を出品。さらに華麗かつドラマチックなバロック芸術を体現した傑作、古代ローマの英雄デキウス・ ムスのシリーズの中から3×4メートルの大作「占いの結果を問うデキウス・ムス」(東京展のみ)を特別出品。

・絵画史を至宝でたどる「名画ギャラリー」
ラファエッロ、クラナッハ、レンブラント、ピーテル・ブリューゲル(子)、ヴァン・ダイク、カナレットなどの巨匠たちを紹介。

会場はあの巨大空間を持つ新美です。名品はもとより、「バロック・サロン」をはじめ、彼の地の雰囲気を味わうことの出来る展示となるのではないでしょうか。

なお先行のチラシも公開されました。開くとA4が4面の巨大サイズです。超大作の「占いの結果を問うデキウス・ムス」も掲載されています。



キーワードはルーベンスの「ようこそ、わが宮殿へ」です。是非、お手にとってご覧ください。


パウル・ルーベンス「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」1616年頃

「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」

東京:2012年10月3日(水)~12月23日(日)国立新美術館
高知:2013年1月5日(土)~3月7日(木)高知県立美術館
京都:2013年3月19日(火)~6月9日(日)京都市美術館

追加情報は6月頃出るそうです。そちらも楽しみにしたいと思います。
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「メグロアドレス―都会に生きる作家」 目黒区美術館

目黒区美術館
「メグロアドレス―都会に生きる作家」
2/7-4/1



目黒区美術館で開催中の「メグロアドレス―都会に生きる作家」へ行ってきました。

これまでにも若い作家の個展をはじめとする現代美術展を数多く開催してきた目黒区美術館ですが、この程、目黒に縁のある作家をグループ展形式で紹介する企画が始まりました。

 
作家:今井智己 この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」 ライセンスでライセンスされています。

それが「メグロアドレス」です。アドレスの名が示すように、過去現在において目黒に住んでいた作家をセレクトしたということですが、主に1970年代生まれの比較的若い作家が多様な展示を繰り広げていました。

出品作家は以下の通りです。

青山悟+平石博一
今井智己
須藤由希子
長坂常
南川史門
保井智貴


まずはメインフロア、2階へあがる階段に外界を取り込んだインスタレーションで魅せてくれたのは長坂常です。

 
作家:長坂常 この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」 ライセンスでライセンスされています。

人目につきにくい階段下の物置の空間にスポットを当てた長坂は、そこが唯一、鑑賞者と美術館職員、そして屋外の通行者の視点が交差する場所であると看破し、塗装という簡潔な作為によって、また新たな価値を与えました。

これが意外なほど空間にハマっています。私自身、これまで単なる通路としてしか認識して来なかった場所ですが、まさかそこへこのような意味と光が加わってくるとは思いもよりませんでした。

 
作家:保井智貴 この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」 ライセンスでライセンスされています。

さて保井智貴の乾漆像に誘われて進むと見えてくるのは、館内で最も広いスペースを活用した南川史門の一連のペインティングです。

 
作家:南川史門 この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」 ライセンスでライセンスされています。

金や銀、それにピンクのストライプ、また四角形をした平面は、純度の高い抽象絵画として受け取れるかもしれませんが、その光沢のある画面を眺めていると、不思議と何らかの建築物を見ているような気持ちにさせられはしないでしょうか。言わば記号はいつしか都会の景色、日常へと変化していました。

さて私として今回一番素直に惹かれたのは、須藤由希子の家屋を描いた作品です。

 
作家:須藤由希子 この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」 ライセンスでライセンスされています。

非常に繊細な線描で表されているのは、一見、何ら変哲もない、ごくありふれた庭付きの民家です。なお実はこの民家はかつて都心にあり、ビル建設のために取り壊されてしまったのだそうですが、その記憶はどこか牧歌的でかつ郷愁を誘うこれらの絵画で確かに残されていました。

 
作家:青山悟+平石博一 この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」 ライセンスでライセンスされています。

青山悟の刺繍には平石博一のミニマル音楽が合わせ重なります。がらんとした空間ではありましたが、何とも言い難い緊張感は展示随一でした。

 
作家:青山悟+平石博一 この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」 ライセンスでライセンスされています。

