「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」 町田市立国際版画美術館

町田市立国際版画美術館
「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」
9/15~11/18



町田市立国際版画美術館で開催中の「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」を見てきました。

ドイツに生まれ、日本に学び、オーストラリアを拠点にした美術家、ヨルク・シュマイサー(1942〜2012)は、世界各地を旅しては、風景や記憶を版画に表現しました。

そのシュマイサーの没後初となる本格的な回顧展が、「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」で、180点の作品にて、初期から晩年の制作を辿っていました。

旧ドイツ領で、現在はポーランドのポメラニアで生まれたシュマイサーは、ハンブルクに育ち、造形大学に進学し、版画とドローイングを学びました。1966年からは、数年間に渡って中東の考古学発掘にボランティアとして参加し、記録画家として、出土品の製図に携わりました。


「彼女は老いてゆく」 1967〜1968年 個人蔵

「彼女は老いていく」は、修了制作の5点の連作で、全て同じ版から刷られているものの、いずれも手が加えられていて、版が進むごとに、モチーフの女性が老いていました。こうした「変化」こそ、シュマイサーが生涯を通して追った主題で、のちにはまさに「変化」と題した連作を3組制作しました。


「ジェラームの出土品」 1966年 個人蔵

「ジェラームの出土品」は、おそらく記録画家として制作した作品のうちの1枚で、壺やメダルなどを、極めて精緻な線描で表現していました。


「京都東寺」 1968年 個人蔵

1968年、シュマイサーは木版を学ぶために、京都市立芸術大学へ留学し、4年半ほど京都で過ごしました。のちにドイツに帰国すると、日本で知り合った女性と結婚し、オーストラリアのキャンベラ美術学校に招かれ、家族とともに移住しました。


「古事記のためのスケッチ」 1970年 個人蔵

東寺の景観や諸仏をモチーフとしたのが、「京都東寺」で、いずれも写実的ながらも、まるでメモのように、建物や仏像、さらに人々を多く描きとめていました。また古事記に深い関心を寄せ、版画集「古事記」も制作しました。博物館で土偶や鏡などをスケッチしては、作品に落とし込みました。


「奈良、東大寺」 1998年 個人蔵

夫人の実家のある奈良とも関わりが深く、版画集「奈良拾遺」を描き、個展を開いたほか、2002年の東大寺大仏開眼1250年法要の際には、散華の制作も依頼されました。

シュマイサーは旅先の風景をそのまま描いた画家ではありませんでした。イメージは変容し、時に記号的なモチーフが立ち上がっては、リアルな光景と入り混じり、複数のレイヤー状に広がるような世界を築き上げていました。それは幻想を誘うようでもあり、「幻視的」とも呼べるかもしれません。


「ラダックとザンスカールのスケッチ」 1985年 個人蔵

インド北東部、マラヤ山麓のラダック地方を訪ねたシュマイサーは、ほぼ徒歩で地域を巡っては、村や僧院を描きました。同地はチベット文化を色濃く残していて、1974年までは外国人の立ち入りが禁じられていました。


「アンコール・ワット、平面図と彫像」 1999年 個人蔵

アンコールもシュマイサーの訪ねた地の1つで、後年には、内戦によって傷んだ遺跡の修復プロジェクトにも参加しました。一際大きな「アンコール・ワット、平面図と彫像」も目を引く作品で、遺跡を正面から捉えつつ、建物の配置を平面に重ねて描いていました。


「日記とキャンベラ」 1980年 個人蔵

オーストラリアでも積極的に風景を描いていて、エアーズ・ロックやキャンベラ市街などを俯瞰的に表していました。またいずれの作品にも「日記」と記されるように、画面に文章が書かれていました。こうした日記シリーズは、1978年頃にはじまり、その日の出来事などをドイツ語や英語で書いていて、文字には装飾性も伴っていました。


「日記と百の蕾」 1984年 個人蔵

日記シリーズの集大成とも言えるのが、「日記と百の蕾」で、計100個の蕾に日々の記録を書いていました。また貝や海藻、植物の芽や蘭などの特定のモチーフを、繰り返し描いているのも、シュマイサーの1つの特徴と言えるかもしれません。


「モーソン基地」 2001〜2003年 個人蔵

旅人シュマイサーが最後に辿り着いたのは南極でした。ここで大きな衝撃を受けたシュマイサーは、氷山の大きさも距離も掴めとれなかったとして、言わば尺度を投げ捨て、目で捉えた感覚のみで作品を制作するようになりました。南極を描いた作品は、一面に暗青色が用いられていて、日本の水墨画の影響も指摘されています。


「デーヴィス基地付近1」 2000年 個人蔵

具象でありつつも、一部に抽象性も帯び、また幻想的であり、なおかつ詩的でもあるシュマイサーの作品は、時代やテーマで作風は変化し、一つとして同じ地点にとどまることはありません。


「断片、迷路と曼荼羅」(部分) 1997年 個人蔵

心象風景とも異なった、シュマイサーの生み出した独自のビジョンに、心惹かれるものを感じました。


「バーヌルル渓谷」 1995年 町田市立国際版画美術館

「芸術制作においては思考を展開することが本質であり、それを思い通りに表現できる技術を身につけなくてはいけない。」ヨルク・シュマイサー *解説パネルより


「珊瑚の産卵」 2011年 個人蔵

会場内の撮影も自由に出来ました。


11月18日まで開催されています。なお町田展終了後、奈良県立美術館(2019/4/13~6/2)へと巡回します。おすすめします。

「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」 町田市立国際版画美術館@machida_hanbi
会期:9月15日(土)~11月18日(日)
休館:月曜日。但し9月17日(月)、24日(月)、10月8日(月)は開館。9月18日(火)、25日(火)、10月9日(火)は休館。
料金:一般800(600)円、高校・大学生・65歳以上400(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *9月15日(初日)と11月3日(文化の日)は入場無料。
時間:10:00~17:00。
 *土日祝日は17時半まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
住所:東京都町田市原町田4-28-1
交通:JR横浜線町田駅ターミナル口より徒歩約12分。小田急線町田駅東口より徒歩約15分。町田バスセンター8番乗り場より神奈川中央交通バス「92系統高ヶ坂団地行き」に乗車し、「高ヶ坂センター前」で下車。バス停より徒歩約7分。
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「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」 東京国立博物館・平成館

東京国立博物館・平成館
「特別展 京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」
10/2~12/9



東京国立博物館・平成館で開催中の「特別展 京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」を見てきました。

「千本釈迦堂」の名で知られる京都の大報恩寺は、釈迦信仰の中心地として親しまれ、多くの仏像彫刻を有してきました。

その大報恩寺より、「釈迦如来立像」と「十大弟子立像」、さらに「六観音菩薩像」など、主に慶派の仏像がまとめてやって来ました。うち「釈迦如来立像」が寺外で公開されるのは、初めてのことでもあります。

「釈迦如来立像」は、快慶の一番弟子である行快の手がけた仏像で、本堂の内陣に安置され、大報恩寺の本尊として伝わって来ました。同寺でも年に数回しか公開されないため、いわゆる秘仏として扱われています。

やや丸みを帯びた身体には量感もあり、肉付きの良い頭部と、釣り上がる目尻を特徴としていました。台座、光背とも当初のもので、金色のまばゆい光を放っていました。



その「釈迦如来立像」を取り囲むのが、釈迦の弟子を代表する10人の高僧を示した「十大弟子立像」で、快慶が晩年に造仏しました。現在は防災上の理由などにより、同寺の霊宝殿に収められていますが、今回は特別に当初の姿と同様、「釈迦如来立像」の周囲に並べられました。いずれもガラスケースなしの露出展示で、360度の角度から鑑賞することが出来ました。

この「十大弟子立像」が想像以上に存在感がありました。いずれも像高は1メートル弱と、さほど大きくないのにも関わらず、生気に満ち溢れた表情など、各僧の個性が実に見事に表現されていました。うち「天眼第一」の「阿那律立像」は、まるで見る者の心を見透かすかのように前を見据え、「蜜行第一」の「羅睺羅立像」は、口を開けては、さも語りかけるかのような仕草を見せていました。

さらに「説法第一」の「富楼那立像」は、やや横目を向き、深く思案するようでもあり、「論議第一」の「迦旃延立像」は、どこか物悲しい様で目を伏しているかのようでした。ともかくいずれの立像も驚くほどに臨場感があり、同じ表情をとる者は、一人としていませんでした。また一部は着衣に細やかな彩色も残っていて、往時の輝きも伺い知れました。

重要文化財に指定された唯一の六観音も見どころの1つでした。運慶の晩年の弟子である定慶による仏像で、像高はいずれも1メートル80センチほどありました。複雑に折られた着衣も特徴的で、6体の全ての光背と台座も当初のものが残されました。


重要文化財「聖観音菩薩立像」 肥後定慶作 鎌倉時代・承応3(1224)年 京都・大報恩寺

「聖観音菩薩立像」のみ撮影が可能でした。口元を引き締め、細い目で前を見やる姿は、どこか泰然としていて、右の指先は軽やかに屈曲し、洗練された作風も見られました。


重要文化財「聖観音菩薩立像」 肥後定慶作 鎌倉時代・承応3(1224)年 京都・大報恩寺

なお「六観音菩薩像」は10月28日まで光背付きの姿で展示されますが、10月30日からは光背が外されます。よって以降は、仏像の背中も観覧することが出来ます。

仏像以外では、「北野経王堂図扇面」が印象に残りました。北野経王堂とは、大報恩寺に近い、北野天満宮の南にあった仏堂で、足利義満が建立しました。かつては千人もの僧が参集した大規模な法事も行われていたものの、江戸時代には衰退し、宝物の多くは大報恩寺に移されました。先の「六観音菩薩像」も、元は北野経王堂に納められていたそうです。

その仏事、すなわち北野万部経会を舞台としたのが、「北野経王堂図扇面」で、大勢の人が集う中、僧侶が経典を読む姿が描かれていました。人物の表現は緻密で、彩色もまだ鮮やかでした。(*展示は10月28日で終了。)

