都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
『アレック・ソス 部屋についての部屋』 東京都写真美術館
『アレック・ソス 部屋についての部屋』
2024/10/19~2025/1/19
アメリカ・ミネソタ州ミネアポリスに生まれ、現在も同地で活動を続ける写真家、アレック・ソス(1969年〜)の展覧会が、東京都写真美術館にて開かれています。
今回の個展ではソスが初期より一貫して捉えてきた室内空間、つまり部屋をテーマに約30年にわたる活動を振り返っていて、室内でのポートレイトを中心とした作品が6つの部屋に分けて展示されていました。
アメリカ国内を旅しながら撮影を行ってきたソスは、初期の「Sleeping by the Mississippi」のシリーズにおいてミシシッピ川流域のに住む人々に取材していて、いずれも部屋の中で真っ直ぐレンズに向き合う人が写し出されていました。
1990年代後半に撮影されたモノクロの「Looking for Love」とは、まだ20代半ばだったソスが、地域のバーで出会った人やダンスパーティーなどを撮影したシリーズで、中には結婚式の後に自らの姿を写したセルフポートレイトも見ることができました。
アメリカの詩人ウォレス・スティーヴンスの詩「灰色の部屋」の一節からタイトルをつけた「I Know How Furiously Your Heart is Beating」は、ソスのキャリアにとって一つの転換点ともなった作品で、静謐な室内空間における被写体から醸し出される親密さを魅力としていました。
2015年に東京・新宿のパークハイアットに滞在した際に手がけた作品は、同ホテルを舞台にした映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)に着想を得ていて、いずれもソスがネットで検索して招いた呼んだ茶道家やアイドルグループらをホテルの室内にて撮影していました。
「ポートレイトや風景、静物などを定期的に撮影しているが、最も親しみを感じるのは室内の写真だ」 アレック・ソス
一つとして同じ室内空間のない作品を見ていると、ソスが旅して出会った人々が持つ無数の物語が浮かび上がってくるような気持ちにさせられるかもしれません。
アレック・ソスの写真がつむぐ、さまざまな部屋に息づく物語。東京都写真美術館にて展覧会が開催中!https://t.co/W26ybTlo7h
— Pen Magazine (@Pen_magazine) November 11, 2024
アレック・ソスの写真がつむぐ、さまざまな部屋に息づく物語。東京都写真美術館にて展覧会が開催中!|Pen Online
「TOPのお正月2025」の開催に伴い、2025年1月2日と3日は無料で観覧することができます。
2025年1月19日まで開催されています。*写真はすべて『アレック・ソス 部屋についての部屋』展示作品
『アレック・ソス 部屋についての部屋』 東京都写真美術館(@topmuseum)
会期:2024年10月19日(木)~2025年1月19日(日)
休館:月曜日。
*月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館
*年末年始(12/29〜1/1)
時間:10:00~18:00
*木・金曜日は20時まで。ただし7/20〜8/31の木・金は21時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般800(640)円、学生640(510)円、中高生・65歳以上400(320)円。
*( )は20名以上の団体料金。
*1月2日(木)、3日(金)は無料
場所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口より徒歩約7分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分。
『ポケモン×工芸展 ― 美とわざの大発見 ―』 麻布台ヒルズギャラリー
『ポケモン×工芸展 ― 美とわざの大発見 ―』
2024/11/1〜2025/2/2
国立工芸館にはじまり、日本各地やアメリカを巡回して話題を集めた『ポケモン×工芸展 ― 美とわざの大発見 ―』が、東京・虎ノ門の麻布台ヒルズギャラリーにて開かれています。
満田晴穂『自在ギャラドス』 2022年
今回の展覧会では、若い世代から人間国宝までの20名のアーティストが、ポケモンをテーマにした工芸の作品を制作していて、陶芸、漆芸、木工、金工、染織などの多様なジャンルが一堂に公開されていました。
また単にポケモンがテーマといえども、姿かたちを模ったものから、気配を呼び起こした作品、さらに技などのゲームを引用したものなど多様なモチーフが展開していて、想像以上にバリエーションが豊かでした。
葉山有樹『森羅万象ポケモン壺』 2022年
有田に生まれた葉山有樹は『森羅万象ポケモン壺』において、更紗で知られる「アラス・アラサン文様」に着想を得ると、無数の植物と500匹を超えるポケモンを壺の表面に染付の技法にて描きました。
吉田泰一郎『ミュウツー』 2024年
金属彫刻を手がける吉田泰一郎は、イーブイと進化形の3匹を造形化すると、東京会場での新作として全長約2メートルにも及ぶミュウツーを展示していて、迫力のある姿を見ることができました。
今井完眞『フシギバナ』、『キングラー』 ともに2022年
フシギバナやコイキングなどをリアルに表現した、陶芸家の今井完眞の作品も大変な力作といえるかもしれません。
須藤玲子『ピカチュウの森』 2023年
このほか、綿とニードルレースなど素材に、アーチ型の小道に小さなピカチュウが吊した須藤玲子の『ピカチュウの森』や、金色に輝くタイルと大小さまざまなカップやボウルにピカチュウを転写した桑田卓郎の作品も目立っていました。
⚡️ポケモン×工芸展 展示替え作品7点&新作のご紹介⚡️展覧会後期となる12/26(木)より一部作品の入れ替えを行います。さらに、新作の公開も決定!同日から展示される作品をご紹介します✨💡水橋さおりさん《友禅訪問着「雲の間に」》《友禅帯「煌めき」》💡小宮康義さん《江戸小紋… pic.twitter.com/PvR6hhZBPY
— 麻布台ヒルズ ギャラリー (@ah__gallery) December 18, 2024
12月26日からの後期展示より植葉香澄の『星氷裂文ミミッキュ』といった新作の展示が開始されるほか、7点の作品の展示替えが行われます。
桑田卓郎、作品展示風景
ポケモンを通して、アーティストの卓越した技と工芸の新たな魅力を感じられるような展覧会だったかもしれません。金沢や巡回先にて大変な人気を博したということにも納得させられました。
東京での会期がスタート! 大人気の『ポケモン×工芸展』の見どころとは?|Pen Online
葉山有樹『キューブ型「バイオレット未来と現在の共存」』 2024年
2025年2月2日まで開かれています。
『ポケモン×工芸展 ― 美とわざの大発見 ―』 麻布台ヒルズギャラリー(@ah__gallery)
会期:2024年11月1日(金)〜2025年2月2日(日)
休館:12月31日。
時間:月/火/水/木/日 10:00〜19:00、金/土/祝前日 10:00〜20:00
料金:一般1600円、専門・大学生1400円、高校・中学生1100円、4歳〜小学生400円。