予想以上に作品数が少なく、また全体を通して軸になるようなものが見えてこなかったせいか、率直なところ物足りなさを感じましたが、そこは充実したラインナップのトークやワークショップの関連企画、また図録で補うべきものだったのかもしれません。

今更ながら展示を見るだけではなく、むしろ参加すれば良かったとも思いました。

 
右、作家:保井智貴 この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」 ライセンスでライセンスされています。
左、作家:南川史門 この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」 ライセンスでライセンスされています。


メグロアドレスの公式ツイッターがこまめに展示情報などをつぶやいています。(@MeguroAddresses)要チェックです。

本展は写真撮影が可能です。詳細は同館WEBサイトの「写真撮影について」(PDF)をご覧ください。

4月1日まで開催されています。

「メグロアドレス―都会に生きる作家」 目黒区美術館
会期:2月7日(火)~4月1日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~18:00
住所:目黒区目黒2-4-36
交通:JR線、東京メトロ南北線、都営三田線、東急目黒線目黒駅より徒歩10分。
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「都の遊び・王朝の美」 そごう美術館

そごう美術館
「京都 細見美術館展 Part1 都の遊び・王朝の美」
2/4-3/20



そごう美術館で開催中の「京都 細見美術館展 Part1 都の遊び・王朝の美」へ行ってきました。

琳派をはじめとする江戸絵画はもちろん、日本美術全般のコレクションで定評のある京都・細見美術館ですが、今横浜のそごう美術館にて、その所蔵品の一部、とりわけ京都にまつわる絵画や工芸品が公開されています。

出品は全90点です。展覧会の構成は以下の通りでした。

1.王朝の雅 和歌と物語
2.都の四季 遊びと飾り
3.京の絵師 若冲から雪佳まで



「北野社頭図屏風」江戸後期

ともかく京にちなむというのがキーワードです。平安の王朝期をモチーフとした和歌に物語絵、また洛中洛外図に代表される祭礼・遊楽図屏風、また調度品、さらには点数こそ少ないものの宗達、若冲、そして雪佳といった京都の絵師らの作品が登場していました。

まず目に留まるのは歌仙絵の数々です。中でも注目なのは岩佐又兵衛の「歌仙絵 源順」ではないでしょうか。源信はお馴染みの又兵衛様式というべき面長の顔をしています。やや口を開けながら飄々とした様子でした。

さてさらに又兵衛ではもう一点、「源氏物語図屏風 総角」から目が離せません。六曲一双の大画面には、宇治の紅葉狩りに訪れた匂宮ご一行が描かれています。

面白いのは画面右下で一行を待ち構える女御たちです。皆、心踊っているかのように浮き足立ち、それこそ背伸びしながら時に手を目にやって、一行の方をのぞき込んでいました。

なお本作は諸事情により会期途中から出品されたそうです。思わぬタイミングながらも、又兵衛ならではの生き生きとした人物表現を楽しむことが出来ました。


「花車図屏風」江戸後期

小品も多い中、屏風がかなり目立っていましたが、とりわけ印象に深いのは大きな花かごが描かれた「花車図屏風」です。

画面から放たれる金地の輝きにも圧倒されてしまいますが、艶やかな桜や藤の美しさと言ったら並大抵ではありません。草花のむせかえるような生気も伝わってきます。まさに眼福の一点でした。


円山応挙「若竹に小禽図」1795年

少ないながらも琳派関連では、光悦と宗達コラボの扇面絵や色紙、また時候にもぴったりの抱一の「立雛図」、さらには得意の描表装を用いた其一の「掛蓬莱図」なども心に残りました。またさり気なく守一や山本光一といった江戸琳派グループの絵師が2、3点ほど出ていたのも嬉しいポイントでした。


小沢華「蝶々踊図屏風」江戸後期

また薪箱に盆などの調度品は多数出ています。工芸品が好きな方も楽しめるかもしれません。

最後は細見ご自慢の雪佳です。ここは全体の約1割強、十数点の雪佳作品が一堂に会していました。壮観です。

さて本展はあくまでも「Part1」です。と言うわけで5月下旬からの「Part2」では、今回も何点か出ていた琳派、そして若冲を中心とした江戸絵画がメインで登場します。



「京都 細見美術館展 Part2 琳派・若冲と雅の世界」@そごう美術館 5月26日(土)~7月16日(月・祝)