特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」と同時開催の展覧会です。平成館のうち、正面右手の第3室と第4室で大報恩寺展が行われ、反対側の第1室と第2室にてデュシャン展が開かれています。(別料金。ただしセット券あり。)

繰り返しになりますが、快慶の「十大弟子立像」が、まさかこれほど迫力のある作品とは思いませんでした。一連の立像を見るだけでも、大変な充足感がありました。


金曜日の夜間開館を利用しましたが、会場には余裕がありました。ゆっくり楽しめます。

12月9日まで開催されています。

「特別展 京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」(@kaikeijokei2018) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:10月2日(火) ~12月9日(日)
時間:9:30~17:00。
 *毎週金・土曜、及び10月31日(水)、11月1日(木)は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し10月8日(月・祝)は開館し、10月9日(火)は休館。
料金:一般1400(1200)円、大学生1000(800)円、高校生800(600)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
 *同時開催の特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」との2展セット券あり。一般2000円。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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「横山華山」 東京ステーションギャラリー

東京ステーションギャラリー
「横山華山」 
9/22~11/11



東京ステーションギャラリーで開催中の「横山華山」を見てきました。

江戸時代の後期、岸駒に入門し、呉春に私淑しては、人物や花鳥、または風俗画などで多くの優品を残した絵師がいました。

それが横山華山で、主に京都で活動し、横山派を築いては、当時の絵師たちにも影響を与えました。

崋山の原点は蕭白にありました。そもそも横山家は蕭白と交流があり、華山も幼い頃から蕭白の作品に触れていました。

蕭白の影響を色濃く反映したのが、「蝦蟇仙人図」で、蕭白の同名の作品をほぼ写していました。左手を大きく曲げて蝦蟇を操る仙人の姿を描いていて、蕭白画には独特のエグ味がある一方、華山画は身体の肉付きをより立体的に捉えていて、西洋画の影響を伺えるものがありました。


横山華山「唐子図屏風」(左隻) 文政9(1826)年 個人蔵

華山が得意としたのは人物画で、中国の故事を取り上げつつも、同時代の市井の人々の日常を巧みに描きました。「唐子図屏風」は、左右に唐子を配した作品で、取っ組み合いをしたり、鶏を遊ばせたりする子どもたちを、生き生きとした様子で表現していました。

あえて華山の画業の頂点をあげるなら、風俗画にあるかもしれません。中でも目を引くのが「紅花屏風」で、紅花の栽培から収穫、加工、そして染料として出荷されるプロセスを六曲一双の大画面に表しました。


横山華山「紅花屏風」(右隻) 文政6(1823)年 山形美術館・山長谷川コレクション *展示期間:9/22~10/14

ここでも細やかでかつ生き生き人物表現を特徴としていて、種を蒔く人から花をつむ人、さらに選別や加工をする人々などを素早い筆致で描いていました。どの人物の表情も異なっているものの、皆、楽しそうに笑顔を浮かべていて、収穫や生産の喜びが伝わってくるかのようでした。人物は全部で220人にも及び、華山は、紅花の生産地である東北や北関東を取材して制作しました。京都の紅花問屋の注文を受けた作品でもあったそうです。

その「紅花屏風」と並び、華山の画業の1つの頂点を示すのが、上下巻で全長30メートルにも及ぶ「祇園祭礼図巻」でした。会場では、嬉しいことに、上下巻の全てが開いていただけでなく、下絵の墨画もあわせて公開されていました。



上巻では宵山から山鉾巡行の前祭が示され、下巻では近年、50年ぶりに復活したことでも話題を集めた後祭をはじめ、芸妓の歩く神輿洗練物が描かれていました。なお神輿洗練物は、現在行われていない行事で、絵画資料として詳細に描かれているのは、本絵巻しか確認されていません。

ここで面白いのは、上巻で、特に構図でした。というのも、絵巻では必ずしも各鉾の全体像を捉えずに、あえて枠外にはみ出すように描いているため、山鉾がさも動いて巡行しているように見えるからでした。そして描写は驚くほど精緻で、鉾の装飾品や曳き手の人々までが、事細かに写されていました。その臨場感のある表現に、頭の中で祇園囃子のコンチキチンが思い浮かぶほどでした。

富士山や天橋立、それに中国の西湖などの景勝地を舞台にした山水画にも優品が少なくありません。うち「花洛一覧図」は、京都の町並みを鳥瞰的に表した摺物で、細密な描写が評判を呼んだのか、華山の名を一躍、世に知らしめました。


横山華山「夕顔棚納涼図」 大英博物館

「夕顔棚納涼図」も魅惑的ではないでしょうか。夕顔の棚の下でのんびり寛ぐ男女を表していて、久隅守景の「夕顔棚納涼図屏風」を連想させるものがありました。また華山の軽妙でかつ愉悦感のある人物表現は、どこか英一蝶の画風に近しい面があるかもしれません。

チラシに「見ればわかる」とありましたが、まさかこのような絵師が江戸後期で活動していたとは知りませんでした。ただし華山は、当時から無名の絵師では全くなく、明治か大正の頃まではよく知られていて、フェノロサなどを通して海外でも評価されていました。しかしながら、どういうわけか、いつしか忘れられ、知る人ぞ知る絵師となってしまいました。


横山華山「富士山図」 京都府(京都文化博物館管理)

出品は会期を通して120点超と不足はありません。(展示替えを含む)また、ボストン美術館や大英博物館など、海外からも作品がいくつか里帰りしています。まさに「華山再発見」の展覧会と言えるかもしれません。

展示替えの情報です。前後期で一部の作品が入れ替わります。

「横山華山」展出品リスト(PDF)
前期:9月22日(土)~10月14日(日)
後期:10月16日(火)~11月11日(日)

展示替えは多数です。既に後期に入りましたが、前後期の2つで1つの展覧会と捉えて良さそうです。*「紅花屏風」の展示は終了しました。



前期展示の最終日の日曜に出かけて来ましたが、館内は思いの外に賑わっていました。ひょっとすると口コミなどで評判が広まっているのかもしれません。



11月11日まで開催されています。おすすめします。

「横山華山」 東京ステーションギャラリー
会期:9月22日(土)~11月11日(日)
休館:月曜日。但し9月24日、10月8日、11月5日は開館。9月25日(火)、10月9日(火)は休館。
料金:一般1100(800)円、高校・大学生900(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)
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「日本画の挑戦者たち―大観・春草・古径・御舟―」 山種美術館

山種美術館
「日本美術院創立120年記念 日本画の挑戦者たち―大観・春草・古径・御舟―」
9/15~11/11



山種美術館で開催中の「日本画の挑戦者たち―大観・春草・古径・御舟―」の特別内覧会に参加してきました。

1898年、東京美術学校を辞職した岡倉天心は、新たな時代の日本画を探求すべく、大観をはじめとした画家とともに、日本美術院を創立しました。

その日本美術院の120年を祝して行われているのが、「日本画の挑戦者たち」で、草創期の横山大観、菱田春草、小林古径、速水御舟をはじめ、戦後の小倉遊亀や片岡球子、それに現代の田渕俊夫や宮𢌞正明などの作品を網羅し、同院の長きに渡る制作の歴史を辿っていました。


小林古径「猫」 昭和21年 山種美術館

冒頭は猫がお出迎えです。それが古径の「猫」で、やや畏まった様子で座る猫を、真正面から描いていました。白く身体は美しく、気品があり、確かに「仏画のような荘厳さ」(解説より)が感じられるかもしれません。古径は、大正後期に渡欧した際、エジプトのバステト神の猫を写生しましたが、四肢を揃えて座る姿が、この作品と共通するとも指摘されています。


横山大観「燕山の巻」(部分) 明治43年 山種美術館

大観の画巻に力作がありました。横へ長く連なるのが「燕山の巻」で、明治43年の中国旅行の体験をもとに、同地の風景を「燕山・楚水の巻」の2巻1組に表しました。「燕山の巻」は、北京の城壁や万里の長城などを描いていて、瑞々しい水墨によって、中国の山々や樹々、そして建物の並ぶ風景を、牧歌的に表現していました。


下村観山「不動明王」 明治37年頃 山種美術館

下村観山の「不動明王」も興味深い作品でした。ちょうど明王が直線上に飛来する様子を表していますが、よく目を凝らすと、隆々とした筋肉で、陰影があり、西洋絵画の描法を思わせるものがありました。


菱田春草「雨後」 明治40年頃 山種美術館

春草の「雨後」に魅せられました。山の裾から下方で落ちる滝の光景を表していて、全てはぼんやりとしていて、全体を捉えきれません。いわゆる朦朧体による作品で、水の冷ややかな質感や、湿潤に満ちた大気などを表していました。また山の際が、樹木の連なる様子を示すためか、細かい斑点のような筆触で描かれているのも、目を引くかもしれません。


小林古径「清姫」(一部) 昭和5年 山種美術館

古径の「清姫」が1つのハイライトかもしれません。紀州の道明寺伝説に取材した連作で、物語を8面にして表しました。全8点が一度に公開されるのは、約5年ぶりのことでもあります。


速水御舟「牡丹花(墨牡丹)」 昭和9年 山種美術館

御舟では「牡丹花(墨牡丹)」が絶品でした。黒い花弁を幾重にも重ねた牡丹を、たっぷりと墨を含んだ筆で描いていて、花の柔らかい質感までが伝わってくるかのようでした。また蕊は金で描き込まれていて、仄かに輝いていました。これほどはかなく見える花の絵も、そう滅多にないかもしれません。


小茂田青樹「春庭」 大正7年 山種美術館

小茂田青樹の「春庭」も美しい作品でした。縦長の画面の左右に、桜と椿を描いていて、その合間に小道が奥へと続いていました。桜は既に見頃を終えたのか、花びらを落とし、小道に積もっていました。何気ない戸外の景色ながらも、幻想的な雰囲気も漂っていて、フランスの画家、シダネルを風景画を思い起こしました。