*前売チケット料金(日時予約制)
*チケット在庫が残っている場合にのみ、当日窓口にて「窓口チケット」を販売
住所:港区虎ノ門 5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザ A MB 階
交通:東京メトロ日比谷線 神谷町駅5番出口地下1階から直結
『ベル・エポック―美しき時代パリに集った芸術家たち』 パナソニック汐留美術館
『ベル・エポック―美しき時代パリに集った芸術家たち ワイズマン&マイケル コレクションを中心に』
2024/10/5 〜12/15
ベル・エポック期のパリの文化芸術を紹介する展覧会が、パナソニック汐留美術館にて開かれています。
アンリ=ガブリエル・イベルス「挿絵付き上演目録」 1893〜1894年 デイヴィッド・E.ワイズマン&ジャクリーヌ・E.マイケル蔵
それが『ベル・エポック―美しき時代パリに集った芸術家たち』で、会場にはルノワールなどの絵画をはじめ、シェレやロートレックのポスター、またガレやラリックの工芸作品、それに当時の女性たちが身にまとった装身具など250点を超える作品が展示されていました。
今回の最大の特徴は、アメリカの大手通信企業の創設者であるデイヴィッドと、弁護士および慈善事業家であるジャクリーヌの両名が収集したコレクションによって構成されていることで、すべての作品が日本で初めて公開されました。
シャルル・モラン『ロイ・フラー(オレンジ色の衣装)(黄色の衣装)』 1895年頃 デイヴィッド・E.ワイズマン&ジャクリーヌ・E.マイケル蔵
そのうち絵画ではジョージ・ラクス、アンリ・ドトゥーシュ、ルイ・ルグランなど、国内では必ずしも有名ではない画家も登場していて、こうした画家の作品にも見ごたえのある作品が少なくありませんでした。
ジュール・シェレ『音楽』1891年頃、『パントマイム』1891年、『コメディー』1891年、『ダンス』1891年 デイヴィッド・E.ワイズマン&ジャクリーヌ・E.マイケル蔵
ハイライトを飾るのは、当時のパリの街路や劇場を彩ったポスターの名作で、文芸キャバレー・シャ・ノワールの看板猫を描いた『シャ・ノワール』や、ジュール・シェレの『音楽』といった作品に魅せられました。
手前:ピエール・ボナール『ピアノのための家族の情景集(C.テラス曲)』より 1893年 栃木県立美術館
美術、工芸、舞台、文学、モードなど多様なジャンルの作品が入り混じっているのも、展示の見どころといえるかもしれません。ボードレールの初版本やプルーストの書き込み校正刷といった貴重な資料にも目を引かれました。
国内初公開作品多数!『ベル・エポック―美しき時代』で体感する、芸術の都・パリに花開いた文化▶︎https://t.co/GG9YAinEZtパナソニック汐留美術館で開催中の本展は、1900年の万国博覧会によって「光の都」となったパリを紹介する華やかな展覧会。注目したい5つの見どころを紹介する。 pic.twitter.com/UsXyD9JhWF
— Pen Magazine (@Pen_magazine) November 13, 2024
Penオンラインでも展覧会の見どころを紹介しました。
国内初公開作品多数!『ベル・エポック―美しき時代』で体感する、芸術の都・パリに花開いた文化|Pen Online
12月15日まで開かれています。
『ベル・エポック―美しき時代パリに集った芸術家たち ワイズマン&マイケル コレクションを中心に』 パナソニック汐留美術館(@shiodome_museum)
会期:2024年10月5日(土) 〜12月15日(日)
休館:水曜日(ただし12月11日は開館)
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
*11月1日(金)、22日(金)、29日(金)、12月6日(金)、13日(金)、14日(土)は20時まで開館。
料金:一般1200円、65歳以上1100円、大学生・高校生700円、中学生以下無料。
*ウェブサイト割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分
『GO FOR KOGEI 2024』 富山市(岩瀬エリア)、金沢市(東山エリア)
『GO FOR KOGEI 2024 くらしと工芸、アートにおける哲学的なもの』
2024/9/14〜10/20
岩村遠、作品展示風景。「ピアット スズキ チンクエ(屋外)」(岩瀬エリア)
「くらしと工芸、アートにおける哲学的なもの」をテーマに、北陸から工芸とアートの魅力を発信する芸術祭『GO FOR KOGEI 2024』が、富山市と金沢市の2つのエリアにて開催されています。
「桝田酒造店 満寿泉」(岩瀬エリア)より、葉山有樹『双竜』2023年
かつて北前船で栄えた富山市の岩瀬エリアでは、土蔵や酒蔵、古い倉庫や町家などにてさまざまな展示が行われていて、風情のある古い街並みを散策しながら作品を楽しむことができました。
「New An」(岩瀬エリア)より外山和洋の作品展示風景(手前)
このうち町家「New An」では、磯谷博史、澤田健勝、釋永岳、外山和洋、安田泰三の5名の作家が作品を公開していて、そのうち素焼きの陶器の外側に金属のコーティングを施し、剥がした型の部分を作品として残す外山の制作が印象に残りました。
舘鼻則孝『ディセンディングペインティング“雲龍図”』2024年
また「満寿泉」で知られる桝田酒造店も会場の一つで、酒蔵の2階では舘鼻則孝が空間全体を活かした絵画インスタレーションを公開していたほか、同酒造店直営のKOBO Brew Pubでは、舘鼻の絵画を鑑賞しながらクラフトビールを味わうこともできました。
「Aka Bar」(岩瀬エリア)より、五月女晴佳『Bondage』2020年
このほか岩瀬エリアでは、巨大な織物のオブジェを倉庫に吊るした石渡結や、土蔵のバーにて唇をかたどった漆の作品を展示した五月女晴佳の作品も見どころだったかもしれません。
「LOCOLOCO HIGASHI 204号」(東山エリア)より、八木隆裕(開化堂)『Recreate Caddy』
一方で金沢市の東山エリアとは「ひがし茶屋街」の奥に広がる住宅地を舞台としていて、八木隆裕の茶筒を用いた作品や竹俣勇壱による金属のカトラリーや食器など、生活のシーンに根差すような工芸の作品を見ることができました。
「KAI 離」(東山エリア)から、三浦史朗+宴KAI プロジェクト 展示風景
また建築家の三浦史朗と工芸の職人たちの作品を収める、「KAI 離」と呼ばれる展示施設も見ておきたいスポットではないでしょうか。木製の風呂や茶室、さらに白い布に覆われた待合などが、今回の芸術祭のために特別に公開されていました。
工芸、アート、食が織りなす芸術祭『GO FOR KOGEI 2024』が開催中。注目スポットを紹介!https://t.co/7jWiUXXcnV
— Pen Magazine (@Pen_magazine) September 24, 2024
工芸、アート、食が織りなす芸術祭『GO FOR KOGEI 2024』が開催中。注目スポットを紹介!|Pen Online
サリーナー・サッタポン《バレン(シアガ)アイビロング:富山》2024年 パフォーマンス (岩瀬エリア)
10月20日まで開かれています。
『GO FOR KOGEI 2024 くらしと工芸、アートにおける哲学的なもの』(@goforkogei) 富山県富山市(岩瀬エリア)、石川県金沢市(東山エリア)