そしてその展示とともに目が離せないのが記念講演会です。

「細見コレクションの軌跡-琳派・若冲を中心に-」
 講師:細見良行氏(細見美術館 館長) 日時:5月26日(土)14時より
「若冲ブームの実相」
 講師:山下裕二氏(明治学院大学教授) 日時:6月10日(日)14時より
「京都の琳派・江戸の琳派」
 講師:仲町啓子氏(実践女子大学教授) 日時:6月24日(日)14時より
 
 場所:そごう美術館展示室内
 費用:各回500円(消費税含む。別途入館料が必要。)
 定員:各回60名(事前申込み・先着順)

豪華な講師陣ではないでしょうか。これは期待したいと思います。

またPart1会期中はPart2とのセット券も発売されています。料金は1400円です。各回1000円、2回で2000円からすればかなりお得と言えるのではないでしょうか。

「俵屋宗達: 金銀の〈かざり〉の系譜/玉蟲敏子/東京大学出版会」

3月20日まで開催されています。

「京都 細見美術館展 Part1 都の遊び・王朝の美」 そごう美術館
会期:2月4日(土)~3月20日(火・祝)
休館:そごう横浜店の休日に準じる。
時間:10:00~20:00 *最終日は17時閉館。
住所:横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店6階
交通:JR線横浜駅東口よりポルタ地下街通路にて徒歩5分。
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「荒木愛 個展」 銀座スルガ台画廊

銀座スルガ台画廊
「第46回レスポワール新人選抜展 荒木愛 個展」
3/12-17



銀座スルガ台画廊で開催中の第46回レスポワール新人選抜展、荒木愛個展へ行って来ました。

間もなく東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻描画・装飾(中島千波)研究室を卒業される荒木愛(@aispy)さん。

先日の修了展にも作品を展示されていましたが、残念ながら伺うことが出来ませんでした。

と言うわけで、まず注目したのは、その時にも出品された大作、「mementos」(2012年)に他なりません。


「mementos」(2012年)

薄く桃色がかった白の空間には、無数の貝や人手、それに蝉たちが散っています。近くによって見ると、画面に固着し、それこそ砂浜に沈みこむかのように並ぶ貝の姿を確認出来ますが、少し離れると華やかな色にも因るのか、まるで大きな花束から花びらが散っているようにも見えるのではないでしょうか。


「mementos」(2012年)部分

貝たちは中心から渦を巻くのではなく、パッと浮遊しながら緩やかに楕円を描くように広がっています。まさしく貝殻たちのブーケでした。

さて淡く繊細な岩絵具の質感を引き出した作品が多い中、一際異彩を放っていたのが「成層圏」のシリーズです。


「成層圏」(2012年)

この目に染みるような青みこそ、飛行機に乗ると目にする「成層圏」の景色の現れなのでしょうか。


「成層圏」(2012年)部分

その飛行上での「とても静かで穏やかな世界に来た錯覚」に、「身近な存在を亡くした際に陥る感覚」(ともにキャプションより引用)を重ね合わせた荒木は、群青の奥にそっと貝殻を潜ませ、あたかも深海の底に沈んで動かなくなったもの、言わば死んだ化石のように描き出しました。

画面下方であたかも雲のように靡く網目状の和紙のざわめきだけが静かにこだましていました。


「めろん」(2012年)

「めろん」に思いがけない景色が広がります。 表面を覆う網越しに広がるメロンの向こうには、色づく紅葉の息吹きすら感じられるのではないでしょうか。

私のお気に入りはツバメに導かれて貝殻の舞う「また会える日まで」です。


「また会える日まで」(2012年)

力強く飛び行くツバメはもとより、大きくカーブを描いてせり上がる貝殻の動きそのものが他の作品と一線を画しています。

ツバメの行先は一体どこへ行くのでしょうか。鮮烈な色を取り込んだ成層圏とあわせ、荒木の次の展開を予感させているような気がしました。

短期決戦一週間のみの展示です。明日、銀座へお出かけの際は是非ともご覧になってください。(最終日は17時半終了)

3月17日までの開催です。

「第46回レスポワール新人選抜展 荒木愛 個展」 銀座スルガ台画廊
会期:3月12日(月)~17日(土)
休廊:会期中無休
時間:11:00~19:00 *最終日は17:30まで。
住所:中央区銀座6-5-8 トップビル2F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸の内線銀座駅B9出口徒歩4分。
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「第6回 shiseido art egg 入江早耶」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「第6回 shiseido art egg 入江早耶 - デイリー・ハピネス」
3/2-3/25