田渕俊夫「輪中の村」 昭和54年 山種美術館

この風景画に思いがけないほど引かれた作品がありました。それが、現在、日本美術院の代表理事を務める田渕俊夫の「輪中の村」で、木曽川と長良川に囲まれた輪中の農村を描きました。

家々や田畑、それに高圧線の鉄塔などは、ほぼ一面のモノトーンで覆われている一方、中央の白いビニールハウスと、その周囲のエメラルドグリーンの田畑のみ、色彩を伴って描かれていました。いずれも写実的でありながら、何やら白昼夢を前にしているかのようで、不思議と風景にのまれるような感覚に陥りました。なお空は、くしゃくしゃにしたアルミ箔を紙に貼って表しているそうです。


岩橋英遠「瑛」 昭和52年 山種美術館

まばゆい陽の光が大地に降り注ぐ、岩橋英遠の「瑛」も魅惑的ではないでしょうか。一羽の鳥が横切っていて、朱色に染まる棚田は、神々しいほどに輝いていました。


速水御舟「名樹散椿」 昭和4年 山種美術館

さて会期も中盤を過ぎました。10月16日に御舟の一部の作品が入れ替わり、重要文化財の「名樹散椿」の公開がはじまりました。私も改めて見てきました。


速水御舟「名樹散椿」(部分) 昭和4年 山種美術館

「名樹散椿」は、当時で樹齢400年に達した、京都の昆陽山地蔵院の椿を金地に描いた作品で、枝の屈曲を強調し、図像的に表した葉などは、琳派的なデザインを思わせるものがありました。とはいえ、花はかなり写実的で、一時、質感表現を追求した、御舟の1つの到達点としても知られています。昭和52年には、昭和以降の日本画として初めて重要文化財に指定されました。



映画「散り椿」@chiritsubaki928
http://chiritsubaki.jp

最近、改めて「名樹散椿」が注目される機会がありました。それが、9月28日より公開中の映画、「散り椿」(木村大作監督)で、葉室麟の原作の表紙に、「名樹散椿」が使われました。

「散り椿/葉室麟/角川文庫」

実際のところ、本作も、映画「散り椿」の公開に合わせ、特別に出品されました。またこの「名樹散椿」のみ、一般会期中も撮影が出来ます。(動画、フラッシュ、自撮り棒や三脚は不可。)


11月11日まで開催されています。

「企画展 日本美術院創立120年記念 日本画の挑戦者たち ―大観・春草・古径・御舟―」 山種美術館@yamatanemuseum
会期:9月15日(土)~11月11日(日)
休館:月曜日。但し9/17(月)、24(月)、10/8(月)は開館。9/18(火)、25(火)、10/9(火)は休館。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1000(800)円、大・高生800(700)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *きもの割引:きもので来館すると団体割引料金を適用。
 *リピーター割:使用済み有料入場券を提示すると団体割引料金を適用。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。渋谷駅東口より都バス学03番「日赤医療センター前」行きに乗車、「東4丁目」下車、徒歩2分。

注)写真は特別内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「野口小蘋-女性南画家の近代」 実践女子大学香雪記念資料館

実践女子大学香雪記念資料館
「野口小蘋-女性南画家の近代」 
10/8~12/1



実践女子大学香雪記念資料館で開催中の「野口小蘋-女性南画家の近代」をみてきました。

明治から大正にかけて活動した南画家の野口小蘋は、女性初の帝室技芸員も担い、美人画に山水画、それに花鳥画に多くの優品を残しました。

大阪で医師の長女として生まれた小蘋は、一時、関西の南画家に師事するも、ほぼ独学で画技を磨きました。明治10年代の頃までは美人画を多く描き、20年代に入ると山水画を手がけるようになりました。

小蘋の美人画は、浮世絵の影響を濃く反映していました。その一例が「設色美人図」で、黒い和装をまとった女性が、桜の花を手にして立っていました。面長の顔はいかにも浮世絵風で、帯には紅葉の模様があり、裾には梅や桜、それに桔梗や牡丹などの四季の花々が描かれていました。


野口小蘋「美人招涼図」 明治20(1887)年 山梨県立美術館

2人の女性が柳の下で行き交う「柳下二美人図」は、墨の軽やかな線を特徴としていて、おそらくは宴席で即興的に描かれたと考えられています。一方で、朱色の机の横で扇子を持つ女性を描いた「美人招涼図」は、顔の陰影が立体的で、かつての浮世絵風の美人画とは一線を画していました。また水色の着物の透けた描写も魅惑的で、身体の白い肌の質感なども細かに表していました。

「西園雅集図」は、小蘋が南画家としての地位を確立した作品で、明治29年の日本美術協会の秋期展覧会で、実質の最優秀賞を受賞しました。中国の北宋時代の「西園雅集図記」の記述をモチーフにしていて、多くの文人が集う光景を表していました。人物、風景を問わず、細密な表現を特徴としていて、筆をとる文人らの宴の賑やかな様子が伝わってきました。


野口小蘋「春秋山水図屏風」(右隻) 明治41(1908)年頃 東京国立博物館 *11/3まで展示

山水画では「春秋山水図屏風」が圧巻でした。右に紅白の梅の咲く春、左に秋色に染まる山々を描いた作品で、おそらくは結婚の調度品として宮中へ収められたと考えられています、山の岩肌や樹木、そして東屋などは大変に細かく描かれていて、静けさに包まれながらも、水辺の周りを歩く人の姿も垣間見えました。


野口小蘋「甲州御嶽図」 明治26 (1893)年 八百竹美術品店

「甲州御嶽図」は、山梨の名勝、昇仙峡を描いた作品で、画面右側に覚円峰が突き出し、右手に天狗岩のせり出す光景を、ほぼ正面から捉えていました。やはり緻密な線描が際立っていて、群青などの色を塗り分けることにより、山や岩の量感を表していました。

花鳥画では「海棠小禽図」に魅せられました。淡いピンク色に染まる海棠に、青い羽をのばした尾長鳥がとまる様子を表現していて、鮮やかな色彩が目にしみました。また海棠は絵具を盛り上げて描くなど、随所に小蘋の巧みな画技が見られました。

ほかにも、菊を見物する人々を描いた、「菊花見物図」も目を引くのではないでしょうか。広い庭園の中に菊小屋が並んでいて、行き交う人は、どこか楽しそうに菊を愛でていました。金砂子の蒔かれた画面は、僅かに黄金色に染まり、空間に光を与えていました。小蘋の款記に「日本」と入る珍しいものであることから、富裕層など、特別な注文によって制作したとされています。

ラストには、小蘋と関わりのある画家の作品も何点か展示されていました。そのうち、小蘋に師事した都鳥雪香の「花鳥図」が力作で、視線の鋭い雄の鶏や可愛らしい雛、さらに美しい芥子を淡い色彩で表現していました。


野口小蘋「美人読書図」 明治5(1872)年 実践女子大学香雪記念資料館

なお小蘋は、実践女子大学の学祖、下田歌子とともに、当時の華族女学校で教鞭をとっていたこともあり、同大学でも早い段階から作品の収集や研究を行なってきたそうです。必ずしも良く知られた画家とは言えないかもしれませんが、思いがけないほど魅惑的な作品ばかりでした。

「野口小蘋-女性南画家の近代」
1期:10月8日(月・祝)~10月18日(木)
2期:10月19日(金)~11月3日(土・祝)
3期:11月6日(火)~12月1日(土)

会期は3期制です。ただし展示替えは少なく、作品の入れ替えはごく一部でした。


受付でアンケートに答えると、クリアファイルか絵葉書を頂戴することが出来ます。また詳細な解説の付いたパンフレットもいただけました。



資料館は大学構内にあります。よって、観覧に際しては、正門右の警備室で受付をする必要があります。また日曜は休館日です。ご注意下さい。

入場は無料です。12月1日まで開催されています。おすすめします。

「野口小蘋-女性南画家の近代」 実践女子大学香雪記念資料館
会期:10月8日(月・祝)~10月18日(木)、10月19日(金)~11月3日(土・祝)、11月6日(火)~12月1日(土)
休館:日曜日。但し10月14日、21日は開館。11月5日(月)は展示替えのため休館。
時間:11:00~17:00。
 *10月26日(金)、11月9日(金)は18時まで開館。
料金:無料
住所:渋谷区東1-1-49 実践女子大学渋谷キャンパス内
交通:JR線、東京メトロ銀座線・半蔵門線・副都心線、東急線、京王井の頭線渋谷駅東口から徒歩約10分。
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「リー・キット 僕らはもっと繊細だった。」 原美術館

原美術館
「リー・キット 僕らはもっと繊細だった。」
9/16〜12/24



原美術館で開催中の「リー・キット 僕らはもっと繊細だった。」を見てきました。

1978年に香港に生まれ、現在は台北を拠点に活動するリー・キットは、絵画やドローイングをはじめ、プロジェクターによる映像などを用い、空間全体を絵画のように仕上げた作品を制作してきました。

国内の美術館としては初めての個展です。原美術館のために新しく作られたインスタレーションが公開されていました。



窓から淡い光が差し込んできました。その光は室内に入り込み、プロジェクターの光と交わっては、一枚の絵画を照らしていました。しかし自然光は、カーテンロール越しのため弱く、館内はかなり薄暗く感じました。実際に、照明はほぼ消えていて、自然光とプロジェクターの光のみが空間を満たしていました。



リーはサイトスペシフィック、すなわち特定の場所に存在するために制作することを特徴としていて、今回の個展でも、おおよそ10日間、美術館に通っては、作品を作り上げました。



光のみならず、影の存在も、空間にとって重要な要素と言えるかもしれません。というのも、プロジェクターによる映像は、時に四方の壁に展開し、光や色を映していますが、プロジェクターの前を横切ると、当然ながら、人の影が現れました。そして、観客は自由に作品の前を行き来しては、影を生み出していましたが、この影と映像とが妙に関係しあっているように感じられるのも不思議でなりませんでした。