会期: 2024年9月14日(土)~10月20日(日)
休場日: 沙石(火曜)、SKLo(水曜)ほか会期中無休
時間:10:00~16:30
*最終入場は16時まで
共通パスポート:一般2500円、学生(大学生・専門学生)2000円。
*受付当日のみエリア内の展示会場を1回ずつ鑑賞できる 「エリア別1DAYチケット」も会期中販売。
場所:富山市東岩瀬町海岸通り5(富山港展望台、岩瀬インフォメーションセンター)、石川県金沢市東山2-8-25(KAI、東山インフォメーションセンター)
交通:富山港線「岩瀬浜駅」から徒歩10分(岩瀬インフォメーションセンター)、城下まち金沢周遊バス・北陸鉄道路線バス・西日本JRバス「橋場町」から徒歩10分(東山インフォメーションセンター)。
『フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線』 SOMPO美術館
『フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線』
2024/6/22~9/23
ロートレックの紙作品の個人コレクションとしては、世界最大級を誇るフィロス・コレクションが、初めてまとめて日本へとやって来ました。
それが『フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線』で、素描作品をはじめ、ポスターを中心とする版画、雑誌や書籍のための挿絵、さらに家族や知人にあてた手紙や写真など、約240件の作品と資料が公開されていました。
今回のロートレック展の最大の特徴は、フィロス・コレクションの中心である素描やスケッチが大変に充実していることで、細やかでかつ素早い筆触によって描かれた騎手や馬、それに肖像画などのスケッチを見ることができました。
一方で代表的なポスターにおいても比較的状態の良いものが選ばれていて、例えば第三者が文字入れする前の刷りといった、ロートレック自身のオリジナルのデザインの反映された作品を目の当たりにできました。
ブリュアンのキャバレ「ミルリトン」の宣伝用ポスターである『キャバレのアリスティド・ブリュアン』も、店名などの文字情報が載せられる前の刷りの作品で、ポスターを気に入ったブリュアンが作らせた縮小版と合わせて展示されていました。
ともすれば地味とも捉えられながらも、版画と異なり一点ものであるスケッチからは、ロートレックの視線ないし筆の動きなどをダイレクトに感じ取れたかもしれません。手紙や写真などからもロートレックの人となりや生き様が浮かび上がっているように思えました。
これまでのロートレック展とは何が違う?『フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線』の見どころ|Pen Online
一部のポスターの作品のみ撮影が可能でした。
【新着記事】 これまでのロートレック展とは何が違う?『フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線』の見どころ https://t.co/F2NafnJj1w
— Pen Magazine (@Pen_magazine) July 11, 2024
9月23日まで開かれています。
『フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線』 SOMPO美術館(@sompomuseum)
会期:2024年6月22日(土)~9月23日(月)
休館:月曜日。※ただし7月15日、8月12日、9月16日、9月23日は開館
時間:10:00~18:00
*金曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800(1600)円、大学生1200(1000)円、高校生以下無料。
※( )内は事前購入料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
『石川九楊大全』 上野の森美術館
『石川九楊大全』
2024/6/8~7/28
上野の森美術館にて書家、石川九楊の個展が開かれています。
それが『石川九楊大全』で、過去に石川が手がけた書作品2000点から選ばれた300点あまりが、前期【古典篇】と後期【状況篇】に分けて紹介されていました。
このうち6月の前期【古典篇】では、石川が1980年〜90年代に日本の「歎異抄」や「源氏物語」はじめ、中国の「李賀詩」といった古典文学を題材とした作品が展示されていて、とりわけ滲みを多用しながら主題の「涙」を表したという巨大な『李賀詩 感諷五首』(五連作)が目立っていました。
また「桐壺」から本文のない「雲隠」、そして「夢浮橋」へと至る全五十五帖を表した『源氏物語書巻』では、一点一点の作品に異なる筆触を用いつつ、物語の内容を暗示、あるいはえぐるとるように書いていて、現代アートすら連想させる石川の多様な表現を見ることができました。
このほか、石川自らが制作のターニングポイントとなったという『歎異抄 No.18』をはじめ、古代の象形文字を思わせるような『方丈記 No.5』、さらには抽象表現を思うような『屈原』なども見どころだったかもしれません。
私自身、2017年に同じ上野の森美術館にて開催された『書だ!石川九楊展』にて大いに感銘を受けましたが、時にさまざまな心象風景を喚起させたり、音楽のリズムすら感じさせる作品世界に改めて魅せられました。
展示替えについての情報です。出品作品は前期【古典篇】 と後期【状況篇】にてすべて入れ替わります。
前期【古典篇】 遠くまで行くんだ:2024年6月8日(土)~6月30日(日)
後期【状況篇】 言葉は雨のように降りそそいだ:2024年7月3日(水)~7月28日(日)
後期【状況篇】では初期の代表作 『エロイ・エロイ・ラマ・サバクタニ』および、続編である超大作『エロイエロイラマサバクタニ又は死篇』をはじめ、アメリカ同時多発テロ事件や福島第一原子力発電所事故、それに新型コロナウイルスのパンデミックやヨーロッパでの戦争など、石川が現代社会の混沌や病理をえぐった最新の自作詩などが公開されます。
【掲載・pen online】「石川九楊が切り開く、前人未到の新たな書の世界」pen onlineにご執筆いただきました!『李賀詩 感諷五首』(五連作)『歎異抄 No.18』など息をのむ画像も。終了間近ですよ!#石川九楊大全 #石川九楊 #上野の森美術館 #李賀 #歎異抄 #親鸞 #書 https://t.co/mbiBovUjru
— 【公式】開催中「石川九楊大全」展 上野の森美術館 (@kyuyoh_taizen) June 26, 2024
なお『石川九楊大全』の前期【古典篇】の見どころや内容についてPenオンラインに寄稿しました。
石川九楊が切り開く、前人未踏の新たな書の世界。上野の森美術館にて「石川九楊大全」が開催中!|Pen Online
こちらでは主催者の許可をいただき、会場内を展示風景を掲載しています。あわせてご覧いただければ嬉しいです。
7月28日まで開かれています。
『石川九楊大全』(@kyuyoh_taizen) 上野の森美術館(@UenoMoriMuseum)
会期:2024年6月8日(土)~7月28日(日)
前期【古典篇】 遠くまで行くんだ:2024年6月8日(土)~6月30日(日)