第6回アートエッグのラストはまさに資生堂に因んだ展示でした。「第6回 shiseido art egg」入江早耶個展、「デイリー・ハピネス」へ行ってきました。

いきなり受付でルーペを渡され、一体何が会場にあるのかと見渡すと、まず目に飛び込んでくるのが、何やらうずたかく積まれたパッケージの数々です。

その箱の山に近づくと直ぐさま、資生堂パーラーなどのお菓子の空箱など、資生堂と関係する素材であることが分かりますが、いずれもその模様の表面が白く削り取られているではありませんか。思わずルーペを目の前にやり、その秘密を解き明かそうと躍起になってしまいました。

答えは箱の山の上に置かれた小さなオブジェにあります。「メガミダスト」ではポストカードと空箱(油取り紙のものだそうです。)の唐草紋様を消しゴムで消した上、結果生まれる消しかすにてカードの元の形、つまりは描かれた女性像を立体として再現しています。


「カンノンダスト」 2010年

また「カンノンダスト シセイドウバージョン」では背後に掛け軸画がかれられていますが、今度はそこに描かれていた観音像を同じく消しゴムで消し、先ほどと同じように消しかすで像を作り上げています。またここでは資生堂の花椿石鹸を取り込んだ作品も展示されています。鼻を近づけると確かに仄かな石鹸の香りが漂ってきました。

元々描かれている平面の画像を消し、消した素材を介在、つまりは消しゴムをそのまま立体のオブジェに置き換えています。また消しかすという素材の言わばチープな面に『作品』としての価値を与えました。コンセプトは明快です。

もちろん彫刻としての魅力もあるかもしれません。色々な意味で長靴裏の「恐竜」には驚かされました。

なお今回の「shiseido art egg賞」(審査員:伊庭靖子、津村耕佑、平野啓一郎)は、4月下旬に同ギャラリーのWEBサイトで発表されます。私としては鎌田さんの展示が一推しです。

さて資生堂では次回展にも要注目です。映像作家のさわひらきさんの個展が予定されています。



「さわひらき展 Lineament」 4月7日(土)~6月17日(日)

待ちに待っていた方も多いのではないでしょうか。(私もその一人です。)なお初日にはさわひらき本人によるトークも行われます。申込方法は下記リンク先をご参照下さい。

次回展覧会「さわひらき展 Lineament」ギャラリートーク 4月7日(土)14:00~16:00

定員は60名です。間違いなく抽選となりそうです。

3月25日まで開催されています。

「第6回 shiseido art egg」展示スケジュール
three  1月6日(金)~29日(日)
鎌田友介 2月3日(金)~26日(日)
入江早耶 3月2日(金)~25日(日)

「第6回 shiseido art egg 入江早耶展」 資生堂ギャラリー
会期:3月2日(金)~25日(日)
休館:毎週月曜日
時間:11:00~19:00(平日)/11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「インカ帝国展」 国立科学博物館

国立科学博物館
「インカ帝国展」
3/10-6/24



国立科学博物館で開催中の「インカ帝国展」のプレスプレビューに参加してきました。

最近では2007年にマヤ・インカ・アステカ、そして2009年のシカンと、立て続けにアンデス文明展を続けた国立科学博物館ですが、先日より空中都市マチュピチュでも有名なインカにスポットを当てた展覧会が始まりました。


「玉座(ティアナ)」(フィールド自然史博物館)

言うまでもなくインカとは15世紀半ばごろに成立し、16世紀にスペインによって滅亡させられたアンデス最後の文明ですが、今回は最新の発掘調査はもとより、人類学、歴史学の視点を交え、その文化と歴史を多角的に紹介しています。

第一部 インカ 帝国の始まりとその本質
第二部 インカ 帝国の統治
第三部 滅びるインカ、よみがえるインカ
第四部 マチュピチュへの旅(3Dスカイビューシアター)


冒頭はインカの考古遺物です。2頭のジャガーに支えられた王の玉座をはじめ、トウモロコシ酒を入れていたというアリバロの堂々たる姿に胸を躍らせる方も多いかもしれません。