中には影自体が、映像を構成する一部として見えるような場合もありました。これほど影を通して、自分、そして他者の存在を意識する展示も少ないかもしれません。



がらんとした室内には、日用品も置かれ、一見、映像と無関係にも思えましたが、必ずしもそうではありませんでした。例えばマグカップの置かれた窓がありましたが、同じ窓を捉えた映像も映されていました。また1階の絵画を映した映像が2階で展開するなど、各々の作品は、緩やかに繋がっているようにも見えました。



さらに映像と思い、眺めていた絵画が、実際に存在していたりするなど、そもそも一体、自分が目の当たりにしている光景が、どこに存在し、あるいは存在しないのかが、分からなくなることもありました。



木漏れ日を映した映像に目がとまりました。朧げな樹々は僅かに揺れていましたが、隣には扇風機が回っていて、その音がまるで木を揺らす風の音にも聞こえました。



絵画にはテキストも示され、男女の間の物語の気配を感じましたが、何か特定のストーリーがあるわけではありません。あくまでも全ては意味ありげでありながら、不思議と収まり良く自然に場を満たしていました。



ほぼ自然光の展示のため、時間帯によってかなり見え方が変化するのではないでしょうか。私は昼間の晴天時に行きましたが、日没後、外光のない夜間では雰囲気が一変するかもしれません。原美術館では、毎週水曜日のみ、夜8時まで開館しています。



カーテンロールで遮られた窓の外がとても気になりました。空間は断片化しながらも、外へと連続しているように思えなくもありません。



1階と2階を行き来しては、リーの生み出した空間に身を委ねている自分に気がつきました。光や淡い色調を帯びた抽象絵画のように広がっても見えます。


撮影も出来ました。12月24日まで開催されています。*写真はいずれも「リー・キット 僕らはもっと繊細だった。」会場風景。

「リー・キット 僕らはもっと繊細だった。」 原美術館@haramuseum
会期:9月16日(日)〜12月24日(月・祝)
休館:月曜日。但し祝日にあたる9月17日、24日、10月8日、12月24日は開館。9月18日、25日、10月9日は休館。
時間:11:00~17:00。
 *水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
 *原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
 *20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
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ポーラミュージアムアネックスで「SHIMURAbros」の個展が開催中です

ベルリンを拠点に活動する「SHIMURAbros」の個展が、銀座のポーラミュージアムアネックスにて開かれています。



その「SHIMURAbros Seeing Is Believing 見ることは信じること」について、pen-onlineのアートニュースに書きました。

いま見ているものは本当の世界?「SHIMURAbros」展で体験する、「見る」ことの不思議。
https://www.pen-online.jp/news/art/shimurabros/1


「SHIMURAbros」は、姉のシムラユカと弟のケンタロウの2人で活動するアーティスト・ユニットで、これまでにも「見る」行為の本質を問うべく、映像や彫刻、インスタレーションなどで作品を発表してきました。

2010年と2011年には、文化庁メディア芸術祭にて「アート部門審査委員会推薦作品」に選定され、2014年には六本木アートナイトにも参加しました。

今回のポーラアネックスでは、会場内に噴水を設置し、映像を伴った大掛かりなインスタレーションを展示しています。



手前には実際の噴水があり、白いステージへ水を落としていました。さらにもう1つの奥の部屋には、映像の噴水があり、上から螺旋を描いて白いステージへ水を吹き出す光景が映されていました。



映像では白い服を身につけた女性が現れ、噴水の周りで軽やかに踊り出しました。また映像はもう1面あり、フクロウやフラミンゴなどの動物がほぼ静止していました。

一見するところ、とても穏やかな映像にも思えましたが、ある瞬間に急展開し、動物の目が拡大したか思いきや、まるで警告灯のような赤い光が空間を満たしました。


映像はループで約40分です。やや謎めいた内容でもありましたが、不思議と最後まで見入ってしまいました。ダンスと噴水、そして動物達はいかなる関係にあったのでしょうか。



11月4日まで開催されています。

*写真はいずれも「SHIMURAbros Seeing Is Believing 見ることは信じること」会場風景。自由に撮影も可能です。

「SHIMURAbros Seeing Is Believing 見ることは信じること」 ポーラミュージアムアネックス@POLA_ANNEX
会期:10月5日(金)~11月4日(日)
休館:会期中無休
料金:無料
時間:11:00~20:00 *入場は閉館の30分前まで
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
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「ルーベンスぴあ」 ぴあMOOK

2018年10月16日より国立西洋美術館ではじまった「ルーベンス展 バロックの誕生」。ルーベンスを40点を含む、全70点の作品にて、ルーベンスとイタリア・バロック美術の影響関係について紹介しています。

「ルーベンスぴあ/ぴあMOOK」

その「ルーベンス展」の開催を記念し、新たなルーベンス本、「ルーベンスぴあ」が刊行されました。

【ルーベンスぴあ CONTENTS】
・「ルーベンス展―バロックの誕生」へようこそ
・ルーベンスLOVE~著名人が語るルーベンスの魅力
・<大特集>超入門 ルーベンスってどんな人?
・<大特集>絶対に見逃せない! ルーベンス作品BEST20
・<展覧会紹介>ここを見よ! 「ルーベンス展―バロックの誕生」
・<美術館紹介>国立西洋美術館 見どころガイド
・ルーベンスと『フランダースの犬』の物語
・ルーベンスの故郷 ベルギー・アントウェルペンを歩く



まずはじめは「超入門 ルーベンスってどんな人?」で、「バロックの巨匠」、「誰もが魅了される超イケメン」、「王の画家にして画家の王」、「家族愛に溢れた教養人」など6つのキーワードを元に、作品の図版を踏まえながら、ルーベンスを画業を読み解いていました。



それぞれ漫画が掲載されているのも特徴で、親しみやすく接することが出来ますが、テキストは美術ジャーナリストの藤原えりみさんが担当されているので、専門的な見地を十分に踏まえた内容になっていました。



そして「ルーベンス 名作ギャラリー」では、ルーベンスの年譜とともに、代表的な作品を図版で紹介し、肖像画から風景画、祭壇画までを幅広く描いた、ルーベンスの名画を一覧することも可能でした。



続く「絶対に見逃せない!ルーベンス作品BEST20」では、特に見逃せない20点の作品をピックアップしていて、単に作品を羅列するだけでなく、「イタリア」、「聖書」、「神話」、「家族」のテーマ別に掲載していました。作品の背景やモチーフについても細かく触れていて、1点1点への理解を深めることが出来ました。また20点は全て「ルーベンス展」の出展作でもあるので、展覧会の予習をしたり、振り返ったりするのに重宝するかもしれません。



さらに「ルーベンス展」の4つの特徴や、会場となる国立西洋美術館の見どころガイドがあり、ここでも「ルーベンス展」にも準拠するように構成されていました。



ルーベンスの画業を追いかけつつ、作品の多面的な魅力に迫り、なおかつ「ルーベンス展」の見どころも紹介する「ルーベンスぴあ」。実のところ現在、ルーベンスに関する一般向けの本は必ずしも多くありません。私もまだ読み進めている段階ですが、内容は想像以上に充実していました。



「ルーベンス展 バロックの誕生」@国立西洋美術館
会期:2018年10月16日(火)〜2019年1月20日(日)
https://www.tbs.co.jp/rubens2018/

巻頭の「ルーベンスLOVE」に、私こと「はろるど」の選んだ、ルーベンスの魅力や一押し作品についてのコメントを載せていただきました。

ほかにもお馴染みの「青い日記帳」のたけさん、そして美術ジャーナリストの藤原えりみさんや、作家の平野啓一郎さんなどもコメントを寄せておられます。私のコメントの内容はともかくも、皆さん、大変に示唆に富むコメントばかりです。是非、ご覧下さい。



帯の裏には「ルーベンス展」の入場割引券(100円引)もついています。「ルーベンスぴあ」は、ルーベンス展会場のショップでも販売されていますが、先に本誌を手にして、割引券を切り取って、展覧会に行くのも良さそうです。


「ルーベンスぴあ」はぴあより10月11日に発売されました。

「ルーベンスぴあ」 (ぴあMOOK)
出版社:ぴあ
ムック:98ページ
発売日:2018/10/11
価格:1404円(税込)
内容:2018年秋、史上最大級の「ルーベンス展」がやってくる! 「ルーベンス展―バロックの誕生」開催記念MOOK『ルーベンスぴあ』は、バロック美術の大巨匠・ルーベンスの魅力と展覧会の見どころをわかりやすく解説したガイドブックです。
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モーツァルト「魔笛」 新国立劇場 2018/2019シーズン

新国立劇場 2018/2019シーズン
モーツァルト「魔笛」
2018/10/14



新国立劇場で「魔笛」を聞いてきました。

大野和士芸術監督第1シーズンに当たり、2018/2019シーズンの開幕公演を飾ったのは、モーツァルトの「魔笛」でした。

上演されたのは、南アフリカ共和国に生まれ、いわゆる「動くドローイング」を制作する現代美術家のウィリアム・ケントリッジのプロダクションでした。そして「魔笛」は、2005年にモネ劇場で初演された過去のプロジェクションであるものの、今回の上演に際して、最先端の技術に見合うに組み立てられたため、映像に大きく手が加えられ、全て撮り直されました。なおケントリッジは、「魔笛」ののちに、ショスタコーヴィッチの「鼻」やベルクの「ルル」のオペラの演出を手がけたことでも知られています。

冒頭から、「動くドローイング」が舞台上で躍動しました。劇の進行に合わせて、光の線が弧を描くように進み、月に太陽、そして天体望遠鏡や鳥かご、さらにメトロノームに図形的な模様、はたまたフリーメイソンの象徴でもあるプロビデンスの目が現れては消えて行きました。ドローイングによる場面転換がダイナミックで、森林が左右に展開し、神殿の扉が奥へと開く様子は、さも実際の舞台が前後左右に動いているかのように見えました。ケントリッジによれば、「闇と光が反転し得る関係が決定的になった」19世紀を舞台としていて、単に善悪、夜の女王とザラストロを対峙させてはいませんでした。