後期【状況篇】 言葉は雨のように降りそそいだ:2024年7月3日(水)~7月28日(日)
休館:7月1日(月)、7月2日(火)
時間:10:00~17:00
*最終入館時間は16:30
料金:一般・大・高生2000円、中学生以下無料。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分、東京メトロ・京成電鉄上野駅より徒歩5分。
『百年後芸術祭‐内房総アートフェス‐』 内房総5市
『百年後芸術祭‐内房総アートフェス‐』
2024/3/23〜5/26
梅田哲也 展示風景
千葉県内の内房総5市 (市原市・木更津市・君津市・袖ケ浦市・富津市)にて、『百年後芸術祭‐内房総アートフェス‐』が開かれています。
その見どころの一部についてPenオンラインに寄稿しました。
千葉県にて新たな芸術祭がスタート!『内房総アートフェス』で注目したいスポットとは|Pen Online
『里見プラントミュージアム』 展示風景
まず市原市でフェスの1つの拠点となっているのが旧里見小学校で、豊福亮が体育館のスペースを丸ごと用いた『里見プラントミュージアム』を展開していました。
『里見プラントミュージアム』 展示風景
これは市原市の臨海部に広がる工場夜景のイメージを、足場やドラム缶、踏み切りや鉄道のレールなどを素材に構築したもので、あわせて角文平、栗山斉、千田泰広、原田郁、柳建太郎といった作家の作品も公開していました。
保良雄 展示風景
君津市の無人となった団地の部屋を用いた、保良雄の『種まく人』も見ごたえのあるインスタレーションでした。
保良雄 展示風景
『Reborn-Art Festival 2021-22』などでも腐葉土や植物を用いた作品を発表した保良は、今回、古びた部屋の中に大量の土を持ち込むと、さまざまな植物を植え込んでいて、映像を交えながら未来への持続可能な農業のあり方などを問い直していました。
岩崎貴宏 展示風景
富津市の富津埋立記念館での岩崎貴宏の作品も見ておきたいのではないでしょうか。ここでは500リットル以上もの醤油を和室の空間に流し込み、海上都市を海苔で作り上げていて、東京湾のコンビナートの風景を意外な素材で立ち上がる光景を目の当たりにできました。
キム・テボン 展示風景
木更津駅周辺の小谷元彦や梅田哲也、袖ケ浦公園内の旧進藤家住宅の大貫仁美とアクアラインなるほど館のキム・テボン、君津市の旧内箕輪保育園のさわひらき、富津市の富津公民館の中﨑透の作品もそれぞれ見ごたえがありました。
クルックフィールズ
このほか、木更津市のサステナブルファーム&パーク、クルックフィールズも、立ち寄りたいスポットの一つといえそうです。
小谷元彦 展示風景
一つの芸術祭としてのエリアは想像以上に広大でした。お出かけの際は公式サイトのモデルコースなどをご参照ください。
総合プロデューサーに小林武史を迎える新たな芸術祭『百年後芸術祭‐内房総アートフェス‐』が開催中!150年以上続いていた木更津市の書店や、君津市の人の住まなくなった団地の一室などを会場に、草間彌生や名和晃平、カミーユ・アンロらの作品が展示されている。▶︎https://t.co/THmzvRWZoX pic.twitter.com/3oNzqnIHlr
— Pen Magazine (@Pen_magazine) April 8, 2024
会期も残り少なくなりました。5月26日まで開かれています。
『百年後芸術祭~環境と欲望~内房総アートフェス』(@100nengo_artfes)
会期:2024年3月23日(土)〜5月26日(日)
*火・水曜日定休(4月30日・5月1日は除く。一部施設は定休日が異なる)(全49日)
時間:10:00~17:00
*作品によって公開日・公開時間が異なる場合あり
会場:内房総5市 (市原市・木更津市・君津市・袖ケ浦市・富津市)
料金:一般 3500円、小中高生 2000円、小学生未満無料。
『テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本』 パナソニック汐留美術館
『テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本』
2024/4/6〜6/9
『カラカラ浴場 復元縮小模型』 模型制作:東京造形大学デザイン学科・室内建築専攻上田ゼミの学生
ヤマザキマリの漫画『テルマエ・ロマエ』をきっかけに、古代ローマと日本の浴場文化を紹介する展覧会が、パナソニック汐留美術館にて開かれています。
それが『テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本』で、会場にはナポリ国立考古学博物館所蔵の絵画、彫刻、考古資料をはじめ、日本の入浴文化に関する資料などが展示されていました。
『ヴィーナス』(ナポリ国立考古学博物館・50〜79年)
古代ローマの公共浴場を意味するテルマエは、4世紀になると大規模な浴場は11、小規模なものでは900を数えるほど存在すると、医療と健康と結びつきながら、ローマ市民が疲れを癒す場所として利用されてきました。
『ヘラクレスのトルソ』(個人蔵・1〜2世紀)
テルマエのルーツは古代ギリシャの運動施設の水風呂などにあったとされていて、それをローマ人は水道敷設といった高い技術力などによって、大規模な施設へと発展させました。
また単に身体を洗うために使われるだけでなく、付随する運動場や部屋などで運動や歓談をする場としても重要視されていて、大規模なテルマエには神々の像といった大理石彫刻なども飾られました。
『恥じらいのヴィーナス』(ナポリ国立考古学博物館・1世紀)
今回の展覧会では饗宴を楽しむ光景を描いた『ヘタイラ(遊女)のいる饗宴』や、温泉に祀られたというニンフを象った『アポロとニンフへの奉納浮彫』、さらに『恥じらいのヴィーナス』といった1〜2世紀の彫刻作品も少なからず出展されていて、いわば古代ローマの美術展としても捉えても見応えがありました。
三浦宏『湯屋模型』(個人蔵・1980年代)
このほか、江戸時代後期の湯屋の模型や昭和初期の花王シャンプー、そしてどこか懐かしいケロリンの桶といった日本の入浴文化に関する展示も楽しかったかもしれません。
古代ローマと日本の浴場文化を体感! ナポリから100件以上の展示品が並ぶ『テルマエ』展の見どころ。『テルマエ・ロマエ』で親しまれた古代ローマの暮らし。似て非なる古代ローマと日本の入浴に関する美術品や資料を比較しながら、東西の豊穣な入浴文化を楽しもう。▶︎https://t.co/XR49G7pwKU pic.twitter.com/gkl0u3xPll
— Pen Magazine (@Pen_magazine) May 4, 2024
古代ローマと日本の浴場文化を体感! パナソニック汐留美術館の『テルマエ』展の見どころ|Pen Online
ケロリンの桶などが並ぶ展示風景
GWを挟んで一部の作品が入れ替わりました。これ以降の展示替えはありません。
『テルマエ展』フォトスポット
一部エリアの撮影が可能です。6月9日まで開催されています。
『テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本』 パナソニック汐留美術館(@shiodome_museum)
会期:2024年4月6日(土)〜 6月9日(日)
休館:水曜日。ただし6月5日は開館。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