「チャキタクリャ(踏み鋤)」の前で解説する監修のトーマス・カミンズ(ハーバード大学美術歴史・建築部長)氏。

またまるで武器のような形をしていて印象深いのは「チャキタクリャ」と呼ばれる農耕用の鋤です。


「小型女性人物像」(ペルー文化省・トゥクメ遺跡博物館)

その他にも日用的に用いられていた土器や、生贄の儀式での供物の一つであったというハンダ付けの小型人物像など、インカの暮らしを伝える文物が展示されていました。

さて今回のインカ展で注目すべきなのは、インカの支配した人々と、逆にスペインによって支配された以降のインカについての言及があることです。

そもそもインカはアンデスでは少数の部族でしたが、おおよそ100年程度で現在のペルーからチリにまで至る大帝国を築きあげました。


「第二部 インカ 帝国の統治」展示室風景

そしてインカはその広大な領土を行き来するために「インカ道」と呼ばれる交通網を整備し、宿や食料を貯蔵するための倉庫をいくつも建造します。


左:「モチェ文化の金合金製の頭飾り」(ラファエル・ラルコ考古博物館)、右:「金合金製の器」(ラファエル・ラルコ考古博物館)

また杯が多数出ていますが、これはインカが他の部族を支配する際の贈り物であり、また相互の乾杯の儀式を執り行うために用いられていたものだそうです。

そしてミイラにも秘密があります。


「チャチャポヤ族のミイラ」5体

ここで登場するのはインカによって支配されたチャチャポヤ族のミイラですが、実は元々彼らには埋葬でミイラになる習慣がありませんでした。(遺体が骨になってから埋葬していたそうです。)


「ミイラ」15~16世紀 レイメバンバ博物館 *撮影:義井豊

ミイラはインカの支配によって初めてつくられます。つまりインカの強大な力は他の部族の埋葬の文化にまで大きな影響を与えたというわけでした。

さらにスペイン支配後のインカについても重要です。展示室の雰囲気がガラッと変わたことにお気づきでしょうか。


「第三部 滅びるインカ、よみがえるインカ」展示室風景。手前は「銀製行列十字架」(オズマ博物館)。

インカ帝国は1533年、最後の王アタワルパが処刑されたことにより終焉を迎えますが、その後も抵抗を続けながらも、スペインの同化政策を受け、生活や文化の在り方を変化させていきます。


「ドン・アロンソ・チワン・インガ(インカ)の肖像画」(18世紀)の前で解説する監修の島田泉(南イリノイ大学人類学科教授)氏。

中でも興味深いのが肖像画です。インカはスペインによって貴族制に組み込まれましたが、インカ人の中には、自身こそが帝国の末裔と称し、こうした古いインカの服装を纏って絵を描かせたこともあったそうです。そしてそこにはほぼ間違いなく十字架など、キリスト教を受け入れた姿で登場します。

しかしながらスペインはこうした「インカの末裔」による反動を恐れ、インカの人々にインカ王を模した服装をすること自体も禁じてしまいます。

そもそも植民地後のインカを紹介する展示自体が極めて異例ですが、まさに知られざる植民地時代のインカを垣間見ることが出来ました。


「マチュピチュの旅 3Dスカイビューシアター」

ラストは科博ではお馴染みの3Dシアターです。実際に現地で映したものと、東博シアターでも定評のある凸版印刷によるVRを組み合わせた映像です。マチュピチュを空から堪能出来ます。シカンでも3Dを見ましたが、その時よりもさらにスケールアップしていました。