特に印象的だったのは、動物のサイの扱いでした。タミーノが笛を吹く場面では、サイは楽しそうに踊り、手懐けられていた一方、ザラストロのアリア「この聖なる神殿では」では、高らかに博愛を歌い上げる背景に、植民者におけるサイ狩りの映像が映されてました。ザラストロは啓蒙の時代の象徴ではあったものの、それと表裏一体の関係にもあった支配や暴力の問題が示されていたのかもしれません。



とはいえ、全体として大胆な劇の読みかえはなく、人の心情を示したり、舞台の場面を表現するなど、「動くドローイング」は、終始、モーツァルトの音楽に逆らうことなく、スムーズに展開していました。またレチタティーボが、ピアノによる即興的な音楽で補完されていたのも特徴的で、アリアや重唱への繋ぎ渡しをしていて、中にはピアノ協奏曲から引用したフレーズもありました。

歌手陣では、日本人キャストが健闘していました。特にタミーノを半ば導き、自身も成長を遂げていくパミーナの林正子と、劇の進行にとって欠かすことの出来ない童子を歌った前川依子、野田千恵子、花房英里子の3人が安定していました。また夜の女王の安井陽子も、2つのアクロバットなアリアを一気に歌い上げていました。さらにモノスタトスの升島唯博も芸達者でした。一方で外国人キャストは、ザラストロのサヴァ・ヴェミッチが声量こそあったものの、音程が不安定だったように聞こえました。

ローラント・ベーアは、以前、ミラノ・スカラ座で公演された、ケントリッジの「魔笛」の指揮を務めた人物でした。やや緩急をつけながら、ピリオド奏法を思わせる小気味良いリズムが印象的で、東フィルを巧みに操っていただけなく、歌手陣にも寄り添っては、うまく音楽をまとめ上げていたのではないでしょうか。東京フィルハーモニー交響楽団も、特に後半はベーアの指揮によく応えていました。



私自身、オペラを生で鑑賞するのは、実に9年ぶりだけあり、久々に「魔笛」、そして何よりも晩年のモーツァルトに特有の清明な音楽をじっくり味わうことが出来ました。カーテンコールは落ち着いたものでしたが、いつもながらに力強い美声を響かせていた新国立劇場合唱団を含め、どのキャストにも惜しみなく拍手が送られていました。


新国立劇場@nntt_opera) 2018/2019シーズン 「魔笛」
作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
台本:エマヌエル・シカネーダー

指揮:ローラント・ベーア
演出:ウィリアム・ケントリッジ
演出補:リュック・ド・ヴィット
美術:ウィリアム・ケントリッジ、ザビーネ・トイニッセン
衣裳:グレタ・ゴアリス
照明:ジェニファー・ティプトン
プロジェクション:キャサリン・メイバーグ
映像オペレーター:キム・ガニング
照明監修:スコット・ボルマン
舞台監督:髙橋尚史

キャスト
ザラストロ:サヴァ・ヴェミッチ、タミーノ:スティーヴ・ダヴィスリム、夜の女王:安井陽子、パミーナ:林正子、パパゲーノ:アンドレ・シュエン、パパゲーナ:九嶋香奈枝、モノスタトス:升島唯博、弁者・僧侶I・武士II:成田眞、僧侶II・武士I:秋谷直之、侍女I:増田のり子、侍女II:小泉詠子、侍女III:山下牧子、童子I:前川依子、童子II:野田千恵子、童子III:花房英里子

合唱指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
芸術監督:大野和士

2018年10月14日(日)14時 新国立劇場オペラ劇場
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「京都・醍醐寺―真言密教の宇宙―」 サントリー美術館

サントリー美術館
「京都・醍醐寺―真言密教の宇宙―」
9/19〜11/11



サントリー美術館で開催中の「京都・醍醐寺―真言密教の宇宙―」の報道内覧会に参加してきました。

花見の名所として知られる、京都・伏見の醍醐寺には、真言密教の聖地として、密教に関する数多くの美術品が伝わってきました。


重要文化財「如意輪観音坐像」 平安時代・10世紀 *全期間展示

思わず一目惚れしてしまいました。冒頭にあるのは、醍醐寺を開いた聖宝が草庵を結んで祀った「如意輪観音坐像」で、長らく特別な信仰を集めてきました。頭を僅かに右へ傾け、右手を頬に添えては、思惟の相を示していて、実に優美に座っていました。まるで全身から力を抜いてリラックスしているようで、どこか寛いでいるような姿に見えるかもしれません。


国宝「五大尊像」 鎌倉時代・12~13世紀 *展示期間:9/19~10/15

驚くほど迫力のある仏画が待ち構えていました。それが不動明王を中心に、東西南北の四天王を加えた「五大尊像」で、いずれも赤々と燃え上がる炎の光背を従え、忿怒の形相を表していました。火炎の赤や、着衣の截金の紋様が、かなり良く残っていて、おおよそ鎌倉時代の古い作品とは思えませんでした。


国宝「五大尊像」 鎌倉時代・12~13世紀 *展示期間:9/19~10/15

鮮やかな細部の色彩はもとより、手足を振り上げながら、四方へと伸ばす四天王の動きのある表現も見どころで、実在感もあり、その力感に思わず後ずさりしてしまうかのようでした。


重要文化財「五大明王像」 平安時代・10世紀 *全期間展示

この五大明王を立体化した、木彫の「五大明王像」も力作でした。やはり手足の豊かな動勢表現を特徴としていて、特に「軍荼利明王」などは、それこそ見る者を威嚇するように、前へ飛びかかるようなポーズを見せていました。なお、当初の5躯が揃う五大明王としては、京都の当時講堂像に次ぐ古作とされています。


重要文化財「不動明王坐像」 快慶作 鎌倉時代・建仁3(1203)年 *全期間展示

快慶の「不動明王坐像」も優れた仏像で、真に迫る忿怒の相でありながら、どことなく高い気位を漂わせていました。快慶は醍醐寺と関係も深く、三宝院本尊の弥勒菩薩坐像のほか、記録では下醍醐の五道大臣などを造仏したと伝えられています。

さらに仏像の優品はこれだけに留まりません。上醍醐薬師堂の本尊である「薬師如来および両脇侍像」もハイライトの1つでした。醍醐寺を創建した聖宝によって造り始められた作品で、堂々たる体躯をした中尊は、端正でかつ重厚感がありました。また両脇の像は、奈良時代の作品を意識したとも言われていて、ともに10世紀を代表する仏像として知られています。


国宝「薬師如来および両脇侍像」 平安時代・10世紀 *全期間展示

「薬師如来および両脇侍像」は、ちょうど4階から3階へと至る階段の吹き抜けに展示されていて、仏像の上から見下ろすように鑑賞出来るのも、興味深く感じられるかもしれません。下に降りて見上げると、像高約1メートル70センチよりも大きく映り、その威容に改めて感服するものがありました。少なくとも私自身、サントリー美術館でこれほど大きな仏像を見たのは、初めてだったかもしれません。


重要文化財「三宝院障壁画 竹林花鳥図(勅使の間)」 *展示期間:9/19~10/15

障壁画や屏風絵にも見応えがある作品が少なくありません。うち三宝院の「竹林花鳥図」は、右に太い竹を配し、左に鳥がいる水辺の光景を描いた障壁画で、長谷川派の特色が見られると指摘されています。また同じく障壁画の「柳草花図」は、一面に柳と葉が広がっていて、枝は曲がり、葉も左へとなびいていました。緩やかに吹く、風の気配を感じ取れるのではないでしょうか。


「松桜幔幕図屏風」 生駒等寿筆 江戸時代・17世紀 *全期間展示

生駒等寿の「松桜幔幕図屏風」は、秀吉の家紋である五七桐紋の幔幕が横へ連なっていて、左手には上から花をつけた桜の木が枝を伸ばしていました。言うまでもなく、秀吉の「醍醐の花見」を意識して描いたことは間違いありません。


「金天目および金天目台」 安土桃山時代・16世紀 *全期間展示

その秀吉が、醍醐寺第80代座主の義演に送った、黄金の天目茶碗も目を引きました。義演が秀吉の病気平癒のために、加持祈祷を行った褒美とされていて、秀吉の黄金趣味の一端を伺うことも出来ました。なお義演は、戦乱で荒廃した醍醐寺の復興に尽力した人物で、同寺に伝わる古文書類などを書写して整理しました。

最後に展示替えの情報です。会期に8つに分かれていますが、主に前後期を境にして作品が入れ替わります。

「京都・醍醐寺―真言密教の宇宙―」(出品リスト
前期:9月19日(水)〜10月15日(月)
後期:10月17日(水)〜11月11日(日)

リストを見ても明らかなように、入れ替えが多く、ほぼ前後期を合わせて1つの展覧会と言っても良いかもしれません。


またこの後、巡回予定の九州国立博物館のみに公開される作品も存在します。その一方で、サントリー美術館のみの出展作品もあります。*九州国立博物館の会期:2019年1月29日(火)〜3月24日(日)


「京都・醍醐寺―真言密教の宇宙―」会場風景(サントリー美術館)

ケースなしの露出展示も少なくなく、より臨場感のある形で鑑賞することが出来ました。これほど醍醐寺の諸仏を近くで見られる機会など、現地に出向いても叶わないかもしれません。


11月11日まで開催されています。おすすめします。

「京都・醍醐寺―真言密教の宇宙―」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:9月19日(水)〜11月11日(日)
休館:火曜日。但し11月6日は開館。
時間:10:00~18:00
 *金・土および9月23日(日・祝)、10月7日(日)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。作品は全て京都・醍醐寺蔵。
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「原安三郎コレクション 小原古邨展」 茅ヶ崎市美術館