*5月10日(金)、6月7日(金)、6月8日(土)は20時まで開館。
料金:一般1200円、65歳以上1100円、大学生・高校生700円、中学生以下無料。
*ウェブサイト割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分
『アブソリュート・チェアーズ』 埼玉県立近代美術館
『アブソリュート・チェアーズ』
2024/2/17~5/12
石田尚志『椅子とスクリーン』 2002年
1982年の開館時から近代以降のデザイン椅子を収集してきた埼玉県立近代美術館は、椅子を館内に設置するだけでなく、教育普及事業や展覧会の開催を通して椅子の魅力を発信し続けてきました。
その埼玉県立近代美術館が、デザインの視点ではなく、現代アートの観点から椅子の持つさまざまな意味を考察するのが『アブソリュート・チェアーズ』で、国内外の28組の作家による平面や立体など83点の作品が展示されていました。
ジム・ランビー『トレイン イン ヴェイン』 2008年
まず冒頭では「美術館の座れない椅子」と題し、デュシャンや高松次郎、それにジム・ランビーなの文字通り座れない椅子を用いた作品が並んでいて、既製の椅子を素材に取り込みつつも、それぞれの手法によって機能を変容させ、コンセプチャルな問いを発するようすを見ることができました。
クリストヴァオ・カニャヴァート(ケスター)『肘掛け椅子』 2012年
また「権力を可視化する」のセクションではウォーホルの『電気椅子』などが目立っていて、死や暴力、あるいは権力と椅子の関係を問い直したアーティストらの表現を知ることができました。
名和晃平『Pix Cell-Tarot Reading(Jan.2023)』 2023年
こうした権力の象徴などとは対照的に、日常の生活の延長線にある役割としての椅子を表した作品も面白いのではないでしょうか。
YU SORA『my room』 2019年
そのうちYU SORAは無造作に置かれた椅子を白い布と黒い糸をもとにして表現し、座るはずの椅子が時折物置き台として使われることを示しました。
宮永愛子『waiting for awakening -chair-』 2017年
さらにナフタリンで象られた椅子を樹脂に封入した宮永愛子のオブジェなども、椅子の記憶や物語を呼び起こす作品といえるかもしれません。
副産物産店による「美術館の座れる椅子」
山田毅と矢津吉隆によるユニット・副産物産店がによる作品輸送用のクレートや過去作品の残材などを再利用して作った風変わりな椅子も設置され、展示室内にて自由に座ることも可能でした。
ミシェル・ドゥ・ブロワン『樹状細胞』 2024年
カナダ出身のミシェル・ドゥ・ブロワンが、約40脚の会議椅子を用いて作った『樹状細胞』もハイライトを飾っていたかもしれません。
オノ・ヨーコ『白いチェス・セット/信頼して駒を進めよ』 1966 / 2015年 タグチアートコレクション/タグチ現代芸術基金
椅子という存在がアーティストらにさまざまなインスピレーションを与え、それが新たなイメージとして作り出されていくようすを楽しむことができました。
現代アートを通して椅子がもつ多様な意味を考える展覧会『アブソリュート・チェアーズ』が開催中(~5/12)マルセル・デュシャンやアンディ・ウォーホルほか、国内外の作家28組による、平面や立体、映像作品の計83点が公開。▶︎ https://t.co/3ZZLhNIP0j pic.twitter.com/MjDmE0i9Nu
— Pen Magazine (@Pen_magazine) March 9, 2024
現代アートを通して、椅子が持つ多様な意味を考察。『アブソリュート・チェアーズ』が面白い!|Pen Online
5月12日まで開催されています。なお埼玉での展示を終えると、愛知県美術館(会期:7月18日〜9月23日)へと巡回します。
『アブソリュート・チェアーズ』 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:2024年2月17日(土) ~5月12日(日)
休館:月曜日。ただし4月29日、5月6日は開館。
時間:10:00~17:30
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300(1040)円 、大高生1040(830)円、中学生以下は無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*MOMASコレクション(常設展)も観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
『マティス 自由なフォルム』 国立新美術館
『マティス 自由なフォルム』
2024/2/14~5/27
ヴァンスのロザリオ礼拝堂(内部空間の再現)
フランスの芸術家、アンリ・マティスは、フォーヴィスムの中心人物としてパリで頭角を現すと、後半生の大半を過ごしたニースではモデルやオブジェを精力的に描きながら、色が塗られた紙をハサミで切り取り、紙に貼り付ける切り紙絵に取り組みました。
その切り紙絵に着目しながらマティスの創作を紹介するのが『マティス 自由なフォルム』で、会場にはニース市マティス美術館のコレクションを中心に、絵画、彫刻、版画、テキスタイル等の作品や資料、約150点が公開されていました。
まず冒頭ではマティスの初期の絵画や彫刻作品などが並んでいて、巨匠たちの作品を模写したという『ダフィッツゾーン・デ・ヘームの「食卓」に基づく静物』や、絵画と並行して制作した彫刻の連作「ジャネット」シリーズなどを見ることができました。
またニース滞在後、アトリエに花瓶や家具調度品を飾って描いた「ヴァンス室内画」の優品も並んでいて、マティスがコレクションしていたオブジェと見比べることもできました。
さらにバレエ・リュスからの依頼による「ナイチンゲールの歌」の衣装をはじめ、実業家のアルバート・C・バーンズから依頼された『ダンス』といった舞台や壁画に関する仕事も紹介されていて、マティスが絵画や彫刻を超えて幅広い領域で仕事を手がけていたことを知ることができました。
アンリ・マティス『ブルー・ヌードⅥ』 1952年 オルセー美術館(寄託:ニース市マティス美術館)
マティスが切り紙絵に取り組んだのは1940年代、実に70歳を迎えてからのことで、切り紙絵を用いた挿絵を文芸雑誌などに提供したほか、代表的なアルバム『ジャズ』、さらには切り紙絵によるマケットをもとにしたタペストリーも制作しました。
アンリ・マティス『花と果実』 1952〜1953年 ニース市マティス美術館
ロサンゼルスのヴィラの壁面装飾の構想を練る中で制作した、切り紙絵の大作『花と果実』も一際目立っていたかもしれません。4つの花びらと3つの果実がさまざまな色に反復した作品で、本展のためのフランスでの修復を経て、日本で初めて公開されました。
ヴァンスのロザリオ礼拝堂(内部空間の再現)
このほか最晩年に熱心に取り組んだ、ヴァンスのロザリオ礼拝堂の建設プロジェクトに関する展示も充実していました。
カズラ(上祭服)のためのマケット展示風景
ヴァンス礼拝堂の原寸大再現展示とともに、海藻類のフォルムを着想源にしたというカズラと呼ばれる上祭服の美しいデザインに見入りました。
カズラ(上祭服)のためのマケット展示風景