さてお得なチケットの情報です。 毎週金曜の夜間開館(20時まで)のペアチケットと、毎週水曜の「レディースデー」の割引チケットが販売されています。

「金曜限定ペア得ナイト券」
(会場、チケBOO!限定販売) 2名様で2,000円
*17時から20時まで。最終入場は19時半。2名様同時入場、男女問わず。

「水曜限定レディース券」
(会場、チケBOO!限定販売) 1,000円
*水曜日の開館時間内有効、1名様、女性限定

また展覧会のテーマ曲「Inka」を手がけた瀬木貴将さんのCD、「マチュピチュの夜明け」が4月4日に発売されます。


瀬木貴将さん。楽器とともにポーズをとっていただきました。

瀬木さんはアンデスの民族楽器、サンポーニャ・ケーナの奏者です。実は内覧時に演奏をお聞きしましたが、軽やかなリズムに透き通る音色には思わずうっとりさせられました。

「SICAN~アンデスの風/瀬木貴将/日本クラウン」

発売後は一般のCD店でも取り扱いがあります。試聴出来る機会もあると思いますので、是非耳を傾けて下さい。


「第一部 インカ 帝国の始まりとその本質」展示室風景。

展覧会の公式Twitter(@TBS_inkaten)とFacebook(TBSインカ帝国展)でも情報が発信されています。ともに要チェックです。

ロングランの展覧会です。6月24日まで開催されています。

「マチュピチュ『発見』100年 インカ帝国展」 国立科学博物館
会期:3月10日(土)~6月24日(日)
休館:毎週月曜日。但し3月26日、4月2日、4月30日は開館。
時間:9:00~17:00。金曜は20時まで。*4月28日(土)~5月6日(日)は18時まで。但し5月4日(金)は20時まで。
住所:台東区上野公園7-20
交通:JR線上野駅公園口徒歩5分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成線京成上野駅徒歩10分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「RYUGU IS OVER!! 竜宮美術旅館は終わります」 竜宮美術旅館

竜宮美術旅館
「RYUGU IS OVER!! 竜宮美術旅館は終わります」
2/17-3/18



横浜・黄金町で異彩を放つアートスポットも間もなく見納めです。竜宮美術旅館で開催中の「RYUGU IS OVER!!」へ行ってきました。


浅井裕介「コーヒー」2012年

かつては「青線地帯」とも呼ばれ、戦後、人間の欲望を飲み込んできた日ノ出町、黄金町界隈ですが、その歴史の半ば証人として時を刻んできたのが「竜宮美術旅館」です。


武田陽介「コタツ」2012年 他

今より遡ること約70年前、終戦を迎えた1945年頃に「旅館」として建造され、その後、様々な用途に使われてきた建物(進駐軍の連れ込み宿でもあったそうです。)ですが、一昨年より黄金町のアートの拠点、またカフェとして、再び人々の集う施設へと生まれ変わりました。


狩野哲郎「自然の設計/Naturplan」2011-12年

しかしながらも街全体の「浄化」(チラシより引用)の波には逆らえません。地区の最開発計画のためにこの3月に取り壊されることが決まりました。


丹羽良徳「自分の所有物を街で購入する」2011年

そのラストを飾るのが今回の「RYUGU IS OVER!!」、文字通り「竜宮美術旅館は終わります」展というわけです。

出品アーティスト
青田真也 、淺井裕介、臼井良平、狩野哲郎、志村信裕、武田陽介、冨井大裕、丹羽良徳、森田浩彰+大久保あり、八木貴史、安田悠、SHIMURABROS.、mamoru、Yu Cheng-Ta


全14組の若手アーティストたちが、この個性的な建物の場の力を借り、時に意表を突き、また空間の面白さを引き出した展示を行っていました。


安田悠「Grove」2012年 他

スペースは決して広くなく、ほぼ民家とも言えるような小さな家屋ですが、ともかく街の歴史、そして人の臭いが染み付いているような建物と言えるのではないでしょうか。


臼井良平「結露(minato)」(2012年)

増改築を繰り返してきたとのことで、建築当時の姿は何とも想像がつきませんが、旅館ならではの『和』の中へ突如、しかもどこか暴力的に『洋』が介入するなど、一歩足を進めるだけでも景色ががわりと変わります。それを追いかけるだけでも十分に楽しめるかもしれません。

なお一階の一部はカフェスペースです。(利用には所定の入場料がかかります。)ゆっくりくつろいでみるのも良いのではないでしょうか。

開館は月・金・土・日のみです。十分にご注意下さい。


「竜宮美術旅館」館内

実は初めて出かけましたが、この建物に向きあい、その歴史の一端を共有出来たことだけでも感無量でした。


「竜宮美術旅館」入口付近

入場料は500円です。3月18日まで開催されています。

「RYUGU IS OVER!! 竜宮美術旅館は終わります」 竜宮美術旅館
会期:2月17日(金)~3月18日(日)
休館:火、水、木
時間:13:00~21:00
住所:横浜市中区日ノ出町1-53-2
交通:京急線日ノ出町駅徒歩1分。
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