茅ヶ崎市美術館
「開館20周年記念-版の美Ⅱ-原安三郎コレクション 小原古邨展-花と鳥のエデン-」
9/9~11/4



茅ヶ崎市美術館で開催中の「開館20周年記念-版の美Ⅱ-原安三郎コレクション 小原古邨展-花と鳥のエデン-」を見てきました。

1877年(明治10年)に金沢に生まれた小原古邨は、海外への輸出を踏まえた版下絵を描き、花鳥風月を表した木版花鳥画を制作しては、特に海外で人気を博しました。

その小原古邨の木版画が茅ヶ崎に大集結しました。総出展数はゆうに230点(前後期で全点入れ替え)にも及び、その全てが実業家で、広重や北斎などのコレクターとしても知られた原安三郎のコレクションでした。なお原の浮世絵コレクションは、2016年に全国を巡回した「原安三郎コレクション 広重ビビッド」でも一部が公開されました。いずれも状態が良い作品ばかりで、鮮やかな色彩は、まだ記憶に新しい方も多いかもしれません。


小原古邨「桜に烏」 明治後期

まさに春夏秋冬、春から展示がはじまりました。「桜に烏」は、おそらく夜の闇の中、桜の枝にとまって羽根を休める烏を表した作品で、写真では分かりにくいものの、墨の濃淡を用い、羽根の質感を細かに再現していました。


小原古邨「枝垂れ桜に燕」(部分) 明治後期

華やかなのが、「枝垂れ桜に燕」で、まだ蕾の目立つ枝垂れの枝に、2羽の燕がとまっていました。そして燕が人懐っこく見えるのも興味深いところで、まるで笑うようにこちらを見ていました。


小原古邨「芥子に金糸雀」(部分) 明治後期

夏では「芥子に金糸雀」が風雅ではないでしょうか。瑞々しい紫の色の芥子に黄色のカナリアがとまっていて、芥子の花の蕊や、葉脈、それに茎のとげなどもリアルに描いていました。またカナリアは鳴いているのか、嘴を開いていました。こうした植物における写実性も、古邨の魅力と言えるかもしれません。


小原古邨「百合に黒揚羽」(部分) 明治後期

「百合に黒揚羽」も魅惑的な一枚で、うっすらと黄色を帯びた百合に、黒い揚羽蝶が蜜を吸いにやって来ていました。やはり百合の花には透明感があり、木版というよりも、まるで絵画を前にしたような質感も感じられました。


小原古邨「燕と蜂」 明治後期

構図に動きを伴うのも、古邨の特徴であるかもしれません。一例が「燕と蜂」で、一匹の蜂を、二羽の燕がほぼ垂直に飛来して仕留めようとする姿を描いています。この数秒後に、蜂は捕らえられてしまうのかもしれません。一瞬の出来事を画面に表現していました。


小原古邨「雨中の桐に雀」(部分) 明治後期

秋の「雨中の桐に雀」に惹かれました。黒い線で示された雨の中、桐に雀が3羽とまっていて、いずれも丸っこく、まるでぬいぐるみのように可愛らしく見えました。古邨は確かに「西洋画風の写実性」(解説より)を伴っていますが、必ずしも写実一辺倒ではありませんでした。


小原古邨「大鷹と温め鳥」(部分) 明治後期

冬では何と言っても「大鷹と温め鳥」が忘れられません。雪を抱いた木の上に一羽の鷹がいて、その羽の合間にもう一羽の小さな鳥がいました。これは鷹などの猛禽類が小鳥を捕え、寒い一晩を足で温めるという「温め鳥」を表していて、鷹匠などに伝わる伝承でもあるそうです。微笑ましい姿を見せていました。


小原古邨「枝垂れ桜に雉」(部分) 明治後期

ともかく古邨の描く鳥や動物は、どれも愛おしく、時に懐っこいものばかりでした。また花の中の毛虫を啄もうとする鳥や、水面越しにうっすらと映る鳥など、場面、言い換えれば構図にも工夫がありました。


小原古邨「崖上の鹿」(部分) 明治後期

原安三郎の古邨コレクションが一括して紹介されることはもとより、そもそもこれほどのスケールで古邨画が公開されたこと自体、初めてだそうです。お気に入りの一枚を見つけるのには、さほど時間もかかりませんでした。


小原古邨「撫子に鷭(ばん)」(部分) 明治後期

展示替えの情報です。はじめにも触れましたが、前後期で作品は全て入れ替わりました。

「原安三郎コレクション 小原古邨展-花と鳥のエデン-」 
前期:9月9日(日)~10月8日(月・祝)
後期:10月11日(木)~11月4日(日)

10月11日より後期展示に入りました。なお前期のチケットを提示すると、後期の観覧料が200円引きになります。(本エントリは、全て前期展示の出展作品について書いています。)


小原古邨「鳴子に雀」(部分) 明治後期

10月7日には、NHKEテレの「日曜美術館」でも特集が放送されました。翌週の14日には再放送も予定されています。

Eテレ日曜美術館「生き物のいのちを描く~知られざる絵師 小原古邨~」
放送日:10月7日(日)午前9時00分~午前9時45分
再放送:10月14日(日)午後8時00分~午後8時45分
http://www4.nhk.or.jp/nichibi/


小原古邨「桜吹雪に子猿」(部分) 明治後期

国内ではあまり知られて来なかった古邨ですが、今回の展覧会を切っ掛けに、再評価の機運も高まるかもしれません。私にとってもまた一人、心惹かれる版画家に出会いました。



会場の茅ヶ崎市美術館は、JR線の茅ヶ崎駅南口より歩いて7~8分ほどの「高砂緑地」の内に位置します。松林が生い茂る独特な景観をなしていて、この緑地こそ、かつて原安三郎の別荘地でもありました。


古邨のニュアンスに富んだ色調は写真では収まりませんが、全ての作品の撮影も出来ました。(スマホのシャッター音、フラッシュ、長時間の撮影は不可。)

「小さな命のきらめく瞬間 小原古邨の小宇宙/青月社」

11月4日まで開催されています。おすすめします。*写真はいずれも中外産業株式会社蔵(原安三郎コレクション)

「開館20周年記念-版の美Ⅱ-原安三郎コレクション 小原古邨展-花と鳥のエデン-」 茅ヶ崎市美術館@chigasakimuseum
会期:2018年9月9日(日) ~11月4日(日)
 *前期:9月9日(日)~10月8日(月・祝)後期:10月11日(木)~11月4日(日)
 *前期・後期で全点入れ替え
休館:月曜日(ただし9月10日、17日、24日、10月8日は開館)、9月18日(火)、25日(火)、10月9日(火)、10日(水)は休館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700(600)円、大学生500(400)円。
 *高校生以下、市内在住65歳以上は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:神奈川県茅ヶ崎市東海岸北1-4-45
交通:JR線茅ヶ崎駅南口より徒歩約8分。
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「狩野芳崖と四天王」 泉屋博古館分館

泉屋博古館分館
「狩野芳崖と四天王―近代日本画、もうひとつの水脈」
9/15~10/28



泉屋博古館分館で開催中の「狩野芳崖と四天王―近代日本画、もうひとつの水脈」を見てきました。

近代日本画の父と言われる狩野芳崖には、晩年に師事された4人の高弟がいました。

その一人が、福井に生まれ、岡倉天心の甥である岡倉秋水でした。秋水は、図画教育に従事し、師を顕彰するために遺墨展を開催しては、作品の鑑定も行いました。「慈母観音図」は、まさに芳崖作の写しで、装身具の部分などはより立体的に表されていました。

そして二人目が、岐阜の大垣に生まれ、東京美術学校に入門するも、自らを「仏画師」と称しては、全国の寺院を歩いた高屋肖哲でした。生涯を通して観音像を描き、高野山にも参籠しました。おそらく旅先で描いたのか、山を細かにスケッチした「妙義山地取図」も印象に残りました。

続くのが、関宿藩士の子で、東京美術学校の助教授も務めた本多天城でした。大正以降はあまり名を残さなかったものの、一時は文展に入選するなどして活動し、山水画を得意しました。


本多天城「山水」 明治35年 川越市立美術館 *通期展示

その本多に力作がありました。まさに「山水」で、高い松林の向こうで、霞に覆われてそびえ立つ山々の姿を、鳥瞰的に描いていました。手前の松は細かい線で表している一方、後景の山々は朧げに示されていて、その対比も効果的に映りました。渓谷には白く波打つ水も流れていて、人里離れた渓谷を、雄大に表現していました。

福井に生まれ、東京美術学校に入学するも、後半生を本草学の研究に傾倒した岡不崩も、芳崖の門下の一人でした。学者でもあった岡は、多くの著作も残し、植物画としても正確さを持つ花鳥画を得意としました。



その力量は「群蝶図」からしても明らかでした。色とりどりの草花が並ぶ中、多くの蝶が舞っていて、いずれの植物も写実的でした。他にも「朝顔図説と培養法」における朝顔のスケッチも魅惑的で、実のところ私自身、芳崖の四天王のうちで最も惹かれたのが岡でした。


狩野芳崖「伏龍羅漢図」 明治18年 福井県立美術館 *前期展示

一方で、師の芳崖の作品も、点数こそ少ないものの、力作が揃っていました。うち「神仙愛獅図」は、西洋の聖人のような人物が、獅子を前に座る光景を描いていました。また「獅子図」も充実していて、芳崖はイタリアの曲芸団が来日した際、神田で実際に見たライオンをスケッチして制作しました。ほかにも橋本雅邦の作品も出展されていて、水辺の前で、彼方を見やるように西行が立つ「西行法師図」にも惹かれました。夕景を示すのか、画面はややオレンジ色に染まっていて、金砂子によって明かりも表現されていました。


菱田春草「春色」 明治38年 豊田市美術館 *前期展示

ラストを飾るのが、雅邦の四天王である、横山大観、下村観山、菱田春草、西郷弧月で、同じく日本美術院の画家の木村武山の作品とともに展示されていました。春草の「海辺朝陽」は、朦朧体の様式をとっていて、朝陽に包まれた海辺の景色を、淡い光と色彩で包み込むように描いていました。その茫洋たる景色は判然とせず、どこか抽象性を帯びていると言っても良いかもしれません。



会期の情報です。前後期で相当数の作品が入れ替わります。

「狩野芳崖と四天王―近代日本画、もうひとつの水脈」(出品リスト
前期: 9月15日(土)~10月8日(月・祝)
後期:10月10日(水)~10月28日(日)