一部内容が重なりますが、Figaro.jpでも展覧会の見どころを紹介しました。
注目の『マティス 自由なフォルム』! 見るべきポイント10。madameFIGARO_jp
『マティス 自由なフォルム』展示風景
一部展示スペースの撮影も可能です。
マティスの切り紙絵に焦点を当てた展覧会『マティス 自由なフォルム』が国立新美術館でスタート! 見るべきポイント10をチェック。#マティスhttps://t.co/tvbAPCowpL pic.twitter.com/UkjKOcxSAL
— madame FIGARO japon (@madameFIGARO_jp) February 24, 2024
5月27日まで開催されています。
『マティス 自由なフォルム』(@matisse2024) 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:2024年2月14日(水) ~5月27日(月)
休館:火曜日。ただし4月30日(火)は開館
時間:10:00~18:00
*毎週金・土曜日は20:00まで
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般2200円、大学生1400円、高校生1000円、中学生以下無料。
*4月3日(水)~8日(月)は高校生無料観覧日。(学生証の提示が必要)
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
『建立900年 特別展「中尊寺金色堂」』 東京国立博物館
『建立900年 特別展「中尊寺金色堂」』
2024/1/23~4/14
東京国立博物館 本館特別5室にて『建立900年 特別展「中尊寺金色堂」』が開かれています。
今回の展覧会で最大の見どころは、金色堂の中央壇の壇上に安置された国宝の仏像11体が公開されていることで、いずれも独立した展示ケースに入れられているため、360度の角度から鑑賞することができました。
このうち『阿弥陀如来坐像』とは清衡発願の当初の像と推定されるもので、後頭部の螺髪の刻み方や、右肩にかかる衣を別材で作るなどの点において、当時としては新たな造形と技法が用いられたと指摘されていました。
またともに力強い動きを伴う『増長天立像』と『持国天立像』も大変な力作で、のちの慶派仏師が得意とする鎌倉様式を先取りしたような造形意識も感じることができました。
このほかかつて金色堂を荘厳していた『金銅迦陵頻伽文華鬘』といった工芸品や、秀衡の遺骸を納めていた中央壇の棺である『金箔押木棺』なども見どころかもしれません。
幅約7m×高さ約4mの大型ディスプレイ上に、原寸大の金色堂を超高精細CG(8KCG)再現した映像も没入感に満ちあふれていました。
金色堂模型 縮尺5分の1 昭和時代・20世紀 中尊寺蔵 *撮影コーナー
Penオンラインにて展示の見どころをまとめました。
世界遺産・平泉の国宝仏像が東博へ!特別展『中尊寺金色堂』の見どころ|Pen Online
開幕早々より連日かなりの人出で賑わっているそうです。今後、会期が進むにつれて入場規制などが行われる場合があります。混雑状況については公式SNSアカウント(@chusonji_annai)をご参照ください。
世界遺産・平泉の国宝仏像が東京国立博物館へ! 特別展『中尊寺金色堂』が開催中
— Pen Magazine (@Pen_magazine) January 31, 2024
「阿弥陀如来坐像」や「持国天立像」など、国宝の仏像11体を特別に寺外で公開。現地の金色堂では仏像に近づくことは叶わないが、展示では仏像を前後左右、あらゆる角度で鑑賞できる。
▶︎ https://t.co/zwwdNniZdI pic.twitter.com/wYIDB5k0yB
4月14日まで開催されています。
『建立900年 特別展「中尊寺金色堂」』(@chusonji2024) 東京国立博物館 本館特別5室(@TNM_PR)
会期:2024年1月23日(火)~4月14日(日)
休館:月曜日、2月13日(火)。ただし、2月12日(月・休)、3月25日(月)は開館。
時間:9:30~17:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600円、大学生900円、高校生600円、中学生以下無料。
*当日に限り、総合文化展も観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR線上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
『印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1 9 5 7 - 1 9 7 9』 国立工芸館
『印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1 9 5 7 - 1 9 7 9』
2023/12/19〜2024/3/3
右:井田照一『The Spy Surrounds the Spy』 1974年 京都国立近代美術館蔵
国立工芸館にて『印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1 9 5 7 - 1 9 7 9』が開かれています。
これは1957年から1979年までの間、ほぼ2年に1回のペースで11回開催された「東京国際版画ビエンナーレ展」への受賞作や出品作を通し、戦後日本における版画やグラフィックデザインの動向を追うもので、あわせて当時のデザイン界たち巨匠による展覧会ポスターも紹介されていました。
左:田中一光「第3回東京国際版画ビエンナーレ展」ポスター 1962年 国立工芸館蔵 右:加納光於『星・反芻学』 1962年 東京国立近代美術館蔵
1957年にはじまった「東京国際版画ビエンナーレ」とは、世界各国より作品を集めた国際的な規模の版画展で、東京国立近代美術館や京都国立近代美術館などを会場に開かれると、当時の気鋭の版画家らが数多くの作品を出品しました。
左:池田満寿夫『夏 1』 右:宮下登喜雄『作品B』 ともに1964年、東京国立近代美術館蔵
そのうち29カ国が参加した第1回展では、読売会館と国立近代美術館の2つの会場にて829点(日本:160点)の作品が公開され、日本にいながらにして世界の美術の動向を感じられる貴重な機会として人気を集めました。
榎倉康二『二つのしみ』 1972年 東京国立近代美術館蔵
そして同ビエンナーレでは、池田満寿夫に加納光於、また高松次郎や榎倉康二などの作家たちが、時に現代美術の最前線に近いような作品を手がけ、版画表現のあり方そのものを問い直しました。
左:勝井三雄「第11回東京国際版画ビエンナーレ展」ポスター 1979年 国立工芸館蔵 右:石岡瑛子「第10回東京国際版画ビエンナーレ展」ポスター 1976年 国立工芸館蔵
今回の展覧会でとりわけ魅惑的なのは、同ビエンナーレの展覧会ポスターが全11回分すべて展示されていることで、田中一光や永井一正、それに横尾忠則らによる斬新ともいえるグラフィカルな表現を見ることができました。
杉浦康平「第8回東京国際版画ビエンナーレ展」ポスター(銀) 1972年 国立工芸館蔵
そのうち杉浦康平による第8回のホイル版のポスターも目立っていたかもしれません。銀地のホイル版が鏡面として機能することで、3次元的な空間が広がっていました。