既に後期展示に入りました。狩野芳崖の三大名画、「悲母観音」、 「不動明王」、「仁王捉鬼図」も出揃いました。

いかんせんスペースに限界がありますが、知られざる芳崖の門下の画家を紹介する好企画ではないでしょうか。



10月28日まで開催されています。

「狩野芳崖と四天王―近代日本画、もうひとつの水脈」 泉屋博古館分館@SenOkuTokyo
会期:9月15日(土)~10月28日(日)
休館:月曜日。但し9/17、9/24、10/8は開館。9/18、9/25、10/9は休館。
時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
料金:一般800(640)円、学生600(480)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体。
住所:港区六本木1-5-1
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅北改札1-2出口より直通エスカレーターにて徒歩5分。
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「フェルメール展」 上野の森美術館

上野の森美術館
「フェルメール展」
2018/10/5〜2019/2/3



日本美術展史上最大のフェルメールの展覧会が、上野の森美術館ではじまりました。

それがまさに「フェルメール展」で、「牛乳を注ぐ女」、「マルタとマリアの家のキリスト」、「手紙を書く婦人と召使い」、「ワイングラス」、「手紙を書く女」、「赤い帽子の娘」、「リュートを調弦する女」、「真珠の首飾りの女」、「取り持ち女」を合わせ、計9点のフェルメールの絵画がやって来ます。(但し「赤い帽子の娘」は12月20日まで展示。「取り持ち女」は2019年1月9日より公開。)

またフェルメールだけに留まらず、ハブリエル・メツー、ピーテル・デ・ホーホ、ヘラルト・ダウなど、同時代のオランダの絵画も40点ほど同時に展示されていました。


ハブリエル・メツー「手紙を読む女」 1664〜1666年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー

一連のオランダ絵画が想像以上に充実していました。中でも白眉は、メツーの「手紙を読む女」と「手紙を書く男」でした。画家の絶頂期に描いた対の絵画で、ともに恋文をやり取りする様子を表していました。「手紙を読む女」には鮮やかな光が差し込んでいて、背後の白い壁や女性の衣服を美しく引き立てていました。また、手前には、一頭の子犬が背を伸ばしていて、その先には使用人と思しき女性が、壁の海景画を見やっていました。一部がカーテンに隠れていて、全体像を見ることが出来ないものの、大波に飲まれそうな船が描かれていて、この先の「愛の苦難」(解説より)を暗示していると言われています。

もう一方の「手紙を書く男」では、ブロンドの豊かな髪を垂らし、上等な衣服を身につけた若い男性が、恋文をペンで記していました。全体の収まり良い構図はもとより、細部も秀逸で、特にテーブルのクロスの模様、そして同じくテーブル上にある金属製の器を、実に精緻に表していました。器のメタリックな質感すら伝わるようで、率直なところ、今回の展覧会で最も引かれたのが、「手紙を書く男」でした。


ピーテル・デ・ホーホ「人の居る裏庭」 1663〜1665年頃 アムステルダム国立美術館

庭で恋人が座る姿を描いたホーホーの「人の居る裏庭」も魅惑的で、建物のレンガの豊かな質感は、フェルメールの「小路」を連想させるものがありました。さらにダウの「本を読む老女」では、暗がりの中、一心不乱に本を読む老いた女性の顔や手の皺、そして聖書の文字などが、極めて細密に描かれていました。


ヘラルト・ダウ「本を読む老女」 1631〜32年頃 アムステルダム国立美術館

ほかにもレンブラント周辺の画家による「洗礼者ヨハネの斬首」、エマニュエル・デ・ウィッテの「ゴシック様式のプロテスタントの教会」、ヤン・ウェーニクスの「野うさぎと狩りの獲物」も強く印象に残りました。中でも「ゴシック様式のプロテスタントの教会」では、教会内部を満たす光に透明感があり、「野うさぎと狩りの獲物」では、兎のふさふさとした毛が極めて写実的に示されていました。これまでにもフェルメール関連の展覧会が開催され、同時期のオランダの絵画も紹介されてきましたが、今回は点数こそ少ないものの、力作揃いではないでしょうか。「フェルメール展」の見どころは、何も全てフェルメールにあるわけではありません。


ヨハネス・フェルメール「マルタとマリアの家のキリスト」 1654〜1655年頃 スコットランド・ナショナル・ギャラリー

フェルメールの8点の絵画は、暗がりの1室、「フェルメール・ルーム」に並んで公開されていました。入口から向かって右に「マルタとマリアの家のキリスト」、左に「牛乳を注ぐ女」があり、正面の壁には右から「ワイングラス」、「リュートを調弦する女」、「真珠の首飾りの女」、「手紙を書く女」、「手紙を書く婦人と召使い」、「赤い帽子の娘」の順に並んでいました。これほどの数のフェルメール作品を目の当たりにすること自体、初めてだっただけに、まずは展示空間そのものに圧倒されました。


ヨハネス・フェルメール「ワイングラス」 1661〜1662年頃 ベルリン国立美術館

8点を見比べて、最も引かれたのは、日本初公開でもある「ワイングラス」でした。白いデカンタを手にした紳士が、女性にワインを勧めていて、おそらくは恋の駆け引きの場面を描いたとされています。男性の表情は何やら誇らしげで、物事を優位に進めているように見える一方、女性の表情はグラスで隠されていて分からず、両者の行く末はどうなるか分かりません。

ステンドグラスの透明感、そして色彩感が際立っているものの、室内はかなり薄暗く、例えば先のメツーの光とはかなり異なっていました。こうした淡い光の表現こそ、フェルメールの得意としたところかもしれません。また構図に苦心したのか、右後方の床にやや歪みが見られるものの、先のステンドグラスや手前の木彫りのある椅子、テーブル上の厚手の絨毯などは細かに描かれていて、重厚感も感じられました。


ほかのフェルメールでは、「牛乳を注ぐ女」が際立っていました。「フェルメール展」のメインビジュアルを飾り、各種刊行されたムックなどでも、ほぼ全て表紙となった絵画ですが、その完成度をもってすれば、当然のことなのかもしれません。私としては、2007年に国立新美術館で開催された「フェルメール『牛乳を注ぐ女』とオランダ風俗画展」以来、約11年ぶりの再会となりました。

さてチケットの購入、ないし会場の状況です。「フェルメール」展は、事前日時入場制のため、原則、前売日時指定券を購入しないと入場出来ません。各日の入場時間枠は、9 : 30〜10 : 30、11 : 00〜12 : 30、13 : 00〜14 : 30、15 : 00〜16 : 30、17 : 00〜18 : 30、19 : 00 ~ 20 : 00の計6つに分かれています。その指定の枠の中であれば、どの時間にも入場することが可能で、入場後は閉館まで時間の制限がなく鑑賞出来ます。時間枠での入れ替え制ではありません。

私も楽しみにしていた展覧会だけあり、前々から日時指定券を購入しておきました。オンラインでは、フジテレビダイレクトとチケットぴあが対応していて、情報の入力などで、やや手間がかかりますが、私はフジテレビダイレクトのシステムを使い、セブンイレブンで紙のチケットを発券しました。

購入したのは、会期2日目、10月6日(土)の15時から16時半の入場枠でした。出かける少し前にチケットサイトを確認したところ、10月6日の事前チケットは完売しておらず、夕方以降に関しては、当日の日時指定券も販売されていました。「フェルメール展」では、前売日時指定券に余裕があった場合のみ、当日の日時指定券(前売+200円)も発売されます。



公式サイトに「時間枠後半のご入場をおすすめします。」とあったため、当日は、開始時間枠の約1時間後、16時少し前に上野へ行くことにしました。予定通り、16時前に美術館に着くと、入場待ちの列は一切なく、そのまま待ち時間なしでスムーズに入館出来ました。

チケットには音声ガイドが無料で付いていたので、ガイドを借り、会場内へと入りました。順路は、先に2階へ上がり、オランダ絵画を展示したあと、1階へ降りて、フェルメールに関する映像かあり、白い回廊を抜け、フェルメールの出展作が全て揃う「フェルメール・ルーム」へと進むように作られていました。

最初の2階の展示室からして相当の人出で、どの絵画も2〜3重の人で覆われていました。中でも2階の会場の中ほど、行き止まりのようになっている展示室が、最も混雑していました。ただ時間指定制で、一定の人数を制限しているからか、例えば「怖い絵」展の時のように、人が展示室を埋め尽くすほどではなく、タイミングを見計らえば、どの作品も自分のペースで観覧出来ました。


ヨハネス・フェルメール「真珠の首飾りの女」 1662〜1665年頃 ベルリン国立美術館

続いて1階へ降り、「フェルメール・ルーム」へ行くと、さらに作品の前に多く人がいて、簡単に最前列へ辿り着けるような状況ではありませんでした。ただ後列の空間には比較的余裕があり、そこから単眼鏡で鑑賞している方も見受けられました。心なしか、作品もやや高い位置に掲げられていて、遠くからでも見られるようになっていました。特に人気を集めていたのが、「ワイングラス」と「牛乳を注ぐ女」で、多くの観客が詰めかけていた一方、「マルタとマリアの家のキリスト」だけは、あまり人がおらず、すぐに最前列で見られました。



一通り、遠目でフェルメール作品を鑑賞した後は、再び2階へ上がり、最初のオランダ絵画の展示室に戻りました。すると驚いたことに、まるで貸切のように人が疎らで、10名もおらず、どの作品もがぶりつきで鑑賞可能でした。時間を確認すると16時40分頃でした。つまり16時半までと、次の入場枠の17時の前の間だったため、来館者がなく、空いていたわけでした。

先ほど混んでいた行き止まりのスペースも余裕が出来ていて、ゆっくり見られた上、メツーの2点の前にも2〜3人ほどしかいませんでした。17時の少し前の段階において、15時から16時半枠で入場された大半の方は、既に2階を見終えていたようでした。


ヨハネス・フェルメール「手紙を書く婦人と召使い」 1670〜1671年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー

17時を回り、1階の「フェルメール・ルーム」へ降りましたが、多少、人が引いていたものの、さすがに空いているとは言えず、「牛乳を注ぐ女」などには、まだ多くの人が見入っていました。そしてにさらに30分程度、フェルメールの絵画を鑑賞し、美術館を出たのは、17時半頃でした。



すると入場口から公園内へと続く人の列が出来ていました。それは17時から18時半の入場枠の待機列で、概ね入場まで30分ほどかかるとのことでした。どうやら時間枠の前半に来館者が集中して、長い列が出来るようでした。よって現段階において列を回避するためには、各時間枠の後半に出向くのが最も有効なようです。(但し、夜間に関しては、閉館時間が迫るため、この限りではありません。)

「フェルメール会議/双葉社スーパームック/双葉社」

会場内に各章毎の解説はありましたが、作品にキャプションはありません。その代わりに、全作品の簡単な解説が記された小冊子をもらえます。

「赤い帽子の娘」の展示は12月20日で終了し、「取り持ち女」が来年の1月9日より公開されます。これほどにフェルメールの絵画が集まる機会はもうないかもしれません。改めて出向くつもりです。



ロングランの展覧会です。2019年2月3日まで開催されています。なお東京展終了後、大阪市立美術館へと巡回します。

*大阪展会期:2019年2月16日(土)~5月12日(日)。内容が一部、異なります。フェルメールは6作品。「恋文」が出展されます。

「フェルメール展」@VermeerTen) 上野の森美術館@UenoMoriMuseum
会期:2018年10月5日 (金) 〜2019年2月3日 (日)
休館:12月13日(木)。
時間:9:30~20:30
 *入場は閉館30分前まで。
 *但し開館・閉館時間が異なる日があり。
料金:一般2500円、大学・高校生1800円、中学・小学生1000円。
 *前売日時指定券料金。事前日時入場制。チケット情報
 *前売日時指定券の販売に余裕があった場合のみ当日日時指定券(前売+200円)を販売。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅徒歩5分。京成線京成上野駅徒歩5分。
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「1968年 激動の時代の芸術」 千葉市美術館

千葉市美術館
「1968年 激動の時代の芸術」
9/19~11/11



千葉市美術館で開催中の「1968年 激動の時代の芸術」を見てきました。

今から半世紀前、1968年は、全共闘やベトナム反戦運動、それに成田闘争など、いわば「激動」とも呼べうる時代にありました。

その1968年を中心とした美術の潮流を俯瞰するのが、「1968年 激動の時代の芸術」で、絵画、写真、立体、およびインスタレーションのほか、各種資料など、400点もの作品が展示されていました。


羽永光利 《新宿西口フォークゲリラ》 1969年 羽永太朗蔵

冒頭から、当時の社会を示す資料で溢れていて、日大闘争や三里塚闘争を捉えた北井一夫をはじめ、新宿騒乱を写した森山大道の写真、さらには3億円事件のポスターなどが並んでいました。さらには、自作詩の朗読を新宿闘争のフィルムに映した、城之内元晴の「新宿ステーション」の映像も目を引いていて、終始、「ステーション」を連呼する独特の音声が頭から離れませんでした。

日本初の超高層ビルである霞が関ビルが完成したのも、この年で、木村恒久は「多少の欠陥」において、ビルの一部を欠落させたフォトモンタージュを見せていました。言うまでもなく、当時は高度経済成長の間にありました。


鶴岡政男 《ライフルマン》 1968年 広島県立美術館

そして現代美術が続き、千円札裁判でも知られた赤瀬川原平を中心に、横尾忠則、山下菊二、粟津潔の作品などが展示されていました。またこの時代は、環境芸術やインターメディアが盛んで、同芸術のブームを引き起こした、1966年の「空間から環境へ」展の出展作が紹介されていました。

中でも吉村益信の「反物質 ライト・オン・メビウス」が異彩を放っていて、メビウスの輪のようにねじれたステンレスの物体に、たくさんの電球がつき、終始、ピカピカと光っていました。こうした一連の環境芸術は、のちの大阪万博にて隆盛を極めました。*作品保護のため、「反物質 ライト・オン・メビウス」の点灯時間は12時〜16時。

大阪万博も一つのハイライトでした。太陽の塔や各パビリオンの写真をはじめ、横尾忠則のデザインによるせんい館を飾った、四谷シモンの「ルネ・マグリットの男」が、なにやら不敵な笑みを浮かべるような表情で、辺りを見渡していました。一方、万博に対抗した反博にも美術家は参加していて、バスで大阪へ向かいながら、各地で反博のパフォーマンスを行った「反博キャラバン」の写真が目を引きました。

さてこの時代には、「アングラ」と呼ばれた演劇や実験映画、舞踏も多く行われるようになりました。そしてイラストレーションも氾濫し、グラフィックデザインや出版物も盛んになりました。

「赤瀬川原平漫画大全/赤瀬川原平/河出書房新社」

赤瀬川原平が月刊漫画ガロに掲載した、「お座敷」が面白いのではないでしょうか。まさにお座敷を舞台に、反体制派と警官を巡る駆け引きを、半ばドタバタ劇のように戯画として描いていました。会場では全て一面に開いていて、ストーリーを追うことも出来ました。


田名網敬一 《ジェファーソン・エアプレイン ヒッピーの主張》1968年 NANZUKA

LSDなどによる幻覚のイメージを、半ば「デザイン化」(解説より)したサイケデリックも、この時代に一大ムーブメントを起こしました。田名網敬一や横尾忠則にも影響を与えていて、極彩色に彩られたポスター類が多く展示されていました。


藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018

ゴーゴークラブ「MUGEN」にて行われた藤本晴美のライトショーは、実際に再現版を体験することも出来ました。ライフスタイルプロデューサーの浜野安宏がプロデュースした空間で、幾何学的なパターンが、リズミカルな音楽とともに次から次へと空間を演出していました。


藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018

ともかく水玉とも曲線とも捉えうる文様がひたすらに変化していて、極彩色に染まる蝶や植物と思しきモチーフが、まるでネオンサインに光り輝いていました。


藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018

ライトショーのブースのみ撮影も可能です。なにやら不思議でもありつつ、妙にはまるような独特の演出にしばらく見入りました。

ラストは「新世代の台頭」と題し、写真同人誌の「プロヴォーグ」ともの派と概念芸術の活動でした。

1968年、「プロヴォーグ」が創刊されると、森山大道や中平卓馬らの写真家が、「アレ・ブレ・ボケ」と表された旧来の写真の概念から離れた表現を行いました。


関根伸夫 《位相−大地》 1968/1986年 静岡県立美術館

またもの派の発端とされる、関根伸夫の「位相ー大地」も、この年に発表されました。概念芸術では河原温の活動が重要であるかも知れません。

ともかく扱う内容が膨大です。それこそ全共闘、成田闘争、千円札裁判、美共闘、環境芸術、大阪万博に反博、アンダーグラウンドの演劇や舞踏、イラストレーションにガロなどの漫画、サイケデリックの芸術に写真のプロヴォーク、さらにもの派、概念芸術と、一通り挙げても、これほどにまで多岐に渡ります。


率直なところ、怒涛のように続く作品を前にして、途方に暮れることもありましたが、美術を中心としながらも、社会の諸相も抉り取っていて、当時の世に渦巻いた熱気も感じられるような展覧会でした。


藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018

1968年生まれの方は観覧料が500円になります。(要証明書)11月11日まで開催されています。おすすめします。

「1968年 激動の時代の芸術」 千葉市美術館@ccma_jp
会期:9月19日(水)~11月11日(日)
休館:10月1日(月)、11月5日(月)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *1968年割引:1968年生まれの場合は観覧料500円。
 *10月18日(木)は「市民の日」につき観覧料無料
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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トークイベント「『フェルメール会議』ナイト」が開催されます

10月2日に双葉社より刊行された「フェルメール会議」。「青い日記帳」@taktwiさんが監修をつとめ、画家、経済学者、学芸員、美術史家や女優などの9人の識者が、フェルメールについて徹底的に語り合い、そこで話題となった内容が一冊の本にまとまりました。



それを記念してのイベントです。荻窪の6次元にて「フェルメール会議」ナイトが開催されます。

【10/17(水)「フェルメール会議」ナイト】
出演:中村剛士(青い日記帳)×ナカムラクニオ(6次元)×はろるど(アートブロガー)他
会場:6次元(http://www.6jigen.com
住所:東京都杉並区上荻1-10-32F
時間:19:30~21:00(19:00開場)
料金:2000円
内容:「フェルメール会議」とは……、「フェルメールについて皆であれこれ話し合えたら楽しいだろうな」そんな妄想の会議です。ぜひ皆さんも「フェルメール会議」に加わり一緒に語り合いましょう。



日時は10月17日(水)の夜7時半から。(開場は夜7時)「青い日記帳」のTakさんと6次元のナカムラクニオ(@6jigen)さんを中心に、フェルメールについてあれこれ語っていたただきます。私も末席に加えていただくほか、同じく「フェルメール会議」のメンバーである「あいむあらいぶ」の@karub_imaliveさんなどもご参加いただく予定です。


受付は既にスタート。件名を「フェルメール会議」として、名前、人数を明記し、rokujigen_ogikubo@yahoo.co.jp ナカムラまでメールをお送りください。先着順で定員に達し次第、締め切りとなります。会場のスペース上、定員に限りがありますので、お早めにお申し込み下さい。

当日は、皆さんとやりとりしながら、Takさんとナカムラさんによる楽しい「リアル・フェルメール会議」になるのではないでしょうか。まずはお越しをお待ちしております。

「フェルメール会議/双葉社スーパームック/双葉社」

「フェルメール会議」双葉社スーパームック
監修:青い日記帳
出版社:双葉社
ムック:113ページ
発売日:2018/10/2
価格:1400円(税込)
内容:「青い日記帳」のもとに集まった識者たちが会議形式で徹底討論。フェルメール作品への新たな扉が開く!美術の専門家はもとより、画家、政治経済の研究者、歴史研究者など、フェルメールをこよなく愛する方々に集まってもらい、会議から生まれた新しい知見や新鮮な解釈をまとめた一冊です。
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