左:志村ふくみ『紬織着物 鈴虫』 1959年 右:森口華弘『古代縮緬地友禅訪問着 早春』 1955年 いずれも国立工芸館蔵
このほか、特集展示「プレイバック1977年ー工芸館の開館記念展」では、東京国立近代美術館工芸館の第1回目の展覧会をふり返っていて、富本憲吉や濱田庄司、それに志村ふくみらの工芸作品もあわせて楽しむことができました。
『印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1 9 5 7 - 1 9 7 9』展が、石川県金沢市の国立工芸館にて開催中
— Pen Magazine (@Pen_magazine) January 20, 2024
「東京国際版画ビエンナーレ展」の受賞作や出品作を一堂に公開。浜口陽三や池田満寿ら、「版」表現に挑んだ作家たちの代表作が展示される。
▶︎ https://t.co/yK14zYgehq pic.twitter.com/ELnNStzzMa
新たな「版」の表現に挑んだ気鋭の作家たち。国立工芸館にて開催中の『印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1 9 5 7 - 1 9 7 9』|Pen Online
横尾忠則『責め場 1』、『責め場 2』、『責め場 3』 1969年 東京国立近代美術館蔵
国立工芸館は元日の能登半島地震の影響により一時臨時休館しましたが、1月6日より展示が再開しました。
一部を除いて撮影も可能です。3月3日まで開催されています。
『印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1 9 5 7 - 1 9 7 9』 国立工芸館(@ncm2020)
会期:2023年12月19日(火)〜2024年3月3日(日)
休館:月曜日。(ただし1月8日、2月12日は開館)、年末年始(12月28日〜1月1日)、1月9日、2月13日。
時間:9:30~17:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般300(250)円、大学生150(70)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体。
住所:石川県金沢市出羽町3-2
交通:いずれもJR金沢駅東口(兼六園口)から。路線バス3番乗り場より乗車し、「広坂・21世紀美術館(石浦神社前)」下車、徒歩7分。6番乗り場より乗車(「柳橋」行を除く)し、「出羽町」下車、徒歩5分
。8番乗り場より乗車し、「広坂・21世紀美術館(しいのき迎賓館前)」下車、徒歩9分。
『キース・ヘリング展 アートをストリートへ』 森アーツセンターギャラリー
『キース・ヘリング展 アートをストリートへ』
2023/12/9~2024/2/25
『アンディ・マウス』 1986年 中村キース・ヘリング美術館蔵
アメリカ北東部ペンシルベニア州に生まれたキース・ヘリングは、1980年代にアンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキアとともにカルチャーシーンを牽引すると、エイズによる合併症により31歳の若さで亡くなるまで多様に制作を行いました。
『無題』 1983年 中村キース・ヘリング美術館蔵
そのヘリングの創作世界を紹介するのが『キース・ヘリング展 アートをストリートへ』で、会場ではサブウェイ・ドローイングからトレードマークとなったモチーフによる『イコンズ』、それに彫刻やポスターから晩年の大型作品など150点の作品が公開されていました。
『無題』 1988年 中村キース・ヘリング美術館蔵
まず今回のヘリング展の特徴として挙げられるのが、「公共のアート」や「アートはみんなのために」といった6つのテーマ別に作品を紹介していることで、ヘリングのアーティストとして活動した10年の軌跡を辿ることができました。
左:核放棄のためのポスター 1982年 右:ヒロシマ 平和がいいに決まってる‼︎ 1988年
また数度にわたる来日が縁で生まれた貴重な作品や資料も展示していて、1988年の2度目の来日時に広島で行われたコンサート「平和がいいに決まってる‼︎」のポスターや、ポップショップ東京のスタッフのために作られたスタジアムジャンパーなども見ることができました。
『サブウェイ・ドローイング』 展示風景
日本初公開5点を含む合計7点のサブウェイ・ドローイングが最大の見どころといえるかもしれません。
左:『無題(サブウェイ・ドローイング)』 1982年 タッカー・ヒューズ蔵、マルトス・ギャラリー寄託 右:『無題(サブウェイ・ドローイング)』 1986年 ジョン・フリードマン蔵、マルトス・ギャラリー寄託
これはヘリングがニューヨークの地下鉄駅構内の空いている広告板に貼られた黒いマット紙にチョークで描いたドローイングで、無許可のため剥がされてしまったものの、いつしか評判を呼んだ活動初期の作品でした。
『無題(サブウェイ・ドローイング)』 1981〜83年 中村キース・ヘリング美術館蔵
約5年間の間にヘリングは数千点ものサブウェイ・ドローイングを描いたとされるもののの、作品の性質上、保管や管理が難しく、打ち捨てられたり持ち去れられたりすることが多かったため、多く残されることはありませんでした。
それを絵画のコレクターの作品を含めて7点ほど展示していて、1980年代のニューヨークで展開されたストリートアートの熱気の一端を感じるかのようでした。
『ブループリント・ドローイング』(1990年)展示風景 中村キース・ヘリング美術館蔵
ブランドとのコラボや『イコンズ』などで有名ながらも、意外と知られていないヘリングの人生の歩みを紐解くような内容で見応えありました。
日本初公開作品も! 『キース・ヘリング展 アートをストリートへ』が開催中 ▶︎ https://t.co/tf3wU441q4 使用されていない広告板を使ったサブウェイ・ドローイングと呼ばれるプロジェクトで脚光を浴びたキース・ヘリング。31年の人生を駆け抜けたヘリングの生き様を体感してみては。 pic.twitter.com/ZIHrFlGr3f
— Pen Magazine (@Pen_magazine) January 6, 2024
日本初公開作品も! 『キース・ヘリング展 アートをストリートへ』が開催中|Pen Online
一部展示を除いて撮影も可能です。
『ドッグ』 1986年 中村キース・ヘリング美術館蔵
2月25日まで開催されています。
『キース・ヘリング展 アートをストリートへ』(@asahi_kh2023_25) 森アーツセンターギャラリー
会期:2023年12月9日(土)~ 2024年2月25日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~19:00
*金・土曜は20:00まで。
*入館は閉館の30分前まで
料金:一般・大学・専門学校生2200円、中学・高校生1700円、小学生700円
*事前予約制(日時指定券)を導入。
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
『オラファー・エリアソン展 相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』 麻布台ヒルズギャラリー
『オラファー・エリアソン展 相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』
2023/11/24〜2024/3/31
オラファー・エリアソン『蛍の生物圏(マグマの流星)』 2023年
アイスランド系デンマーク人のアーティスト、オラファー・エリアソンの個展が、麻布台ヒルズギャラリーにて開かれています。
オラファー・エリアソン『相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』 2023年 *麻布台ヒルズ森JPタワーオフィスロビーに展示
これは今年11月に東京・虎ノ門に開業した麻布台ヒルズにあわせ、エリアソンが設置したパブリックアート『相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』で取り組んだ主題を軸に、新作のインスタレーションなどを公開しているもので、加えて水彩絵具やドローイングなども展示されていました。
オラファー・エリアソン『瞬間の家』 2010年
今回のメインとなるインスタレーションとは、暗がりの空間に広がる『瞬間の家』で、第12回ベネチア・ビエンナーレにて2010年に発表された作品を再構成した作品でした。
オラファー・エリアソン『瞬間の家』 2010年
ここでは全長20mを超える空間の中、天井からホースによって水が回転するように撒き散らされていて、ストロボの強い光によって照らされ、抽象的な彫刻として浮かび上がっていました。
オラファー・エリアソン『終わりなき研究』 2005年
こうした大掛かりなインスタレーションの一方、アナログとも呼べるような機構で動くのが『終わりなき研究』とする日本初公開の作品でした。
オラファー・エリアソン『終わりなき研究』 2005年
これは振り子を用いて幾何学像を生成する機械、ハーモノグラフを用いたもので、振り子の回転運動によってアームの接続されたペンが動き、円を描くように運動のリズムを記録するように作られていました。
そして振り子の角度や力の入れ具合により、リズムのパターンはさまざまなため、常に異なったイメージが生み出されていて、実際に作品を操作することも可能でした。*体験付チケットの購入が必要。
右手前:『オラファー・エリアソン『ダブル・スパイラル』 2001年
このほか吊り彫刻シリーズのひとつである『蛍の生物圏(マグマの流星)』や、スチール製のチューブが二重らせんの形をした円形構造状に巻かれている『ダブル・スパイラル』なども見どころだったかもしれません。
またベルリンに設立された「スタジオ・オラファー・エリアソン キッチン(SOE)」とコラボレーションした「THE KITCHEN」といった食とのコラボレーションも興味深く思えました。
初公開の作品や食との新たなコラボも! 麻布台ヒルズギャラリーで開催中の『オラファー・エリアソン展』▶︎ https://t.co/KeM5t4JVuk本店では、新作の大型インスタレーションや水彩絵画、ドローイングや立体作品など、知覚に訴えかける作品を紹介している。 pic.twitter.com/Geua2GtWfJ
— Pen Magazine (@Pen_magazine) December 15, 2023
世界初公開作品や食との新たなコラボも!麻布台ヒルズギャラリーで開催中の『オラファー・エリアソン展』|Pen Online
3月31日まで開催されています。
『オラファー・エリアソン展 相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』 麻布台ヒルズギャラリー(@ah__gallery)
会期:2023年11月24日(金)〜2024年3月31日(日)
休館:1月1日。
時間:月/水/木/日 10:00〜19:00、火 10:00〜17:00、金/土/祝前日 10:00〜20:00
料金:一般1800円、高校・専門・大学生1200円、4歳〜中学生900円。
住所:港区虎ノ門 5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザ A MB 階
交通:東京メトロ日比谷線 神谷町駅5番出口地下1階から直結
『落合陽一展 「ヌルの共鳴:計算機自然における空性の相互接続」』 清春芸術村 安藤忠雄/光の美術館
『落合陽一展 「ヌルの共鳴:計算機自然における空性の相互接続」』
2023/10/22~12/20
清春芸術村 安藤忠雄/光の美術館にて、メディアアーティストの落合陽一による展覧会『ヌルの共鳴:計算機自然における空性の相互接続」』が開かれています。
まず目を引くのが1階の奥にて展示された高輝度LEDによる光の空間彫刻で、その表面の光学的性質を万華鏡のイメージにように変化させながら、鮮やかな光を放ちつつ、暗い闇の画面を広げていました。
また空間全体には強く胸を打つ鼓動のような音が打ち鳴らされ、それとともに表面の表情が終始移り変わっていました。
一方の2階では有機的変形機構を持つ鏡状の音響彫刻が展示されていて、新素材のミラー膜にて作られたというシルバーの表面が時間とともに目まぐるしく波打つように変形していました。
この表面は鏡として観客や周囲の景色を反射していたかと思うと、突然伸縮しながら、まるで液体を引き出すような動きを見せていて、何らかの動力を得た有機生命体を目にしているかのようでした。
有機的な変形ミラーは、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)で落合がテーマ事業プロデューサーを手がけるシグネチャーパビリオン「null²」の動く外装の実装実験を兼ねていて、安藤の独特の建築空間の中へ近未来的ともいえる光景を生み出していました。
天井から差し込む自然の光の移ろいによっても雰囲気が変わるかもしれません。あたりが暗くなる夕方以降は特に彫刻の光が映えているように思えました。
安藤忠雄/光の美術館で震撼する「ヌルの共鳴」。落合陽一の展覧会が清春芸術村にて開催中!▶︎ https://t.co/PgzGSWrPcv新作の“有機的な変形ミラー”と、高輝度LEDによる“ヌルのインスタレーション”が公開されている。 pic.twitter.com/qRNJ1aYVnP
— Pen Magazine (@Pen_magazine) November 16, 2023
安藤忠雄/光の美術館で震撼する「ヌルの共鳴」。落合陽一の展覧会が清春芸術村にて開催中!|Pen Online
なお現在、清春芸術村を中心とする山梨県北杜市の各所にて「山梨国際芸術祭 八ヶ岳アート・エコロジー2023」が開かれています。
会期最終日は落合陽一展と同じ日です。芸術祭の鑑賞を兼ねて出かけるのも良いかもしれません。
間もなく会期末です。12月20日まで開催されています。
『落合陽一展 「ヌルの共鳴:計算機自然における空性の相互接続」』 清春芸術村 安藤忠雄/光の美術館
会期:2023年10月22日(日)~12月20日(水)
休館:月曜日。(祝日の場合は翌火曜)
時間:10:00~17:00
*最終入館は16:30。
料金:一般1500円、大高生1000円、小中学生無料。
住所:山梨県北杜市長坂町中丸2072
交通:JR中央本線新宿駅より2時間。長坂駅下車タクシー5分、バス10分、徒歩30分。
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